【第12回】新型コロナ後、SDGs起点でマーケティングを考える意義とは

2020年07月15日

<連載>サステナブル・マーケティングのすすめ

「サステナブル・マーケティング」をキーワードに、令和におけるマーケティング戦略を考察していく連載コラム。
アフターコロナという新しい時代の区切りが生まれ、社会は大きな変化の時を迎えています。多くの業界が経営やビジネスモデルの抜本的な見直しを迫られる状況下で、マーケターの対応は次世代の消費行動を作るうえで大きな役割を担っています。
今回はその一つの基軸として、SDGsについて再考します。そして今後のサステナブル・マーケティングのさらなる重要性や具体的な取り組みの方向性について、複数回にわたる連載記事で紹介していきます。

新型コロナ以前のSDGsへの取り組み

SDGs(持続可能な開発目標)が国連で2015年に採択されて5年。発展途上国だけでなく全世界共通の課題として示されたSDGsのメッセージは、今、社会にどのような変化をもたらしているのでしょうか

日本の教育現場への浸透

SDGsや環境問題に関する教育を義務づける動きが国際的に広がっています。メキシコやイタリアなど一部の国では、小中学校でのSDGs教育を必須とする法改正が進んでおり、国民が理解しておくべき知識としての認識が浸透しつつあります。
日本の文部科学省でもESD(持続可能な開発のための教育)の指標が掲げられています。ESDの内容は、国民が持続可能な生活をみずから選ぶための判断力や価値観を養えるよう構成されています。
教育現場におけるSDGsの浸透は、次世代を担う人々の思想や価値観に大きな影響を与えるものです。今後はビジネスモデルや社会そのものも、一層SDGsを意識したものへと変化していくでしょう。

企業と国民を巻き込んだ、生活を変える措置

教育現場と同時に、生活に関わるシーンでも大きな動きが見受けられます。2020年7月より日本国内で施行された、プラスチック製買い物袋の有料化もその一例です。
日本はかねてより、過剰梱包やプラスチック製品の消費量の多さが問題視されていました。UNEPの調査によると、人口一人あたりのプラスチック容器包装の廃棄量を比較したとき、日本は米国に次いで世界二位の排出量です(2018年、UENP『SINGLE-USE PLASTICS』より)。
廃棄物問題や地球温暖化・気候変動の問題を各自が真摯に受け止める機会を創出するため、経済産業省は買い物袋有料化に踏み出しました。プラスチック製買い物袋を扱うすべての小売業を対象とした本制度は、年齢層や立場を問わず、多くの人々の生活にインパクトを与えるものです。

これまでもSDGsに資する情報発信や各企業の取り組み、地方自治体の事例などは数々挙げられてきました。しかしこれらは一部のターゲットや関係者にのみ届くものであり、国民の共通認識にはなりづらいものでした。
今回のような国民を巻き込んだ意識改革が加速的に増えてくると、サステナブル・マーケティングの影響はますます部分的ではない、スタンダードな価値として評価されていくでしょう。

コロナ禍で再確認されたSDGs

世界的な新型コロナウイルスの深刻な感染拡大は、健康意識とともに私たちの価値観や生活を激変させました。
そんな中で、SDGsはいわゆる「アフターコロナ」の世界を構築するための指針としても有効である、と多くの識者が指摘しています。

コロナ禍におけるSDGsを活用した取り組み(神奈川県)

実際にSDGsを活かしながら、コロナ禍を切り抜けようとしている試みがあります。
神奈川県は、「SDGsアクションで新型コロナウイルス感染症を乗り越えよう」と題した特設ページを設け、アフターコロナに向けた県内事業者たちの取り組みを掲載しています。
飲食店の経済的打撃を和らげるテイクアウト支援や、オンラインによる教育サポート、マスクやフェイスシールドの生産、自粛時の健康情報や便利情報の提供など、そのコンテンツは多岐にわたります。一貫しているのは、活動それぞれがSDGsの複数の目標達成につながるものであることです(上記サイト内にそれぞれのSDGs目標表記があります)。
県内の活動を一覧化することは、取り組みの規模と一体感を醸成します。県民全体が団結しながらコロナ禍を切り抜け、SDGsと共に新たな生活を手に入れようとする姿勢が伝わりやすいのがこの政策のポイントです。

新型コロナウイルスによる受難も、SDGsが取り上げる問題同様、世界共通のものです。アフターコロナに向かう道筋をSDGs起点で推進していくことは、一層団結力や理解を生み出す一因となるでしょう。

新型コロナで浮き彫りになった問題は、SDGsの視点で解決を

私たちは新型コロナウイルスの影響によって、これまで問題視しなかった問題にも向き合うことになりました。
ご存知の通り、トイレットペーパーの不足問題は全国的に話題となりました。普段は問題なく供給されていたものが不足するとわかり、多くの人々が過剰購入に走ってしまったようです。過剰購入は更なる在庫不足をもたらし、長期的な欠品が続きました。

SDGsには「つくる責任、つかう責任」という目標があります。
国民一人ひとりが必要に応じた消費量を心がけることも、達成のための一つのミッションとなっています。そのためには個々が必要な量を見極め、購入をセーブする判断力が必要です。コロナ禍では、このほか食料やマスクなどの医療用品でも、個々の消費に対する判断力が試される場面が多くありました。
マスクについては、ハンカチなどの布製品を利用した布マスク作りが話題となり、これを機にリユースに移行した人も多いようです。在庫不足の経験をもとに生まれた価値観や行動は、アフターコロナでも継続されるでしょう。

また別の領域で、コロナ禍の大きな話題となったのは仕事と家族の在り方です。自粛期間、急なリモートワークを迫られ、多くのビジネスパーソンが自宅で業務に就くことを余儀なくされました。その影響はプライベートの時間にも色濃く出てきます。
特に共働きの家庭では、子育てや家事を女性が担うため、女性に過度なストレスがかかっているという声が上がりました。本来外出していた家族が在宅することで、家事のタスクの総量が増加したのです。

こうした問題が顕著になることの根底には、現在の男女の役割分担に対する価値観があると考えられます。SDGsの目標のなかで日本が特に改善すべきとされている項目のひとつが「ジェンダー平等を実現しよう」です。
他先進国と比べ、女性の社会進出や女性リーダーの輩出が乏しいことを指摘されている日本では、女性のエンパワーメントが大きな課題となっています。

SDGsの目標達成を目指すことと、コロナ禍で女性にストレスのかかる生活を解決することは、実は同線上にあるものです。コロナによって図らずも当事者となった家族も、SDGsを意識することでこれまでの習慣を見直すでしょう。そのことがこの問題を解決し、ひいては女性の活躍や社会進出を促すきっかけとなるはずです。

アフターコロナの世界ではサステナブル・マーケティング戦略こそ重要

このような情勢のなかで、サステナブル・マーケティングは一過性の手法ではなく、スタンダードな概念として取り入れるべきものとなることが予想されます。
アフターコロナにおいて、私たちは"新しい生活"を構築していく必要があります。その定義は個々人によって異なりますが、価値観や全体的な生活様式を改めることは共通の課題となるでしょう。
そこで「新しい生活に寄り添うサービスや商品を提供すること」が、今後のビジネスの命題となります。SDGsは、これらの新しいニーズを掘り起こすときに役立つ指針でもあります。
それでは、マーケティング戦略の基本的なプロセスとSDGsの関係性を紐解いてみましょう。

環境分析と市場機会の発見(SWOT分析)

市場機会を発見するための環境分析をSWOT分析によって行う際、SDGsの観点から自社を分析します。
SWOT分析の主軸に社会課題を充ててみると、おそらく従来の環境分析とは異なる自社の強みと弱みを発見できるはずです。市場機会や脅威についても同様です。市場機会を「自分の会社が取り組めるSDGsの項目」、脅威を「それに伴うリスクや持続可能性を脅かすもの」として捉えて分析すれば、SDGsを根幹としたマーケティング戦略の指針が定まります。
食品業界を想定したSWOT分析の例を、下図にまとめてみました。

セグメンテーション・ターゲティング・ポジショニング(STP分析)

戦略立案の要であるSTP分析を行う際には、SDGsを顧客視点に立って細分化することを重視するとよいでしょう。SDGsの開発目標は全世界共通の指標であるため、あらゆる課題に汎用性のある内容がまとめられています。それをマーケティングに活かす際には、細かなケースに落とし込んで解釈していく必要があります。

市場の一部を細分化する際、その細分化したグループがSDGsの目標をどのように受け止め、どう解決したいと願うか分析を深めます。さらにターゲットを絞り込んでいくときも、課題解決に向けてそのターゲットがどのようなアクションを取る属性を持つのか、どの程度社会課題を自分ごと化しているか検討してください。そうすることで、最終的なポジショニングの段階では、自ずと明確な答えが見えてきます。

施策立案 (4P分析)

マーケティングの柱となる4P(Product、Price、Place、Promotion)に関しては、いずれの要素に対しても持続可能である根拠を持つことが重要です。製品、流通に関しては環境問題やサステナビリティに配慮したアイデアを取り入れる要素が随所にありますし、販売促進でのメッセージの使用方法やニュースの作り方も、SDGsに沿ったものを検討しましょう。
価格に関してはSDGsとの兼ね合いを考えることは難しいですが、コストを下げるために持続可能な社会を放棄することは、今後おそらく歓迎されません。

マーケティング施策の評価

実行した結果の評価軸も、今後のマーケティングでは変えていく必要があります。
実際に持続可能な生産と流通のサイクルを維持できているのか。持続可能な商品を提供する価値を、ユーザーに最大限に伝えられているか。こうした問いを評価軸として改善を重ねていくことで、一層ブSDGsを体現する施策に近づくでしょう。

新しい軸としてサステナビリティを設けたマーケティング戦略を

本連載では、これまでサステナブル・マーケティングの重要性について考えてきました。アフターコロナを視野に入れた市場へのアプローチが必要な今、改めて企業のサステナビリティへの意識が問われています。
そのわかりやすい指標として再注目されているのが、SDGsとその目標です。マーケティングの観点からSDGsに向き合い、柔軟に変革を遂げていくことで、顧客から選ばれ続けるサービスや商品を作り出す。この活動は、アフターコロナの変化にどう対応し企業を持続させていくか、その答えに直結しています。

次回は、4PのうちProductに焦点をあて、サステナブルな商品開発を進めている企業の事例を考察していきます。

筆者プロフィール
宿木雪樹(やどりぎ ゆき)

広告代理店で企画・マーケティングについての視座を学んだ後、ライターとして独立、現在は企業の魅力を伝える記事執筆を中心に活動。大学にて文化研究を専攻したバックボーンを生かし、メディアのトレンドについてフレッシュな事例をもとに紹介する。2018年より東京と札幌の2拠点生活を開始。リモートワークの可能性を模索中。

記事カテゴリー
SDGsと担当者