2020年08月21日
「もったいない」の大切さを伝えるため2004年に生まれた絵本が、今、世界中で注目を集めています。日本の「MOTTAINAI(もったいない)」の心を通して持続可能な社会の発展に寄与する『もったいないばあさん』の魅力について、海外事業戦略部の古賀義章が解説します。
『もったいないばあさん』を世界に広げる、ライツ・メディアビジネス局 海外事業戦略部の古賀義章
(左)絵本「もったいないばあさん かわを ゆく」
(右)インドで出版されている絵本「もったいないばあさん」
──『もったいないばあさん』は昔から人気の高い絵本です。現在アニメ化され、英語を含む6言語の吹き替え版が制作されるなど、再び注目が集まっているのはなぜですか。
古賀 今、海洋プラスチックごみ問題など、地球規模の環境汚染が深刻化しています。2019年3月に講談社が出版した『もったいないばあさん かわを ゆく』は、水の循環、命のつながりをテーマにした絵本です。JICAの協力を得て、不法投棄などで汚染が進むガンジス川を上流から下流まで著者が実際に取材し、創作しました。
この絵本をきっかけに、環境省から「世界の人々に日本発の『MOTTAINAI』の心を通して、持続可能な社会の実現に貢献したい」と共同事業の提案があり、「もったいないばあさんプロジェクト」がスタート。大きなムーブメントにつながりました。
アニメ化された「もったいないばあさん」シリーズ4作品
(画像出典:アニメ「もったいないばあさん」公式サイト)
──「もったいないばあさんプロジェクト」とは、どんなプロジェクトですか。
古賀 具体的には、国際的なNPOのAEPW(※1)の協賛を受け、『もったいないばあさん』シリーズ4作品をアニメ化し、6ヵ国語(日本語、英語、フランス語、スペイン語、中国語、ヒンディー語)の吹き替え版を制作。「世界環境デー」の6月5日から、弊社の公式YouTubeチャンネルでの無料配信を行っています。
現在はパートナー企業としてANAホールディングス株式会社や株式会社セブン-イレブン・ジャパン、TOTO株式会社など、7社(※2)にもご賛同いただき、各社の「もったいない」への取り組み促進やアニメや絵本のプロモーションに、ご協力いただいています。
──作品のテーマと、世界中でますます必要性が高まっているSDGsへの取り組みが合致したのですね。プロジェクトのパートナー企業には、世界中で活躍する大企業が名を連ねています。
古賀 SDGsを身近に感じることができる『もったいないばあさん』は、自社のSDGs活動促進に紐付けしやすいため、パートナー企業様にとっても連携メリットは大きいのではないかと思います。
6月から企業連携しているセブン-イレブン・ジャパンでは、アニメの配信開始当日から自社のECサイト「オムニ7」で『もったいないばあさん』について紹介する特設ページを設け、そこから絵本が全シリーズ購入できるようになっています。また8月中旬から全国2万1千店舗あるセブン‐イレブンの店頭のレジ画面等でアニメのPRが展開されています。
──絵本『もったいないばあさん』シリーズは、日本ではもちろん、韓国や中国、フランス、インド、ベトナムなど世界中の子どもたちに愛されています。アニメ化のきっかけはインドだったとお聞きしましたが、なぜインドだったのでしょうか。
古賀 インドは、急速な人口増加と経済発展にともない、ゴミの不法投棄や河川の水質汚染、大気汚染が深刻な問題となっています。その対策として、インド政府は2014年から「クリーン・インディア」キャンペーンを行っています。
環境教育をテーマにした『もったいないばあさん』は、インドの子どもたちの意識啓発に役立つのではないかと思い、JICAの公募事業「SDGsビジネス調査」(旧・協力準備調査)で採択された「環境・衛生教育を目的とした絵本の読み聞かせ販売事業」」に参画したのが始まりです。その後、現地語のヒンディー語に翻訳された絵本『もったいないばあさん』がインドで出版され、2018年からインドで「読み聞かせキャラバン」をスタートしました。
2018年から本格化した、『もったいないばあさん』の読み聞かせ活動。
マルチ・スズキ(スズキのインド子会社)と伊藤忠インディアの協賛により、
移動図書館に改造したトラックをインドの首都デリー周辺に走らせ、
絵本の読み聞かせキャラバンを展開している
──翻訳版を見ると、「もったいない」という言葉は、日本語がそのまま使われています。
古賀 ノーベル平和賞を受賞したケニア共和国元環境副大臣のワンガリ・マータイさんは2005年に来日した時、「もったいない」という日本語に感銘を受け、世界共通語として「MOTTAINAI」を広めることを国連で提唱しました。環境活動の3R (Reduce/ゴミを減らす、Reuse/再利用、Recycle/再生利用)に加え、かけがえのない地球資源に対する「Respect(尊敬の念)」も表す"もったいない"という言葉は、ほかの言語に翻訳するのが難しく、日本語のまま表現しています。
インドでも子どもたちは「モッタイナイ」と楽しそうに声に出していました。絵本を通して、「モッタイナイ」はとても印象的な言葉として子どもたちに響いたようです。
さまざまな言語に翻訳された同作は、
絵本を通して世界中に「もったいない」を発信している。
(画像出典:アニメ「もったいないばあさん」公式サイト)
──「もったいない」という音の響きもいいですよね。ものを大切にするだけでなく、相手への感謝や尊敬など、SDGsのゴール達成に必要な意味がたくさんこめられていることも、あらためて意識しました。
古賀 著者の真珠まりこさんは、「『もったいない』は、ただ無駄なことをしないというだけでなく、自然の恵み、いただく命、作ってくれた人に感謝する気持ち、他の人や物を大切に思う思いやりがこめられている」と言っています。
ちょっと怖そうに見えるけれど、とても大切なことを教えてくれる「おばあさん」は、子どもたちの環境意識を啓発するのにぴったりの役割だと思います。
──インドの子どもたちに「もったいない」は伝わっているのでしょうか。
古賀 絵本の読み聞かせをした子どもたちは、自宅に帰って、日本語の「もったいない」について家族に伝えています。そして水の出しっぱなしや電気の点けっぱなしをやめたり、ゴミのポイ捨てをやめたりするなど、「子どもたちに変化が起きている」と、学校の先生や子どもたちの親から報告を受けました。読み聞かせの後、自主的に「もったいないばあさんアンバサダー」をつくり、校内で自主チェックを行っている学校もありました。
実際に、「もったいないばあさん」がインドの子どもたちの環境への意識や行動に変化をもたらしたことは、JICAが現地で実施した「インパクト評価調査」でも実証されています。環境省から弊社にアニメの共同事業の提案があったのは、このインドでの成果があったからです。
ヒンディー語に翻訳された『もったいないばあさん』の絵本を持つインドの子どもたち
──今後の展開を教えてください。
古賀 現在、アニメ4作品は6言語の吹き替え版で配信していますが、近い将来、ほかの言語版も制作し、より多くの人々にアニメを見ていただき、日本発の「モッタイナイ」精神を世界中に広げ、同時に絵本「もったいないばあさん」シリーズを世界各国で出版したいと考えています。
「自分たちだけが正しい、自分さえ良ければと思うのではなく、分け合い、他の人が大切に思っていることを、同じように大事に思うことが大切」
という著者の思いは、SDGsがめざす「誰一人取り残さない社会」を築くために必要なことだと思います。同じ目標に向かって歩めるパートナー企業様と、よりよい世界の実現を目指して、これからも「もったいないばあさんプロジェクト」を進めていきたいですね。
講談社は今後も、「もったいない」を世界に伝えるアンバサダー・『もったいないばあさん』を通じて、SDGsのゴール達成に貢献していきます。プロジェクトに共感する企業の皆様との連携も、どんどん広げていく予定です。ご興味をお持ちの方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。
●アニメ『もったいないばあさん』公式サイト
https://mottainai-baasan.com/
●講談社えほんチャンネル 「アニメ もったいないばあさん 日本語」
https://www.youtube.com/playlist?list=PL7cJI682AeIdShOeAzCO9AcixS_ho_v2l
©もったいないばあさんプロジェクト ©真珠まりこ/講談社
※1 AEPW (Alliance to End Plastic Waste):プラスチックの製造から廃棄までに関係する企業が、廃棄プラスチック問題を解決するために設立した非営利団体
※2 「もったいないばあさんプロジェクト」パートナー企業(50音順):ANAホールディングス株式会社/株式会社セブン‐イレブン・ジャパン/大日本印刷株式会社/株式会社東京放送ホールディングス/TOTO株式会社/日本コカ?コーラ株式会社/プロクター・アンド・ギャンブル・ジャパン株式会社