SDGsは「新時代」の道しるべ──「ニュー資本主義」のすすめ(第1回)

2021年01月16日

環境課題や社会課題に対応した経営戦略や投資の分野で上場企業を数多くクライアントに持ち、環境省と農林水産省でESG金融分野や食・農業の未来の分野の委員も務める、夫馬賢治さんが語る「SDGsと資本主義」。第1回は、変化する資本主義のあり方のなかで、今なぜ、SDGsが注目されるのかを解説します。

語り:夫馬賢治 構成:講談社SDGs by C-station

スターバックスに見るSDGsの世界標準

2020年7月、日本全国のスーパー、コンビニ、小売店などでレジ袋が有料化されました。その背景にあるのは、SDGsの17の目標の14番目に掲げられている「海の豊かさを守ろう」です。

プラスチック製のレジ袋やペットボトルなどは、適切な処分をされずに海に流されると海洋プラスチックごみとなり、海洋汚染や生態系に影響をおよぼします。海に流出するプラスチックごみの総量は世界中で年間800万トンになるという試算や2050年には海洋プラスチックごみの重量が魚の重量を超えるという予測もあります。このままでは美しい海は破壊され、漁業にも大きな影響を与えてしまいます。

これまで私たちは、便利な日常と引き換えに、地球の資源を壊してきました。しかしこのままでは、地球も私たちの生活も維持することは不可能です。SDGsが国連で採択され、世界中が活動を始めているのは、それだけ厳しい状況にある表れと言えるでしょう。

一方で、環境問題にいち早く着目していた企業も存在します。たとえばスターバックスコーヒーは、2020年に使い捨てプラスチックストローの提供をやめ、紙ストローを使うようになりました。これよりずっと以前から環境問題に取り組んできていたうえでのことです。同社の2001年度の年次報告書ではすでに「環境問題チームを発足」したことが記されていたので、今から20年も前から行動を起こしていたことになります。

2008年度の年次報告書では「発展途上国のコーヒー農家への経営支援」、「世界の動植物の種のための重要な生息地の保護」についても言及しています。この年度には「今後3年間で直営店舗からの二酸化炭素排出量を25%削減」、「今後8年間で飲料カップの25%を再利用可能なものに切り替え」といった定量目標も設定されています。

スターバックスは人気のコーヒーチェーンであり、カジュアルで洗練された内装などブランドマネジメントに関する面ばかりが注目されがちです。スターバックスのファンであっても、この会社がこれほど早い段階から環境問題に取り組んでいたのを知らなかったという人は多いのではないでしょうか。それはある意味で当然かもしれません。なぜなら、店内表示や広告などでアピールされることはほとんどなかったからです。

環境問題などに配慮して、そこにお金をかけていると聞けば、「どうしてそれをやっているのか? やっているならなぜもっと消費者に訴求しないのか?」と不思議に思うかもしれません。

しかし、そうした疑問をもつ感覚はすでに世界基準ではなくなっています。欧米のグローバル企業の多くは、スターバックスと同じような時期から同じようなアクションを起こしています。それぞれにSDGsを進めていても、特別なこととして必要以上にアピールすることはありません。どうしてかといえば、そうしなければ会社がそもそも存続できないからです。そういう現実を多くの日本人は認識していなかった。それだけ遅れていたということです。

オールド資本主義から脱資本主義へ

近年、資本主義のあり方は激変しています。SDGsが「新時代の道しるべ」と称される理由もそこにあります。

以前の資本主義は「オールド資本主義」。環境や社会への影響を考慮していれば、企業としての利益は減るので、「考慮すべきではない」とする考え方です。しかし、こうしたスタンスのままいることは社会的に許されなくなってきました。利益だけを求めているのではなく、利益が削られることになっても環境や社会への影響を考慮するのが企業の義務ではないか、という考え方が出てきたからです。

この段階を「脱資本主義」と呼ぶことができます。富ばかりを追求していても人は幸せになれず、不幸な経済を生み出してしまう。そこから脱却して、地域でのつながりを大切にして生きていけば幸福感がもたらされる、という考え方です。

「環境や社会への影響を考慮すれば、利益が減る」ということを前提にしている点ではオールド資本主義と脱資本主義は共通しています。そのうえで、「利益が減るならやるべきではない」とするのがオールド資本主義であり、「利益が減ってもやるべきだ」とするのが脱資本主義です。

SDGsを道しるべとする「ニュー資本主義」と「ESG投資」

SDGsを道しるべとする「ニュー資本主義」は、オールド資本主義の対極に位置する考え方です。ニュー資本主義では、利益が減ってもやるべきだと考えるのではなく、環境や社会への影響を考慮することで"利益が増える"と考えます。

そんなことがあり得るのか、と疑問をもたれる人も多いことでしょう。しかし、こうした考え方は10年ほど前から世界のグローバル企業や機関投資家のあいだで浸透していました。だからこそ、冒頭で紹介したスターバックスのように、当たり前のように環境問題や社会課題に正面から向き合って、事業活動を通じて解決に導くというグローバル企業が増えているのです。

日本ではニュー資本主義の考え方がまだまだ浸透していませんが、世界ではそれがスタンダードになっていると言えます。経営や金融の主流にいた勢力が、オールド資本主義からニュー資本主義へと立場を転身しているからです。

そこに「ESG」が関連してきます。ESGとは、環境Environment、社会Social、統治体制Governanceの頭文字を取ったものです。

いま投資家たちは、この3要素を重視しない企業は、将来生き残れないと考えるようになっています。そしてこの3要素を考慮する投資手法が「ESG投資」と呼ばれています。ESG投資で運用される資産は年々増えています。2018年時点ですでに世界全体の資産の3分の1がESG投資によって運用されています。同様に、グローバル企業たちは、この3要素を重視しない企業とは、事業取引をしたくなくなってきています。

なぜ、ニュー資本主義では、環境問題や社会課題に対応しなければ企業は存続し得ないのか。どうして機関投資家やグローバル企業は、いち早く率先して課題に向かうようになったのか。次回はESG投資とニュー資本主義について詳しく解説します。

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SDGsと経営