アフターコロナにおけるESG思考――「ニュー資本主義」のすすめ(第6回=最終回)

2021年07月19日

オールド資本主義から、脱資本主義を挟んでニュー資本主義へ――。世界中でESG投資が広がるなか発生した、新型コロナウィルスによるパンデミック。しかしそれでも世界経済は、サステナビリティを考慮した選択を継続。その背景を解説します。

語り:夫馬賢治 構成:講談社SDGs編集部

世界、そして日本も選択した「ニュー資本主義」

まず、私の考える「3つの資本主義」について、おさらいしましょう。

出発点としてあったのが「オールド資本主義」。企業が環境や社会への影響を考慮していれば利益が減るので"考慮すべきではない"という旧来の考え方です。その後、"利益が減っても環境や社会への影響を考慮すべき"という声が大きくなり、企業の意識も変化していきました。この考え方を「脱資本主義」と呼びます。

その延長線上であるように見えながら、実は対極に位置するのが「ニュー資本主義」です。ニュー資本主義では、環境や社会への影響を考慮した企業活動を行うことは、"利益につながる"と考えて、積極的に環境問題などに取り組みます。

では、「オールド資本主義」から「ニュー資本主義」に切り替わったのはいつなのか。1990年代から2020年にかけて、徐々に認識転換が起こった印象です。

1980年代に海外で生まれた「企業の社会的責任=CSR」という概念が日本に到来しました。日本では"CSR=利益を目的としない社会貢献活動"と認識され、2003年頃からはCSR活動が、、本業とは無関係の寄付活動やボランティア活動として一斉に流行りました。CSRは「稼いだ利益を社会に還元」とも言われました。この段階の日本はまだ「脱資本主義」にあったと言えます。結果、2008年にリーマン・ショックが起きるとすぐに、自社の利益を守るための経費削減の一環としてCSR活動から撤退する会社が増えてしまいました。

一方で、日本以上にリーマン・ショックによるダメージが深刻だったはずの欧米では、逆の動きが見られました。リーマン・ショックを機に長期的な視点で将来的なグローバルリスクを見直していったのです。グローバル企業を中心に環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)への取り組みを強化。ちょうどこの時期からESGへの取り組みを考慮して行う「ESG投資」が広がっていきました。

ESG指数が高い企業に投資すれば利益が増える、という前提に立った投資が「ESG投資」です。こうした動きが広がったことにより、欧米は本格的に「ニュー資本主義」へと歩みを進めました。

日本が本格的なESG投資を始めたのは、2017年のこと。欧米から10年近く遅れを取る形ではありますが、ついに日本も「ニュー資本主義」へと突入したのでした。

コロナ禍で世界はどう動いたか?

前回の記事でも触れましたが、2020年に新型コロナウイルスの感染が拡大し、世界が経済危機に直面。各社が"どう対応するか"に、注目が集まりました。

世界経済フォーラムが毎年開催しているダボス会議では、想定されるグローバルリスクとして、2011年段階で「パンデミック」や「感染症」がすでに挙げられていました。そのため、欧米のグローバル企業の多くは、サステナビリティを考えた対応をとりました。

パンデミック、あるいは嵐やサイクロン、洪水、地震などによる自然災害が起きたときにはテレワークで業務を遂行し、オンラインで製品販売やサービス提供ができるようにする体制を取れるようにと、当時から準備が進められていたのです。

そして3月頃から欧米でも感染拡大が始まると、すぐに機関投資家から「雇用は守らなければならない」という方向性が示されました。実際に欧米のグローバル企業では、銀行から借り入れするなどして、休業や営業時間短縮の影響を受けた従業員の給与を補償。正社員だけを対象にするのではなく、パートタイム社員にも休業補償を適用する制度を打ち出した企業もありました。

もちろん、その後、リストラに踏み切った企業も出てきてはいます。それでもアメリカの大企業では、「リストラがすぐには決断されなかった」というデータがあります。2020年3月末に発表された調査結果としては、S&P500(ニューヨーク証券取引所などに上場している代表的な企業500社)のうち従業員数が上位になる100社のうち解雇を実施している企業は7社しかなかったと発表されています。

事業を継続していくためには、自社だけでなく、サプライヤーにもコロナ禍を乗り越えてもらう必要があります。規模が小さく、危機を乗り切る体力がない小さな会社はとくにそうです。切り捨てるのではなく「守る発想」。平常時からサプライヤーに対して低金利ローンを提供する企業も少なくないように、コロナ禍においても資金面の援助が行われました。

将来的な利益を考え、寄付も拡大

さらに、コロナ禍での感染症対策や弱者への支援を進めるNGOに、数十億円から数百億円もの寄付する動きも広がりました。これら一連の動きは、社会的な評価を高めることを目的としたものでありません。社会的な信頼を失わないようにするためではありますが、あくまでサステナビリティ、将来的な利益を考えての選択だったのです。

銀行にしても、コロナ禍のような危機において資金繰りに苦しむ会社を見捨てていけば、経済が破綻していくのは見えています。不況期こそ、長期的な視点で審査を行い、地域経済を守っていく必要があります。ですから日本でも、リーマン・ショック後の失敗も教訓にして、コロナ禍では「経済を守るための動き」が目立ちました。

また、リーマン・ショックの際には人員削減と、株価を短期的に引き上げるための自社株買いが横行したのに対し、今回、アメリカの大手金融機関は、政府の要請を受けるより早く「自社株買いはしない」と宣言。従業員の給与保証と顧客の資金繰り支援を優先し、医療機関や研究機関への寄付も行われました。

つまり、コロナ禍においても、欧米では多くの会社がサステナビリティを考えながらどうするべきかを判断し、行動していたのです。政府は、この銀行の動きを支えるために、融資や債券を通じて巨額の資金供給を行いました。

コロナ禍においても、日本のSDGs、ESGは加速

それでは日本の企業はどうだったでしょうか? 感染拡大が広まりつつあった段階では「これで日本のSDGsブームやESG投資は終わりになる」という声も聞かれていました。しかし現実としては、リーマン・ショック後のように一気に、短期的なコスト削減には走らず、むしろ後半から「カーボンニュートラル」のような長期的な経営課題への対処の話が強く打ち出されてきました。

同様に、SDGsから事業機会とリスクを見極めていこうという動きも、これまで以上に強まってきている印象があります。ESG投資も打ち切られるどころか、伸び率は加速する一方です。

ひと昔前まで、ビジネスとサステナビリティの両立は「お題目」でした。しかし、ますます多くの企業がサステナビリティから企業競争力を磨こうとしている今、「お題目」にとどめている企業は、市場の中で生き残ることができなくなっていきます。

環境や社会へのインパクトを無視して、自社の短期的な成長だけを負うことは、取引先から忌避され、投融資も受けられなくなっていきます。自社のビジネスの持続可能性を向上させるためにも、ぜひ企業の方々には、SDGsやESGがなぜここまで大きな動きとなっているのかを正しく理解し、未来に向けた変革を起こしていっていただけたらと思います。きっとその先に、明るい未来が待っていると私は信じています。

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SDGsと経営