• TOP
  • 記事一覧
  • SDGsトピックス
  • 武蔵野大学が日本初の「サステナビリティ学科」を開設。スローガンは「あしたじゃない、ずっとをつくる」

武蔵野大学が日本初の「サステナビリティ学科」を開設。スローガンは「あしたじゃない、ずっとをつくる」

2022年08月19日

2023年4月から、武蔵野大学工学部に全国で初めての「サステナビリティ学科」が開設されることが発表されました。
武蔵野大学工学部はこれまで「環境システム学科」で、環境科学の専門力と実践スキルを持つプロフェッショナルの育成を目指してきました。今回は新たにサステナビリティ学科を設け、さらに広範囲に「サステナビリティを実現する解決策を考え、かつ実装する力を持つ」人材づくりに取り組むことを表明しています。

サステナビリティ学科長に就任予定なのが、現在環境システム学科の教授であり、本サイトで「SDGsと地域活性化」の連載を続けている白井信雄さんです。
8月3日の記者発表会では、白井教授からサステナビリティ学科開設の経緯とそれによって目指すもの、さらに就任予定の教員の皆さんからは、それぞれのビジョンやプロジェクト、意気込みについて語られました。その模様について紹介します。

「つなぐ・つながる」が学べる場をつくる

本サイトでもおなじみ、サステナビリティ学科長就任予定の白井教授。

学長のあいさつの後、まず登壇した白井教授が語ったのが、「サステナブル」に関する3つの問いかけでした。

  • 私たちはサステナブルな社会を築いているのか。間違っているとしたらどこか。
  • サステナブルな社会とはどのような社会なのか。その理想を話し合い、共有するために、どうしたらいいか。
  • 理想に向かって、社会転換をどうやったら進めることができるか。障害をどのように解消できるのか。

こららの問いに応えるべく、アクション&リサーチを進め、明日だけではない「ずっとをつくる」人が育つ場である、と白井教授はサステナビリティ学科を位置づけました。
それぞれの問いに関しても、教授自身の詳細な考え方が示されましたが、中でも社会転換を進めるための方法として「つなぐ・つながる」ことを挙げていたのが印象的でした。

これは、SDGsの分野をつなぐ、地域と地域がつながる、学問の分野をつなぐ、市民と行政や企業をつなぐ、世代と世代がつながる、などの「つなぐ・つながる」であり、サステナビリティ学科はそのための技術を学べる場にする、という構想です。

また同学科の特徴として、環境統計や環境計測をはじめとした具体的なスキルを獲得できるカリキュラムであると同時に、仲間とともに実際に持続可能な社会を作ることを通じて学ぶことを重視。さらに教員一人あたりの学生数を約7人とし、きめ細やかに成長をサポートすることが強調されました。

学科には、サステナビリティを推進する仕組みや事業をデザインし実行する力をつける「ソーシャルデザインコース」と、環境調査や分析・設計などによって環境問題の解決策を見出す力を修得する「環境エンジニアリングコース」の2つのコースが設けられるということです。

サステナブルを作り出すとともに、人間性の回復を目指す

この後は、学科担当陣を代表し、若手の教員の皆さんがパネルディスカッション形式でビジョンを語りました。

それぞれの専門分野や意気込みを語る、就任予定の教員の皆さん。

明石 修 准教授

私は常日ごろ「人と自然の共生をリデザインする」ことをテーマに活動していますが、ここのところ深刻な気象災害が毎年起こるようになり、もう小手先の対策では課題は解決できないと感じています。

そこで必要なのが、サステナブルな社会に向け、大胆な変化を起こせる人を育てることです。しかし調査によれば、「自分が社会を変えていける」と考えている若者が、日本は他国に比べて少ない、という心配な結果が出ています。

私が育てたい人材は、サステナブルに詳しかったり分析ができるだけの人ではありません。課題に向かって問い、考え、やってみる、を繰り返し、Head(知識・理論) Hands(スキル・実践) Heart(心・完成) の3つのHを持った人材です。

実際の教育では、都市のなかでいかにサステナブルを実現していくかを中心テーマに、こちらの校舎の屋上にあるコミュニティガーデンを活用したいと思っています。このコミュニティガーデンでは、作物を作ったり養蜂を行う課程で生態系を循環させ、自然が再生していく環境を作ることを進めていきます。さらにそこに人が集まり、語り、人間性を回復していく「生きていることを実感できる場所」としても機能させたいと考えています。

鈴木 菜央 客員准教授

私はもともと教育に携わっていたわけではなく、「greenz」というメディアを運営してきた編集者であり、デザイナーです。そこではメディア活動とともに、環境問題について気軽に考えることが出来るイベントを運営する活動や、企業や自治体とのコラボによるサステナブル活動なども続けてきました。

これらの経験をベースに私がこの新しい学科でやりたいのは、武蔵野大学から日本、そして世界に「誰にでもできるサステナビリティのつくりかた」を拡げていきたい、ということです。サステナビリティはこれからの社会の基本となり、それを考えずして行動することは、今後はいっさいなくなるはずだからです。

そのために、だれでも使いこなすことができる「サステナブルデザイン思考」を開発して一般に展開すること、そしてもうひとつ「サステナブルをつくりだす実験空間」を大学の中に設け、学生とともに実践を深めることを目指します。

磯辺 孝之 講師

これまでエンジニアとして建築・住宅分野で活動してきました。主なテーマは住宅、建築物のカーボンニュートラルや建材のリサイクルで、リサイクルの現場へは国内外を問わず出向いて視察を続けてきました。

建材のリサイクルについては、国内での埋め立てがまだまだ多いことや、東アジアへの依存など解決しなければならない課題が山積みであることを知り、それを解決したいという思いで武蔵野大学にやってきました。現在は、他大学や企業との共同研究などによって課題解決に取り組んでいます。

サステナビリティ学科では、引き続き産官学の連携の中、私たち「学」はムダや失敗を恐れず研究し、それを社会貢献や貢献ができる人材輩出という結果に残すことを目標とします。研究・教育活動を通して社会を応援する、そして社会からも応援され必要とされる。そんな学科にしていきたいと思っています。

ディスカッションなどの内容を、学生がその場で記録したイラストレポートを前に。
中央は武蔵野大学学長の西本照真さん。

OBやさまざまな団体からのメッセージも伝えられた発表会が終了した後、希望者に現在「環境システム学科」で運営されている屋上のコミュニティガーデンの見学が行われました。
会場からたった1階登っただけの屋上は、湾岸エリアのビル群の中のとは思えないのどかな環境で、一同の表情も一気になごやかに。教員の皆さんが強調した「サステナブルと同時に、都市における人間性の回復を目指したい」という思いを垣間見た思いがしました。

コミュニティガーデンを案内する明石准教授。
循環性を保つため、余計な手は入れていないとのこと。

屋上から半径二キロ程度飛び回って、街のどこからか蜜を持ってくるというミツバチたち。
近くの無印良品で販売もされているという蜂蜜は、ドリンクと小瓶になって参加者のもとに。

サステナビリティは緊急の課題であり、またすべての活動が人と社会との関わりのなかで行われるものだけに、今後の人材の必要性はどの分野より高いかもしれません。サステナビリティを真剣に考え、実践する人たちをひとりでも多く生み出すために、武蔵野大学サステナビリティ学科の新たなスタートに期待がかかります。

記事カテゴリー
SDGsトピックス