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これからの時代に、企業に求められるマインド──「ニュー資本主義」のすすめ(第5回)

2021年06月16日

環境・社会・企業統治への取り組みを考慮したESG投資への注目が高まるなか、「上場企業」にも「非上場企業」にも、さまざまな影響が出ると予測されます。それは具体的に、どのようなもので、そのために何をすべきなのでしょうか?

語り/夫馬賢治 構成/講談社SDGs

近い将来、「ESG投資」は当たり前の時代に

日本のESG投資は、2017年に「年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)」が海外の評価機関が作成したESG指数を採用して、約1兆円を運用していくと発表したことが始まりです。

ESG投資とは環境(Environment)・社会(Social)・企業統治(Governance)への取り組みを考慮して行う投資のこと。ESG指数は投資の参考にするための分析データのことです。ちなみに、GPIFはESG指数を公募しましたが、この分野では日本が大きく出遅れていたこともあり、グローバル統一基準のものが選ばれました。

ESG指数をもとに投資するのは、単に社会的な意義を考えてのことだけではなく、同時に投資リターンを高くできると考えているためです。

GPIFも、ESG指数を使った運用のほうが従来の投資に比べて投資パフォーマンスが高くなることを、ESG投資を活用する理由に挙げています。また同法人は、年金加入者の年金を預かって運用する以上、投資パフォーマンスを重視することは「受託者責任」を果たすことにもつながります。

しかしGPIFがESG投資をスタートした段階においては、日本ではまだ「ESG投資は収益を犠牲にしたもの」という認識が一般的だった印象があります。

日本の企業がSDGsの取り組みに積極的になったのも同時期でしたが、当初はやはり「利益追求ではなく、社会性を考えて行うべきもの」という認識に近かったと思われます。そのため、経営が厳しい状況になれば、すぐにSDGsに関わる活動を縮小するのではないかとも危惧されていました。

しかしコロナ禍では、むしろ逆の現象が起こりました。経済活動が停滞する中、飛行機や自動車を中心にエネルギー需要が減衰し、石油・ガス大手の株価が急落していったのですが、ESG投資では化石燃料企業への投資を控える投資運用を行っていたため、ESG投資の方が投資リターンが高いという結果が如実に出ました。

この2021年、日本では3月から5月にかけてESGの呼び声はトーンダウンしたのですが、海外から「ESG投資はリターンが高い」という情報が伝わると、6月頃からはESG投資は確固たる地位を築いていきました。ですので、近い将来、当たり前に「ESG投資」が行われ、社会に浸透していくことになりそうです。

「上場企業」にも「非上場企業」にも求められる、情報感度

ESG投資がスタンダードなものとして定着していけば、従来とは違った経済認識が求められます。

それはたとえば、上場企業が今後3年間の中期経営計画を立てる際に、現在の事業の延長線上にある未来を目指して計画を立てることが難しい時代になったと言えます。むしろ、20年先、30年先を見据えた長期戦略を考える重要性が著しく増しました。現在の事業モデルや市場シェアなどにはとらわれず、環境変化や人口動態などを予測したうえでゴールを思い描いていく姿勢こそが「ニューノーマル時代(ニュー資本主義)」においては大切なのです。

外的環境の変化については、自分たちでイメージしようとするのではなく、幅広く外部から情報収集することも重要です。海外のグローバル企業でも、社外取締役や諮問委員を立てるケースは増えています。機関投資家も情報収集には長けていて、長期思考に慣れているので、対話の機会を増やしていくべきでしょう。また、NGOとのコンタクトを増やすのも有効です。グローバル企業のCEOには国際NGOとのホットラインを持つ人もいるくらいです。そして国内企業であっても世界を視野に入れているなら、国内の競合会社ではなく、グローバル企業の動向に注視すべきです。そうでなければ、業界のトレンドを本当の意味で把握することは難しいでしょう。

次に、「非上場企業」についてです。大企業と取引しようとした場合、製品の品質や価格だけでなく、ESGに関わる面で一定の基準を満たしているかどうかが、求められるケースが増えていくと予想されます。つまり大手企業がESGを推奨するということは、ステークホルダー全体に大きな影響をおよぼす、ということなのです。

環境対策、従業員の労働環境、さらにはデータセキュリティなど、さまざまな角度から会社としての在り方を求められる可能性もあります。そうなれば、「中小企業はSDGsとは無関係」とは言えなくなる時代が到来することは、容易に想像できるはずです。

ですから事業規模に関わらず、自分たちのペースで経営ができていればいいとは考えず、情報収集に努めるべきです。ネットニュースや新聞など、報道に注意しているだけでは不十分です。周りに情報通がいないのであれば、セミナーや講演会に参加するなど、できるだけ広くアンテナを張り巡らせておくことをおすすめします。

これからの投融資は、社会貢献度が重視される

これからの時代、企業のESG(およびSDGs)の観点からの経営力は、企業価値にも大きな影響を与えるため、リスク管理に直結する事柄と言えます。

また、ESG投資が主流になるということは、これからの投資と融資は、社会にもたらすインパクト(投資や融資がもたらすプラスの影響)が問われるようになる時代になると捉えることができます。そのため、「今、社会が求めていること」「プラスインパクトを創出できる製品・サービスとは何か」といった潮流に、敏感でいることも重要になるでしょう。

企業だけでなく、政府が果たすべき役割も変わってきています。

(ESG投資においては)主役ではなく裏方に回ることになった政府は、企業や投資家にとって魅力的な市場を作り出すためのルールの整備が使命となりました。ただし、経済危機が起きた場合は別です。裏方ではなく、資金の流れを支えるという重要な役割を担うことになります。打撃を受けた企業が人員削減や長期戦略にもとづく投資を削減しないようにするための金融・財政政策が重要になります。

今回、コロナ禍においても、そうした対応が各国に求められたことで、ESGそしてSDGsは新時代の指標として、さらに存在感を高め、重要度を増したとも言えるでしょう。

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