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SDGs×ビジネスの日本の現在地とは ── SDGs実態調査の結果を解説「SDGs進捗レポート2023」

2023年04月28日

最新のSDGs実態調査の結果を解説した「SDGs進捗レポート2023」が公開。企業はいま、SDGsを経営にどう組み込んでいるのでしょうか。レポートから見えた、日本企業のSDGs進捗状況をお届けします。

企業の"いま"がわかる「SDGs進捗レポート2023」

2023年3月6日(月)、一般社団法人グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン(GCNJ)および公益財団法人 地球環境戦略研究機関(IGES=アイジェス)が公開した「SDGs進捗レポート2023」は、企業のSDGsへの取り組み状況を調査したものです。

本レポートでは、「SDGsを経営に組み込んでいるかどうか」「どのゴールを重視しているか」「どのような課題認識があるか」といった調査に加え、企業・団体の活動にとって重要な次の5つについても調査されています。
1.ジェンダー平等
2.はたらきがい・人権
3.持続可能な消費と生産
4.気候変動
5.腐敗防止

企業規模によって異なる、SDGsへの取り組み状況

まずは、SDGsを経営に組み込んでいる状況から見てみましょう。

今回の調査では、従業員5000人以上の企業(以下、大企業とする)では、経営へのSDGsの組み込みについて、「方針を明確化している」といったさまざまな項目に対して、「Yes」の回答が多くみられました。
最多となっている回答は「自社の重点課題として前問で選択したSDGsゴールを紐づけている」で、93%でした。企業規模の大きい企業であれば、SDGsへの取り組みは、ほぼ行っている状態にあると言えそうです。

一方で、従業員10~249人の企業(以下、中小企業とする)では、方針・表明はなされているが具体的行動に結びついていないといった課題を抱えている企業が多いようです。また、大企業に比べると全体的に「Yes」の割合が低く、SDGsを経営に組み込むこと、そのものが課題となっている様子がうかがえます。

企業規模が大きくなるほど、SDGsを積極的に経営に組み込んでいる

企業が抱える共通のSDGs課題は「指標」と「リソース」

次に、SDGsに取り組むうえで、抱えている課題について見てみましょう。

大企業で多くの回答が集まったのは、
「バリューチェーンに関連する人と環境に関するリスクの全体像の把握」
「定量的な指標の設定、インパクトとなどの評価方法」
「リソース(資金・人手・能力・技術等)」
でした。

一方、中小企業で多くの回答が集まったのは、
「一般層の理解度・実行動」
「定量的な指標の設定、インパクトとなどの評価方法」
「リソース(資金・人手・能力・技術等)」
でした。

指標の設定とリソースに関しては、企業規模を問わず、共通の課題であることがわかります。中小企業に関しては、社内啓発など、SDGsへの取り組みを加速させるための環境整備の部分を、大企業以上に課題と感じている可能性もありそうです。

企業規模別の、SDGsへの取り組み課題(複数回答)の結果

重要な5つのテーマとその現在地

これらの課題を解決し、SDGsへの取り組みを推進していくにはどうしたらよいのでしょうか。「SDGs進捗レポート2023」では、冒頭に挙げた5つの重要なテーマについても解説されています。ご紹介しましょう。

1.ジェンダー平等

企業におけるジェンダー・ギャップは、日本全体のSDGs進捗の妨げとなります。

今回の調査では、2021年の調査に比べ、役員における女性比率の目標値設定、男性の育児休業取得に向けた取り組みなどで進捗が見られました。
一方で、サプライチェーン・マネジメントにおけるジェンダー平等を考慮した取り組みや、自社を超えた地域・社会のジェンダー平等推進への貢献については、半数以上が未実施でした。

「ジェンダー平等」への取り組みに関する調査結果

2.はたらきがい・人権

ロシアによるウクライナ侵攻や気候変動などの危機は、企業のバリューチェーンにおける人権尊重へのSDGsの重要性を浮き彫りにしました。これは従業員やバリューチェーンの労働者だけに限った話ではありません。人権尊重の達成は、消費者や地域住民に対して取り組むことも不可欠です。

今回の調査では、消費者の人権を人権課題として十分に認識していない企業や、地域住民の人権に取り組んでいない企業がともに3割を超えていることがわかりました。

グローバルで人権尊重の動きが進むなか、日本企業の「ビジネスと人権」の取り組みに対し、一層の加速・深化が迫られています。企業単体での取り組みは難しいかもしれませんが、ステークホルダーとの連携などで取り組みを広げていくことが期待されます。

「地域住民の人権への取り組み」に関する調査結果

3.持続可能な消費と生産

持続可能な消費と生産に関する社内方針を明確化している企業は、2021年の調査比で24.8%増の78.9%でした。

サーキュラーエコノミー(循環経済)への取り組み状況では、次の2つに大きな伸びが見られました。
・持続可能な原材料調達(59.9%→71.1%)
・シェアリングサービスの展開(14.0%→26.3%)

また、消費者やサプライヤー向けに、循環行動を促すような製品・サービスの循環性に関する取り組みの状況については、リサイクル・修理可能性などに関する消費者・顧客企業向け情報の提示がもっとも多く、約43%の企業が実施していました。

サーキュラーエコノミーへの取り組みに関する調査結果

4.気候変動

気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)や、スコープ3(※)排出量の情報開示への対応が必要なことから、特に大企業を中心に、ネット・ゼロ実現に向けた取り組みの強化が見られました。

サプライチェーンを巻き込んだ働きかけや、再生可能エネルギーの比率拡大も進んでいます。
また、ネット・ゼロ達成に向けた活動を後押しする制度として、削減インセンティブを与える「カーボンプライシング(排出量取引制度)」導入への期待や、再エネをより活用しやすくする環境整備を求める回答が多く見られました。

※事業者の活動に関連する他社の温室効果ガスの排出量の一部または全部

ネット・ゼロを実現するために、自社に必要と思われる「外部環境整備」についての回答結果

5.腐敗防止

SDGsのトップコミットメントや、社内浸透は進んでいるにもかかわらず、サードパーティによる贈賄防止や、腐敗防止に関する情報公開には遅れが見られました。

具体的には、売上規模が大きい会社は情報開示が進んでいますが、売上規模が1000億円以下の企業の約75%が腐敗防止の情報開示をしていません。
サードパーティ管理や記録化の徹底をはじめとしたリスクベース・アプローチのさらなる推進が求められます。

「SDGs進捗レポート2023」から見える日本企業の課題

今回のレポートから、SDGsの掲げるゴール達成に向けて、日本企業の進捗状況や、抱える課題が明らかになりました。そのなかで、日本企業のSDGsアクションは、十分とは言えない状態にあります。SDGsは、2030年までに達成する、世界共通の目標です。企業規模を問わず、自社でやれることはないか、いま一度確認し、取り組みを加速していくことが、ゴール達成のためには必要なのではないでしょうか。

「SDGs進捗レポート」とは

一般社団法人グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン(GCNJ)、および公益財団法人地球環境戦略研究機関(IGES=アイジェス)は、国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」について、GCNJ会員企業・団体の進捗度に関する最新の調査結果をとりまとめたものです。

調査開始時は「SDGs調査レポート」という名称で、「SDGsの認知・社会への浸透」を目的として調査が行われていました。しかし、2020年の調査で、経営陣は約9割、中間管理職・社員においても7割以上がSDGsについて認知していることがわかり、2021年からはSDGsの認知度・浸透度からSDGsの取り組みの質について調査する「SDGs進捗レポート」へと進化しています。


●関連リンク
企業等における最新のSDGs実態調査の結果を解説した 「SDGs進捗レポート 2023」を発行
SDGs進捗レポート2023

筆者プロフィール
講談社SDGs編集部

SDGsをより深く理解し、その実現のために少しでも役立てていただけるよう、関連する知識や事例などの情報を編集部からお届けします。

記事カテゴリー
SDGsと経営