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SXとデジタルマーケティング|【第3回】険しくなったSDGs達成への道のりで、企業が進むべき方向性

2022年09月13日

サステナビリティな企業経営を目指す概念として注目を集める「SX(サステナブル・トランスフォーメーション)」。不安定な情勢が続く中、企業はSDGs達成に向けた取り組みとともに、SXに向き合う必要性が高まりつつあります。本連載では、このSXとデジタルマーケティングに焦点をあてつつ、マーケターがキャッチアップしておくべき情報をお届けします。第3回は、SDGs達成の現状と課題を企業目線でまとめ、そこにどんな打ち手があるか、事例を交えて解説します。

SDGsへの取り組みが世界的に停滞している理由

持続可能な社会のための目標がまとめられたSDGsは、2030年がその達成期限として設定されています。そして、2022年の現在は「行動の10年」と位置づけられた最後の10年の2年目です。SDGsの啓発期間を終え、企業はいよいよ具体な施策に取り組むフェーズへと移行しなければなりません。

SDGsの達成度は各国・各目標でスコアリングされており、年に一度レポートでまとめられます。先に述べた企業の施策が実を結べば、その効果がスコアに自ずと表れてくるはずなのですが、残念ながら直近2年のスコアは世界的に停滞しているのが現状です。


参考:Sustainable Development Report

国や企業の取り組みが停滞、あるいは変化している要因については、直近新たに増えたいくつかの問題が考えられます。SDGsも世界共通かつ重要な目標なのですが、それより優先される緊急事項が増えてしまったのです。

コロナ禍とウクライナ戦争、そして経済の混乱

2019年頃から世界を一転させたコロナ禍は、2022年現在も収束の気配を見せません。人々の健康な暮らしを支える医療・福祉の在り方が崩れ、医療先進国とされていた日本でも影響が色濃く出ています。生活・消費行動も大きく変わり、急速なデジタル化が進む一方、外食・観光業など特定の領域では経済活動の鈍化が深刻化しています。

また、ウクライナ戦争を機に世界経済は激しく揺さぶられています。一次産品の価格高騰やサプライチェーンの混乱など、さまざまな業界に波紋が広がりました。当事国の国民の生活水準が劇的に下がっていることは言うまでもありませんが、日本にとっても対岸の火事ではありません。また戦争の長期化により、今以上の厳しい状況を招くことが予想されています。

世界はこうした混乱の渦中で、改めてSDGsの目標を捉え直し、達成の手段について考えなければなりません。しかし、SDGs達成が目標設定時よりも一層難しい状況になったことも事実で、スコア停滞はやむを得ないこととも言えるかもしれません。

下降傾向にある、日本のSDGsスコアのランキング

次に、同レポートにまとめられた日本の現状を見ていきましょう。日本はスコアに基づいたSDGs達成度のランキングで、163カ国中19位です。この順位は、2017年以降少しずつランクダウンしており、各国と比較した取り組みの進捗具合は決して良くない状況と言えるでしょう。

参考:Sustainable Development Report

SDGsの目標ごとにスコアを確認していくと、直近5年間で常に「重要な課題が残っている」とされていたのは下記の目標です。

  • ジェンダー平等を実現しよう
  • 気候変動に具体的な対策を
  • パートナーシップで目標を達成しよう

また、「つくる責任、つかう責任」や「海の豊かさを守ろう」、「陸の豊かさも守ろう」も、5年連続ではないものの課題が大きいと判断された目標ですが、一方で「質の高い教育をみんなに」や「産業と技術革新の基盤をつくろう」の目標は毎年高い水準でクリアしています。こうした達成基準を上回る目標の維持に努めつつ、先に挙げた深刻な課題が残る目標の達成に向けた取り組みを本格化していく必要があります。

日本では、目標達成のための方向性を明確にするために「SDGs実施指針(2019年改訂)」という国家戦略を立てています。さらにその戦略の解像度を高め、優先課題の解決に向けて推薦される施策が記載されているのが「SDGsアクションプラン」です。

2021年末に発表された「SDGsアクションプラン2022」では、コロナ禍によって深刻化する貧困問題などについて新たに触れるとともに、急速に進んだデジタル化をバネにした生活様式の見直しを図る方針を掲げています。また、気候変動に対しては早急な対策が必要という見解を示し、SDGsスコアが低かった目標への意志を感じられる内容となっています。
このように、国としてはSDGsスコアを受けての指針が立てられているように見受けられますが、この指針は果たして国内企業の取り組みに反映できているのでしょうか。

※SDGsアクションプラン2022については、こちらの解説記事をご覧ください。

日本企業のSDGsへの取り組みの現状

「SDGsに関する企業の意識調査」(2021年、帝国データバンク調べ)によると、「SDGsに取り組む企業が日本全体に占める割合は約半数」という厳しい現状が明らかになりました。一方で、「SDGsに積極的」だと答えた企業のポイントは前年調査より大幅に上がっています。この結果を言い換えれば、一部の企業だけがSDGsに関心を持ち、取り組みを年々強化しているということです。SDGsへの取り組みの有無と関連性が認められるのは、企業規模です。中小企業は大企業と比べてSDGsへの取り組みが少ないことがわかりました。

業界別での取り組み状況を見てみると、「金融」、「農・林・水産」業界での取り組みが活発である一方、「卸売」、「運輸・倉庫」、「サービス」、「建設」業界での取り組みに遅れが目立ちます。また目標別で比較したところ、最も取り組まれている目標と今後取り組みたい目標は、いずれも「働きがいも経済成長も」でした。残念ながら「ジェンダー平等」や「気候変動」など、国として優先度が高いとする目標に対してはそれほど注目が集まっていません。

取り組みに課題の残る中小企業や流通・建設業に関わる企業では、不安定な経済状況下でSDGsを優先するのは困難な状況であることが見てとれます。「働きがいも経済成長も」に注目が集まりやすいのは、企業の持続性との関連性が一見してわかりやすい目標だからかもしれません。

企業のサステナビリティとSDGs

ここでいま一度振り返りたいのは、SDGsは企業利益ではなく、世界の持続性を高めるために掲げられた目標だということです。わかりやすく企業の売上に貢献する内容ではないことは確かでしょう。

しかしそれは企業のコストなのではなく、先行投資のようなものとして考えられます。SDGsは企業活動の基盤となる社会維持に資するもので、企業規模や業界を問わず、社会への価値還元のヒントとなるからです。これは企業の経営者だけでなく、メッセージ訴求や市場開拓に挑むマーケターも意識しておきたいところです。

筆者は本連載に関わらず、これまで一貫してSDGsを意識したサステナブルなマーケティングの重要性を説いてきました。SDGsを軸にしたマーケティングは、toB、toC問わず人々の暮らしの改善や社会維持に直結するメッセージングができるため、企業や商品の信頼性が増し、持続性の高いビジネスを生み出すことができるためです。

したがって、厳しい情勢下ではあるものの、現在SDGsへの取り組みが停滞している企業やそのマーケティング担当者の方には「企業存続のためのSDGs」という捉え直しかたをして欲しいと願っています。CSR的な位置づけでコストをかけるのではなく、持続可能な社会と企業を両取りするためのヒントとしてSDGsを活用してほしいのです。これは、本連載のテーマであるSX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)にもつながります。

激動の時代にフィットしたSDGs × SXの成功事例

では、ここから企業の実際の取り組みについて紹介します。SDGsを意識しつつビジネスそのものをトランスフォームし、かつマーケティングにもその施策が結びついている事例をいくつか選びました。

「ジモティー」のひとり親世帯への支援キャンペーン

近隣のユーザー同士が不必要になった物品の交換を行うCtoCプラットフォーム事業を展開する「ジモティー」は、日本国内のひとり親世帯142万世帯に対し、46%を占める65万世帯が同サービスを利用していることを自社調査より明らかにしました。その上で、ひとり親世帯を対象にしたキャンペーンを実施し、一般ユーザーからひとり親世帯への物品提供を募集。家電・食品を主とした生活支援に直結する物品譲渡を活性化しました。

参考:実際のキャンペーンページの一部

この取り組みは、経済的困窮に陥ることの多いひとり親世帯の「貧困」や「飢餓」といった問題に対する解決策をダイレクトに提供するだけでなく、「パートナーシップで目標を達成しよう」というSDGsの目標に沿った地域協力の基盤を提供しています。さらに、その取り組み自体が自社サービスに合致しており、キャンペーンによって親和性の高い新規ユーザー獲得につながる形もつくられています。マーケティングの観点でも非常に効果的な施策と言えるでしょう。

日本タクシーの女性ドライバー × 添乗員施策

日本タクシー(岐阜県岐阜市)は、コロナ禍の影響による乗客減少や運転手不足の現状を鑑み、女性ドライバーを起用し観光ガイドの付加価値をつける新たな事業戦略を試みています。ツアーコンダクターの資格取得につながる研修制度の導入や、女性専用の控室を設ける働きやすさ向上など、事業内容だけでなく教育・環境づくりの面でも包括的な改善を行っている点が高く評価され、メディアでも取り上げられています。

本施策は、男性社会であったタクシー業界におけるジェンダー平等の実現に貢献するだけでなく、コロナ禍における感染防止効果の高い新たな観光の形を提供するサステナブルなアイデアで、利用者、事業者、そしてドライバーいずれの立場にとっても価値があります。また、人材採用と利用訴求の双方で語れるため、マーケティング効果が高い内容であることもポイントです。雇用創出と観光産業の利用という点では、地域活性化への効果も期待できます。

「SDGs × SX」がマーケティングに直結する戦略を考えよう

先に挙げた二例には、以下のような共通点があります。

  1. 「環境のため」「世界のため」ではなく、「ユーザーのため」という視点からSDGsに通じる戦略が立てられている
  2. 広告やCSRなどのための施策ではなく、事業そのものの見直しが背景にある
  3. 結果としてマーケティング効果が高く、企業の持続性にも直結する形が生まれている

不安定な時代に事業自体を見直すことを躊躇する企業も少なくありませんが、それがユーザーニーズに応えるものならば、挑戦する効果があることを本事例は示してくれています。また、的確にニーズを満たす戦略であれば、自ずとマーケティングにも役立てられます。その確度を高めるためのデータ取得手段としてデジタルマーケティングをかけ合わせれば、より事業戦略としての精度を高めることができるでしょう。

マーケティングと事業戦略、そしてSDGsへの取り組みが社内で分断されていると、なかなか本質的な施策を導き出すことはできません。混乱の時代だからこそ、長期的な経営を支えるアイデアのヒントは社会課題と密接に関わっています。社会におけるサステナビリティと自社サービスの交点を見出し、それを訴求ポイントと捉えてどう伝えていくかが、今後のマーケターにとって重要なテーマになっていくでしょう。

このような俯瞰的な戦略を推進するためには、経営者をはじめとした社内上位クラスの意思決定が鍵を握りますが、マーケティングの視座からボトムアップで変革を促すこともひとつの方法です。今回解説した企業課題や事例からヒントを得られた方は、ぜひ自社における最適解を探し出していただきたいと思います。

筆者プロフィール
宿木雪樹(やどりぎ ゆき)

広告代理店で企画・マーケティングについての視座を学んだ後、ライターとして独立、現在は企業の魅力を伝える記事執筆を中心に活動。大学にて文化研究を専攻したバックボーンを生かし、メディアのトレンドについてフレッシュな事例をもとに紹介する。2018年より東京と札幌の2拠点生活を開始。リモートワークの可能性を模索中。
記事カテゴリー
SDGsと担当者