• TOP
  • 記事一覧
  • SDGsと担当者
  • SXとデジタルマーケティング|【第1回】SDGsを推進する「SX」とは? マーケターは何をすべき?

SXとデジタルマーケティング|【第1回】SDGsを推進する「SX」とは? マーケターは何をすべき?

2022年04月20日

いま、そしてこれからもさらに求め続けられるサステナブルな企業経営。この連載では、企業におけるSDGs達成をゴールとし、そのためにマーケターはどのような視点でどんな活動をするべきか、そのヒントをお届けします。
第一回は、日本政府が定めた「SDGsアクションプラン2022」の概要を解説したうえで、企業のとるべきアプローチとデジタルマーケティングとの交点を探ります。


SDGsアクションプラン2022の発表と意義

2021年末、SDGs推進本部より「SDGsアクションプラン2022」が発表されました。その内容の詳細についてはこちらの記事(SDGsアクションプラン2022とは? 概要とSDGsとの関係、2021年からの変化を解説)で解説していますので、本記事では発表意義と企業との交点に焦点をあてます。

SDGsアクションプラン2022の大きな特徴は、具体的かつ国内で優先されるアクションを可視化したことです。「8つの優先課題」と題して掲げた項目と具体な行動を促す強いメッセージに、SDGsアクションプラン2022の意義があると考えられます。
同文書の冒頭文を読むと「企業経営にSDGsが浸透した」と記されています。つまり、国としては啓発段階をクリアしたという認識が示されているわけです。企業は具体的な施策を打ち出す段階への移行を求められているとも言い換えられるでしょう。

ただ企業として「SDGsに取り組んでいる」認識があったとしても、組織のすみずみまでその意識が浸透しているかどうかはわかりません。部分的かつ短期的にSDGs対策に取り組むのではなく、SDGs的思想が経営に価値をもたらし、企業活動のすべてにおいて有機的に機能するのが本来目指すべき姿です。

デジタルマーケティングとSDGsの交点

では、先に挙げたような課題を解決するために、デジタルマーケティング領域でできることは何なのでしょうか。SDGsアクションプラン2022で掲げられた8つの優先課題と照らしつつ、考えてみましょう。

  1. あらゆる人々が活躍する社会・ジェンダー平等の実現
  2. 健康・長寿の達成
  3. 成長市場の創出、地域活性化、科学技術イノベーション
  4. 持続可能で強靱な国土と質の高いインフラの整備
  5. 省・再生可能エネルギー、防災・気候変動対策、循環型社会
  6. 生物多様性、森林、海洋等の環境の保全
  7. 平和と安全・安心社会の実現
  8. SDGs 実施推進の体制と手段

デジタルマーケティングの観点からこれらの項目を見たとき、大きく分けてふたつのアプローチが考えられます。

ひとつは、デジタル領域におけるテクノロジーを活かして、多様な人々の活躍の場や、安心して暮らせる社会基盤を作ることです。デジタルマーケティング領域には、先端技術とともに消費行動データが集います。これらを「売る」ためでなく「社会を改善する」ために利用すれば、高い確度で人々の課題解決に資するソリューションが生まれるはずです。その一例として、NTTデータが提供するビジネスマッチングプラットフォーム『MD Communet』を挙げてみましょう。

同プラットフォームは交通環境情報を一元的に集約し、各情報提供企業のデータドリブンな事業創出をサポートするもので、物流ルートの最適化や自動運転バスの運行など、交通環境情報からどのように社会を改善するかに焦点をあてた事例がいくつも生まれています。同社が持つデジタル領域の知見やデータを活かしたビジネスと言えるでしょう。

NTTデータのビジネスマッチングプラットフォーム「MD Communet」

そしてもうひとつは、マーケティングの手法を活かしつつ、SDG的思想や課題意識を顧客と共有するアプローチです。ストーリーと共に課題の重要性を説き、真摯に取り組む企業姿勢を示せれば、企業と顧客の間には強い信頼を築くことができます。
ソーシャルグッドな企業が選ばれるという風潮は今に始まったことではありませんが、今後ますます実践的な姿勢を示すことの重要性が増していくでしょう。顧客を含めあらゆるステークホルダーと、丁寧なコミュニケーションを取り企業姿勢を示すことは、マーケターの役割のひとつとなるはずです。

こういった内容を聞くと、それはマーケターが担う仕事ではないと思う方もいるかもしれません。実際、多くの企業ではマーケティング業務としては扱わないレイヤーの話だと思います。しかし、肩書や業務領域で線引きして仕事を続けていては、企業のSDGs達成が難しいのも事実です。

今後、マーケティングの概念は少しずつ変わっていくでしょう。SDGs的思想が企業に取り入れられれば取り入れられるほど、「商品を売る」という大義に「社会課題を解決する」という新たな大義が重なってきます。すると、マーケティングにおけるPR(パブリックリレーション)やブランディングの要素が色濃くなってくるでしょうし、マーケティングの成果もより経営に近いところで見られるようになるでしょう。

SX(サステナビリティトランスフォーメーション)とは

そんな今後のマーケティングのヒントにしたいのが、SX(サステナビリティトランスフォーメーション)というキーワードです。

SXとは、企業の持続性に焦点をあてた概念であり、経営とESG(環境・社会・ガバナンス)を両立させて、企業の持続性を高めるために行う改革を指します。SX以前にDX(デジタルトランスフォーメーション)のほうが耳になじんでいると思う方も多いかもしれません。このSXとDXはまったく別個の概念ではなく、地続きにあるものと考えると良いでしょう。

DX推進は企業の持続性を高めるための手段のひとつなので、わかりやすく言えばDXの先にSXが実現します。例えば、製造業界におけるDXの一例として、人材不足問題解決に資するロボットの導入事例がありますが、これは高齢化社会の中で企業が事業を持続させるための生存戦略とも捉えられます。DX化が進んで企業課題が解決することは、持続的な経営、つまりSXへと結びつくというわけです。

そして、SXとSDGsは循環し、相互に作用し合います。企業が社会課題を解決する事業を展開し、企業としても持続可能な基盤を備えていれば、社会の安定性は高まるでしょう。社会の安定性は国民の豊かさにつながり、やがてその豊かさは企業へと還元されます。SDGs達成を目指す好循環が滞りなく巡れば、企業、社会、国民それぞれがウィン・ウィンの関係を築けます。

今はまだ、SDGsを受け身の姿勢で捉える企業も多いかもしれません。しかし、ここまで説明した枠組みから考えてみると、むしろ企業存続のために最優先かつ戦略的に取り組むべきものだということがわかってきます。

SXとSDGsに連なるデジタルマーケティングの要素

SDGs達成というゴールと、企業それぞれが持続性を高めるために推進すべきDXとSX。これらは相互に関わり合い、今後の社会に多大な価値をもたらしていくものです。そして企業はこの循環の中で市場活動を続けていけるよう、組織や制度、システムを整えていく必要があります。こうしたDXとSX、そしてSDGsの関連性を頭に描きながらデジタルマーケティングを展開していけば、包摂的な戦略を描くことができるのではないでしょうか。

デジタルマーケティングという観点からこの大きな流れに関わることができる要素は、大きく3つに分類できます。

  1. SNSやEC・Webサイト、メタバースなどの広義におけるメディア
  2. 消費行動や顧客情報、商品周辺の事象などのデータ
  3. AI・ブロックチェーン技術やデジタル広告周辺のテクノロジー

人々に情報を届けるメディアと、そこから収集できるデータ、そしてそれらを分析したり、活用したりできるテクノロジー。これらを持つデジタルマーケティング領域は、企業が今後データドリブンにSXを進めていくにあたって大きな役割を果たすでしょう。

マーケターが今、SDGsに向けてデジタル領域でできること

マーケターはこの「メディア」、「データ」、「テクノロジー」に対する感度を高めつつ、SDGs達成に向けたそれらの活用法と、自社の事業の交点を見極めることが大切です。特にSDGsアクションプラン2022に掲げられた8つの優先課題について、どのような形ならば自社で実践可能なのか具体的な施策を検討してみると良いでしょう。

本質的な課題解決に結びつく施策の多くは、マーケティングだけで実現することは到底できません。だからこそ、データやテクノロジー、メディアといった領域を理解しつつ、マーケターとして社内外を巻き込み、旗を振っていく姿勢が大切です。最終的に目指すゴールは、サステナブルな企業経営と、その企業活動に支えられた豊かな社会です。抽象的に感じるかもしれませんが、現場の視点から具体化を進めていきましょう。

次回からは、その具体化をイメージしやすい事例を挙げつつ、SDGsアクションプラン2022の優先課題と紐付けながらより細かなアクションについて解説します。

筆者プロフィール
宿木雪樹(やどりぎ ゆき)

広告代理店で企画・マーケティングについての視座を学んだ後、ライターとして独立、現在は企業の魅力を伝える記事執筆を中心に活動。大学にて文化研究を専攻したバックボーンを生かし、メディアのトレンドについてフレッシュな事例をもとに紹介する。2018年より東京と札幌の2拠点生活を開始。リモートワークの可能性を模索中。
記事カテゴリー
SDGsと担当者