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ファッション業界は、持続不可能な産業から脱却できるのか? サステナブル・ブランド国際会議2024 東京・丸の内 オープンセミナーレポート ── 「2024年、サステナブルファッション、本格始動へ」

2024年04月26日

環境に悪影響をおよぼしている「産業」と聞くと、製造業界や輸送業界、食品業界をイメージする方が多いかもしれません。しかし実は、ファッション産業も、CO2の大量排出や海洋汚染、取引の公平さや労働環境にまつわる問題など、多くの課題を抱えています。その現状と目指す未来について、2月22日(木)に開催された「サステナブル・ブランド国際会議2024東京・丸の内」のオープンセミナーにて、ファッション業界の有識者3人が意見を交わしました。

有識者3人が語る、ファッション業界の現状と課題

講談社「FRaU」編集長 兼 プロデューサー 関 龍彦(以下、関) 環境省が推進する「デコ活」(※)をきっかけに、さまざまな企業や自治体のSDGsへの取り組みがさらに広がり始めています。

※デコ活:二酸化炭素(CO2)を減らす脱炭素(DE:Decarbonization)と、環境に良いエコ(Eco)を含む「デコ」に、活動・生活の「活」を組み合わせた、新しい国民運動

こうした状況下におけるファッション業界のSDGsについて、本日は2人のゲストとともに考えていきたいと思います。

1人目は、日本で唯一のファッション領域に特化したソリューション・グループであるワールド・モード・ホールディングス代表取締役の加福 真介さん。
そしてもう1人は、ファッション業界専門紙「WWDJAPAN」の編集統括兼サスナビリティ・ディレクター向 千鶴さんです。お2人とも、本日はよろしくお願いいたします。

ワールド・モード・ホールディングス株式会社 加福 真介さん(以下、加福) ご紹介ありがとうございます。ワールド・モード・ホールディングス株式会社の加福 真介と申します。

当社は、日本で唯一のファッション領域に特化したソリューション・グループです。クライアントの課題に対し、ファッションに精通したスペシャリストたちが最適なチームを組み、ソリューションを提供しています。現在はグループ全体で、国内外のラグジュアリー、アパレル、コスメ、ライフスタイル、商業施設など1500社以上の企業さまとお仕事をさせていただいております。こうした企業さまと横断的な連携をして、業界全体のサステナビリティに貢献できたらと考えております。

本日は、どうぞよろしくお願いいたします。

「WWDJAPAN」編集統括 兼 サスナビリティ・ディレクター 向 千鶴さん(以下、向) WWDの向と申します。WWDJAPANは、1910年にアメリカで創刊された「WWD(Women's Wear Daily)」の日本版ファッション業界専門紙です。ファッション・ビューティ業界のビジネス、トレンドニュースをはじめ、業界人のインタビューなどを掲載しています。

ファッション専門誌として、これまではトレンドやコレクション情報などを中心に発信してきましたが、今後はよりサステナビリティにシフトした情報も伝えていきたいという思いで、いまは仕事をしています。本日はどうぞよろしくお願いいたします。

「WWDJAPAN」は、雑誌とデジタルで展開されている 画像出典:WWDJAPAN

 ありがとうございます。簡単に私の紹介もさせてください。

講談社に入社後、「ViVi」や「VOCE」などファッション誌の編集を経て、「FRaU」に配属。2018年12月に、女性誌ではじめて丸ごと一冊SDGsを特集した「FRaU SDGs」号を発行し、大きな話題となりました。以来、「FRaU」では、継続的にSDGs特集号を発行しています。

2018年12月に発行、女性誌ではじめて丸ごと一冊SDGsを特集した「FRaU SDGs」号(2019年1月号)

また現在は、通常のSDGs号以外に、SDGsのなかの"あるテーマ"に特化したムック号や、地域のローカルSDGsをテーマとする「S.TRIP(SDGs TRIP)」号なども展開しています。

今回、「サステナブル・ブランド国際会議2024 東京・丸の内」の開催にあわせ、「FRaU S.TRIP」の特別号として、<丸の内特集号>を発行しました。会場でお配りしておりますので、ぜひご覧ください。

会場内のラックにも設置された「FRaU S.TRIP」丸の内特集号

多くの課題を抱える「ファッション産業」

関 加福さん、まずはファッション産業における課題から教えてください。

加福 はい。ファッション産業は、エネルギー産業に次いで環境負荷の大きい業界だといわれています。大気汚染や海洋汚染、大量廃棄の問題、そして水を大量に使うことで水源が枯渇するなど、ファッション産業は、多くの課題を抱えています。

「ファッション産業は多くの課題を抱えている」と語る、加福さん

 1枚のTシャツを作るのに2700Lの水が必要といわれていますが、特にコットンは水を大量に使います。それも関連して水源が枯れて、砂漠化してしまうケースも出ています。
(砂漠化の原因は多様でコットン栽培はその一部のため)

 お2人とも、ありがとうございます。
いま、環境面での課題を見てきましたが、ファッション業界には2013年の「ラナ・プラザ崩落事故」(※)で表面化した製法工場の労働環境問題、児童労働、動物毛皮問題など、ほかにも課題があります。

※「ファッション史上最悪の事故」と呼ばれる本調査では、低賃金かつ劣悪な労働環境の実態が判明。ファッション業界における、サプライチェーンの透明化が叫ばれる契機となった。

たとえば、衣類価格の下落もそのひとつです。ここで、衣類価格の推移をまとめたデータをご紹介します。これは、日本国内における洋服1枚の単価推移を示したものです。

日本国内では、衣類の価格が年々下がっている

年々価格が下がり、1990年には1枚あたり6,848円だった衣服の価格が、2021年は2,785円と約半値になっています。これは、大量生産、大量消費、大量廃棄というデフレスパイラル(物価の下落と実体経済の縮小)の結果です。

商品を作っても価格が上がらなければ、従業員の給料アップも労働条件改善もできません。そして、働く人が幸せで活力に満ちた状態にならなければ、ファッションを楽しむこともできません。

つまり、ファッション業界のデフレスパイラルを断ち切ることができれば、環境にも豊かさにも貢献できるといえます。

この先を考えることも、いまのファッションビジネスには必要

 では早速、「WWD JAPAN」の向さんとともに、日本のファッションの現状、ファッション業界の課題、そしてファッションの持続可能性について考えていきたいと思います。

その前に、会場の皆さんは、今日ご自分が着ている服が「どこから、どのような経緯を経て皆さんの手元にやってきたのか、ご存知ですか?」。それを知ることで、ファッションの課題が少し見えてくるのではないかと思うのですが、向さんいかがでしょうか。

「いま着ている服に目を向けることで、ファッション業界の課題が見えてくる」と語る、関

 ありがとうございます。いま、関さんが解説してくださったように、ファッション業界はあまりにも多くの課題を抱えています。
そこでWWDでは2022年、身近なファッションが社会・環境にどのような影響を与えるのかをテーマに選び、海洋プラスチック問題や大量生産・大量廃棄問題などを特集しました。

ファッション業界の課題が見えてくる2022〜23年のWWD JAPANの表紙

 はじめに考えたのが、洗濯がマイクロプラスチック(微細なプラスチックごみ)を出すということです。たとえば、フリースを始め洋服の6割がポリエステル、石油からできています。洗濯すると、それらが小さな粒子となって海に流出し、それを魚が食べ、さらにその魚を私たちがお寿司として食べている。こういう現状を多くの方に知っていただきたいと考え、2022年7月25日号では、海の豊さを守るために、ファッション&ビューティ業界ができることを特集しました。

また、近年は衣料品の回収が目立つようになりました。しかし、集めた先がどうなっているのかがわかりません。本当に誰かの役に立ったり、何かしらの解決になっていたりするのかという答えが見えないことに疑問を感じていました。
そこで、回収した衣類がどうなっているかを調べました。これにより、これまで「売って終わり」だったファッション業界のこの先を考えるきっかけを提示することも、ファッションビジネスにとって必要だなと感じました。

「WWDJAPAN」編集統括 兼 サスナビリティ・ディレクター 向千鶴氏

 回収している側も、それが最終的にどうなるかわからないという現状があったのですね。

 はい。使用済み衣類を熱エネルギーとして再利用する「サーマルリサイクル」に活用されている可能性もありますが、古着として海外に輸出されたら、その先海岸などに捨てられていたとしても、これまではまったくわかりませんでした。

サステナビリティとファッションの話題は2023年くらいからは「売り場が主役」に変わってきました。過去5年くらいは、生地をバージン素材からリサイクル素材に変えましょうとか、「生分解性」もいいのだろうかなど(その後、生分解性素材の是非は議論をされているため)、生産現場の変化が進んできたわけですが、ここへきて、お客さまにお渡しする売り場での変化がメインになってきたなと感じています。

結局、いちばん大事なのは、「トレーサビリティ」だと思います。
自分たちが売っているものや作っているものが、誰の手によって作られ始めて、誰によって渡されているのか。そしてそこから回収ボックスの先までをたどる道を知ることを諦めないということが大事だと考えます。
服作りの工程を意味するサプライチェーンは壮大なので道をたどることを諦めそうになるんですけど、「諦めない」ということが大事だなと最近はすごく思っています。

こうした点でいちばん進んでいる企業はパタゴニアです。これまでのように、「たくさん作って、たくさん売り上げて、たくさん利益を出してハッピーになろう」とは違う、新たな資本主義の考え方が提唱され始めています。

ファッションの原点は農業

 なるほど、よくわかりました。ちなみに、いまのファッション業界を「言葉」で表すとすると、どういう状況なのでしょうか。

 そうですね、ファッション業界全体というより、私自身が気にしている言葉を選ぶとしたら、いまは「ファッションは農業だ」と言いたいです。
私は今日、ウールとシルクが入ったスーツを着ています。今日ご参加くださった皆さんも、ウールかポリエステル素材の服を着ている方が多いと思います。ポリエステルは石油ですが、ウールは羊の体から取ってきた素材です。その羊の毛は、羊が草を食べて成長したから育ったものです。

また、コットンは綿花を摘んでできています。工業製品だと思っていると見えないことも、ファッションの原点が農業だと思うと見えてくることがたくさんあるのではないかと思います。

「ファッションの原点は農業」と語る、向さん

いまは社会全体で循環やCO2排出量削減、生物多様性(※)というキーワードが注目されていますが、ファッションにおいても生物多様性はとても重要です。このまま何も対策をしなければ、動物も草木も存在できなくなって、ファッションも生産できなくなります。作って売って終わりではなく、それを循環型に変える生産の方法を考える。そして、「着なくなったから捨てる」ではなく、リペアしてもう1回作るなど、作る方も使う方も根本的に考え方を変えていかなければいけないと思います。

※人間を含め、すべての生き物は、一種だけで生きていくことはできない。多様な生物とつながりによって、生きていくことができる。生物は皆、互いにつながり、生きていることを表す言葉

SDGsとファッションの関係。半分は社会の問題

 ファッションの先を考えている人こそ、生物多様性を考えないと、ビジネスとして成り立たないということですね。

 はい。こちらの図もご覧ください。
これは、SDGsとファッションの関係性を自分の頭の中で整理して作ったグラフです。青が環境で、オレンジが社会です。
「SDGs」というとどうしても環境問題に目がいきがちですが、実は半分は社会の問題だということを知っていただきたくてこの図をつくりました。

SDGsとファッションの関係性。半分は社会の問題

 青で示した環境の課題は、気候変動、生物多様性、海洋汚染などがあり、オレンジで示した社会の課題は、ダイバーシティ、労働環境、性差などがあります。
ファッション業界はこうした課題に対し、たとえばピーチ・ジョンさんが多様なサイズのモデルを起用したり、化粧品ブランド「SUQQU(スック)」さんがファンデーションで「標準色」という色をなくすトライをしたりするなど、さまざまな対応を進めています。

また、珍しいところでは、ダイヤモンドを地球から掘らずに空気からダイヤモンド組成と同じものを生み出す技術もできています。いまあるものを守ることもそうですが、新しい科学技術やデジタルを総合して、いままでになかった価値を作ったり、意識を変えたりしていくことも大事だと思います。

 SDGsとファッションは遠いように感じている人も多かったと思いますが、向さんのお話で、実は身近な問題だったのかと知ることができたのではないかと思います。ファッション販売の現場であるスタッフさんの意識も変わってきているのでしょうか?

 はい。丸の内にはたくさんファッションの路面店があります。今回、販売員さん973人にアンケートを取らせていただきましたが、販売員の方のサステナブルへの意識の高さを感じました。

また、「お客さまと接していて、お客さまにサステナビリティの意識があると思われますか」という質問に対しては「あるようだけれども最終的には価格やデザインで購入されている」と答えた方が37.3%いました。

お客さまのなかでもSDGsに関心や課題感を持っている方は多いけれど、それだけが買う決め手になっているわけではありません。
こうなってくると、店頭の販売員さんとの会話が、これまで以上に重要になってきます。

QRコードを読み込めば、生産者の情報がわかる仕組みもありますが、誰かが本気で思っていることを本気で伝えることがいちばん響きます。環境やサステナビリティを気にするだけでなく、たとえ少し価格が高くなっても選んで買っていただくためには、販売員さんや業界全体として、がんばらなければいけないなと感じました。

 製品がサステナブルにどう配慮された製品であるかという生活者への情報も、まだまだ足りていませんよね。

 そうですね。そういう意味で、業界が発信していくことや、消費者の方の関心を正しく伝えていくということが大切だと思います。

ファッション業界を変える担い手の育成が急務

 なるほど。いろいろな問題が見えてきましたね。
では具体的にファッション業界を変える担い手となる人を育成していくにはどうしたらよいのか。そのあたりについて、今度は加福さんにお話いただきたいと思います。加福さん、お願いします。

加福 はい、よろしくお願いいたします。

「WWDJAPAN」さんでも、SDGsの推進で有名なイギリスのファッションデザイナー、ステラ・マッカートニーさんの特集記事を出されるなど、デザインや価格だけではなく、いかに共感されるかということをブランドの価値として発信されています。このブランドの価値を伝えるのは、店頭で働いている販売員であり、販売員が幸せでなければ、お店にいらっしゃるお客様を幸せにすることもできません。

しかし、先ほど向さんもご指摘くださったように、ファッション業界では、人の重要性は高まる一方でなかなか給料が上がらない、土日が休めない、キャリアパスが見えないといった課題が多くあります。

そこで、販売員のキャリア形成や働く環境の改善、社会的地位の向上を目指して、国内外のファッション、ビューティーのブランドや商業施設の皆さまと力を合わせ、「日本プロフェッショナル販売員協会(JASPA)」を立ち上げました。販売員教育の実施や資格制度の創設・運営、最近では人事担当者を対象とする勉強会の開催や、サステナビリティの研究会を発足するなど、販売員の労働環境の改善と地位向上に尽力しています。

このようなJASPAの活動が、実際に、給料アップ、勤務時間や休みへの配慮、産休復帰率に着目して環境改善していくといったブランドの取り組みにつながっています。また、デジタルを駆使して、販売のバックヤード業務を圧縮してお客さまとの対話の時間により集中できる環境を作ったり、販売員のコミュニケーション力をPR活動やECサイト構築に活かし、キャリアパスを拡張するような動きも出てきています。

 2016年に同協会を立ち上げる以前は、このような制度はなかったのでしょうか。

加福 はい。しかし近年はようやく、国内でもさまざまな取り組みが進んできています。

たとえば、サザビーグループのカルフォルニア発のセレクトショップ「ロンハーマン」さんでは、"お客さま"と"働くメンバー"、"コミュニティ"、"環境"の4つのエリアに着目して活動されています。働くメンバーがこの輪に入っているのは、働くメンバーの幸せ無くして、お客さまの幸せはありえないという理由からです。
お客さま、環境、コミュニティ、そして働くメンバーの間に相乗効果を起こして、よい循環を生み出しています。

 トレーサビリティの話で言うと、ロンハーマンさんは、三井物産さんとの取り組みでトレーサビリティの仕組みを導入されるなど、多面的に活動をされていますよね。
「従業員の幸せ」というお話がありましたが、パタゴニアがサステナビリティに取り組み始めたきっかけは、倉庫のスタッフが化学染料を使っているお洋服を大量に扱うことで体調を崩したことが原点だと聞いています。
「体調が悪いなら休んでね」で終わらせずに、「働く社員のために、化学染料を作った服を扱うのはやめよう」と徹底する姿勢がいまにつながっているということだと思います。

加福 まさにおっしゃる通りだと思います。
お客さまと作り手を"つなぐ"のが売り手です。店頭と本社の連携がますます必要になっている今の時代、働く人の幸せに着目する企業が増えていくのは当然の流れだと思っています。

ファッション業界で働く人やファッションに興味のある大学生などが参加し、満席となった会場内

ファッションによる環境負荷の削減を目指す協業

加福 最近ポップアップストアが増えてきていますが、お店のリニューアルや入れ替えで解体する際にたくさんの廃材が出てしまうのが課題とされてきました。

そこで、私たちは、リサイクルのコンサルティングを行うモノファクトリーさんと協業し、店舗を解体するときに出る廃材のリサイクル率を高めたり、排出CO2の削減を策定したりするコンサルティングを行うサービスの提供を始めました。
また、捨てるのではなく再利用という点では、捨てられる予定だった洋服を圧縮して資源循環型の繊維リサイクルボード「PANECOⓇ(パネコ)」へのアップサイクルに取り組むワークスタジオさんとの協業も進めています。

 ブランドのタグがついたままリサイクルに出回るとブランド毀損になる可能性もあり、これまでリサイクルは進んでいませんでした。ですが、圧縮加工されることでブランドタグもまったくわからなくなるので、ブランドを毀損せずにリサイクルを推進できるという強みがあっていいなと思います。

 「FRaU」も「PANECOⓇ」には着目しておりまして、FRaUのSDGsアワードでお渡しするトロフィーをPANECOⓇで作っていただきました。完全に白や黒にならないところがまた味わいがあっていいですよね。

加福 そうなんです。関さんがおっしゃるように、デニムでつくったPANECOⓇは青みがかった仕上がりになりますし、赤い洋服でつくったPANECOⓇは赤みがかったものになります。それもまた味ですよね。

日本最大規模の学生SDGsアワードイベントに協賛

加福 こうした活動を次世代に伝え、ファッション業界の新たな担い手を増やしていくことも私たちの重要な活動のひとつと考えています。

そこで、日本最大規模の学生SDGsアワード「BEST SDGs AWARD for University」というイベントに協賛し、ファッション業界のサステナビリティ課題を学生たちとともに考えるシンポジウムも開催しています。
実際に、自分たちのアイデアを事業化している学生さんもいますが、今後もこうした活動を重視し、未来世代とファッション産業のつながりを何か作っていけたらと思っています。

ファッション産業がよくなれば、世界がよくなる

 若い方の力が発揮できる場所と機会を設けておられるのはすばらしいですね。販売員のサステナビリティの知識や意識を高める場も設けておられますよね。

加福 はい。明日から現場で取り組める活動はどういうことがあるかなどをお伝えする「販売員向けのサステナビリティウェビナー」を定期的に開催しています。
関さん、向さんにもご登壇いただいたことがありますが、前回は、サステナビリティに力を入れる企業さまにご登場いただきました。ウェビナーを通して、ファッション業界の変化と、販売員が主役なんだということをお伝えしています。オンライン開催ではありましたが、我々が「販売員の皆さんが大事なんですよ」と繰り返しお伝えすることで、現場の皆さんの責任感ややりがいにつながるということを感じました。

 私は大学卒業後、アパレルメーカーに就職して最初の1年は販売員として店頭に立っていましたが、当時はそんなセミナーはありませんでした。私世代の人たちは、何も知らずに現場に立ち続けたので、あの頃そういうセミナーがあればもっといい働き方ができたと思いますし、そんな意味でも、私たちが大人たちがこういう活動をしていくことは大切だと、あらためて再認識しました。

 当時は、先ほど加福さんがご紹介くださった日本プロフェッショナル販売員協会も当然なかったわけですよね。

 はい。いかにたくさん売るかしか教わらなかったですし、ファッション業界の課題について学ぶ研修もありませんでした。

 いまは、国も本気で環境課題や社会課題に取り組み始めていますよね。
環境省は、2050年カーボンニュートラルと2030年度削減目標の実現に向けて、国民・消費者の行動変容・ライフスタイル変革を強力に後押しする「デコ活」を推奨しています。ファッションはこのデコ活に、もっと貢献できるのではないかということで、「FRaU」も一緒に何かできないかと協業を考えているところです。

加福 私たちも関さんからお声がけいただき、ぜひ一緒に活動したいなと思っています。

 SDGsへの取り組みは待ったなしです。楽しみながら、少しずつでも生活を変えるきっかけになればいいなと思います。

 環境汚染の観点から、若い人たちがファッションに関わることに罪悪感を覚える時代です。それを生み出したのは、いまの私たち、大人たちです。若い世代の方たちが罪悪感を覚えることなく、ファッション業界に魅力を感じてもらえるような世の中を、皆さんと一緒につくっていきたいと思っています。

加福 ファッション産業が変われば、より広く世の中の人たちの習慣や環境を変えていけると信じています。今日ここにいらしてくださった皆さまをはじめ、多くの方々のお力を借りて、一緒にファッション産業や世の中を変えていきたいと思います。

 皆さま、本日はありがとうございました。


<セミナー概要>

日時:2024年2月22日(木) 15:00-16:00
会場:明治安田ヴィレッジ丸の内 明治安田ギャラリー
形式:リアル開催のみ
主催:サステナブル・ブランド ジャパン

■登壇者
加福 真介氏/ワールド・モード・ホールディングス株式会社 代表取締役
向 千鶴氏/株式会社INFASパブリケーションズ 「WWDJAPAN」編集統括 兼 サスナビリティ・ディレクター
モデレーター:関 龍彦/株式会社講談社 FRaU編集長 兼 プロデューサー

記事カテゴリー
SDGsと担当者