2022年03月24日
ダイバーシティの第一人者、株式会社イー・ウーマンの佐々木かをりさんが解説する「ダイバーシティ経営」。集大成となる最終回では、これまでの総括と、なぜこれからの経営にダイバーシティが必要なのかについて、詳しく解説します。
連載の第1回目で、「ダイバーシティ」とは正確には「女性活躍」だけでも「女性の社員数を増やす」だけでもない、という説明をしました。
ダイバーシティは日本語に翻訳すると、「多様性」という意味です。私はダイバーシティを、「多様な視点を集めてイノベーションを起こす」と定義しています。つまり、視点の多様性を増やすことで知恵を集め、イノベーションを起こすことがダイバーシティの本質なのです。
これまで日本の社会では、企業のトップにいたほとんどは男性でした。経済界、政界は言うまでもなく、メディアも男性たちがリーダーシップをとってきました。また、今から30〜40年前は、大学でどんなに優秀な成績であっても、「女性」というだけで会社説明会にも参加できない女子学生が数多くいました。
当時の日本経済においては、同じような大学を卒業し、生まれ育った環境や家族構成が似ている単一的な価値観の男性集団が力強く組織を牽引することで、いい意味で「一枚岩」となって、企業を成長させることができたからです。
もちろん、こうした画一的な価値観の組織・集団がある時期の日本経済成長に役立ったことを否定するつもりはありません。しかし現代は、ボーダレスの時代。デジタルやITの進歩により、これまでと同じような価値観や経営感覚だけでは、企業を存続・成長させていくことが難しい時代になりました。
今は消費者がたくさんの情報を手軽に入手できるようになり、ライフスタイルも多様化しています。こうした多様な価値観・スタイルに対応するためには、企業も経営に多様な視点を盛り込む必要があることを、経営者はしっかりと認識しなければいけません。
ダイバーシティが注目されるようになり、男女共に活躍できる社会になったことは大変喜ばしいことです。一方で、20〜30代の女性の中には、日常の中で深刻な男女格差を感じるシーンが少ないため、「ダイバーシティなどと声高に言わなくても、平等に扱われている」と思う人もいるかもしれません。
ですが、平等に見える日本には、女性のキャリアを阻む「ガラスの天井」がいまだに存在していることはぜひ知って欲しく、また一緒に力を合わせて解決していけたらと思います。
世界経済フォーラムが2006年から毎年発表している「ジェンダー・ギャップ指数」を見ると、日本は2015年の101位からほぼ毎年順位を落とし、2021年は156ヵ国中120位、主要7ヵ国(G7)の中で最低という順位になっています。
経営者や会社役員に女性が少ないという状況は現在も変わっておらず、政界にも女性閣僚はごくわずかしかいません。こうした現状を見ても、実力ある女性たちでさえ、ある一定の立場より上にいくことができない「ガラスの天井」が存在するということが分かります。
若い女性のなかには、あえて「女性枠」とくくられることに抵抗のあるかたもいると思います。しかし、どんな理由でも、選ばれたら、そのポジションについて成果を出せば良いのですから、ぜひその仕事をとって欲しいと思います。
私は「女性に下駄を履かせてほしい」と言っているのではありません。これまで男性だけが履き続けてきた下駄を脱いでほしいと言っているだけです。男性には、過去数十年にわたり「男性枠」があり、その枠内で仕事をとり、決定権のあるポジションについてきたのです。今こそ、男性枠をなくしていくときです。
今後、同じ価値観の仲間だけで同じ視点でものをみている企業は、生き残ることも成長することもできないでしょう。組織にダイバーシティ経営を取り入れ、女性たちがもっと決定権のあるポジションに増え、「ガラスの天井」をなくしていければと思います。そしてもちろん、年齢や障がい、人種などの多様性も活かし、真のダイバーシティ経営に取り組むことこそ、企業が持続可能となる唯一で最上の方法なのです。
※「ダイバーシティ経営に取り組む」と宣言する企業が集まり学ぶための「ダイバーシティマネジメントイニシアティブ」(DMIs)を4月に発足します。参加無料ですので、たくさんの企業が参加し、ダイバーシティ経営を学び、活かしてほしいと思います。
これまでの連載の内容を、これからの時代に欠かせないダイバーシティ経営に必要な視点「4つのキーワード」をもとに、チェック項目とともに振り返ってみましょう。
【チェック!】多様な属性の人が集まっている組織であるか?
多様な属性の人が集まっている組織は、それぞれが違ったものの見方・とらえ方ができるため、健全かつ安全で強い組織になります。しかし、組織に多様な人がいるだけでは、真の「ダイバーシティ」とはいえません。組織全体での割合ではなく、各ポジションでの割合もチェックすることが必要でしょう。昇進などの際にも、多様な人が選ばれているかどうかで、ダイバーシティ経営の本気度がわかります。
【チェック!】性別だけでなく、年齢や国籍、経歴の多様なメンバーはいるか?
積極的に女性を採用したり、女性の管理職者を増やしたりする努力は必要不可欠ですが、性別だけでなく、さらに年齢や国籍、経歴の多様なメンバーで組織を作ることも重要です。
企業が多様な人財を迎え、属性を問わず昇進できる多様性ある組織を作っていくことで、組織の知識や体験に厚みが出ます。つまり、ダイバーシティを進めることは、企業価値向上の土台づくりと言えます。
【チェック!】誰もに公平な環境が構築できているか?
ダイバーシティ経営には、「エクイティ(公平)」も必要です。「男性も女性も同じ仕事を与える」というのは、「平等」を表すイクオリティ(Equality)の概念です。でも、たとえば背の低い人は背の高い人に比べて、高いところの業務がしにくいなどの「不公平」が生じます。そこで、業務開始前に背の低い人に踏み台を用意し、「全員が同じ高さに手が届く」ようにしてから仕事を始めるという考え方がエクイティです。
【チェック!】公平な評価制度を設けているか?
「男女の差別なく、優秀な人が上にあがれる」といわれると、一見差別のない平等な企業に見えます。しかし、急な残業や出張にも対応できる社員が優秀であると評価されていた場合、子どもの迎えで時短勤務をしたり、介護で有休を取ったりする社員は、優秀ではないと評価されてしまいかねません。
「優秀」さの基準に公平さがある企業では社員は大切にされていると感じるため、ひとりひとりが会社に貢献しようという意識が高まるでしょう。
【チェック!】社員ひとりひとりの視点が組織で活きているか?
組織のなかにいくら多様な人財がいても、ひとりひとりの視点を組織の中で活かせていなければ、イノベーションは起きません。社員ひとりひとりのものの見方やとらえ方を引き出し、耳を傾け、取り入れ、組織内に視点の多様性を育てていくことが重要です。
【チェック!】社内から活発に意見を発しやすい環境になっているか?
会社を良くするためのアイデアが出た時に立場や経験に関係なく安心して発言できる、商品開発や業務改革の提案が自由にできるなど、多様な声を発することができる組織は、心理的安全性が高い組織です。
社内で活発にディスカッション(意見交換・議論)が行われるようになれば、商品開発や仕事のやり方、働き方などにもあらゆる視点が活かされ、よりよい企業へと成長・発展していくでしょう。
【チェック!】取締役会での議論は多様な視点で進んでいるか?
ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョンの3つができている企業は、ガバナンス(内部統制)が高まり、健全に経営されるようになります。取締役会での議論が多様な視点で進むことは、変化する時代に対応し、企業の将来を決めていくためにも大変重要です。
【チェック!】イノベーションが起きているか?
イノベーションとは、特別に優れた改革だけを指すのではなく、毎日の業務改善、社内風土の変化など、各所の改善・改良を意味します。ダイバーシティ経営がうまくいっていると、組織の中でよいアイデアが生まれ、顧客視点での商品やサービスが生まれ、伝えられ、商品が売れ、さらによい人財が入ってきて、投資も集まるというように、よい循環が生まれます。
このように、4つのキーワードで見ていきながら、企業がダイバーシティの環境を整えることで、ひとりひとりが持っている力を全力で発揮できる状態が維持できます。結果として企業の成長が実現できるのです。