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日本人が考えるべき、貿易の不平等による開発途上国の問題|環境と福祉 問題解決のための「統合」とは【第7回】

2024年03月18日

環境と福祉  タイトル画像

前回は、日本国内の都市からの地方へのつけまわしという地域間の不平等の問題をとりあげました。今回は範囲を広げて、国際貿易がもたらす先進国と開発途上国間の不平等の問題について考えます。

貿易は国際分業により経済の規模を拡大させ、効率化させる経済合理性があるといわれますが、本当にそれだけなのでしょうか。先進国にとっての経済合理性を開発途上国におしつけ、利益を得ているのではないでしょうか。

カカオ豆の生産イメージ

カカオ豆の生産で起きていること

日本チョコレート・ココア協会の資料によると、日本の一人あたり年間チョコレート消費量は2.1キログラム(2020年)となっており、1990年の1.6キログラムから大きく増加しています。国内の販売額は年間5千億円超とスナック菓子や和生菓子、洋和菓子、ビスケット等を上回り、チョコレートの人気がうかがえます。

原料となるカカオ豆はすべてが海外からの輸入で、総輸入量約5憶トンのうち8割がガーナ。エクアドル、ベネズエラ等の中南米の国がそれに続きます。なくてはならない嗜好品となっているチョコレートですが、生産地における環境問題と福祉問題を引き起こしている状況を、私たちはどれだけ知っているでしょうか。

「cocoa barometer」というサイトをみると、図1に示すように、カカオ豆の生産地では貿易の不平等に起因する様々な問題が長く未解決のままとなっていると指摘されています。問題の状況を要約してみます。

  • カカオ豆の生産における人権問題として、児童労働があります。ガーナ等の農園では150万人の児童が年齢に適していない労働を行っています。児童の危険な活動への従事が少なくなっているとはいえ、「カカオ豆の生産に携わる世帯数の大幅な増加により、最悪の形態の児童労働に従事する子どもの絶対数は依然として増加している」とされます。
    他にも、ジェンダー平等の問題(カカオ農園において女性経営が多く、見合った報酬が得られていない)、乳幼児の栄養不良、教育へのアクセスの欠如、医療施設や衛生設備の未整備等が指摘されています。

  • 人権問題が解消しきれないことの根本に貧困があります。カカオ豆の生産による所得が低いために人権が侵害されるような労働をせざるを得なくなっています。
    この要因として生産性の低さ、小規模経営といった農家経営の側のこともありますが、根本的にはカカオ豆の生産に対して農家が得る対価(生産者価格)の低さという先進国の側の買取りの問題があります。

  • カカオ農園の拡大により、森林伐採が進み、生物多様性の喪失や二酸化炭素吸収量の減少といった問題が未解決のままとなっています。世界的に進行する気候変動はカカオ豆の生産に影響を与えます。西アフリカでは、大雨で作物の病害が広まり、生産量が減った上に、乾燥の影響でさらに減る恐れもあるとされています。
    病害に対しては農薬使用が推奨されますが、児童や女性の健康被害をもたらします。また、農薬は必ずしも収量増に結び付かず、農薬への投資を回収しきれず、経営はますます困難なものとなります。

図1 カカオ豆の生産地における環境問題と福祉問題

カカオ豆の生産地における環境問題と福祉問題

出典)「cocoa barometer」より作成

第一次産品における「貿易の不平等」の問題

図1に示した問題は、生産地の経営改善や政策支援によって、ある程度の解決はできるかもしれませんが、やはりカカオ豆の生産者価格の不当な低さの改善が必要となります。では、なぜ生産者価格が低いのでしょうか。

カカオ豆の生産者価格は最終商品価格の1割以下と言われ、資金力のある買い手の交渉力が強く、生産コスト等を加味することなく、安く調達しているとされます。買い手という強者が不当に利益を得て、弱者である生産者から搾取(しぼりとり)をしているという構造があるために、生産者価格が低く抑えられたままとなっています。問題の根本には、貿易の不平等にあり、その受益を得ている先進国の調達者や私たち末端の消費者にも間接的な責任があると知る必要があります。

また、地球上で進行している気候変動は、カカオ豆の生産に影響を与え、ますます生計が苦しくさせます。そして、熱帯雨林を切り開くことで二酸化炭素の吸収量が低下し、気候変動を進行させます。気候変動の影響により病害虫の被害も拡大するため、農薬を使用し、児童や女性の健康被害を拡大させます。気候変動の加害という面でも温室効果ガスの多くを排出している先進国の責任が問われます。

コーヒー豆イメージ

コーヒー豆における投機的取引の影響とは

貿易の不平等の問題は、コーヒー豆、アブラヤシ、大豆、えび等の海外依存度の高い第一次産品においても同様に発生しています。カカオ豆では買い手の力が強いために生産者価格が安く抑えられていることが問題の根本にありますが、このことはコーヒー豆の場合も同様のようです。加えて、コーヒー豆の場合は(カカオ豆以上に)価格が不安定なため、農家経営を困難にしていることが指摘されています。


コーヒーの木は干ばつや霜害の影響を受けやすいために安定供給が難しいとされます。このこともあり、国際市場が生産予測を行って投機的取引(先物買い)を行い、先物価格が基準となって価格が決定されます。実際の需要と供給の状況以上に、先物買いによって価格の乱降下が生じます(図2)。

図2 コーヒー価格の推移(実質値)

コーヒー価格の推移(実質値)

出典)World Bank の統計より作成


小規模なコーヒー農家は、先物価格に振り回されるだけでなく、肥料コストの高騰や為替レートの変動等の影響も受け、計画的な経営を行うことが困難になります。脆弱性の高い小規模農家は、貿易の不平等に苦しむだけでなく、(自分達の意思や生産の状況とは無関係な)国際的な金融市場の荒波に巻き込まれてしまうのです。

木材輸出イメージ

熱帯雨林の破壊や火災などを誘引する木材貿易

話題を木材貿易にうつします。日本の木材自給率は、2000年頃に2割を切り、森林の生育条件に恵まれており、戦後に造林した人工林が伐採適期を迎えているにも関わらず、海外からの輸入材に依存するという、おかしな状況となっていました。
その後、木材需要量の減少と国産材の生産体制の整備等により、現在の木材自給率は4割を超えるまで伸びてきました。現在の日本の森林資源の保全・活用の状況はある程度、健全さを取り戻しつつあります。

しかし、日本には東南アジアの熱帯雨林を伐採し、直接・間接に当地の問題を引き起こしていた過去があります。
日本国内では、戦後の高度経済成長期に地方から都市への人口移動と人口増加により、住宅建設ラッシュとなり、木材需要が急増しました。このため、日本国内の人工林化を進めるとともに、海外からの木材輸入を進めました。
当時の輸入先となったインドネシアやマレーシアのサバ州・サワラク州等では森林開発が進められ、森林減少が顕著となりました。また、森林開発のために道路整備により、新住民が奥地まで入り込み、野放図な焼畑を始めたことで森林火災が広がり、森林減少に拍車をかけました。伝統的な焼畑は森林再生を待つ知恵があり、森林破壊の原因とはならないとされます。森林破壊をもたらした新住民による焼畑は、木材輸出のための森林開発によって引き起こされました。

森林減少や森林火災は野生生物の生命と生息の場を奪うとともに、自然と共生する地域住民の生活も破壊します。その後、東南アジアの国々が丸太輸出を規制しましたので、日本の木材輸入先や北米やロシア等にシフトして、諸外国を一巡した結果、ようやく最近になって日本国内の森林資源が活用されるようになっています。

「ラナ・プラザ事故」にみる、工業製品における問題

これまでカカオ豆やコーヒー豆、木材と第一次産品のことを記してきましたが、貿易の不平等の問題は工業製品にもみられます。その問題が顕在化した象徴的な出来事が「ラナ・プラザ事故」です。

ラナ・プラザ事故は、2013年4月にバングラディシュのダッカで起こりました。8階建ての商業ビル「ラナ・プラザ」が崩落し、少なくとも死者1,130人の方々が亡くなりました。前日に同ビルに亀裂が走る等の異常が見られたことから、地方自治体が翌日の操業は控えるように申し渡しをしていたといいます。
にもかかわらず、翌朝、縫製工場が操業を開始したところ、ビルの一部が崩落してしまいました。同ビルの7,8階の建て増しは違法で、事業主はもともとコスト削減を重視し、耐震性を無視した増築を繰り返していました。被害者の多くは縫製工場で働く賃金の安い女性でした。

この痛ましい事故は、開発途上国における不法建築、労働問題に対する法規制の不十分さが原因なのでしょうか。実はこの縫製工場は先進国の有名アパレルメーカーの下請けでした。いわゆる搾取工場(Sweatshop)と言われるものです。先進国が安く労働力を途上国に求め、しぼりとるように働かせるという構造が事故の根本にあります。
私たち先進国の消費者は、途上国との分業による大量生産・大量供給によって安価な製品を購入できることを当然のことと思っていますが、それが開発途上国の人々の貴い生命を奪う事故を引き起こしてしまいました。
搾取工場の問題は、アパレルメーカーだけでなく、世界的なスポーツ用品メーカーや電気製品メーカーにおいても指摘されてきました。

意図せず弱者に大きな被害をもたらす「構造的暴力」と「文化的暴力」

先進国が開発途上国からのしぼりとりを行い、生産地の人々の福祉を損なっている状況を、筆者は「構造的暴力」と表現すべきものだと考えています。構造的暴力は、国際政治学や平和学の研究者であるヨハン・ガルトゥングが指摘した問題の捉えかたです。
構造的暴力は、加害者が特定できる直接的暴力に対して、それが特定できない間接的暴力のことです。直接的暴力の例として殴打、刃物、核兵器、神経ガス、洗脳等があり、構造的暴力は物質・権限の不平等な分配やそれに起因する短命・不健康・無知、自己実現の不足等がありいます。

構造的暴力の被害は緩慢で目に見えにくいのですが、時に構造的暴力は大きな破綻として、隠れていた実像を露わにします。ラナ・プラザ事故はその典型的な出来事です。
構造的暴力の原因は加害者の悪意や加害者と被害者の不仲にあるのではなく、社会経済の構造にあります。その構造は強者たちが自らの維持・発展のために築いてきたもので、強者(=加害者)の充足が弱者(=被害者)の犠牲の上になりたつという不平等なものです。

本稿では、搾取(しぼりとり)という言葉を使ってきましたが、ヨハン・ガルトゥングは搾取という言葉をあえて使わないと記しています。その理由として、搾取は意図的な暴力ですが、構造的暴力は意図しない暴力であり、搾取といってしまうことで、構造の問題に目がいかなくなってしまうこと等をあげています。本稿にいう搾取という言葉は、意図的なものと非意図的なものの両方をさすこと、すなわち搾取には非意図的、すなわち構造的暴力の側面があるとしておきます。

ヨハン・ガルトゥングは、「文化的暴力」という考えかたも提示しています。構造的暴力を正当化・合法化する生活様式や行政システム、科学・教育、宗教等が文化的暴力です。チョコレートを男女間で贈りあうイベントや、おしゃれなお店でコーヒーを楽しむ何気ない暮らしもまた、貿易の不平等という問題に理解がないものだとしたら、文化的暴力だと言われてしまいます。

筆者は気候変動による環境破壊や格差の拡大の問題もまた、広い意味での構造的暴力・文化的暴力だと考えています。不特定多数の加害者(強者)が化石資源の大量消費によって築かれた便利で快適な暮らしを求めることを当然としている、無意識な状況が気候変動という構造的暴力を生み出し、意図しないままに弱者に甚大な被害をもたらしています。

相反するも大切な「フェアトレード」と「地産地消」

資源に乏しい日本は資源を輸入し、加工して輸出するという貿易によって、アジアの奇跡といわれる経済成長を果たしました。その経済発展が開発途上国の福祉や環境の犠牲の上に成り立つものではなかったと言いきれるでしょうか。私たちは貿易における強者の側にいて、開発途上国の弱者からしぼりとり、構造的暴力の加害の側にいる状況は改善しきれていないのではないでしょうか。

貿易による国際分業は、適所適材の経済発展を促し、経済の規模と効率を高めるという経済的合理性があるとされますが、その経済合理性は先進国の側のものであって、途上国にとっては不合理なものであったと言わざるを得ません。

貿易の不平等を是正し、WIN―WINの関係としての経済的合理性を高めるために、あるいは福祉の問題を解消する社会的合理性、環境保全を推進する環境的合理性を高めるために何をすべきなのか、2つの解決方向があります。

フェアトレードイメージ

1つは、既に広がりつつあるフェアトレードやエシカル消費・調達を主流化することです。フェアトレードは、福祉や環境に配慮した開発途上国の生産に対して、正当な対価を支払うことで、開発途上国の健全な発展を支援するものです。
しかし、フェアトレードは配慮によって差別化された特定のブランド商品の範囲に留まっていては問題解決にはなりません。あらゆる商品がフェアトレード商品になることを目指した、政策や消費者運動が必要です。

2つめは、顔が見え、関係がある範囲での生産・消費が基軸となるように、地産地消を基軸とした経済を再構築していくことです。フェアトレードといっても、消費者からみれば生産者は遠くの異国にいて、直接の関係をつくりがたい存在です。生産地の情報は調達事業者を介して提供されるとしても信頼感や共感性に限界があります。
顔が見え、関係がある範囲での地産地消のウエイトを高め、貿易はカカオ豆やコーヒー豆のように海外に依存せざるをえない分に限定していくことが望まれます。

貿易の不平等の問題は先進国内でも顕在化します。安い第一次産品の輸入によって、国内の小規模な農業者の経営が圧迫されることを考えると、貿易は国内の生産者の福祉を損ないます。この先進国内における貿易の不平等の是正という点でも、地産地消という方向性が重要な意味を持ちます。
なお、貿易は国内格差を是正するという分析もありますので、さらに検証が必要な点でもあります。

さて、フェアトレードと地産地消という2つの方向性は相反する面があり、両者のバランスをどう取っていくかを考える必要があります。どちらも大事というのは簡単ですが、私たちが自分の足元をしっかりと見つめ、話し合い、構造や文化のありかたを問い直していくことが大切です。構造的暴力あるいは文化的暴力を前提とする社会に組み込まれた私たちが何をすべきか、深く内省をする対話の機会を広げていく必要があると考えています。

これまでは、都市と地方、先進国と開発途上国という地域間の関係をとりあげてきましたが、次回は観点を変えて、人間と他生物の関係の問題、特に動物福祉をとりあげます。

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