2020年06月18日
<連載>サステナブル・マーケティングのすすめ
「サステナブル・マーケティング」をキーワードに、令和におけるマーケティング戦略を考察していく連載コラム。
コロナ禍の中で急速に進むリモートワーク化は、日々の仕事にどのような影響を及ぼしているのでしょうか。そしてその中で、マーケターはどのように仕事を進めていくべきなのでしょうか。
そのヒントを探るべく、今回はリモートワークを経験したビジネスパーソンへのアンケート調査結果を分析しながら、リモートワークとマーケターの交点を考えていきます。
※調査データ出典:『リモートワークの現状調査』(株式会社ネオマーケティング)
コロナ禍ですべての国民の暮らしが激変するなか、リモートワークという働き方が急速に進んでいます。首都圏のビジネスパーソンにリモートワークの現状を調査したところ、過半数の人々が経験済みであり、リモートワークの経験者は少数派ではないことがわかりました。以下がその導入状況です。
データ1:新型コロナウイルスの影響によるリモートワーク制度の導入
調査実施期間:2020年6月3日?6月10日
調査対象:東京・神奈川・千葉・埼玉在住のビジネスマン 男女3,183人
調査方法:webアンケート
そこで誰もが一番気になるのが、リモートワークの仕事内容への影響でしょう。
「リモートワーク前後で仕事の成果が変化したか」という問いに対しては、「成果が出るようになった」人と「出なくなった」人、それぞれが25%~30%前後という結果でした。そして半数に近い43.1%は「大きな変化を感じていない」ことがわかりました。
データ2:リモートワーク制度導入による成果の変化
調査実施期間:2020年6月3日?6月10日
調査対象:東京・神奈川・千葉・埼玉在住のリモートワーク制度の利用者 20?50代 男女1000名
調査方法:webアンケート
このように結果にはバラつきがあり、リモートワーク導入がスムーズに進んだ企業と、そうでない企業の従業員の感覚差が明らかになっています。成果が落ちた企業も少なくはないと見るべきでしょう。
リモートワークでも成果を出していくためには、どのような工夫が必要か、まだまだ多くの企業、そして従業員たちが悩みを抱えているようです。コロナ以前からリモートワークを取り入れ、強みに変えてきた企業の事例に、解決のヒントを探してみましょう。
キャスター株式会社コーポレーションサイト
企業のリモートワーク化のサポート事業を展開するキャスター株式会社では、ほぼ全社員がリモートワークを採用しています。社員は全国各地に在住しており、社員の出社を前提としたオフィスはありません。さらに注目すべきは、評価制度や福利厚生など企業活動の基盤からリモートワークを前提に整えている点です。企業活動や文化そのものをオンラインに寄せた同社は、リモートワークを特別視することなく、着実な歩みを進めています。
もちろん、これまでリモートワーク前提で事業展開をしていない大手企業でも、着実にリモートワーク導入の準備が進められています。例えばKDDIでは、全社でリモートワークを実践する期間を設けてオンライン化の定着を図るなど、数年にわたって試行を続けています。
資生堂:オンライン会議時の自動メークアプリ「TeleBeauty(テレビューティー)」
また資生堂では、オンライン会議で女性が化粧をしなくても参加しやすいよう、自動で顔を加工するメイクアップツールを開発しました。化粧品会社ならではの発想で、働きやすいリモートワーク環境づくりを推進した興味深い事例です。
いずれの企業も、最終的にはリモートワークとオフィスワークが同等の選択肢となることを前提とし、数年間にわたって移行の準備や実験を重ねています。
労務管理方法の見直しやデータの扱いなど、リモートワークを本格化させるためには多くの課題があります。しかし、時間の有効活用・通勤ストレスの解消・子育ての促進などの多くのメリットは、アフターコロナにおいてもリモートワーク化の流れを生み続けるでしょう。
コロナ禍による一時的な対処としてでなく、顧客のために、社員のために、そして世の中のために、企業としてリモートワークにどのように取り組むかが問われる時代になりそうです。
さて、こうしたリモートワーク化の波は、マーケターの仕事の進め方にどのような変化をもたらすのでしょうか。
まず第一にもたらされる変化といえば、顧客との接点のオンライン化でしょう。ただ、リモートワークを取り入れたもののオンライン商談に踏み切ることに躊躇するケースも多く、調査でも社外の人との打ち合わせを目的に出社する人の割合は少なくありません。
データ3:出社が必要と考える理由
※調査概要はデータ2と同じ
しかし、顧客との心理的な距離を縮めるために対面形式を頼ることは、今後の時代には適さないかもしれません。業界を越えたリモートワーク化が急速に進む昨今、対面よりオンラインでしっかりとコミュニケーションを取れたほうが好都合と考える人は増えていくでしょう。
マーケターの対顧客業務は多岐にわたりますが、オンラインでも対応可能な内容が大半です。リモートワーク化を機に、顧客との関係構築をもオンラインに移行できれば、より効率的に仕事を進めることができるでしょう。
社内コミュニケーションの充実も、リモートワークでは注力したい点です。さまざまな部署と関わり合いが生じるマーケターにとって、コミュニケーションは実績を左右する要素です。関係部署やチームと漏れがなく連携できるよう、オンライン・ツール上で活発なやりとりを促進することも、マーケターができる工夫の一つです。
またリモートワーク化を進めるということは、業務をオンラインに集約するということです。この変化をマーケターの仕事にあてはめてみると、あらゆる業務をデータ化する機会となり、プラスとなる点が多いはずです。データの分析や集計、企画作成といった業務はこれまでと変わらず続けられますし、そのためのブレストやアイデア出しのプロセスもログとして残しやすくなります。
マーケターはリモートワークを活かせる職種であり、また社内外の仲介となり得る立ち位置でもあります。リモートワーク化が進み、オフィスで集まることが少なくなる今後の働き方のなかで、企業の主軸を担う職種のひとつともいえるでしょう。
それゆえ、マーケターはこれまでの働き方をオンラインに移行するだけでなく、リモートワークの強みをどのように活かすかを考えながら社内外に働きかけていくことが大事になってきそうです。
リモートワークは、サステナビリティにも大きな影響を与えます。リモートワークを積極的に取り入れることは、SDGs達成に向けた活動とも重なります。
たとえばオンラインで完結するビジネスモデルを目指せば、同時にペーパーレス化が進みます。リモートワークで不便を感じるポイントとして挙げられている『書類の取り扱い』(データ4)や、出社理由となる『書類を介さなければならない事務処理』(データ3)は、今後デジタルへと移行し、全社規模のペーパーレス化が実現していくでしょう。
データ4:リモートワークによって不便を感じるポイント
※調査概要はデータ2と同じ
データ3:出社が必要と考える理由
他にもリモートワークによる採用活動では、企業は場所を問わず全国各地の人材にアプローチすることが可能になります。求職者から見れば、育児や介護と仕事との両立やライフスタイルに応じた働き方などの可能性が拡がります。さまざまな背景を持つ人々が等しく働ける環境を整える取り組みとしても、リモートワークは有効です。
このように、リモートワークは人々の豊かな暮らしにも環境への影響面でもプラスの効果を生み出します。業界を問わず多くの企業が、SDGsへの取り組みのひとつとしてリモートワーク制度を挙げるのも必然的な流れであるといえます。そこで、マーケターの視点からリモートワークとサステナビリティについてあらためて考えてみます。
新型コロナウイルスによる多大な市場への影響は、改めてサステナブル・マーケティングとは何なのか、私たちに問いました。
私は本連載開始時、下記の3点をマーケティングにおけるサステナビリティの重要ポイントとして掲げました。
1.ソーシャルグッドな企業として共感してもらおう
2.消費者と手を取り合い、マーケティングを共に考えよう
3.短期的な目標と中長期的な目標を切り分けよう
この3点に立ち戻って現状を見つめなおせば、企業にコロナ禍が襲いかかったと言えど、本質はさして変化していないということがわかります。アフターコロナの時代まで鑑みた中長期的なビジョンをもとに、顧客や社内との接点をより濃く、深いものとしていくこと。そして、変化した社会のなかでのソーシャルグッドとはいったい何かを分析し、突き詰め、体現していくこと。
そうした取り組みのなかの有効な手段のひとつとして挙げられるのが、リモートワークです。リモートワーク化を戦略のひとつとして捉え、社内外のコミュニケーションを活発にしていくための足掛かりとすれば、マーケターの大きな武器となるでしょう。
最後に、マーケターがリモートワークを強みに変換するためのいくつかのポイントをまとめます。
1.オンライン上での社内外のコミュニケーションを活性化させる
2.タスクをすべてオンライン化することで、業務効率を高める
3.リモートワーク化を通じ、ソーシャルグッドな企業の姿を浮き彫りにする
こうしたポイントを意識しつつ、マーケティング業務をリモートワークに移行していけば、その働きは成果に結びついていくのでなないでしょうか。
次回は、リモートワークによって変化する『場所』の価値について考えます。オフィスの役割や定義の変化と、それを活かしたマーケティングについて、調査結果や事例を交えながら検討していきましょう。