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「企業にとってSDGsは、競争優位性に寄与するキーワード」──マルチクリエイター 小沼敏郎×『FRaU』編集長 関 龍彦

2021年12月24日

マルチクリエイター、ビジネスプロデューサーなど、クリエイティブを軸に企業の課題解決を手がける小沼敏郎さんと、『FRaU』のプロデューサー 兼 編集長 関 龍彦の対談。「企業×SDGs」をテーマに、経営の未来などについて、それぞれの立場で意見を交換しました。

マルチクリエイターの小沼敏郎さん(右)と、『FRaU』プロデューサー 兼 編集長の関龍彦

コロナを機に、本気でSDGsに取り組む企業が浮き彫りになった

 小沼さんは「クリエイティブ」を軸に、企業の課題解決だけでなく、絵本作家や演出家など、さまざまなお仕事をされています。企業案件ですと、最近はどのようなご相談が多いですか?

小沼 私は、クリエイティブやアイデアで企業の抱える課題解決のお手伝いをさせていただくことが多いのですが、最近は「SDGs」に関するご相談も増えているように感じます。

関さんが編集長をされている『FRaU』のSDGs特集号は、継続的に発刊されていますが、年々「SDGsの重要性が増している」という実感はありますか?

 コロナによるパンデミックを通して、「これまでの社会が持続可能ではなかった」ということに気がついた方が多かったのかなという印象を持っています。日本のSDGsの認知度調査でも、『FRaU』SDGs 特集号 第1弾を刊行した2018年ではわずか14.8%だった認知率が、2021年には54.2%に向上したというデータが出ています。
第4回「SDGsに関する生活者調査」概要より(電通Team SDGs・電通マクロミルインサイト調べ)

小沼 コロナによって、これまでの「当たり前」が一変し、さまざまな価値観が見直された部分はありますよね。

個人の集合体である企業においては、SDGsへの取り組みにおける「真価」を問われたところが多かったように思います。きれいゴトや見せかけでSDGsに取り組んでいたところは活動を縮小し、その意義を理解し、本気でSDGsに取り組む企業だけが浮き彫りになったという印象です。

たとえば、私が長年お付き合いをしている企業の中でもはコロナで大打撃を受けたところが少なくないですが、だからといってSDGs活動をやめるという選択はされるところはありませんでした。

それは、SDGsは一時のブームではないことを理解しているからだと思います。持続可能な企業であり続けるために、SDGsを企業活動の中心に据えて、やらなければいけない。そして個々人の、そして組織全体の価値観のアップデートが、ビジネスモデルや経営のアップデートが、必要だと肌で感じているからだと思います。

 先日も、温暖化ガス排出量の実質ゼロを目指す金融機関の有志連合が「今後30年間で脱炭素に100兆ドル(1.1京円)を投じる」というニュースが話題になりました。これだけ市場規模が大きくなってくると、企業も本気にならざるを得ないと思いますが、小沼さんはどうご覧になっていますか?

小沼 2022年4月から日本の証券取引所が再編されます。現在の東証一部市場に相当する「プライム市場」の上場基準には、気候変動問題を含むサステナビリティに対する取り組みが盛り込まれます。つまり、企業経営の根幹にSDGsを取り入れていない企業は今後、上場することは難しくなりますし、国内外の投資家からも必然的に選ばれなくなるということです。

 社会全体がサステナビリティを考慮した方向へと進み始めている。必然的に企業も意識せざるを得ない状況とも言えそうですね。

SDGsは「カッコよくなきゃいけない」

小沼 一方で、SDGsを消費者に発信するうえで、企業は大切なことを見失っているような印象も受けています。それを端的に言葉にするなら、「SDGsはカッコよくなきゃいけない」となります。そのなかで『FRaU』のSDGs特集号は、毎号クオリティが高く、女性誌でありながら、上質なビジネス誌でもあるのが魅力だと感じています。

 ありがとうございます。私もSDGsを伝えるうえで、カッコよさや気持ちよさは非常に大事だと思っています。

2021年10月に刊行した『FRaU SDGs MOOK FOOD 「おいしい」の未来。』では、食品ロス問題をはじめとする、食のサステナビリティを特集しました。

食べ物がなくて苦しんでいる子どもたちの姿を見せる、という選択肢もあったかもしれませんが、私たちはあえて、規格外野菜を並べるカッコいい表紙をデザインしました。もちろん危機意識は感じてほしいですが、だからといって悪い状況を見せるやり方はしたくない。『北風と太陽』でたとえるなら、太陽アプローチ(読者に寄り添い、自然な形でSDGsアクションを促す)が『FRaU』のやり方かなと思っています。

『FRaU SDGs MOOK FOOD 「おいしい」の未来。』を持つ小沼さん(右)と、
エリアを絞ってサステナブルの体感や知見を提案する『FRaU S-TRIP』号 第1弾を持つ関

小沼 北風みたいに"無理矢理"ではなく、自分がいいと思うからやる、というのはいいですよね。実際、「規格外野菜を選ぶ自分ってカッコいい」と思う人たちはZ世代を中心に確実に増えていて、企業もそういう生活者の目線でビジネスを進めていく必要はあると思います。

 サステナブルな商品やサービスを選ぶ人が増えると、それを製造・販売している企業の製品や提供サービスに対する評価も上がる。結果、その製品やサービスを提供している企業の社員の愛社精神が高まったり、就職希望者の増加にもつながったりすると言われますが、小沼さんはいかがお考えですか?

小沼 そうだと思います。だから経営的な観点から、近年企業の掲げるパーパス(企業の存在意義)が、SDGsと深く結びついているケースが増えているのではないでしょうか。実際にSDGs、Well-being(ウェルビーイング)などを内在させたパーパスを新しくつくりたい、或いは再定義したいという依頼も多いですね。企業が変わっていく、アップデートしていくには、企業の中心軸であるパーパスからはじめるのが良いと考えています。

さらにベンチャー企業においては、「パーパスの延長にあるSDGsへの取り組み」ではなく、事業そのものが社会課題の解決に直結している企業も増えています。

たとえば、アフリカで生産者に農業教育を行う一方で、種や農業資材を安くレンタルし、生産物の買い取りまでを行うベンチャー企業があります。もはやそれは「SDGsの何番に貢献」というレベルではなく、アフリカ全体の社会課題を解決するために存在する企業として活動している姿に、私は深い共感を覚えています。

関さんが注目されている業界や企業はありますか?

 私はファッション業界ですね。食と気候変動に関しては、少しずつ生活者の意識が高まってきたように感じていますが、ファッションに関してはまだこれから、という印象があります。

たとえば、日本人はモノを大事にする民族と言われていますが、年間29億枚もの洋服が生産されているのに、半分以上の15億枚は廃棄されている、というデータがあります。これを「アパレルの衣料ロス問題」と言います。

なぜ、500円で買えるTシャツが存在するのか。1枚のTシャツをつくるのに2700リットルの水が必要だという事実をどれだけの人が知っているのか。洋服は生活に密着しているからこそ、ファッション業界が抱える課題は多く、その解決にも『FRaU』が役立てたらうれしいですね。

企業の競争優位性に活きる「SDGs」

小沼 若い世代のなかでは、ファストファッションよりもエシカルな商品を選びたいと考える人が増えていますよね。

ファッションだけでなく、現代の若者は所有することよりシェアリングすることをスマートだと感じたり、プロダクトの背景にあるもの(フェアトレードやクルエルティフリーなどのサステナビリティ)を重視したりと、価値観も変化しています。これから消費活動の中心となるZ世代の若者たちのこうした変化を、企業はしっかり捉えていかなくては、選ばれる企業になれないと思います。

「企業も消費者も変わり始めている」と話す小沼さん

 ですが現在も、「SDGsの重要性はわかるけど、うちはまだいいかな」という腰の重い企業もいます。企業に"本気"でSDGsをやった方がいいと思ってもらうには、何が足りないと思われますか?

小沼 なぜSDGsがビジネスに必要なのかは理解していても、SDGsは経済性を犠牲にする「トレードオフ」だと感じている人や企業がまだまだ多いことが原因ではないでしょうか。

私は、SDGsやWell-being(ウェルビーイング)はトレードオフではなく、もっと競争優位性のために使うべきだと思っています。いまだにSDGsを資本主義が生み出した負債・やらねばならない義務だと思っている方々が多くいますが、もっとポジティブに、SDGsは起死回生の一手を打てる「経営の武器」だということを知ってほしいなと思います。

むしろ、これからの企業は「SDGs」「Well-being」「エシカル」「ステークホルダーへの配慮」というキーワードなしに、存在し続けることは難しいのではないでしょうか。小学校でもSDGsを習う時代です。過酷な労働や過度の伐採など、誰かを傷つけたり苦しめたりすることで生まれる商品やサービスを、次世代の若者たちが支持するとは考えづらいですよね。

 そうですね。企業が持続的に発展・存続し続けるためには、絶対に20〜30代の力が必要です。しかし、ただSDGs担当部署をつくって因数分解的に意味づけしていたのでは、選ばれる企業になれませんよね。

そういう意味では、発信も重要だと思います。せっかく立派なことをやっていても、誰にも伝わっていなかったらやっていないのと同じになってしまう。そこをストーリーにして伝えることが、メディアの使命でもあると思っています。

「『FRaU』が間に入ることで、企業のSDGs活動を生活者に届くように翻訳したい」と話す関

小沼 ストーリーは大事ですよね。SDGs活動がカッコよく、魅力的に見える企業が生活者の心を動かし、選ばれる企業・儲かる企業になっていく気がします。

私が、社会の価値観含めてパーパスの再定義を提唱しているのは、SDGsを経営課題として、ど真ん中に入れた方がカッコいいからです。やらねばいけないからやるのではなく、進んで取り組み企業の方が絶対カッコいいじゃないですか。

そういう企業さまと一緒に、「SDGs=カッコいい」を広げていけたらという思いがあります。

 カッコいい企業が増えたら、日本がもっとカッコよくなりますね。

『FRaU』SDGs特集号は、2030年まで続けると宣言していますが、SDGsは1人でやるものではありません。"カッコよく""気持ちよく"あり続けるためには、会社や業界、自治体などの枠を超え、みんなでやれる面白さや楽しさ、達成感を共有することが必要です。その輪を広げていけるように、これからもがんばりたいと思っています。

今日はありがとうございました。

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