2021年こそSDGsに本腰を入れたい企業へ − 社内の部門別で見る「取り組みやすい目標」とは

2021年02月05日

大企業を中心にSDGsへの取り組みが増える中、2021年こそSDGsに取り組まなければ、と考えている経営者や担当者の皆さんは多いでしょう。
そんななかで、あわてて形骸化した取り組みに走ってしまわないよう、会社の部門ごとにどんな目標を扱うと効果的かをまとめてみました。それらの目標に実際に取り組んでいる事例も紹介します。

2021年 SDGsに取り組みたい企業は何を目指すべきか

2030年を達成年とする「SDGs(Sustainable Development Goals、持続可能な開発目標)」。昨年2020年は、そのゴールまであと10年という節目であり、SDGsへの取り組みが一般化した一年だったと言えるでしょう。一方、コロナ禍による社会の激変への対応に追われる企業も多く、副次的にSDGsを捉えていた場合、本腰を入れて取り組むことをためらった企業も少なくなかったと思います。

生活様式や経済活動、働き方などあらゆる常識が変わっていく今は、システムやインフラなど根本的な課題を解決するのにふさわしい時代とも考えられます。この変化が短期的なものではないことを自覚した2021年は、企業がよりSDGsに向き合う一年にもなるでしょう。

では2021年、私たちはどのようにSDGsに取り組むべきか。その答えが具体的にイメージしやすいよう、SDGsの17の目標のうち、社内の部門ごとに取り組みやすい目標は何かをご紹介しましょう。

人事・労務面から取り組みやすいSDGsの目標

人事・労務の観点では、SDGsの目標を通じ、より"働きやすい"企業を目指していく方針が求められます。特に多くの企業で取り組みやすい目標は、「ジェンダー平等を実現しよう」「働きがいも経済成長も」でしょう。

ジェンダー平等を実現しよう


慣習や文化的背景から生まれる性への固定概念は、当事者の意に反した離職や不採用をもたらすことがあります。服装や髪型、口調やふるまいの慣習には男女差があります。からだと心の性別が異なる性的マイノリティに属する人は、自らの性を偽らなければ、働くこと、あるいは働き続けることが難しいことがよくあります。
すべての人々が働きやすい環境をつくるためには、こうした性への固定概念を企業全体で見直し、新しい価値観を築いていく必要があります。

「性への固定概念を見直す」という点で言うなら、女性の働きやすさも課題の一つとして含まれます。出産が女性にのみ起こりうるライフイベントであることは生物学上変えられないことですが、それが女性の働きやすさやキャリアプランに影響する社会は、制度や慣習によって変えることができます。そのためには、女性のみに焦点をあてた改善を重ねるのではなく、男性側の働き方も見直す必要もあるでしょう。

【事例】


ヘアケアブランドのパンテーンは「#Pride Hair」キャンペーンの一環として、LGBTQ+の人々の就職活動に焦点をあてた動画を公開。性的マイノリティにあたる人々が就職活動の際に自身の髪型を変えなければならない苦しみについて訴求しています。企業として本テーマを扱い、働きやすさを追求する姿勢が共感を呼びました。

働きがいも経済成長も

この目標は、生産性が高まる労働環境や平等な雇用環境をつくることを求めています。日本には他国と比べて長時間労働を善とする風潮や、非正規雇用や若者の失業など、根深い課題が山積みです。労働条件に対する失望は、従業員や未来の就業者のモチベーション低下につながります。

賃金や労働環境の適正化をはじめ、就労者のトレーニングの徹底やキャリアプランづくりのサポートなどがこれらの課題を解決する糸口です。従業員が長く、豊かに働くことのできる企業を目指すことが、本目標への取り組みとなるでしょう。

【事例】

大和ハウス工業が建設したDPL流山は、自動化と効率化を徹底した物流施設としての機能のほか、従業員の育児をサポートする保育施設などを完備しています。
従業員が働きながら子育てもできる環境を一つの施設にまとめ、災害時にも対応可能な自家発電機能なども備えました。働きやすさやリスク対策、業務効率化など複数の課題を解決する本施設は、「働きがいも経済成長も」を体現する取り組みです。

商品生産に関わる施策を打ち出しやすいSDGsの目標

自社製品の生産を行う事業者の多くが取り組みを見つけやすいのが、環境維持関連の目標です。「気候変動に具体的な対策を」「海の豊かさを守ろう」「陸の豊かさを守ろう」は、パッケージや製品の素材、生産ラインなどを見直すことで課題解決につながるでしょう。また、これは「つくる責任つかう責任」「産業と技術革新の基盤をつくろう」にも関わってきます。

廃棄物を軽減し、リサイクル可能な素材からつくれる商品を目指すこと。資源を無駄遣いせず、生態系を崩す要因となることを避けること。こうした複合的な目標から導き出されるエシカルな商品を生産、販売していくことが大切です。

また、こうした商品開発と生産は今後マーケティングにも役立ちます。「つかう責任」という言葉にあるように、こうした商品を選ぶことは消費者にも望まれています。環境保護に資する商品を全面的にアピールすることと自社ブランディングを重ね、社会に選ばれる企業を目指すことが、企業成長の鍵を握るとも言えるでしょう。

【事例】

スポーツブランドのナイキは、「アスリートのためにスポーツの未来を守る―Move to Zero」というキャッチフレーズを掲げ、各商品の製造廃棄物のリサイクルや再生可能エネルギーの利用について情報開示しています。持続可能な素材を用いた商品開発を徹底し、その成果も含めた商品をプロモーションする。その姿勢が共感を呼び、エコなブランドとしても認知を高めているのです。

マーケティング施策の一環として取り組みやすいSDGsの目標

SDGsは、いかなる目標に取り組んだ場合でもマーケティングに影響を及ぼします。しかしなかでも「すべての人に健康と福祉を」は、現在コロナ禍に惑うすべての人々に影響力を持つ目標でしょう。
新型コロナウイルスへの直接的な対策だけでなく、新しい生活様式をきっかけに生じた精神的ストレス、アクセスしづらくなった福祉サービスなど、さまざまな課題が顕在化しています。そのいずれかに自社が貢献できるリソースや知見があるならば、マーケティング分野からSDGsへの取り組みを進めていくと良いでしょう。

【事例】

ゲーミングデバイスブランドのRAZERが発表したゲーミングマスクは、視覚的なインパクトとコンセプトから大きな話題となりました。
マスク内にマイクとアンプを内蔵するといったRAZERのハイテク技術を用いるとともに、感染リスクを軽減するマスクとしての機能も高い本商品は、潜在的な顧客層へのアプローチとして大きな効果を発揮しました。需要が急激に増えたマスクという商品に対して、自社ブランドの優位性を伝える企画が合致した事例といえるでしょう。

CSRとSDGsを結びつけることの危険性

ここまでSDGsの目標と事例を挙げ、会社内の各部門でどのようにSDGsに向き合えるかのヒントをまとめました。SDGsへの取り組みを事業と切り分け、いわばCSR的な視座で取り組む事例は、あえて紹介していません。

その理由は、CSR(Corporate Social Responsibility、企業の社会的責任)という概念がもはや前時代的になりつつあるからです。そもそもCSRの重要性が訴えられるようになった背景には、利益至上主義があります。企業の財務とは分けられた道徳的活動として定義づけられていました。

一方、2006年に国連で提唱されたESG(Environment、Social、Governance)の登場によって、環境や社会を意識する企業は投資価値が高いとされ、ESG投資を促す流れが進んでいます。また、消費者のSDGsやサステナビリティへの理解が深まるにつれ、エシカル消費への意識も普及しました。こうした時代の変化を見れば、倫理的な企業であるための活動を財務と分けて考えるよりも、収益を生む事業内にSDGsを組み込んだほうが効果的であるということがわかるでしょう。

さらに、昨今は「SDGsウォッシュ」という言葉も目にするようになりました。SDGsウォッシュとは、SDGsに取り組んでいるようで実態が伴わない企業や広告を揶揄する言葉です。SDGsのアイコンを表面上で掲げながらも、実際の活動が明らかでない企業は少なくなく、こうしたSDGsの形骸化を危惧する識者の声も多く上がっています。利益と結びつき、しっかりと根づいた活動を継続することが今後はより望まれるでしょう。
こうした現状から、CSRとしてSDGsに取り組むより、経営に直結する部門で取り組むほうが効果的だと考えられます。

企業全体でSDGsに取り組んでいくために

ここまで紹介してきた事例や考え方について振り返ると、SDGsへの取り組みは部分的なものではなく、企業全体の文化や制度、商品やサービスそのものに関わるものだということがわかるでしょう。従業員全員がSDGsについて正しく理解し、各部署が複合的にSDGsに向き合っていくことが望ましいのです。

SDGsへの取り組みをスムーズに進めていくために、社内でSDGsに特化したグループを設けるのも一つの手段です。各部署からバランスよくメンバーを選び、部署を横断しながら社内での啓発活動や計画進行を行うと、会社全体を巻き込んだ影響力のある取り組みが進めやすくなります。

また、SDGsの開発目標と自社の関連性を、長期的な視点で見極めるのも大切です。各目標を俯瞰してみることで関連性が見いだせるかもしれません。ナイキが気候変動を「地球がなければスポーツはできない」という切り口から捉えるように、すべてのビジネスはこの地球という舞台がなければ成り立ちません。SDGsに取り組む意義を改めて明確にし、会社にとって「自分ごと」にできると、企業全体で取り組む指針を固めやすくなるでしょう。

SDGsへの取り組みをマーケティングや採用などに活かし、シナジー効果を生み出せば、他社との差別化にもつながります。2021年は必要に迫られて形骸化した取り組みを見せるのではなく、しっかりと戦略を立ててSDGsに向き合う年にしたいものです。

筆者プロフィール
宿木雪樹(やどりぎ ゆき)

広告代理店で企画・マーケティングについての視座を学んだ後、ライターとして独立、現在は企業の魅力を伝える記事執筆を中心に活動。大学にて文化研究を専攻したバックボーンを生かし、メディアのトレンドについてフレッシュな事例をもとに紹介する。2018年より東京と札幌の2拠点生活を開始。リモートワークの可能性を模索中。
記事カテゴリー
SDGsと担当者