DEIとは? SDGsでも企業経営でも注目される「包括性」と「公平性」

2023年07月27日

「ダイバーシティ」や「ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)」という言葉が浸透している中、さらに新たな要素を加味した考えかたが「DEI」です。DEIは、「D&Iに取り組んでいるが、さらにそれを先に進めていきたい」企業にとって有益な概念となります。本記事では、DEIの基本的な意味や注目されている理由、SDGsやZ世代との関わり、企業の導入事例などについて紹介します。

DEIタイトルイメージ画像

D&Iに「公平性」を加えたDEI

DEI(Diversity, Equity & Inclusion:ディー・イー・アイ)」は、「Diversity(ダイバーシティ)」「Equity(エクイティ)」「Inclusion(インクルージョン)」の頭文字をとったものです。日本語では、ダイバーシティは「多様性」、エクイティは「公平性」、インクルージョンは「包括性」を意味します。

D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)」は、多様な人材を受け入れ、それぞれが自分の持つ個性や能力を発揮していく」考えかたであり、組織の成長やイノベーションに欠かせないことが知られるようになってきました。

このD&Iをさらに発展させ、「互いを尊重し個々の能力を活かすだけなく、それぞれの状況に合わせた機会を提供し、誰もが公平に活躍できる仕組みを作ることで、個人と企業が共に成長していく」という考えかたがDEIです。そして、この「公平性」の捉えかたがポイントとなっています。

それでは、それぞれの意味を詳細に確認していきましょう。

ダイバーシティ:外見だけではわからない「多様性」

さまざまな媒体やキーマンのスピーチなどを通して、多様性ということばを耳にする機会が多くなっています。多様性を意味する「ダイバーシティ」は、ビジネス用語として用いる場合、多種多様な人材を積極的に受け入れている状態をいいます。「ダイバーシティ経営」は多様な人材を活かすことで組織の競争力を高めようとする施策です。

ダイバーシティは、大まかに「表層的ダイバーシティ」と「深層的ダイバーシティ」に分類することができます。

「表層的ダイバーシティ」は、生まれつき持っていて自分で変えることのできない、外見の特徴などから認識されるものを指します。たとえば、人種、国籍、年齢、ジェンダー、障がいの有無などです。

「深層的ダイバーシティ」は、外見からは認識しにくく、違いに気づきにくいものを指します。たとえば、宗教、職歴、収入、価値観、コミュニケーションの取りかたなどです。

人はそれぞれさまざまな違いを持っており、互いに関わり合って組織を作っています。表層的ダイバーシティの要素をだけを切り取り多様性として捉えてしまうと、本来の意味からかけ離れてしまうことを覚えておかなければなりません。

深層的ダイバーシティのイメージ写真

インクルージョン:ダイバーシティを前提とする「包括性」

インクルージョン」には「すべてを包み込む」という意味があります。組織においては、多様な人材が集まり公平な土台に立てるだけでなく、互いの個性を尊重し合って対等に関わり、能力を発揮して働ける状態をいいます。

もともとは、1970年代のヨーロッパで「ソーシャルエクスクルージョン(社会的排除)」が社会福祉上で問題となっていたことを背景に使われ始めたのがインクルージョンです。その後は福祉政策の理念に留まらず、教育分野、そして近年ではビジネスの分野で必要不可欠な概念として認識されるようになりました。

インクルージョンは、個々の個性や能力が尊重されて活躍できる状態ですので、多様な人材が受け入れられているダイバーシティは、その前提であると考えられます。そのため、ビジネスの場面などでは、D&Iという形で語られることが多いのです。

エクイティ:スタート地点の違いまで考慮した「公平性」

エクイティ」は、個々に合わせた支援によって、機会や情報へのアクセスが公平な土台を作ることをいいます。一人ひとりのスタート地点の違いが考慮されていることが特徴で、個々が持つ不平等を解消しようという考えかたです。

エクイティを理解する際に役立つのが、似たような意味を持つイクオリティ(平等)です。イクオリティはスタート地点の違いは考慮せず、平等に同じ機会や情報を提供するものです。

多様な人材それぞれに同じ支援を行っても、差は埋まりません。エクイティの考えが取り入れられている例として、生理休暇があげられます。イクオリティの考えかたで見ると、生理休暇は不平等と捉えられるかもしれません。しかしエクイティの考えかたで見ると、生理による心身の不調が少ない人と多い人によって生じる不平等をなくし、同じ土俵で働けるようにするための調整と捉えることができます。このように、個人の努力で補えない部分をサポートしてくれるのがエクイティです。

エクイティはD&Iの概念に近年新たに加えられた考えかたです。多様性への認識が浸透する中で生じる「スタート地点での不平等」をなくそうという意識が広まってきたと考えられます。

ダイバーシティが定着し、インクルージョンの重要性が認識され、エクイティの考えかたが取り入れられてきたように、新しい時代の経営戦略と働きかたは、トライ&エラーを繰り返しながら進化し続けているといえそうです。

公平性のイメージ写真

DEIが注目されている理由

グローバル化がますます進展してゆくから

インターネットの進化とともに、ビジネスのグローバル化が進んでいます。日本全体が国際的な競争力を強化していくことが求められる今、DEIは欠かせない要素といえます。グローバル化した市場では、過去の成功事例や日本の慣習に沿った手法では通用しない場面も多くあるでしょう。不確実性の高い現代においては、多様な価値観に対する柔軟な対応力が必要とされます。

あらゆる面で労働が多様化しているから

転職、副業、フリーランスとった雇用形態の多様化、リモートワークや時短勤務といった働きかたの多様化、男性の育児休暇など、労働のかたちは多様化し、選択肢も増えています。優秀な人材を集めるためには、そのニーズに対応できる雇用形態や環境整備が必要となります。多様な人材をマネジメントしていくため、管理職のDEIへの理解も欠かせないでしょう。

労働の多様化イメージ写真

労働力が大きく変化していくから

日本では少子高齢化が進み、生産人口年齢が減少しています。そこで注目されてきたのが、女性活躍や高齢者の再雇用です。また今後の政策によっては、外国人の労働力のありかたも変わってくるかもしれません。これらの人びとに活躍してもらうためには、年齢やライフスタイルをはじめ、多様な属性に柔軟に対応できる環境の整備が求められています。

ESG投資に大きく影響するから

ESGは、Environment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス=企業統治)の頭文字をとったことばで、この3つを考慮した投資のことをESG投資といいます。

GPIF(年金積立金管理運用独立法人)は、日本国民の年金を企業に投資して運用している、世界最大規模の機関投資家です。GPIFがESG投資を推進するようになったことで、日本でもESG投資への関心が高まったといわれています。企業に大きな影響を与えるGPIFが、運用において環境問題と並んでダイバーシティを重視していることも、覚えておきましょう。

DEIに「帰属意識」の要素を加えたDEIBへの動きも

日本でDEIが広まりつつある今、欧米で注目されているのが、DEIに「ビロンギング(帰属意識)」をいう概念を加えた「DEIB」です。

ビロンギングは、心理安全性が確保されていること、つまり「自分の個性を活かして能力を発揮できる場所はここにあるんだ」「ここが自分の居場所だ」という意識が持てる、ということを表しています。

本来ならばDEIの浸透に合わせて帰属意識も定着していくはずですが、個々の置かれた状況を無視した数値目標や名目だけの制度では、かならずしも帰属意識は高まりません。DEIが企業側の施策という意味合いが強いことに対し、DEIBは働く側の個々の状況や気持ちに沿った考えかただといえそうです。

DEIBのイメージ画像

DEIはSDGs達成のための基盤

DEIの推進をSDGsの視点で考えてみましょう。まずは、SDGsに関連が深い目標をあげていきます。

目標5「ジェンダー平等を実現しよう」
―ジェンダー平等を達成し、すべての女性及び女児の能力強化を行う

目標5は、性別の多様性をテーマとした目標です。世界経済フォーラムが発表した「Global Gender Gap Report 2023」によると、対象の146国中、日本のジェンダーギャップ指数は125位と、2006年のデータ公表以来最低の順位となっています。

経済・教育・健康・政治の4分野の中で、政治と経済のスコアが低いことはこれまでも耳にする機会が多くありました。働きかた改革や女性活躍が推進されていますが、世界がクオータ制の導入等の取り組みを進める中、日本はまだまだだと言わざるを得ないようです。

目標10 人や国の不平等をなくそう
―各国内及び各国間の不平等を是正する

目標10は、性別に限らず、年齢、障がい、人種、民族、宗教など、世界にあるさまざまな不平等や差別による格差に言及しています。多様性を認め合い、多様な人たちが活躍できる社会は、DEIの概念と深く関わっています。

目標16 平和と公正をすべての人に
―持続可能な開発のための平和で包摂的な社会を促進し、すべての人々に司法へのアクセスを提供し、あらゆるレベルにおいて効果的で説明責任のある包摂的な制度を構築する

目標16は、平和で公正な世界のために、誰もが安心して暮らすことのできる仕組みを作る必要性を掲げています。個々の状況に合わせた法律や制度を整え誰もが安心して公平に活躍できるようにするという考えかたは、DEIのうち「エクイティ」との関連が深いと考えられます。

この他にも、雇用や賃金格差の是正に関わる目標1「貧困をなくそう」、脆弱層への職業訓練やキャリア形成支援に関わる目標4「質の高い教育をみんなに」、働きかた改革に関わる目標8「働きがいも経済成長も」もDEIにつながるでしょう。

日本でジェンダーをはじめとするさまざまな不平等が解消されない原因のひとつとして、「こうあるべき」や「こうすべき」といった固定観念や、アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)などがあげられるのではないでしょうか。

このような意識を変えていくことは、どの目標に対しても必要であるはずです。そう考えるとDEIは、「誰ひとり残さない」ことを掲げるSDGs達成のための基盤であると捉えることができそうです。

個性や多様性を重んじるZ世代にフィットするDEI

Z世代は1900年代中盤以降から2010年に生まれた世代を指し、企業のマーケティングにおいても注目されていますが、その主な特徴として次のようなことがあげられています。

  • SNSネイティブであり、SNSを利用してコミュニケーションや情報収集を行っている
  • 環境問題や社会問題に関心を持ち、SNSなどを通じた発信傾向も強い
  • 多様性を受け入れ、自分らしさを大事にする傾向が強い
  • 「モノ消費」よりも体験を重視する「コト消費」、さらに今そこでしか体験できない「トキ消費」に関心がある

幼い頃からSNSに触れ世界の多様な価値観に触れて育ってきた彼らは、多様性を当然のこととして受け入れ、違いを尊重し合う傾向があります。

2022年Z世代のD&I意識調査」(株式会社RASHISA)によると、就活・職場選びの軸として、「多様な働きかた、マイノリティ性が受け入れられる」と回答した人は52.7%と多く見られます。さらに90%以上がD&Iに積極的な企業に対して「働きたいと思う」「好感が持てる」とポジティブな印象を持っており、短期的な待遇よりも長期的に働きやすい環境を選ぶ傾向があることが伺えます。

それぞれの個性に合った教育制度や柔軟な働きかたを求めるZ世代にとって、DEIに取り組む企業は魅力的に映る可能性が高いといえそうです。

Z世代の若者イメージ写真

企業がDEIを導入するメリット

アイデアの創出やイノベーションが起きやすくなる

DEIを導入することで多様な人材が集まれば、さまざまな角度からの意見が集まりやすくます。年齢や性別、価値観などが似通った組織では行き詰ってしまう場面も、別の視点を取り入れることで打開策が見つかるかもしれません。マーケットの変化にも対応しやすくなります。

多様性の低い組織では自分たちに都合の悪い意見を排除しようとする傾向が生まれ、間違った判断をしてしまう危険もあります。反対に多様性のある組織では重要な意思決定のプロセスにおいて多面的な議論が生まれると考えられます。このようなことから、DEIはガバナンス強化のためにも有効と考えられます。


企業評価やロイヤリティが向上する

DEIに取り組むことで、働く人の個性を重視する企業であるという印象を消費者に提供することができます。消費者が製品やサービスを選ぶ際の基準のひとつとなることや、企業のイメージアップにつながることが期待できます。

そして、その企業の製品やサービスを使うことに誇りを持ち愛着を感じてもらえれば、長期的な顧客の獲得につながります。取引先企業からの印象もよくなり、ESG投資の判断基準ともなるでしょう。

多様な人材獲得と離職率の低下が実現する

少子高齢化によって労働力不足が進んでいることにはすでに触れましたが、DEIを推進することは人材獲得の面においても有効です。

育児や介護と仕事の両立、リモートワークなどの柔軟な働きかたといった個々の状況に対応できる制度があり、異なるバックグラウンドを持つ人が安心して働ける環境が整えば、これから就職しようという人にとって魅力的です。またライフステージの変化に合わせて働きかたを選択できれば、離職率の低下にもつながります。

自分の会社に必要な多様性とは何かを考えよう

DEIを導入する際、まずは経営層がDEIを重点課題として取り組む意思をはっきりと持つことが必要です。内容は「新・ダイバーシティ経営企業100選」「D&Iアワード」「なでしこ銘柄」など、外部機関が設定している基準を参考にすることもひとつの手法ですが、自社の経営理念に基づき、目指していることとその数値目標などを明確にし、情報発信していくことが何より大事でしょう。

また従業員一人ひとりとの対話の機会を増やし、どのような働きかたを望んでいるのか、何に不安や疑問を感じているかなどを知ることも必須です。改革においては、意識だけでなく柔軟な勤務体系の整備や設備などハード面の整備も必要になります。特にエクイティの推進については、スタート地点が異なる人たちをどのように評価するのか、基準を明確に設けておくことが欠かせません。

「DEIは時流だから」と表面的な制度だけ導入してもあまり効果はないでしょう。また特定の属性のみに注力して施策を進めてしまうと、むしろ新たな同質性を生むことにもなりかねません。経営指針に沿い、「自社に不足しているもの、自社に必要な多様性とは何か?」を明確にして取り組むべきでしょう。

企業の取り組み事例

資生堂

「LOVE THE DIFFERENCES(違いを愛そう)」をスローガンに掲げる資生堂は、DEIに積極的に取り組む企業のひとつで、特に女性活躍支援に力を入れています。2020年からは新しい生活様式に対応する多様な働きかた「資生堂ハイブリッドワークスタイル」を掲げ、業務ごとにリモートワークとオフィスワークを柔軟に組み合わせ、最大の効果を発揮できる働きかたを推奨しています。

社員向けのLGBTQ理解促進も行っており、性自認や性的指向による差別やハラスメントの撲滅や、社員一人ひとりがありのままの自分で職務にあたれるような環境整備、啓発を進めています。

パナソニック株式会社

「多様な人材がそれぞれの力を最大限発揮できる、最も働きがいのある会社」というビジョンを設定し、DEIを推進しているのがパナソニックです。社員の意識を定点観測する取り組みとして、グローバル全社員を対象とした「従業員意識調査(EOS)」調査を毎年行っています。

特に「社員エンゲージメント(社員の自発的な貢献意欲)」と「社員を活かす環境(適材適所、働きやすい環境)」の肯定回答率を重要な指標とし、結果を人材育成や組織づくりに活かしています。また誰もが持っている思い込み(アンコンシャス・バイアス)の存在について学び気づく研修や、心理的安全性を高めていくための研修なども特徴的です。

ジョンソン・エンド・ジョンソン

DEIを重要な経営戦略の一つとして位置づけているジョンソン・エンド・ジョンソンでは、社員一人ひとりが最高のパフォーマンスを実現できる環境づくりに取り組んでいます。

具体的には、ライフイベントに合わせて活用できる出産・育児・介護に関わる各種サポート制度、パートナーシップ証明書、在宅勤務などの制度を設けています。また、ジェンダー、LGBTQ+、障がい、世代などの特定のダイバーシティ領域に関する啓発などを行う社員の自発的なグループが存在し、イベントなどを通じて、DEI文化の醸成を図る活動を行っています。


これまでの内容で見えてきたように、DEIは表層的に捉えるのではなく、社内への影響とともににSDGsやESGなどさまざまな要素を考えながら総合的に検討する必要があります。そしてその際には、自社にとって何が重要かをしっかりと見極めることがポイントとなります。

ひとりひとりの能力を最大限に活かし、持続可能な企業の成長個々の自己実現をともに叶えるための重要なテーマとして、DEIに取り組んでいきましょう。

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筆者プロフィール
講談社SDGs編集部

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SDGsの基礎知識