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GO クリエイティブディレクター 砥川直大さんが登壇! 「これからの変化のつくり方〜メディアと企業にできること〜」──「FRaU共創カンファレンス2024→2025」レポート①

2025年01月30日

2024年12月18日(水)、講談社で開催された「FRaU共創カンファレンス2024→2025」。The Breakthrough Company GO クリエイティブディレクター 砥川直大さんが登壇されたセミナー「これからの変化のつくり方〜メディアと企業にできること〜」の様子をレポートします。

GOの砥川直大さん(右)と、進行役の「FRaUweb」編集長 新町真弓

学びと共創の場「FRaU共創カンファレンス」

2018年にスタートを切ったFRaU×SDGsプロジェクト。2018年末に発売された、まるごと一冊SDGs特集のFRaU SDGs号「世界を変える、はじめかた。」は、社会現象といえるほどの大反響を呼びました。以来、「FRaU」はSDGsのリーディングメディアとして、広く知られるようになりました。

今回、"1冊まるごとSDGsシリーズ"の25号目となる「FRaU SDGs もっと話そう、気候危機のこと。」の発売(2024年12月17日刊行)を記念し、「FRaU」のパートナー企業・団体の方を対象とした、SDGsの学びを深めるセッションと情報交換(交流)を目的とした招待制イベント「FRaU共創カンファレンス」が開催されました。

第一部はセミナー、第二部は懇親・情報交換会の二部制。はじめに、「FRaUweb」編集長の新町真弓が挨拶し、当日の流れを説明してからセミナーに移りました。

「伝えにくいことをどう伝えていくかを考えることはメディアの役割のひとつ。砥川さんのお話はそのヒントがいつも詰まっています」と、新町が砥川直大さんを紹介してセミナーは始まった

トレンドとしての「サステナビリティ」は終わった

第一部のセミナーに登壇した、The Breakthrough Company GO クリエイティブディレクター 砥川直大さんは、広告代理店を経て、GOに入社。現在は、企業のSDGs、サステナビリティなどの社会課題と向き合う案件を多く担当している

砥川 みなさんこんにちは。砥川直大(とがわ・なおひろ)と申します。
GO(ゴー)という会社で、大手企業のブランディングやプロモーションから、スタートアップの事業支援、さらには社会課題解決のお手伝いをしています。

いまは、よりよい商品をつくっているだけではなく、よりよい社会をつくっていることこそが企業やブランドの価値につながる時代です。

しかし、海外ではサステナビリティへの取り組みを後退させている企業が増えています。

たとえばNIKEは経費削減の一環として、サステナビリティマネージャーを数十人解雇し、ウォルマートやGoogleは保守派の圧力や政治的判断によりDE&Iの取り組みを縮小または中止しています。

かつてはサステナビリティへの目標を掲げるだけで株価が上がった時代もありましたが、もはやサステナビリティという一種のトレンドは完全に終わったといえると思います

海外では有名企業の「サステナビリティ離れ」がみられると説明する砥川さん

なぜこうしたことが起こるのでしょうか。
それは、誤解を恐れずに言うと、サステナビリティが総じて「ゆとりのある人の高次の欲求」だからです。

アメリカでも日本でも、多くの人はいま、物価高や雇用不安など、経済的に不安や疲れを感じています。「5年後や10年後の未来を考えよう」と言われても、今日明日の自分たちの生活が最優先と考える人が多い現状では、サステナビリティによって自分たちの欲望が抑制されているように感じてしまうのです。その結果、サステナビリティに反発を覚えるという状況になってきているのではないかと考えられます。

こうした状況下においては、サステナビリティの発信の仕方や広め方が非常に重要になってきます。そこで本日は、僕が近年実際にお手伝いした事例をご紹介しながら、本日のテーマである「これからの変化のつくり方」について一緒に考えていければと思います。

事例に見る、社会課題とクリエイティブ活用

社会課題を解決するテーマを扱うときには、現在そのテーマや課題がどのフェーズにあるかを念頭に入れてアクションを考えることが重要です。

社会課題解決までの道のりは、
① 問題を発見「誰かの困りごと」
② 社会ゴト化「社会課題」として認識される
③ 資源の導入
④ 課題解決 
の4ステップが一般的です。まずは、「問題や課題を可視化」するために2024年に取り組んだ事例(クリエイティブ)をご紹介します。

事例① ポスターによって、課題を可視化

このポスターは、東京大学のジェンダー・エクイティ推進オフィスの方々と一緒に行った取り組みです。

女性の進路やキャリア形成に大きな影響を与えている「言葉の逆風」という課題を、ビジュアルによって可視化した

東京大学の学生男女比は8:2。教員は9:1と、圧倒的に男性社会なコミュニティです。ただし、そもそも受験の段階で女子学生は2割程度しかいないので、女性の合格率が低いという話ではありません。

ではなぜ女子学生は東大を受験しないのでしょうか?

それは、子どもの頃から女性の進路・キャリアを妨げる言葉を受けてきた結果、意欲をそがれた人が多いからと考えました。実際に東大の学生や研究者にアンケートをとってみると、「女子なんだから浪人しないで」「学歴をつけても結婚できない」など、否定的な言葉を浴び続けてきた人が非常に多いことがわかりました。

こうしたジェンダーバイアスを「#言葉の逆風」と名付け、幼少期から浴びてきた批判的な言葉をビジュアル化しました。子どもの頃から投げかけられた多くの"言葉の逆風"によって、未来の可能性にまで影響を与えていることを可視化することで、多くの人にその事実を知ってもらうことを目指しました。

東大にとっては、ネガティブプロモーションにもなりかねない、非常に大きなチャレンジだったと思いますが、これをきっかけに学内でもジェンダー平等についてのシンポジウムがいくつも開かれるなど、さまざまな展開が生まれています。

事例② デフォルトを変えることで行動変容を促す

続いて「当たり前」だと思っていたデフォルトを変えることで、人々の意識や行動変容につなげた事例をご紹介します。

ライオン株式会社「Choose one Project」

ライオン株式会社の洗濯洗剤「NANOX one」の事例です。
商品名である「one」にかけて、「Choose one Project」というキャンペーンを展開。「服に、地球に、ちょっといいセンタクを。」というコピーで、「高い洗浄力で、衣類を長持ちさせられるNANOX one」と、「節水・節電になる洗濯のすすぎ1回」を選ぼう、と呼びかけるキャンペーンです。

「当たり前」と思われていたことを変えることで、無理なくサステナビリティへの意識と行動変容を狙ったライオンの事例

多くの方は意識もしていないかもしれませんが、洗濯機は「すすぎ2回」が標準設定になっています。しかし実は、これは粉洗剤時代の名残。「NANOX one」のような液体は、「すすぎ1回」で十分なのです。

キャンペーンでは「すすぎ1回を」とまずは呼びかけることからスタートしましたが、もし洗濯機メーカーと標準設定を1回に変えることができたら、毎回面倒な設定をしなくても節水・節電になり、CO2排出量も減らすことができるようになります。

無理なくサステナビリティへの意識と行動変容を促す手法として、デフォルト設定を変えるということに大きな可能性を感じた取り組みでした。こうしたことにチャレンジしようとするライオンさんの姿勢は素晴らしいと思います。

佐賀県庁 男性育休取得率100%

設定を変えることで人々の行動が変わった好事例は少なくはありません。
男性の育休取得率100%を目指す佐賀県庁では、男性の育休「取得」をデフォルトに設定。それまでは育休を取得するときに提出していた申請書を、「育休を取らない場合」に限り提出するよう変更しました。

「育休を取る」ための申請ではなく、「育休を取らない」ための申請に変えた佐賀県庁

すると、ほぼ100%の男性職員が育休を取得するようになったそうです。申請書を提出するという行為自体は変わらないのに、設定が変わるだけで結果が変わることが浮き彫りになりました。

スーパーやコンビニなどのレジ袋の有料化も、「無料」から「有料」へデフォルトを変更した結果です。デフォルトが変わると人々の意識や行動も自然と変容し、それがやがて大きな変化へとつながっていく。デフォルト設定を変えることは「プチ・システムチェンジ」だと思っていて、業界の慣習を見直すなど、大きな可能性があると思っています。

事例③ 共事者意識で「自分ゴト」化

続いて「共事者意識」で、サステナブルへの取り組みを「自分ゴト」としてとらえる事例をご紹介します。

スノーコミュニティが中心となり、気候危機から「冬を守る」ための活動に取り組む一般社団法人 Protect Our Winters Japan(POW)の取り組みです。

エネルギー基本計画の政策決定に影響力のある議員に政策提言するあたり、スノーコミュニティを巻き込み、大きな民意をつくり出すために、北海道新聞と信濃毎日新聞に全面広告を出しました。

気候変動に対する危機意識を「雪」に関わるすべての人へ呼びかけた新聞広告。多くの共感を呼び、賛同企業が続出。ムーブメントを生み出した

スキーヤーやボーダーだけでなく、スキー場も観光も地域経済も自然も、雪が無くなってしまうことで影響を受けることのインパクトを、みんなを「共事者」にすることで表現しました。この企画は、やり方を間違えると炎上しかねないものでしたが、特定の誰かではなく「(雪がなくなったら)全員負け」としたことで、強さを持ちながらうまく発信できたと思います。

新聞広告のインパクトはもちろん、「雪」に関わる110社もの業種業界を超えた人たちが一緒に声をあげることで多くのメディアに取り上げられました。現在は177企業・団体へと広がっています。いち企業だけではインパクトの弱いアクションも、束になることで大きなうねりを起こせることを証明した事例となりました。

インパクトのある新聞広告はSNS上で拡散し、多くのリーチと共感を獲得。賛同など具体的なアクションにつながった

事例④ 生活者の参加を促すサステナブルアクション

「買い物カゴ投票」で、サステナブルへの意思を表示

ここまでは割と広告的な事例でしたが、サステナビリティの取り組みには重要な、生活者の参加を促すコミュニケーション事例です。サステナビリティの取り組みは「こうしましょう」「これに切り替えましょう」などと呼びかけることが中心になりがちですが、本当の意味で態度変容を促すために何ができるのか。

世界最大規模の環境保全団体「世界自然保護基金ジャパン(WWFジャパン)」とともに、2択の問いかけに対して、買い物カゴの返却で回答する「買い物カゴ投票」を開発しました。スーパーからの問いに、消費者が簡単に意思表示でき、その声を受けてスーパーが取り組みを進めることができる新たな「ナッジ型」のコミュニケーションです。

スーパーの店内で展開された、「買い物カゴ投票」。カゴの返却が投票となるため、多くの票が集まった

最初の投票では、コープの店頭で「一部の肉をノントレー商品にしてもよいかどうか」の是非を買い物カゴで投票してもらい、「YES」が多数だったため数週間後にノントレー商品を拡充。すると、すぐに売上が通常の150%向上

スーパーからの問いに対して消費者が投票し、その結果によって店が変わり、消費者が進んでサステナを取り入れるという、まさに理想的な展開が生まれました。

「買い物カゴ投票」の結果を、実際に反映したところ、売り上げ向上にもつながった

実はこの取り組みで重要なのは、「スーパーがサステナブルな取り組みを行っている」ことをアピールできたことです。

サステナブルの取り組みは地味なものが多く、大変な割に消費者に知られていないことが多いのがよく課題になります。しかし、問いという形でスーパーの取り組みを事前に紹介することができ、かつその時点で取り組みに対するファンをつくることにもなり、「返却」が新しいコミュニケーションになりました。

この取り組みを全国のスーパーや自治体などに広がってほしいという思いから、「買い物カゴ投票」の実施マニュアルは無償で公開しています。講談社の「FRaUweb」さんでも記事にしていただきましたので、ぜひお読みください。

「FRaUweb」の記事は、こちらから。
https://gendai.media/articles/-/140112

生活者の感情に訴え、食品廃棄ロスを削減(ファミリーマート)

参加型アクションでもうひとつの事例をご紹介します。

ファミリーマートによる、食品廃棄ロス削減の取り組みです。

生活者の感情に訴えるシールを貼ることで、廃棄間近の商品購入率が伸びた

これまでファミリーマートでは、食品ロス削減のひとつの方法として、割引シールを活用していました。しかし、これには「安いから買う」という動機しかなく、日本人のもったいないという精神や食品ロスを減らしたい、という純粋な気持ちを活かせないかと考えました。

涙目のおにぎりのイラストと「たすけてください」というメッセージを割引シールに追加。消費者を一緒に食品ロス問題を解決するパートナーととらえ、「安いから買う」ではなく「食ロスを減らしたいから買う」への意識変容を狙いました。

ファミリーマートは全国に1万6千店舗ありますが、まずは2店舗で1ヵ月間の「実証実験」としてスタートしたところ、感情に訴えかけるシールのユニークさから、SNSやメディアニュースでも話題となりました。実証実験では、購入率が5ポイントアップ。これは全国に展開した場合、約3000トンの食品ロスの削減につながる計算です。これを受け、ファミリーマートでは、25年に全店舗での実施を予定しています。

メディアの後押しが企業のサステナブルを推進

ファミリーマートは1万6千店舗もあり、毎日多くの消費者が使うことから、その取り組みのインパクトは計り知れません。だからこそ、どんな取り組みをし、どんな方法で生活者を巻き込んでいくかを考えることは重要です。

同様の観点で、特にテレビや雑誌メディアには、大きな発信力やリーチ力があり、これらを上手く活かすことで、目指す方向に未来を進めていくこともできるはずです。

「たとえばメディアには、環境や社会に配慮した公益性の高い企業に与えられる国際認証『B Corp』を取得した企業や、事業活動で使用するエネルギーを100%再生可能エネルギーで調達する『RE100企業の媒体費を優遇するといった取り組みも可能なのではないか」

という話を以前とある会合でしたところ、FRaUさんがすぐに「"サステナブル先進企業"タイアップ特別優待制」を導入し、メニュー化してくれました。

こういう取り組みがどんどん広がっていくと、企業にとってサステナブルな活動はコストからインセンティブへと変わっていくので、取り組む企業が増えていくのではないかと思います。

メディアはときに、「中立」よりも「想い」を優先してもいい

企業とメディアがサステナビリティへの取り組みを進めていくときに、今いちばん気をつけなければいけないのは、消費者と同じ目線に立つということです。

日本ではあまりそのようなイメージがないかもしれませんが、実はトランプ次期大統領は消費者と目線を合わせるのが非常に得意です。その徹底した「庶民目線」が先の選挙結果にも大きく影響したと言われています。

サステナビリティは、知っている人から知らない人への一方的な矢印になりがちです。しかし、サステナビリティを生活や社会に浸透させていくには、「気づいたらアクションをしていた」という状況を生み出していくことも重要です。基本設定を変えることや、感情に訴えかけて態度変容を促すなど、コミュニケーションのあり方にも様々な工夫が必要だと思います。

また、メディアには中立でなければいけないという立場がありますが、共感やエンゲージを生むには、熱い想いも必要。ときには企業と一緒に、あまり中立にこだわりすぎず、社会や環境課題の解決に向かって邁進していくという姿勢も必要なのではないかと思います。


開催概要:
2024年12月18日(水)
「FRaU共創カンファレンス2024→2025」
第一部:「これからの変化のつくり方〜メディアと企業にできること〜」
登壇者:The Breakthrough Company GO クリエイティブディレクター 砥川直大
総合司会: 「FRaUweb」編集長 新町真弓

記事カテゴリー
SDGsと担当者