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【第17回】サステナブル・マーケティングに関わる消費者意識と「SDGs2020報告」を考える

2020年11月17日

<連載>サステナブル・マーケティングのすすめ

「サステナブル・マーケティング」をキーワードに、令和におけるマーケティング戦略を考察していく連載コラム。
今回は、各種消費者意識調査のデータをもとに、どのような施策が消費者のサステナブルな行動に結び付きやすいかを分析します。また、最新の「SDGs報告2020」を一部紹介し、今後について考えます。

消費者意識から紐解くサステナブル・マーケティング

サステナブル・マーケティングは、企業が社会課題に貢献する姿勢をマーケティングの視座から伝え、顧客と共にブランドを育んでいくプロセスです。
社会全体がより一層サステナビリティに力を注いでいくことで、サステナブル・マーケティングに心を動かされる対象は広がるでしょう。サステナブル・マーケティングは一手法でなくスタンダードとなることが、最終的には望ましいといえます。
では2020年現在、サステナビリティに対する消費者の関心や行動意欲は、どのようなものなのでしょうか。まず、さまざまな業界や領域で行われている意識調査の結果をもとに、どんな手法のマーケティングが効果的なのか考えていきます。

ファッション−ブランド力につながるサステナブルな商品展開を

株式会社FUMIKODAが実施した「エシカルファッションとSDGsに関する意識調査」(2020年3月、20歳以上の男女956名対象)によると、「エシカル」、「スローファッション」、「サステナブル」といった言葉についての認知度はいずれも低く、18?21%にとどまります。「SDGs」に関しては58.2%が「知らない」と答えました。


株式会社FUMIKODA「エシカルファッションとSDGsに関する意識調査」

ただし、「エシカル」の商品やブランドへの関心は強く、「エシカルな商品でなければ買わない」、「できるだけエシカルな商品を買う」と答えた人の割合はほぼ半数の48.8%です。一方、たとえ2倍程度価格が高くてもエシカルな商品を選ぶと答えた割合は4.1%でした。購入の判断基準として価格帯の優先度が高いところが、ファッション領域におけるエシカルな商品の浸透を妨げるひとつの要因となっている可能性があります。


株式会社FUMIKODA「エシカルファッションとSDGsに関する意識調査」

ファッション領域では、廃材を利用した商品開発やリユースなどに取り組むブランドが多く、そうした商品を選んだほうがいい、という感覚は浸透しているようです。一方で、それらの取り組みがどのような課題意識から生まれたものなのか、どういった定義が為されているのかまでは認知が広がっていません。そして、できるだけ低価格帯での提供を実現できる生産面でのソリューションも必要なようです。
提供商品のサステナビリティを活かし、ブランド力を高めていく。ファッション領域において、これが現時点ではもっとも効果的だと考えられそうです。

食品−マーク認証は期待薄、意識高い消費者に伝わりやすい訴求を

株式会社博報堂が実施した「生活者のサステナブル購買行動調査」(2019年11月、全国20?60代の男女計6,000名対象)の結果からは、食品を無駄にしないよう買い物をする意識が強まっていることがわかります。


博報堂「生活者のサステナブル購買行動調査」

「賞味期限間近で値引きされたもの」や「見た目や形が悪くても味が変わらないもの」を意識的に買うと答えた層が全体の8割を超え、フードロス問題の解決につながる行動が浸透しつつあることがわかります。「国産のもの」を買うと答えた層は特にその頻度が高く、「いつもしている」、「よくしている」と答えた人のみで55%超という結果でした。原材料や産地などの情報と併せて、食品を選ぶ重要な基準になっているようです。
一方、安全性や環境への配慮を証明する認証ラベルについては認知度が低く、マークがついた商品を購入したことがあると答えた人は、もっとも多い「有機JASマーク」でも19.8%にとどまりました。認証ラベルへの関心が薄い原因として、認証ラベルの種類が多すぎること、ラベルの視認性が低いことなどが挙げられています。

食品に関しては、フードロスを減らす購入意識が根付きつつある一方、サステナブルな商品に対する関心や知識は浸透していないようです。生産過程で森林・海などへの環境配慮が行き届いているものや、地域社会に配慮しているものなど、個々のサステナブルな特長を訴求するためには、認証マークのみでは不十分といえるでしょう。

商品の外包装−不必要なパッケージや過剰包装の見直しを

株式会社マクロミルが実施した「プラスチック製品に関する生活者の意識調査」(2018年10月、全国20?69歳の男女計1000名対象)によれば、プラスチック製のパッケージや使い捨て容器を「不要」または「過剰」と感じたことがある人は全体の65%を占めました。


株式会社マクロミル「プラスチック製品に関する生活者の意識調査」

このうち、特に不要だと感じるものは「外包装フィルム」56.7%、「使い捨てストロー」45.8%、「使い捨てスプーン・フォーク」44.9%と続きます。これらに対し、購入時に断れる場合は断ると回答した人は全体の24%、男女比では女性のほうが主体的に断る行動を取っています。
日用品や食品、外食産業などさまざまな領域で用いられるプラスチックについて、徐々に関心が高まりつつあると考えられます。商品の過剰梱包がネガティブな印象につながることも増えそうです。


博報堂「生活者のサステナブル購買行動調査」

株式会社博報堂による調査(前述)では、「環境や社会に悪い影響を与える商品は買わない」と答えた人の割合が82.7%と大半を占めています。過剰包装は環境破壊とのイメージを結びつけやすいからこそ、こうしたボイコット意向とつながりやすいかもしれません。


画像出典:花王

近年は花王など大手メーカーによるプラスチックボトルレス化やアイキャッチシールの全廃など、商品訴求の常識を捉えなおす動きも増えています。今後、パッケージや容器の在り方を刷新していくことは、売上向上に直結する施策となりそうです。

コロナ禍の生活様式の変化に伴い、サステナビリティへの関心が増加傾向

楽天インサイトが実施した「サステナブルな買い物に関する調査」(2020年5月、全国20?60代の男女計1,000名対象)結果によると、コロナ禍で「サステナブルな買い物」に対する意識が強まったと答えた人の割合は32.9%。さらに年齢と性別ごとにデータを見ると、20代女性と60代女性は特に多く、いずれも40%を超えました。

サステナブルな買い物を意識するようになった理由の上位は「節約意識が高まったため(45.3%)」「家で過ごすことが増え、暮らし方を見直すようになったため(44.7%)」です。いずれも生活に目を向けることが増えたことにより、サステナブルな商品を選ぶ理由が芽生えたことがわかります。


楽天インサイト「サステナブルな買い物に関する調査」

また、「健康や安全への関心が高まった」「買い物に行く頻度が減り、以前より何を買うか考えてから買うようになった」という意見も多く、感染防止のための習慣が消費行動にサステナビリティをもたらしているとも考えられます。

サステナブルな買い物に対する意識の強まりは、コロナ禍をきっかけとした生活そのものの見直しが大きな要因です。
よって、もはやそれは一時的なものではなく、今後も広がり続いていくと考えてマーケティング施策を考えていく必要がありそうです。頻度が少なくなった買い物の中で商品を選んでもらうために、「長く使える」、「繰り返し使える」といったサステナブルなアピールポイントを全面に押し出したいものです。

40−60代女性とミレニアル?Z世代の意識の違いとマーケティング

あらゆる調査結果で共通する点は、男性より女性、特に40代?60代がサステナビリティを意識した買い物に積極的であることです。食品や日用品を日ごろから購入し、ごみ問題や家計に近い立場だからこそ、何を選ぶべきか慎重に検討していることが理由でしょう。

一方、ミレニアル世代(1981?1995年生まれ)やZ世代(1996?2012年生まれ)のサステナビリティに対する意識もまた、別の一部において高いという調査結果があります。
日興リサーチセンターが実施した「生活者アンケートデータからみたZ世代やミレニアル世代の持続可能性に対する意識」のレポート(2019年11月、20?50代の男女対象)によると、この世代のフェアトレード商品や人口肉に対する意識が、他と比べて強いことがわかりました。


日興リサーチセンター「生活者アンケートデータからみたZ世代やミレニアル世代の持続可能性に対する意識」

「これ以上の畜産は維持できないので、動物肉から人口肉にシフトすべきだと思う」に対して肯定的な回答を示した層は、20?30代男性でした。また、「フェアトレード認証を受けた製品を選択する」という問いも同様に、20?30代男性が意欲的です。一方、20?30代女性はいずれに対しても否定的で、他年齢層と比べるとサステナブルな行動や購買に消極的です。

これまでのサステナブルな消費行動の立役者は主婦であり女性であったと考えられますが、今後は社会的な課題意識を持つ20?30代男性の影響力が増えていくことが予想されます。フェアトレード認証商品やサステナビリティの高い食品のマーケティングは、ミレニアル?Z世代男性を今後ターゲットとして意識していきたいところです。

SDGs報告2020と今後のサステナブル・マーケティング

最後に、今後のサステナブル・マーケティング全体について考える指標として、最新の『SDGs報告2020』(国際連合広報センター)のデータを紹介します。
2020年はSDGs達成目標の2030年に向けてちょうどあと10年のカウントダウンを始める年です。「行動の10年」とも呼ばれていたフェーズの幕開けであり、かつコロナウイルスが世界を襲った年でもある2020年は、SDGsの視点ではどのような一年だったのでしょうか。


国際広報センター「SDGs2020報告」

複数の目標達成に向けた進捗を後退させたのは、医療現場の混乱です。およそ70か国で子どもの予防接種プログラムが中断されており、5歳未満の死者が数十万人増える見込みです。医療現場の混乱によって途上国の感染症患者の死者数も増加しており、福祉面では課題が山積する結果となりました。
世界的な景気後退もSDGsの目標への道のりを遠ざけています。「貧困に終止符を打つ」という目標と相反して、2020年は新たに7,100万人が極度の貧困状態に陥る見込みです。さらに、新型コロナウイルスの影響で失業する可能性がある人は全世界で4億人を超え、2020年の1人当たりのGDPは4.2%減少。これらの数字から見る「行動の10年」初年は、決して明るい幕開けではありません。

環境問題に関しては、コロナ禍で温室効果ガスの排出量が6%減少するという希望の兆しも見えました。ただ見かたを変えれば、外出自粛や経済停滞の大きな影響があっても、温暖化を1.5度抑えるために必要な7.6%減少には及ばない結果だったともいえます。
その他、食糧難や教育問題、インフラの発展など、さまざまな領域でコロナ禍の影響は深刻化しています。2020年は数十年の月日をかけて進展してきたものが、停滞または後退せざるを得ない年となりました。

一方で、国内の消費者意識の調査からは、コロナ禍をきっかけにサステナビリティに対する意識が高まったと考えられる結果が散見されます。これまで日本はSDGs先進国と比較して消費者の意識が乏しく、サステナブルな商品が選ばれる文化がありませんでした。それが今、コロナ禍で変わりつつあるようです。
このコロナ禍をポジティブに捉えるならば、国内の生活様式や消費行動が、よりサステナブルに刷新されていく10年間になるはずです。いずれの目標も達成までの道のりが険しいということは、各企業が解決し得る課題が残されているということでもあります。

今回は、サステナブル・マーケティングに関わる消費者意識のデータや、SDGsの現状についてまとめました。今後サステナブル・マーケティングを自社で取り入れていきたい方は、今回紹介したデータを、次世代に向けた施策のヒントとしていただければ幸いです。

筆者プロフィール
宿木雪樹(やどりぎ ゆき)

広告代理店で企画・マーケティングについての視座を学んだ後、ライターとして独立、現在は企業の魅力を伝える記事執筆を中心に活動。大学にて文化研究を専攻したバックボーンを生かし、メディアのトレンドについてフレッシュな事例をもとに紹介する。2018年より東京と札幌の2拠点生活を開始。リモートワークの可能性を模索中。

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SDGsと経営