SDGs債の国内発行額が過去最高に! 企業も自治体も注目するSDGs債の現在地

2023年07月21日

環境・社会・ガバナンス(企業統治)の観点から企業を評価し、投資先を決める「ESG投資」。昨今、大きな注目を集めるこの投資手法には、さまざまな種類があり、「SDGs債」もそのひとつです。今回発表された、大和証券の調査では、2022年度のSDGs債国内発行額は4兆7,036億円と過去最高を記録。背景には「気候変動への対応」がありました。

発行数が急増する「SDGs債」

SDGs債は、SDGsの目標達成のための資金調達を目的とした債券です。資金用途の違いによって、環境問題解決なら「グリーンボンド」、社会課題解決なら「ソーシャルボンド」など、いくつかに分類されています。

日本国内では、環境省によるグリーンボンド支援などが後押しとなって、SDGs債券の発行は増加していました。そのなかで、特に2022年度以降は急速に発行数が増えています。

大和証券の調査によると、22年度のSDGs債国内発行額は4兆7,036億円。前年度と比べ55.7%増と急拡大し、過去最高の数値となったことがわかりました。2023年度はさらに増加が予想され、5兆5千億から6兆円になる見通しです。

SDGs債の国内発行額の推移 画像出典:共同通信

増加の背景にあるのは「気候変動への対応」

急速にSDGs債の発行額が増えた背景には、気候変動への対応があげられます。

2020年、日本政府は「2050年までに温室効果ガスの実質排出ゼロ」を目指す「2050年カーボンニュートラル」の実現を掲げました。この表明を受け、自動車業界ではすでに、2035年までに、すべての新車電動化を実現する動きが始まっています。

そのなかで、2022年度は、温室効果ガスの排出量が多い企業がSDGs債を発行するケースが多くみられました。脱炭素化への取り組み姿勢を明らかにして企業の社会的責任を果たすと同時に、投資家への誇示もできるという理由が大きいと思われます。

持続可能なまちづくりのために、自治体もSDGs債を活用

加えて、自治体がSDGs債を発行するケースも増えています。

SDGs債は防災対策や環境負荷の低い建物への建て替えなど、持続可能なまちづくりに必要な資金調達も可能なことが、増加の要因となりました。

ちなみに、自治体でもっとも早くSDGs債を発行したのは、2017年にグリーンボンドを発行した東京都です。しかし、自治体がSDGs債を発行する場合、通常の地方債と比べて発行にコストと手間がかかるため、東京都の後はなかなか広がりませんでした。

それが、前述の気候変動への対応などを受けて、2022年度は19団体がSDGs債を発行。発行額は2,493億円にも達しました。

「2040年度温室効果ガス排出量実質ゼロ」のチャレンジを掲げる福岡市もそのひとつです。脱炭素社会の実現に向けた取り組みのひとつとして、資金調達にグリーンボンドを活用。2022年度の発行額90億円に対し、最終的に4.8倍の高い需要倍率となる433.5億円の応募が集まり、注目の高さが浮き彫りとなりました。

千葉市も千葉県内として初となるSDGs債を発行

この動きは今後、さらに加速していきそうです。今年7月4日には、千葉市が千葉県内の自治体としてはじめてSDGs債を発行すると発表。10年で償還する形で50億円分の債権が発行されます。集まった資金は、千葉都市モノレールの車両を更新する事業や、橋の長寿命化、小学校改修工事などに使われる予定です。

なお、総務省は今年4月、「令和5年度全国型市場公募地方債発行計画額」を公表しています。そのなかで、個別発行債計2,270億円[グリーンボンド1,470億円(21団体)、ソーシャルボンド600億円(1団体)、サステナビリティボンド150億円(5団体)、サステナビリティ・リンク・ボンド50億円(1団体)]、共同発行債(グリーンボンド)1,000億円程度(42団体)の発行が予定されていると発表しています。

加えて今後、福岡市や熊本市のように、「予定」状態の自治体のSDGs債発行が決まれば、総額はさらに膨らむことになります。

(単位=億円)令和5年度の自治体のSDGs債(ESG債)発行計画 画像出典:総務省 報道資料

今後ますます活用が広がる、SDGs債

自治体が積極的にSDGs債を発行する理由はもうひとつあります。
それは、SDGs債を発行することで、住民や投資家に気候変動に対する取り組みをアピールするPR効果が見込めることです。

こうした地方債市場におけるSDGs債需要の高まりを受け、地方団体の安定的な資金調達のため、令和5年度からは共同発行形式でのグリーンボンド発行が可能になりました。複数の地方団体が対象事業を持ち寄ることで、個別にロットを確保できない団体もグリーンボンドの発行ができるようになります。また、事務負担や外部評価取得などに係る費用負担も大幅に軽減できます。

2023年4月からは、経済産業省が主導して、産官学連携でグリーントランスフォーメーション(GX)を目指す、GXリーグ※もスタートしました。これにあわせ、SDGs債の活用は、今後ますます広がると考えられています。

※GXリーグ: GXに積極的に取り組む「企業群」が、官・学・金でGXに向けた挑戦を行うプレイヤーとともに、一体として経済社会システム全体の変革のための議論と新たな市場の創造のための実践を行う場として設立された


●関連リンク
・SDGs債の国内発行、過去最高 4.7兆円、社会課題を解決
https://sdgs.kodansha.co.jp/news/knowledge/43070/

・総務省 令和5年度全国型市場公募地方債発行計画額
https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01zaisei05_02000214.html

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筆者プロフィール
講談社SDGs編集部

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