2025年03月07日
多様性を意識し、すべての人が暮らしやすい世界を目指す動きが加速しています。そして、その取り組みのひとつとして注目されているのが「ユニバーサルデザイン」の考え方です。
本記事では、ユニバーサルデザインの意味や目的、ユニバーサルデザインのルールともされる7つの原則、さらにユニバーサルデザインのさまざまな具体例などを紹介します。
ユニバーサルデザイン(Universal Design)は、「普遍的な」という意味を持つ "ユニバーサル" が示しているとおり、「身体能力の違いや年齢、性別、国籍などに関わらず、すべての人が利用しやすい」ことを目指してつくられたデザインです。
この「デザイン」とは、目に見える部分だけでなく、構造やシステムなども含む広い意味で使われています。また、実際にデザインされた製品や建物、環境など全般を指すこともあります。頭文字をとって、「UD」と表現されることもあります。
利用しやすいデザインかどうかは、作る側ではなく使う側が判断するものですから、ユニバーサルデザインは「あらゆる利用者の視点を配慮したデザイン」と言い換えることができます。
また、「すべての人が安心で快適に暮らせる」ことを目的としている点で、SDGsの理念と共通していることがわかります。
ユニバーサルデザインにゴールはありません。ひとつのデザインが、ある人には利用しやすくても別の人にとってはそうでもない、という場合もあります。「これまでより利用しやすくなった」という人をひとりでも増やすために、絶えず進化していくのがユニバーサルデザインです。
ユニバーサルデザインとよく混同されがちな「バリアフリー」には、「高齢者や障がい者が社会生活をしていく上で障壁(バリア)となるものを除去する」という意味があります。住宅建築用語として登場した言葉ですが、物理的な障壁だけでなく、社会的・制度的・心理的など広い意味での障壁に対しても用いられています。
バリアフリーは、「障害があることを前提に、その障壁を後から取り除く」ことであり、初めから「すべての人が利用しやすいようにデザインする」ユニバーサルデザインとは異なる意味合いを持ちます。
ユニバーサルデザインという大きな枠組みの中に、バリアフリーというカテゴリーがあると考えればよいでしょう。
「バリアフリー」では、障害があることが前提となっている
ユニバーサルデザインの原型として、1963年からデンマークで「ノーマライゼーション」の考え方が提唱されました。
ノーマライゼーションは、障がい者や高齢者を「特別視するのではなく、一般の人たちと同じように暮らせるようにしよう」という考え方です。この考えは北欧諸国から世界へと広まり、バリアフリー化の推進にもつながりました。
その後1990年に、アメリカで「障害をもつアメリカ人法(ADA)」が成立します。障がい者への差別を禁止し、交通機関や公共施設は障がいの有無にかかわらず使えなくてはならないことを定めたものです。
これをきっかけに、「すべての人が使いやすいデザインを提供しよう」という運動が広がりました。
その中心となったのが、ノースカロライナ州立大学のユニバーサルデザインセンターを設立したロナルド・メイス教授で、「あらゆる体格、年齢、障がいの有無に関わらず、誰もが利用できる製品、環境を創造する」という「ユニバ―サルデザイン」を提唱しました。
メイス教授は幼い頃の病気がもとで、酸素吸入をしながら電動車椅子を使って生活していました。バリアフリーで特別扱いされることに疑問を抱き、初めから誰もが使いやすいデザインを考るべきと、仲間とともにユニバーサルデザインの考えを広めていったのです。
日本でも、少子高齢化社会への対応が求められる中、ADAの成立を受けてユニバーサルデザインの考え方が広まっていきました。1994年に施行された「ハートビル法」では、劇場や銀行、ホテルなど誰もが日常利用する建築物などにおいて、高齢者や身体障害者が利用しやすい建物にすることを求めています。
さらに2005年には、国土交通省が「ユニバーサルデザイン大綱」を発表し、それまでメインだったハード面の対策に加え、心のバリアフリーなどソフト面も考慮されるようになりました。
また東京オリンピック・パラリンピックの開催にあたっては、「ユニバーサルデザイン2020行動計画」が立てられ、さまざまな取り組みが実践されました。
この計画では、さまざまな心身の特性や考え方を持つすべての人々が、相互にコミュニケーションをとって支え合う「心のバリアフリー」と、東京大会に向けてだけでなく、全国各地において高い水準のガイドラインをふまえて進める「ユニバーサルデザインの街づくり」が具体案として推進されました。
ユニバーサルデザインは、街中や公共施設、住宅、学校などで私たちが普段何気なく使っている設備やモノから、印刷物やWEBなどのメディアにいたるまで、あらゆる場所で求められ、拡大しています。ユニバーサルデザインの原則を理解し「これはユニバーサルデザインに当たるかどうか」という視点で身の回りを観察してみると、より理解が深まるかもしれません。
ここからは、ユニバーサルデザインを理解する助けとなる、「ユニバーサルデザインの7原則」を紹介します。
この原則は提唱者であるロナルド・メイス教授をはじめ、建築家や工業デザイナー、技術者らが協力しあってまとめたもので、ユニバーサルデザインの方向性を明確にしています。
原則1 【公平性】
誰にでも公平に利用できるように作られており、かつ容易に入手できること。
公平性を確保したユニバーサルデザインの例
原則2 【自由度】
使う人のさまざまな状況や能力に合うように、または選べるように作られていること。
自由度を確保したユニバーサルデザインの例
障がいのある人・子供連れ・高齢者などさまざまな人に対応する多目的トイレ
原則3 【簡単さ】
使う人の経験や知識、言語能力、集中力に関係なく、使い方がわかりやすく作られていること。
簡単さを確保したユニバーサルデザインの例
原則4 【明確さ】
使用状況や、使う人の視覚、聴覚などの感覚能力に関係なく、必要な情報がはっきりと伝わるように作られていること。
明確さを確保したユニバーサルデザインの例
多言語の文字・ピクトグラム・矢印で構成された誘導板
原則5 【安全性】
うっかりしたり意図しない行動が、危険や思わぬ結果につながらないように作られていること。
安全性を確保したユニバーサルデザインの例
原則6 【持続性】
無理な体勢になったり疲れたりしないで、気持ちよく楽に利用できること。
持続性を確保したユニバーサルデザインの例
原則7 【空間性】
どんな体格や、姿勢、移動能力の人にも、アクセスしやすく、操作がしやすいスペースや大きさが確保されていること。
空間性を確保したユニバーサルデザインの例
充分な空間を確保した優先駐車スペース
さらに詳しい例については、このあとに紹介していきます。
この7原則は、ユニバーサルデザインを評価するものではありません。また7原則すべてを守る必要を示しているわけでもありません。可能な限り多くの人の要求に応え、理想のデザインを実現するための指針とされています。
地球上の「誰一人取り残さない」ことを掲げるSDGsは、すべての人が利用しやすいデザインで快適に暮らせることを目指すユニバーサルデザインと多くの共通点を持っています。17の目標の中では、主に次の3つと深く関わっています。
目標4「質の高い教育をみんなに」
目標4では、国籍や性別、経済力などに関わらず、すべての人が学べる環境を整えることを掲げています。そして、同じくこの目標を達成しようと開発されたユニバーサルデザインの例も多く見られます。
こちらについては、次項でくわしく解説します。
目標10「人や国の不平等をなくそう」
世界には性別や年齢、障がいの有無、国籍、人種、宗教、難民、性的マイノリティなどさまざまな不平等があります。目標10は多様性を認め、すべての人が活躍できる社会を目指すものです。
すべての人が利用しやすいデザインを追求するユニバーサルデザインは、そもそもの出発点からこの目標1に合致しています。性的マイノリティの問題のように、時代とともに顕在化してきたテーマについても柔軟に対応する性質を持っています。
目標11「住み続けられるまちづくりを」
世界の半分以上の人が都市部に暮らすいま、過密化や大気汚染やゴミ問題、格差の拡大、犯罪などの問題が深刻化しています。目標11は、誰もが暮らしやすい街づくりを目指すものです。
この目標11のターゲットとしては、
とあり、すべての人々が安全で安価に利用できるシステムや公共スペースの必要が示されています。
ユニバーサルデザインを推進することは、目標11の達成に密接に関わっていると言えるでしょう。
2011年に施行された「改正障害者基本法」では、障害のある生徒もない生徒も、可能な限り一緒に教育が受けられるように求めています。またインクルーシブ教育が世界の潮流となっていることもあり、教育の場におけるユニバーサルデザインの考え方が重要視されるようになりました。
子どもたちの多様性に応える教育は、障がいのあるなしに関わらず、すべての子どもに必要です。教育におけるユニバーサルデザインは、障がいのある人にとっては必要不可欠なものであり、障がいのない子どもにとっても理解を助けるものでなければなりません。
そのためには、誰もが学ぶ喜びや達成感を得ながら、生きるための力を習得できるような環境整備が必要です。わかりやすい授業づくりや達成感を味わえる学習体験の提供、安心して学べる人間関係へのサポートなどがいっそう望まれていくでしょう。
環境整備の例としては、板書の色使いや位置、授業の展開のしかたを統一し、学ぶ場所や科目が変わっても安心して学習を進められるようにする、教室内の物は、何がどこにあるかをルール化し、迷わず行動できるようにする、などが考えられます。
拡大教科書やデジタルデバイス、電子黒板などを活用し、全員が必要な情報を共有できるようにする取り組みも推進されています。
教育の場におけるユニバーサルデザインでは、デジタルデバイスが活躍する
ここからは、身近にあるユニバーサルデザインの具体例を探してみましょう。
■自動ドア
スーパーやマンションなど、街中を歩けば多く見かける自動ドア。車いすの人が利用しやすいのはもちろん、両手に荷物を抱えている人やベビーカーを押している人、視覚に障がいがあってボタンの位置が分かりにくい人にとっても便利です。すべての人に利用しやすさを提供するデザインの代表例と言えるでしょう。
■信号機
誰もが正しく認識しなければならない信号機こそ、ユニバーサルデザインが求められる装置といえるでしょう。
青信号はかつて「緑色」で、赤信号や黄信号と見分けがつきにくかったのですが、1970年代以降は色覚障がい者にも見分けやすい「青緑色」に変更されました。
さらに、黄色と赤色の区別が難しい色覚障がいをもつ人に対し、赤色灯に✕印のLED発光体を配列している信号機が設置されています。約100m離れると健常者には✕印が見えず、色覚障がいの人にだけ見えるというものです。
また視覚障がい者の利用頻度が高い地点では、交差点のこちら側と反対側で違う種類の音を時間をずらして鳴らし、方向や距離をわかりやすくした信号機などの採用が進んでいます。
目の不自由な人のための専用スイッチを設けた信号も増えている
■自動販売機
自動販売機はもともと「どこにでもあって、誰でも好きな時に購入できる」というユニバーサルデザインの発想からスタートし、時代とともに進化を続けています。
たとえば「商品を選ぶボタンは低い位置にも設置」「かがむ必要のない取り出し口」「まとめてコインを入れられる受け皿型の投入口やユニバーサルカラー」「購入した商品や荷物が置けるテーブル」などを採用しています。ほかにも、キャッシュレス決済も広がっています。
■トイレ
ユニバーサルデザインの結集のような場所が、公衆トイレや公共施設、商業施設などで整備が進むトイレです。
・センサー式蛇口
手を近づけただけで反応して水が出るセンサー式蛇口は、障がいがある人や握力が弱い人も無理なく利用することができます。衛生面においても、誰にとっても有益です。
・多目的トイレ
つえ利用者や障がい者・介助者のために広くスペースを取る、小さな子ども連れのためのベビーシートの配置、オストメイトのための設備、視覚障がい者のためのボタン形状や点字の整備など、さまざまな視点による配慮が進んでいます。
・男女共用トイレ
子ども連れや高齢者が、異性と共にでも利用できるという視点から、またトランスジェンダーなど性的マイノリティの人からも求められているのが男女共用トイレです。多様な利用者が使いやすい広さを持ちながら、入口のレイアウトによって出入り時に見えづらくするなどの配慮まで進められています。
■スロープ
スロープは階段の代替として車いすの使用者や足腰に不安のある人、高齢者やベビーカーを使う親などにとって不可欠な設備です。現在では単に設置するだけなく、さまざまな配慮がなされたユニバーサルデザイン設計が進められています。
具体的には、
など、多くの要素が反映されています。
普段は気付きにくいが、スロープの設備には多くの配慮がなされている
■ノンステップバス
小さな子どもから高齢者、体の不自由な人まですべての人が乗り降りしやすいよう、床面を下げて乗降口の段差を低くし、さらに車内の段差を可能な限り無くしたのがノンステップバスです。普通のバスが乗降口の段差90cmほどであるところ、ノンステップバスでは30cm程度が多くなっています。
乗降時にはさらに床面を下げる機能や、スロープ板を設置して車いすのままで乗降できるもの、視覚障がい者にも場所が分かるように音声を流す工夫などがなされたバスもあります。
■シャンプーとリンスのボトル
ボトルの側面にギザギザの刻みがついており、目の不自由な人でも、目をつぶっていても、触っただけでシャンプーとリンスを区別できるように工夫されています。これは消費者の声をきっかけに1991年から花王が採用したもので、ユニバーサルデザインの代表例としてよく知られています。
■文房具
代表的なのが右利き・左利きの両方で使える商品です。左利きの人だけでなく、利き手をケガしてしまったときにも役立ちます。はさみや定規、カッターナイフなど多くの文房具で見られるようになりました。
子どもが使っても危険が少ない先の丸いはさみ、針を使わないホッチキス、どこを持っても握りやすいボールペンなど、他にも多くの工夫が見られる商品ジャンルです。
■紙幣
私たちが日々使っている紙幣にも、ユニバーサルデザインが採用されています。
紙幣には、目が不自由でも指の感触でお札の種類が分かる識別マークが付いています。2004年に発行開始した紙幣では、それぞれのお札のほぼ同じ位置に識別マークが配置されていましたが、2024年に発行開始した新紙幣では触った際に分かりやすい形(11本の斜線)に統一し、券種毎に位置を変えることで券種を識別しやすくしています。
また外国人など漢字が読めない人にもお札の種類がわかりやすいよう、「1000」などの数字を大きくしています。
■浴室
浴室は、濡れた床やしゃがむ・またぐといった動作、入口の段差など、うっかり転んでしまうリスクの高い場所です。ユニバーサルデザインの考え方を取り入れた浴室は、滑りにくい素材を使用する、水がたまりにくい構造になっている、手すりを設置する、などの工夫がされています。浴槽への出入りを楽にするため、浴槽の1/3ほどを床に埋め込んだり、ふちを広めにするなどの工夫も見られます。
■ルービックキューブ
パズルの定番、ルービックキューブでもユニバーサルデザイン採用の製品が展開されています。白面以外の5つの各面に異なる凹凸がついていて、触覚でそろえることができるようになっています。凹凸部分はドットや丸、四角等直感的にわかりやすいモチーフで設計されています。
視覚障がいがある人だけでなく、触覚だけで揃える新しい遊びとして誰もが楽しめる点が秀逸です。
触覚を頼りに遊べるルービックキューブ(株式会社メガハウス・プレスリリースより)
ユニバーサルデザインは、「デザイン」でイメージするような、目でみえる事象による伝達だけで達成できるわけではありません。
必要に応じてさまざまな手段を組み合わせて伝えることで、すべての人が安心で快適に暮らせる社会が実現します。
■ピクトグラム
ピクトグラムは、何らかの情報や注意を示すために単純化された絵文字のことです。公共交通機関や、観光施設、商業施設などさまざまな場所で使われており、日本語がわからない外国人や視力の低下した高齢者でも、一見して理解できることを意図しています。
■点字
視覚障がい者にとって欠かせない伝達手段が点字です。日本では1990年代から法律などで設置が義務づけられるようになったため、世界でも例をみないほど多くの点字によるサインが整備されている一方で、質の低下という問題が発生しています。
視覚障がい者への情報提供や点字についての知識や経験を持たない建設業者などが形式的に製作し、不正確・不適切な設置をしているケースが多く見られ、官民で解決していくべき課題となっています。
■音声
視覚障がい者には、音声による伝達も非常に重要です。人の声で伝える「音声案内」以外に、視覚障がい者向けに開発・設置された「音サイン」と呼ばれる音声もあります。たとえば階段の入り口で鳴く小鳥の声や、音響式信号機の「カッコー」「ピヨピヨ」などの音声です。特に駅など、視覚障がい者にとって困難や危険をともなう場所では、音声案内や音サインの整備は欠かせません。
音声によるサポートは日常生活でも広がっており、テレビや映画を見るとき、主音声だけではわかりにくい人物の動作や情景などを声で伝える「音声解説」などが採用されています。
■カラー
色の見え方の多様性に配慮する、わかりやすくする、相手に負担をかけないなど、伝達手段としてのカラーについても配慮が進んでいます。
色覚に異常のある人でも識別しやすい配色を用いる、色だけを判別基準にしない(形や位置の違い、大きさなどほかの判別基準を併用する)、彩度の低い色同士を組み合わせないなど、さまざまなガイドラインによる配慮が推進されています。
さまざまな自治体からカラーユニバーサルデザインのガイドラインが公開されている(東京都ホームページより)
■フォント
フォント(書体)でも、多くの人に分かりやすく読みやすいように工夫された「ユニバーサルデザインフォント」の採用が、公共的な印刷物などを中心に進められています。高齢化にともなって、細かな文字や小さい文字が読みにくい人が増えていることもその流れを後押ししています。
文字の太さが均一で読みやすいゴシック体を中心として、アキの部分が狭いと見間違いを起こしやすい「6」と「8」などの文字の調整、文字全体でも空きの間隔や文字の幅などを調整して判別しやすくする工夫などがなされています。
講談社SDGsでは、SDGsの企業取り組み事例として、ユニバーサルデザインを推進する企業の紹介も行ってきました。その中から3社の取り組みを要約して紹介します。
公園遊具や休憩施設のメーカーである内田工業は、欧米で取り組みが進んでいた「インクルーシブ公園」の考え方に着目し、誰も取り残さない遊び場を日本全国に広げる取り組みを行っています。
座面のネットが体を包み込むハンモックのデザインを取り入れ、子どもや障がいのある人を含め誰もが楽しめるブランコや、遊び場で気分が高揚しすぎたり、感情を抑えられなくなったりする子に落ち着ける場所を提供する「遊ばない遊具」など、「誰も取り残さない」を命題とした独自の製品の開発と普及を推進しています。
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福祉車両のこれまでのイメージである「介護のための車両」ではなく、「1台でレジャーや趣味、介護と幅広く使える便利な車」であることを打ち出した車種でヒットを生み出しました。
「車いすのためのスロープ」ではなく「車にスロープがついていると、できることが広がる」ことに焦点を当て、アウトドアの重い荷物やまとめ買いした日用品も楽に搭載して、4人載っても荷物も余裕で積めること、そしてスロープ使用時以外はフラットな荷室となって"普通"の車になることを強調しました。
このユニバーサルカーは、いずれ介護をするかもしれないと考えた40〜50代の「介護予備軍」のユーザーがレジャーや日常使いで購入するなど、新しい市場を開拓する結果にもつながりました。
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前項で紹介した、色ごとに異なる凹凸の形状を配した「ルービックキューブ ユニバーサルデザイン」の開発のほかにも、黒石の面に凸、白石の面に凹があり触ると石の選別ができる「一体オセロ」などもリリースしています。このオセロでは石が盤面のマスに内蔵される仕様で、小さな子どもの誤飲防止や紛失削減に配慮しています。
テレビゲームでも色覚特性への配慮を施したり、映像コンテンツで視覚や聴覚に障がいのある方でも楽しめるよう、作品内の背景や人の動き、表情などを音声で解説する「バリアフリー音声ガイド」の導入などを行っています。
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長年、モノや仕組み作りは健康な成人男性を想定して行われる傾向にありました。しかし、社会には高齢者や子ども、妊婦、障がい者、外国人などさまざまな人が暮らしています。健康な人であっても、病気になることもあれば体調が悪い日もあります。
そのような多様なニーズに応えるため、ユニバーサルデザインに取り組んでいく企業や自治体は増えており、そこをビジネスチャンスと捉えることもできます。2025年開催の「大阪・関西万博」でも、ユニバーサルデザインガイドラインに沿った会場内の施設整備が進められています。
また人口が減少していく日本では、ユニバーサルデザインによってすべての人が能力を発揮しやすい環境やシステムを作っていくことで、高齢者を含め働く意欲が高まり、新たな雇用を生み出す点で重要となってくるでしょう。
AI技術の進化もあり、情報処理に関する利便性は今後さらに高まっていくことが予想されます。しかし日常生活に関しては、実際に利用する私たち自身が、常にあらゆる視点に立って考えていく意識が欠かせません。
最近は企業などでユニバーサルデザインをコーディネートする人材育成のためのプログラムも導入されています。これからはユニバーサルデザインがハードとソフト両面からさらに進化していくことが期待されます。
ユニバーサルデザインはより多くの人のために、さまざまな声を取り入れながら変化していくもので、終わりがありません。これまで何気なく使っていた商品やサービスも、ユニバーサルデザインの視点で見ると新たな可能性を見つけることができそうです。