「持続可能な地域創造ネットワーク」2022年度全国大会レポート|SDGsと地域活性化【番外編】

2023年03月08日

SDGsを達成するには、全国展開する企業や住民が多く存在する大都市圏だけでなく、すべての地域で積極的に取り組むことが必要です。特に地域におけるSDGsへの取り組みは、その地域の活性化につながるものであることが重要になるでしょう。
今回はこれまでの連載の番外編として、2023年2月8日・9日に武蔵野大学で行われ、白井教授もモデレータなどを務めた「持続可能な地域創造ネットワーク 全国大会」の内容を自らレポートします。


「持続可能な地域創造ネットワーク」2022年度全国大会レポート ~ローカルSDGsを担う人と組織に注目して~

白井信雄
武蔵野大学工学部 環境システム学科教授

「持続可能な地域創造ネットワーク」は、持続可能な地域を目指す自治体と NGO/NPO、専門家・教育関係者等の相互の支え合いを目的として、2020年に設立されました。1992年に設立された環境自治体会議と2001年から環境首都コンテストを開催してきた団体が合併し、先駆的な地域の関係者が集う場となっています。

設立後、コロナ禍となり、1年に1回の全国大会はオンライン開催でしたが、2022年度の全国大会(2023年2月8日・9日)は初の対面開催となりました。会場は武蔵野大学有明キャンパス(江東区有明3-3-3、国際展示場近く)。武蔵野大学は2023年4月からサステナビリティ学科をスタートすることから共催者となり、大会会場を引き受けました。

大会会場の窓口となり、1日目の分科会の1つと、2日目の全体会のモデレータを務めた筆者が大会の様子を解説します。大会のテーマは「持続可能な地域づくりのメガネをかけ直す」です。

持続可能な地域創造ネットワーク 2022年度全国大会全体会の様子

持続可能な地域づくりをマネジメント・コーディネートする人材と組織の必要性

SDGs未来都市や気候変動への取り組みを地域で進めるうえで、マネジメント・コーディネート(以下、マネジメント、コーディネートのいずれかの表記をするが同じ意味とする)を行う人やその人が活躍できる組織が重要です。

コーディネートで重要なことは異なるものをつなぐことであり、異なるもの間のトレードオフの解消、連携によるシナジーの発揮、触発によるイノベーションの創造、共通点や相違点の理解による学習と深化等を進めることです。

コーディネートすべき異なるものとは、SDGsの異なるゴール(環境、経済、社会の三側面)であり、セクター間、地域間、研究分野間、異なる前提を持つ人などです(図1参照)。

図1 持続可能な地域づくりにおいて、つなぐ・つながるもの

注)武蔵野大学サステナビリティ学科の資料として筆者作成

このコーディネートを行う人やその人が活躍できる組織が不十分なため、次のような出来事が各地で繰り返されています。いずれも、実践を担う人材と組織のありかたが問われる問題です。

  • 研究者のサポートで新しい計画技術が試されても、研究予算がなくなると研究者が来なくなった(研究予算次第で実践研究の打ち切り)。
  • 足繁く通ったコンサルタントも委託予算がなくなると縁遠くなり、立派な計画書や報告書だけが残された(コンサルタントは金の切れ目が縁の切れ目)。
  • 担当部署を集めて、横串で計画を作っても、新たな施策の創出や部署間の連携に取り組む動きがつくれない(縦割り行政を横串につなぐ困難)。
  • 地域の関係団体や住民による協議会で検討を行ったが、いわゆる充て職で、それぞれの組織の利害維持のための発言が繰り返されるばかりであった(充て職会議の弊害)。
  • 住民参加によるワークショップは楽しくやってアクションを企画。しかしその計画の中に書かれたことが実践されることはない(アリバイ工作のような住民参加)。
  • 補助金で地域課題を解決するための箱物は作ったけれど、活用が十分に行われずに、未利用な負の遺産となり、活用することが地域課題となった(補助金による箱物行政)。
  • 中心となった担当者が異動になったら当初の想いが継承されずに、想いの温度低下ともに取り組みが定型業務と化してしまった(担当者の異動問題)。 

などなどがその問題です。

SDGs未来都市の中間支援組織におけるコーディネーターの課題

筆者が担当した分科会では、横浜市のSDGsデザインセンターで総合コーディネーターを務める麻生智嗣氏から、「SDGs未来都市における中間支援機能の組織とコーディネーター人材」に関する事例報告がなされました。

能登SDGsラボ(石川県珠洲市)、西粟倉むらまるごと研究所(岡山県西粟倉村)、北九州市SDGsクラブ/北九州SDGsステーション(福岡県北九州市)、ヨコハマSDGsデザインセンター(神奈川県横浜市)の調査結果から、次のような問題が提起されました。

  • 企業間のマッチングなど、経済活性化に寄与できるコーディネーターがいない。環境、経済、社会の三側面の課題を一気通貫で考えることのできるコーディネーターが不足している(環境、経済、社会 ※特に経済面 を統合できる人材の不足)。
  • 官民連携で実施しているが、「官」に依存したコーディネート機能になっており、異動により、「官」の機能が急激に弱まる状況が発生し、それを埋めるために時間とコストがかかる(行政職員によるコーディネートの異動問題)
  • 民間のコーディネーターが活躍していても少数で、属人的(ボランティア精神やプロボノ精神に依存)な動きかたになっている。その人材がいなくなった場合に、運営が機能しなくなる可能性がある(民間コーディネートの属人化、人材不足の問題)

これらを踏まえて、麻生氏は求められるコーディネーター人材の要件として、人柄の良さ、地場での人的ネットワーク、関係分野の知識・ノウハウをあげ、自治体業務経験者、プロボノ精神を持つ民間経験者等、コーディネーター人材の発掘と登用の必要性を提起しました。

また、分科会では、松本明氏(高知大学地域協働学部准教授)が北海道下川町と高知県土佐町のSDGsへの取り組みを詳細に分析し、コーディネーター人材が持つべきスキルとして、「水平共創型スキル」と「垂直協奏型スキル」を提起しました。

水平共創型スキルとは、複数領域における専門知見を統合的に落とし込むスキルのこと。たとえば、土佐町では山林を軸にした水源保全・涵養、カーボンネガティブ、山林関連産業の振興を目指しており、そのために水循環解析、産業連環分析等を行うわけですが、各々の専門性を活かすスキルが必要となります。

垂直協奏型スキルとは、町民からの"声"を「誰一人取り残されない」施策として具現化するスキル。行政内の委員会、分科会の仕組み(アリーナ)や日常的な交流(サロン)の中で、行政が如何に一人ひとりとつながっていくか、その垂直協奏のコーディネートが重要になります。

広域をサポートする中間支援組織と基礎自治体における体制

分科会では、持続可能な地域づくりを推進する中間支援組織の海外事例についても報告がなされました。高橋敬子氏は当日、体調が悪く欠席でしたが、オースラリアにおける気候エネルギーモデル地域(Klima und Energie Modell Region:KEM)と気候変動適応モデル地域(Klimawandel Anpassungsmodellregionen:KLAR)について、各々のマネジャー制度の報告をしてくれました。

KEMのマネジャーは、各地域のプロジェクトを円滑に実行するための管理や資金調達、担当地域における再生可能エネルギーの可能性調査や情報収集、地域での様々なステークホルダーとのネットワーク形成、市民への普及啓発や広報のためのイベント実施、地域の気候保護に適した構造の確立という仕事をしているとのことです。

図2は、ローカルSDGsやゼロカーボンシティ、地域の気候変動適応等を進めるうえでの人と組織の仕組みの理想を筆者がまとめてみたものです。オーストリアのKEMやKLARが活躍する仕組みを参考にした説明です。

  • 広域自治体(都道府県)において、基礎自治体(市町村)を支援する中間支援組織の設置が必要となる。この中間支援組織は基礎自治体(市町村)の活動を補完し、支援する。
  • 基礎自治体(市町村)では、地域内の環境・経済・社会の統合、あるいは関係者の調整と共創を担う統合マネジャーとマネジメントチームを庁内に設置する。
  • 単独の基礎自治体(市町村)において、統合マネジャーやマネジメントチームを設置しきれない場合は隣接する基礎自治体(市町村)が連合をつくり、それらを設置する。
  • 基礎自治体(市町村)においては、ローカルSDGsやゼロカーボンシティ、地域の気候変動適応を統括する部署を設置し、統合マネジャーやマネジメントチームと連携して、庁内調整等を行う。
  • 統合マネジャーは、人柄がよく、人脈を持ち、特に経済面を理解し、調整できることが人物でなければならない。様々なセクター(特に企業)の経験を持つ人材が求められる。
  • 統合マネジャーが信頼され、良い待遇が得て、仕事を継続できるように、ポストやチームを確立するとともに、統合マネジャーになりたいと子どもが思うような文化を育むことが必要である。

図2 持続可能な地域づくりの中間支援とマネジャーのありかた

デジタルプラットフォームの活用

オープンソースの参加型民主主義プラットフォームを、コーディネーターの活動支援や人材育成に活用できないかという問いかけに、一般社団法人コード・フォー・ジャパンの東健二郎氏が応えてくれました。

東氏は、2016年バルセロナで誕生したオープンソースの市民参加のためのデジタルプラットフォーム「Decidim」の活用を提案してくれました。「Decidim」はバルセロナから世界各地に広がり、30ヵ国や地域・450サイト、約100万ユーザーが利用しています。国内では2020年10月に兵庫県加古川市で初めて導入され、国・自治体・民間部門で、約20サイトで利用されています。このオープンソースを活用することで、各地のコーディネーターが現場での実践知を共有し、実際の活動での困りごとを解消したり、実践を通じてスキルやノウハウを高めていくことができます。コーディネーター人材の研修事業はすでにさまざまありますが、一時的な座学やワークショップではなく、日常の仕事の中で学習していく仕組みとして、この提案の特徴と意義があります。

東氏が作成したデジタルプラットフォームの構成イメージを図3に示します。既にプロトタイプのシステムを構築しており、2023年度の試験的運用への参加を呼びかけました。

図3 コーディネーターを育成し支援するデジタルプラットフォーム

持続可能な地域づくりにおけるトランジション

最後に、全体会の様子を紹介します。

全体会では6名の登壇者を迎えてパネルディスカッションが行われました。地域事例としては岡山県西粟倉村(地域に人材を呼び込む仕掛けづくり)、鳥取県北栄町(自治体連携による地域新電力の立ち上げ)、滋賀・東近江三方よし基金(地域活動に伴走するファイナンス)の3つの地域事例に加え、武蔵野大学・明石修准教授と国立環境研究所社会対話オフィス・宮﨑紗矢香氏から、若者のエンパワーメントという観点で話題提供がなされました。

次にモデレーターから問いを投げかけ、フリップにキーワード・キーセンテンスを書き出す形で、パネルディスカッションを行いました。
問いの1つとして、トランジションに関して、「持続可能な地域づくりに向けて、何を大きく転換するのか、何を手放すのか」という問いを投げかけてみました。パネリストの回答を紹介しましょう。

  • スタートアップが大事。ありたい姿を多様な人たちで考え、スタートアップを目的とし、みなさんで連携し、立ち上げて、成果を1つずつ積み上げていく
  • 非暴力コミュニケーション。相手を観察し、相手が求めているものを感じていく。共感と対話と通じるものである
  • 実践知と形式知の往還。局所的な解を大学で一般化・理論化、学生が実践の場で学ぶ。経験を蓄積し、関係をつくっていく。大学が提供する理論は見方を変える、実践を評価する
  • 多様で弱いつながり。いろいろなテーマでつながる線が、弱くてもたくさんあること。異なる主体がつながり、相互に刺激しあって変わっていく

トランジションのためには、新しいものを創造し、普及させていくことが大切ですが、その際に古いものを手放し、新しいものに置き換えていくことが重要です。古いものが新しいものを阻害することがままあるからです。トランジションを支える手順、仕組み、方法、主体の役割など、パネリストが示唆したことをもとに、さらに考えていかなければなりません。

以上、筆者が担当したことや関心を持ったことを中心に報告しました。
現代はローカルSDGsに関する実践知がものすごい勢いで形成されている時代です。それらを共有し、切磋琢磨をしていくことで、持続可能な地域づくりが日本や世界を変えていく力になっていくことと思います。

実践知が共有されていくプラットフォームにご関心がある方は、持続可能な地域創造ネットワーク、あるいは武蔵野大学サステナビリティ学科につながっていただければ幸いです。

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