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アニマルウェルフェアとは? 日本と世界の現状、企業の取り組み、SDGsとの関係性をわかりやすく解説!

2024年07月30日

「アニマルウェルフェア」という言葉をご存知でしょうか?

SDGsの認知度が高まるとともに、個人でも企業でも、さまざまなアクションが行われています。しかし、欧米では主流の考え方でありながら日本ではあまり表舞台にあがってくることのないテーマのひとつが、このアニマルウェルフェア(動物福祉)かもしれません。本記事では、アニマルウェルフェアの概要やSDGsとの関連、日本企業の取り組みなどをご紹介します。

1.アニマルウェルフェア(動物福祉)とは

国際獣疫事務局(WOAH)による定義

アニマルウェルフェア(animal welfare)とは、「動物」の意味を持つアニマルと「福祉」の意味を持つウェルフェアを合わせたもので、直訳すると「動物のための福祉(動物福祉)」と訳されます。

アニマルウェルフェアは国際獣疫事務局(WOAH)によって次のように定義されています。
「アニマルウェルフェアとは、動物が生活及び死亡する環境と関連する動物の身体的及び心理的状態をいう。」
WOAH(2022年に略称をOIEからWOAHに変更)は、1924年にパリで家畜伝染病予防および研究の中央機関として発足した、世界の動物衛生の向上を目的とする機関です。日本は1930年に加盟し、現在182の国と地域が参加しています。

一般社団法人アニマルウェルフェア畜産協会では、もう少しわかりやすく、「感受性を持つ生き物としての家畜に心を寄り添わせ、誕生から死を迎えるまでの間、ストレスをできる限り少なく、行動要求が満たされた、健康的な暮らしができる飼育方法をめざす畜産のあり方」と表現されています。

対象となる動物は人間の保護下にあるペット、家畜、実験動物などの動物で、野生動物は含まれていません。これらの動物の環境を快適に整え、飢えや苦痛など取り除き、動物本来の行動を妨げない飼育方法で、動物のストレスや健康被害を減らすことが大切です。

アニマルウェルフェアの考え方に配慮した、飼育のイメージ(Adobe Stock)。ケージを使わない飼育も、重要な要素となっている

5つの自由〜アニマルウェルフェアの歴史〜

アニマルウェルフェアの考え方は、いつどのような背景から生まれたのでしょうか。
その発端となったのは、1960年代のヨーロッパと言われています。
イギリスの家畜福祉の活動家であったルース・ハリソンが、『アニマル・シーン』という本の中で工業生産的な集約畜産を批判し、大きな反響を呼びました。残念ながら日本では絶版となっています。家畜への虐待性や薬剤の投与による動物の健康被害などが大きな社会問題となり、その後イギリス議会で動物福祉の最初の基本原則として「5つの自由」が提唱されることとなりました。

5つの自由
①飢え・渇きからの自由(Freedom from Hunger and Thirst)
②不快からの自由(Freedom from Discomfort)
③痛み・負傷・病気からの自由(Freedom from Pain, Injury or Disease)
④本来の行動がとれる自由(Freedom to behave normally)
⑤恐怖・抑圧からの自由(Freedom from Fear and Distress)

「5つの自由」はアニマルウェルフェアの状況を把握する上で役立つ指針であり、現在WOAHが取りまとめています。また国際的な動物福祉の標準として、欧米における多くの関連する法令や日本の「アニマルウェルフェアの考え方に対応した飼養管理指針」などにも反映されています。近年では、動物福祉の最低基準はこの「5つの自由」を上回るべきであるとの提案もされており、より動物本来の生き方に寄り添う方向へ進んでいると言えそうです。

アニマルライツ、動物愛護との違い

アニマルウェルフェアと似た考え方を表すことばに「アニマルライツ」や「動物愛護」があります。
それぞれどのような違いがあるのか見ていきましょう。

まずアニマルウェルフェアは、定義のところでも触れていますが、「飼育環境の改善が目的」で家畜として飼育することを許容しています。命を利用させてもらうという前提があった上で、生きている間はできる限りストレスを排除して健康な生涯を過ごしてもらうという考え方です。

アニマルライツとは

アニマルライツは、「動物の権利」と訳されます。人間が管理・飼育する動物を対象としたアニマルウェルフェアとは異なり、野生動物も含むすべての動物が対象となります。感情や感覚を持つすべての動物は、人間から危害や苦痛を与えられることなく、自由に生きる権利があり、人間はそれらの権利を守る義務があるという考え方です。動物の生き方を尊重するものであるため、食用、実験用、衣類用などすべての人間による利用を減らしていくこと、最終的には利用の中止を目指すものです。

動物愛護とは

動物愛護は、人間が動物を愛し大切にする、人間の感情を主体とした考え方です。一方、アニマルウェルフェアは動物主体の考え方。人間の感情は考慮せず、動物にとって何が快適なのかを基準としている点が異なります。動物愛護の歴史は長く、日本ではアニマルウェルフェアよりも馴染みがある方も多いのではないでしょうか。
なお、1973年に制定された「動物の愛護及び管理に関する法律」(動物愛護管理法)では、愛護動物を人に飼われている「哺乳類、鳥類、爬虫類に属する動物」及び飼い主の有無にかかわらない全ての「牛、馬、豚、めん羊、山羊、犬、猫、いえうさぎ、鶏、いえばと、あひる」を対象としています。

このように、人間と動物のどちらの立場で考えるのか、人間による利用を許容するかしないか、動物のどの範囲を指すのかという点で違いを捉えることができそうです。

2.日本と世界の現状

アニマルウェルフェアの日本の現状

アニマルウェルフェアは日本ではどの程度浸透しているのでしょうか。
畜産業というと、ケージやストールなど、狭い場所で動きを制限された動物の映像が思い浮かぶかもしれません。

世界動物保護協会(WAP)が50ヵ国を対象に行った調査(2020年)によると、動物保護指数(API)で日本は最低ランクのG評価となっています。A評価を得た国はなく、B評価はオーストリア、スウェーデンです。
G評価となってしまった要因として、日本は動物保護に対して具体的なガイドラインや実施方法を示す政策や法律が定められていないことが示されています。さらに後述する「妊娠ストール」や「ケージ」の使用禁止が求められています。

日本の畜産業の現状〜世界に遅れる日本〜

鶏のケージ飼育

ケージを利用した鶏の飼育のイメージ(Adobe Stock)

IEC(国際鶏卵委員会)が公表した、2022年の日本人1人当たりの年間鶏卵消費量は339個で、これは世界で2番目の消費量です。
食の優等生として私たちの食生活を支えてくれている卵ですが、G評価であることを考慮すれば、そこには生産効率を優先し、アニマルウェルフェアを後回しにしている現実が垣間見えます。

卵を取るために鶏を育てる採卵養鶏場には、次の4種類があります。
・バタリーケージ(狭いケージ)
・エンリッチドケージ(広いケージ)
・平飼い(飼育舎内を自由に動き回れる)
・放牧(屋内外を自由に動き回れる)
日本では94.1%がケージ(バタリケージ、エンリッチドケージ)飼いという報告があります。しかしEUでは法制化し、鶏のケージ飼育は段階的に廃止する方向にありますから、日本の対応は遅れている状態であることも評価に影響していそうです。

食用豚の飼育環境

食用豚の飼育環境も、日本は遅れをとっている状態にあります。

妊娠ストールという檻は、子豚を踏み殺さないために導入された檻のことを指します。自由な動きは制限され方向転換どころか横を向くことも不可能で、食事も睡眠も同じ場所という環境で飼育されています。世界が廃止の方向へ向かっているなか、日本での使用率は9割を超えています。これも評価を下げている要因のひとつでしょう。

妊娠ストールのイメージ(Adobe Stock)。方向転換もできないほど、非常に狭い

何故日本ではアニマルウェルフェアへの対策が遅れているのか、その理由として、畜産業の歴史が浅いことや、畜産物の輸出が少なくこれまで世界のスタンダードに合わせる必要に迫られなかったことなどがあげられます。

近年のオリンピック・パラリンピックでは、持続可能性が主要テーマとして掲げられ、組織委員会から「持続可能性に配慮した調達コード」が提示されています。2021年に開催された東京オリンピックでは、会場や選手村で提供される食材の調達基準が国際的な要件をクリアしていないとして、世界から厳しい視線が向けられました。インバウンド需要が増え、海外から多くの人々が日本を訪れ日本で食事を楽しむ機会も増えており、今後さらに世界から厳しい目が向けられる可能性もあるでしょう。

日本のアニマルウェルフェアの認証制度

そのなかで、日本でもアニマルウェルフェアに関する認証制度があります。いくつかご紹介します。

GAP(Good Agricultural Practices)
持続可能な農業のために生産者が取り組むことをまとめた基準で、「家畜衛生」や「アニマルウェルフェア」を含む7つの取り組みが記されています。厳しい基準をクリアしたJGAP認証農場で生産された畜産物のほか、野菜、果物、穀物などにも認証マークがつけられます。なお、Good Agricultural Practicesとは、よい農業の取り組みを意味します。
※詳細はこちら

「やまなしアニマルウェルフェア認証制度」
国内の自治体では初めてとなる、山梨県独自の認証制度で、健康管理、栄養、環境などの定められた基準を満たすことで、ロゴマークを商品に付けて販売できます。
※詳細はこちら

「アニマルウェルフェア認証マーク」
一般社団法人 アニマルウェルフェア畜産協会が発行する認証マークです。農場認証を取得すると、農場の看板や宣伝広告物に認証農場マークを表示できます。食品認証を取得すると認証農場からの畜産物を主原料とした食品との販売促進物に認証食品マークを表示できます。
※詳細はこちら

アニマルウェルフェア、先進国の取り組み

EUでは、2012 年からバタリーケージ(狭いケージ)の使用を禁止。ケージ飼育そのものが禁止されているわけではありませんが、一羽当たりの750㎠の最低面積、巣、砂場、止まり木が設置された「エンリッチドケージ」でなければならないとされています。

近年ではケージ飼育そのものを廃止する動きがあり、平飼いや放牧への移行が進められています。
アメリカでは一部の州でケージ飼育が禁止。カナダは2036年までにバタリーケージを完全に廃止すると表明しています。

豚の妊娠ストール(檻)についても、EUは廃止の方向です。種付け後 4 週間から分娩予定の1週間前まではストール飼いを禁止しており、ウェーデンのように期間の制限なく妊娠ストールを禁止している国もあります。アメリカでは一部の州で禁止、イギリス、スイス、ニュージーランドでも禁止されています。

ファッション業界、自動車業界にも広がる脱・動物由来の動き

毛皮の服のイメージ(Adobe Stock)

アニマルウェルフェアの考えはファッション業界へも広まっており、毛皮や動物の皮に替わる、動物由来ではない素材の開発が進められています。
ヨーロッパでは2024年9月時点で、20の国が毛皮生産の禁止を決めており、ここにはファッション大国として知られるフランスやイタリアも含まれています。

なお、こうした動きはファッション業界にとどまらず、自動車業界でも本革シートなど、アニマルレザーの使用を減らしていく動きが見られます。このことから、食だけでなく、すでに私たちの生活のさまざまな場所に、アニマルウェルフェアの観点が深く影響を及ぼし始めていることがわかります。

アニマルウェルフェアが重視される(求められる)3つの理由

1.ワンウェルフェアの広がり

コロナ禍で「ワンヘルス」ということばが注目されるようになりました。
ワンヘルスとは、人間と動物の健康を連動して捉える取り組みのことです。環境汚染などによって健康に被害を受けるのは人も動物も同じで、生態系の機能が損なわれれば、食料供給や経済活動が滞ってしまいます。
最近ではこのワンヘルスが発展して「ワンウェルフェア」という考え方が広まってきました。健康だけでなく、自由や生活の質も人間と動物がともに保障されるべき権利であること。人間と動物が互いに連動しているのは、健康だけでなくウェルフェア(福祉)も同様だという考え方です。
人間と動物、さらに自然環境のつながりを捉え、統合的に課題を解決していくことが求められています。
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2.ESG

ESGは「Environment(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」のことで、取り組むことで企業価値の向上につながると言われています。近年の潮流となっているESG投資とは、この3つの観点から企業を評価し、投資する企業を選択する投資方法のことです。畜産においては、飼育や飼料栽培のための森林伐採や、大量に排出される糞尿による環境汚染などが問題となっていますが、アニマルウェルフェアも重要な評価指標のひとつです。
※詳しくはこちら

3.エシカル消費への意識の高まり

エシカル消費は人や社会、環境、地域などに配慮したものを選ぶことで、消費行動によって地球環境や社会問題を解決する一歩にしようという考え方です。フェアトレード商品やオーガニック商品を選ぶこと、エコバッグや量り売りの利用、地産地消を意識することなど、さまざまなエシカル消費があります。アニマルウェルフェアもその内のひとつです。
消費者庁の委託を受けて調査された「倫理的消費(エシカル消費)」に関する消費者意識調査報告書からも、エシカル消費はこれからの時代に必要なものという認識が広がっていることがわかります。

3.SDGsとの関係性

アニマルウェルフェアは、SDGsとの関わりも深く、SDGsを達成するためにも欠かせない要素です。具体的にどのような関連があるのか、目標別に見ていきましょう。

目標2 飢餓をゼロに

タンパク質を豊富に含む肉や卵、乳製品は、特に飢餓や栄養不良に直面している人たちにとっては、欠かせない食品です。アニマルウェルフェアの考えを取り入れ、持続可能な食料生産システムを構築することは、重要な視点であるといえます。

目標3 すべての人に健康と福祉を

動物の自然の行動を制限されるような過密な飼育環境では、さまざまな菌やウイルスが発生しやすくなります。食中毒の原因となるサルモネラ菌もそのひとつです。予防のために健康な動物に抗生物質を与えることで、薬剤耐性菌が人間に抗生物質耐性をもたらす危険も問題となっています。薬物投与を避けるには、動物のストレスを減らすことで動物自身の免疫力を高めることが重要です。そのためにはアニマルウェルフェアの考え方の普及が必要でしょう。

目標6 安全な水とトイレを世界中に

安全な水の確保は人間が生きていくために必須の要素です。工業畜産では膨大な水が使われるため、水資源の乏しい地域では、人間と奪い合いことになってしまいます。また抗生物質で汚染された大量の排泄物が川や海を汚染していることも問題です。飼料となる作物の栽培にも大量の農薬が使われていることが多く、水質汚染の原因となります。

目標8 働きがいも経済成長も

生産効率を優先させた工業畜産は、動物にとって苦痛であることはもちろんですが、働く人にとっても辛い労働です。アニマルウェルフェアに配慮した環境で自然のままに動物を育てることができれば、命を育んでいるという実感を持て、働きがいを感じる場面も増えるかもしれません。その考えに賛同する働き手の確保につながることもあるでしょう。

目標12 つくる責任 つかう責任

畜産は、飼育場の確保から飼育、畜産物の生産、輸送、消費と、さまざまなプロセスを踏みます。また動物の命を人間がいただく営みであるため、多くの責任が伴います。畜産業に携わる側だけでなく、消費する側もどのようなプロセスを経て手元にあるのかを知ることが大切です。認証マークのついたものを選ぶなど、選択に責任を持つという意識を忘れないようにしましょう。

4.日本企業の取り組み〜アニマルウェルフェアアワード2024より〜

アニマルウェルフェアアワードは、畜産水産動物福祉の向上に取り組む認定NPO法人「アニマルライツセンター」が、前年度(2023年4月~2024年3月末)までの間のアニマルウェルフェア向上に最もインパクトのあった企業を評価するものです。
アニマルウェルフェアアワード2024では、次の3つの企業にアワードが贈られています。

味の素(鶏賞)

「アニマルウェルフェアに関するグループポリシー」(2018年制定、2021年改称)において、アニマルウェルフェアの概念に沿った調達の考え方を示し、日本国内のすべての一次サプライヤーと共有しています。2023年には「平飼いたまごのマヨネーズ」を発売しており、原料に、自然循環農法を取り入れている山梨県甲斐市の黒富士農場で平飼いされた、にわとりのたまごを使用しています。

白老たまごの里 マザーズ(鶏賞)

「健康な鶏を育てる」を基本にアニマルウェルフェアにも対応した取り組みを推進し、一般消費者への卵商品の選択の幅を広げる活動を行っています。夜は木の枝に止まって休む鶏の習性を考慮し、多段式の平飼い方式を採用。EUが設けている平飼いの厳しい基準に適合した設備を整え、飼料も地産地消に取り組んでいます。

マルハニチロ(魚賞)

マルハニチロでは、養殖魚の飼育環境改善を目的に、2022年より「大型浮沈式銅合金金網生け簀」を導入しました。養殖魚を飼育する生け簀を大型化・大容積化したことで、飼育密度を約10%下げることを実現しています。海水温の変動に合わせて浮き沈みをさせることが可能な浮沈式(と呼ばれる)生け簀のため、養殖魚にとって快適な飼育水温となる配慮がされています。

情報出典:PR TIMES

まとめ

アニマルウェルフェアの考え方は欧米から広がり、現状、日本は世界から大きく遅れをとっています。

畜産加工品は長いプロセスを踏んで消費者まで届くため、その間の状況が見えにくいという側面があるかもしれません。しかし、各プロセスでSDGsのさまざまな目標と関わっており、アニマルウェルフェアに目を向けることは、SDGsの目標達成にも寄与するものです。今後、企業の取り組みをはじめ、生活者ひとりひとりの意識と行動など、日本全体でアニマルウェルフェアの気運を高めていくことが求められています。

記事カテゴリー
SDGsの基礎知識