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焼おにぎりが「除菌ウエットティッシュ」にアップサイクル! フードロス・ゼロを目指して"ハミダス"、ニチレイの新たな挑戦

2024年04月17日

日本では、まだ食べられるのに廃棄される「食品ロス」が、年間で523万トンに達するといわれている。その問題意識を強く持ち、フードロス・ゼロを目指し、新たなチャレンジに挑んだ、ニチレイフーズの原山高輝さんに話を聞いた。

株式会社ニチレイフーズ マーケティング部 マーケティンググループ 原山高輝さん

フードロ削減に向けた、新たな挑戦

2022年は、ニチレイフーズにとって「挑戦」の年だった。

同社は業界大手の加工食品会社であり、これまでに数多くの冷凍食品を発売し、ヒットを生み出してきた。冷凍食品は、使いたいときに解凍し、必要な分だけ使えるサステナブルな食材だ。それでも「食品メーカーとして、フードロスの削減が取り組まなくてはならない課題であることに変わりはない」と、同社マーケティング部マーケティンググループの原山高輝さんは力強く語る。

一方で、同社のフードロスはほぼゼロに近く、製造工程でライン上からこぼれた食材や、形が崩れたもの、焦げ付きなどの「残渣(ざんさ)」と呼ばれる残りカスはすべて、肥料などに加工し、100%リサイクルしてきた。

すでに取り組みとしては十分とも言えるなか、ニチレイフーズは2022年、新たなSDGsアクションとして、自社初となるアップサイクル商品「『焼おにぎり』除菌ウエットティッシュ」を発売した。パッケージデザインに使用されているのは、同社の看板商品「焼おにぎり10個入」。生活雑貨店ロフトでの販売をきっかけにメディアからの取材が殺到し、SNS上でも話題となった。

こうして同社のフードロス削減に向けた、新たな一歩はマーケティングとしても成功を収めた。

なお、この取り組みは、従業員の"ハミダス"気持ちをカタチにするニチレイフーズ独自の活動「ハミダス」活動のひとつ。2011年の開始当初は、風土改革を目的にした活動だったが、現在では「ハミダス」活動自体が枠を超えて、環境保護活動やSDGs活動までもが活動領域となっている。

「ハミダス」活動から生まれた、ニチレイフーズ初となるアップサイクル商品「焼おにぎり」除菌ウエットティッシュ(10枚入り、187円(税込))

フードロス・ゼロ実現には、寄付やリサイクルだけでは足りない

そもそも、老舗冷凍食品メーカーであるニチレイフーズは、なぜ看板商品を活用した、除菌ウエットティッシュ開発・販売に挑戦したのだろうか。

「ニチレイフーズでは、味や品質に問題はないものの、外箱が破損している商品や出荷単位から外れた半端品などを子ども食堂などへ寄付することで食品ロスを減らす取り組みを当時から行っていました」と話す原山さん。しかし胸の内には、「寄付やリサイクルだけでは足りない」という思いがあったという。

「肥料への加工はいわゆるダウンサイクルで、寄付は水平サイクルです。食品ロス削減をさらに推し進めるためには、新たな製品へと生まれ変わらせる『アップサイクル』にも取り組み、"ハミダス"必要があると私は考えていました」

経営コンサルタントの国家資格「中小企業診断士」の資格も持つ原山さんは、SDGsへの取り組みを、ビジネスや経営視点でとらえており、情報収集にも余念がなかった。2019年には、中小企業診断士の分科会で、バイオベンチャーである、株式会社ファーメンステーションと運命的な出会いを果たした。同社は独自の発酵技術で、未利用資源を再生・循環させるための事業開発を行う、研究開発型のスタートアップだ。

「ニチレイフーズの工場で残渣として出る米や小麦粉も、発酵させてアルコールにすれば、さまざまなものに活用できると聞き、大変興味を持ちました」

翌年(2020年)、サステナビリティ推進部ができたことを好機ととらえ、ファーメンステーション社に協業を打診。残渣のアップサイクルという、未知の領域への挑戦が、本格的にスタートした。

アップサイクルへの思い、開発の経緯を語る原山さん

直面した「残渣の調達」という問題

ファーメンステーション社の商品化実績を鑑み、つくる製品は「除菌ウエットティッシュ」にするところまでは、順調だった。しかし問題は、発酵の原料となる残渣をどの商品で調達するか、だった。

「当初は、業務用春巻の皮を使うというアイデアもありました。ファーメンステーション社は岩手県奥州市のラボを中心に、地域循環型事業を推進しています。同じ東北にある弊社・宮城県の白石工場との協業で、業務用春巻の皮の残渣を使おうという話が出たわけです」

しかし、業務用春巻は一般消費者の目に触れるものではない。アップサイクルする素材は、より身近なほうが、生活者が「自分ゴト」にできると原山さんは考えた。そこでさらに視野を広げ、2021年に発売20周年を迎え、冷凍炒飯カテゴリーにおける年間売上世界No.1として、ギネス世界記録™に認定された「本格炒め炒飯®」の残渣を使うことを思いついた。

「ところが、実際に調査してみると、同商品の残渣は、油分や具材などが混じっており、発酵に適さないことがわかりました」

ならばと、次に目をつけたのが、同社の看板商品であり、知名度も十分の「焼おにぎり10個入」だった。

ニチレイフーズ「焼おにぎり10個入」

「焼きおにぎりに主に使用しているのは、国産米と醤油たれです。この残渣なら発酵に問題ないことがわかり、同商品の除菌ウェットティッシュ、アップサイクル商品の発売が正式に決定しました」

焼きおにぎりの製造過程で発生する残渣を、発酵・蒸留によってエタノールにし、除菌ウエットティッシュに活用。さらに、エタノールと一緒に生成された発酵粕(発酵残留物)はニワトリの飼料にするなど、徹底的に無駄を排除することで、真のアップサイクルを目指した。

パッケージデザインでこだわったのは、元の顔を見せること

原山さんは、アップサイクルに挑むうえで、商品パッケージにもこだわった。当初は、スタイリッシュなデザインで、かつ環境に優しいイメージを打ち出そうと考えていたそうだ。

「ですが、それでは当社の人気商品を使ったアップサイクル品だということがわかりません。そこで、きちんと元の商品の顔を見せようと、『焼おにぎり10個入』のパッケージをそのままデザインとして使うことに決めました」

結果、情報感度の高いアイテムを率先して取り扱う生活雑貨店「ロフト」が興味を示し、真っ先に店舗取扱が決定した。さらに、テレビのニュース番組でも取り上げられ、番組を見たという生活者が売り場を訪れるという好循環が生まれた。

「看板商品のパッケージをそのままデザインに反映したことが、ニチレイフーズのアップサイクル商品のアピールにも、ブランドイメージの向上にもつながりました」と、原山さんは成功のポイントを語る。

ちなみに、残渣を発酵させてアルコールを抽出し、それをウエットティッシュに加工するという取り組みは、他社でも実績があり、決して珍しいものではない。

「ただ、当社のように、単体の商品に限定して取り組み、パッケージまで連動させたというケースはどこにもありません。こうした遊び心もウェットティッシュをお選びいただく理由になったのではないかと思っています」

「焼おにぎり10個入」のパッケージをそのままデザインに活用した、「焼おにぎり除菌ウエットティッシュ」(右)。看板商品の認知度が、そのままアップサイクル商品への興味につながった

"ハミダス"活動の一環とは言え、同社が食品以外の商品を販売するのは初の試み。不安はなかったのだろうか?

「人気商品のパッケージを使う以上、イメージを毀損しないよう、安全性や品質は徹底してこだわりました。販売だけでなく、取引先や得意先にもノベルティとしてお配りしたところ、『おもしろい取り組みをしている』とコミュニケーションのきっかけにもなっています」

また、社員からも好評で、「積極的に自社のアップサイクルを説明できるようになった」と言われることも多いと言う。原山さんの挑戦は、社員の意識啓発にもつながった。

アップサイクル商品第二弾は、ノベルティとして活用

原山さんはその後、2023年にアップサイクル商品の第二弾として、「今川焼(あずきあん)」の規格外品から抽出したエタノールを使った「『今川焼』から作った除菌ウエットティッシュ」を開発。さまざまなイベントで、参加者へのノベルティとして配布されている。

「『今川焼』から作った除菌ウエットティッシュ」(右)も、「今川焼」のパッケージをそのまま使用。好評を博している

共感を生むためのポイントは、「真面目にふざける」

SDGsへの取り組みを目に見える形で進め、社内外に広げている原山さん。最後に心がけていることを聞いた。

「SDGsの取り組みには、遊び心が大事だと考えています。絶対的な安全性が求められる食品メーカーの我々は、本来とても真面目な会社です。しかし、SDGsを大上段に構えていては、生活者にも従業員にも響きません。まずは、おなじみの商品や親しみのある価格で手に取っていただくこと。そのために、『真面目にふざける』ことを意識して、これからもSDGsの取り組みを進めていきたいと考えています」

「これからも新しいアイデアを形にしていきたい」と展望を語る原山さん

撮影/村田克己 取材・文/相澤洋美 編集・コーディネート/丸田健介・赤坂匡介(講談社SDGs)

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