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国連広報センター 所長 根本かおるさんが登壇! 「SDGsの現在地〜2024年、企業とメディアに求められること」 ── 「FRaU共創カンファレンス2023→2024」レポート①

2024年01月22日

2023年12月7日(木)、講談社で開催された「FRaU共創カンファレンス2023→2024」。国連広報センター 所長 根本かおるさんが登壇された、第一部のセミナーの様子をレポートします。

国連広報センター 所長 根本かおるさん(右)と、FRaU編集長 兼 プロデューサー 関 龍彦

学びと交流を目的とした、「FRaU共創カンファレンス」

2018年末に発売された、まるごと一冊SDGsを特集した、FRaU SDGs号「世界を変える、はじめかた。」は、社会現象といえるほど大きな反響を呼びました。以来、「FRaU」はSDGsのリーディングメディアとして、広く知られるようになりました。

国内女性誌として初めての丸ごと一冊SDGsを特集した「FRaU」2019年1月号の表紙

「FRaU共創カンファレンス」は、「FRaU」のパートナー企業・団体の方を対象とした、SDGsの学びを深めるセッションと情報交換(交流)を目的とした招待制のイベントです。今回も、第一部はセミナー・パネルディスカッション、第二部は懇親・情報交換会が行われました。

なお、同カンファレンス開催の2日前、12月5日は、"1冊まるごとSDGsシリーズ"の21号目となる、FRaU SDGs号「さがす、つくる、私が住みたい、まち。」の発売日であり、その発売にあわせて開催となりました。会は、はじめに、FRaU事業部長でFRaUwebの編集長の新町真弓が挨拶。当日の流れを説明し、第一部のセミナーに移りました。

総合司会を務めたFRaU事業部長 FRaUweb編集長 新町真弓

テーマは「SDGsの現在地〜2024年、企業とメディアに求められること」

 皆さま、「FRaU」編集長 兼 プロデューサーの関です。
本日は特別に、国連広報センターの根本所長にお越しいただき、「SDGsの現在地〜2024年、企業とメディアに求められること」というテーマでお話をお聞きできることになりました。根本さん、本日はどうぞよろしくお願いいたします。

根本 皆さんこんにちは。国連広報センターの根本です。今日はお招きいただきましてありがとうございます。講談社さんには早くから、国連とメディアとのグローバルな連携の枠組みであるSDGメディア・コンパクト」に入っていただきましたが、それにしても、FRaU SDGs特集号がもう21号目になるなんて、早いですね。初めての号は綾瀬はるかさんが表紙で、発売当時「こういうおしゃれな形でSDGsを伝えて、なおかつアクションを提案する雑誌が生まれたんだ」と、大きなどよめきと歓声が上がったのを覚えています。

国連広報センター 所長 根本かおるさん

関 ありがとうございます。実を申しますと、制作サイドの我々も初めてのことでしたので、レギュレーションも、メディアとして伝えること、伝えてはいけないことの判断もわかりませんでした。ですから、根本さんところへ何度か教えを請いにお邪魔いたしましたよね。

根本 そうでしたね。はじめたばかりの頃を思い出すと、まるで状況が変わっていますね。今は企業経営、それからメディアの報道というところでも、サステナビリティ、SDGs、人権、ジェンダー平等といったことが当たり前になってきましたから、ずいぶん世の中も変わったものだと思います。

 本日は3つのテーマでお話を伺えたらと思っています。ひとつはSDGsの現在地、2つめは企業は何をすべきか、そして3つめはメディアは何をすべきか、です。では最初のテーマからお願いします。

危機的状況にある「SDGsの現在地」

根本 まずこの写真をご覧ください。

ニューヨーク・イーストリバー上のドローンアート

9月は国連にとって非常に重要な「国連総会ハイレベルウィーク」というものがあります。世界の外交のスーパースターたちがニューヨークに集結するのですが、そのハイレベルウィークの前の週末に、国連本部が面しているニューヨークのイーストリバー上に浮かんだドローンアートです。SDGsをかたどっているのがわかります。2023年はSDGs15年間の実施期間の折り返し地点ですから、ハイレベルウィーク中も、SDGs一色でした。

さらに、2023年は4年に1回、首脳レベルで開かれる「SDGサミットイヤー」の開催年でもあります。前回2019年のSDGサミットのときはまだ「どうにかなるさ」というお祭り的なムードがありましたが、今回のSDGサミットは、「どうにかしなきゃいけない」という非常に危機感に満ちたものでした。いま、SDGsは本当にピンチなんです。

 詳しくご説明をお願いできますか?

根本 SDGsは17項目のゴールがあり、そのゴールのもとに169のターゲットがあります。そのターゲットの中で、現時点でデータを集められたものが140あります。ですが、順調にいっているものを緑、停滞しているものをオレンジ、後退しているものを赤と色分けしてみたところ、「順調に進んでいる」という緑が15%しかなかったのです。なお、「まだ取り組みが足りない」というオレンジは48%、「後退している」という赤は37%という結果でした。

「後退」の赤マーカーが多く、「達成」の緑マーカーが少ない、SDGsの進捗状況。このままでは2030年の目標達成は非常に危うい

SDGsがゴールの1番目に掲げている「貧困をなくそう」という目標は、SDGsにとっての1丁目1番地ともいえるものです。しかし、コロナ禍や気候危機、そしてウクライナ戦争が引き金になって起こった世界的な物価高といったところで、数十年の貧困撲滅の努力が水の泡になってしまいました。また、アフガニスタンでは、タリバンの台頭で女性を取り巻く権利も後退しています。こうした状況をふまえ、国連の推計では、SDGsのゴールをすべて達成するには、あと300年かかるという報告もなされています。

関 300年ですか。コロナ前の2019年までは楽観的な見方もありましたが、そこからコロナ禍やいろいろなことがおき、SDGsの進捗としては後退しているというのが、現時点での世界のSDGsの状況ということですね。

インパクトが大きい分野でシステムチェンジを起こすことが重要

根本 なかには進捗しているものもありますが、それがまだ「うねり」にまではなっていません。ですから、SDGsへの取り組み「後半戦」に入る2024年からは、ちょっと戦い方を変えなければいけないと感じています。

関 どんなふうに変えたらよいのでしょうか。

根本 たとえばこれまでは、みなさんの企業においても「できることをやる」という感じだったと思います。もちろん、これは大切です。でもこれからは、どういった分野が大きなインパクトをもたらすのか、ゲームチェンジャーになりうるような分野で、大きくレベルをあげる取り組みをする必要があると考えています。

関 どのような分野が注目されているのですか? 国連で注目している分野について教えてください。

根本 はい。食料システム、再生可能エネルギー、デジタル化、教育・社会教育を含めた社会的保護、雇用、そして気候変動・生物多様性の6分野です。
この6つの分野はインパクトが大きいので、この分野に集中してシステムチェンジ(※)を起こしていくことが重要であると思っています。

※複雑な課題を表層的ではなく根本的に解決する取り組み

世界から見た、日本のSDGsの現状〜2023年は21位〜

関 日本でも取り組みが進んでいるところと、できていないところは差がありますね。世界から見た日本のSDGs進捗状況についても教えてください。

根本 国連のランキングではありませんが、「サステナブル・デベロップメント・ソリューション・ネットワーク(SDSN)」という世界の名だたる研究者が毎年出しているランキングがあります。このランキングで日本は2023年、21位でした。

このランキングは2016年から始まっています。始まった当初、日本は10数位ぐらいでした。というのも、2016年は日本がG7サミットの議長国を務めた年だったので、議長国として早くから全省庁を横断的に取りまとめるSDGs推進本部を当時の安倍総理のもとに作っていました。こうした社会全体、省庁全体で取り組む動きが大変高く評価され、出だしは高いランキングだったのですが、残念ながら現在は「出だしはよかったけれど足踏みをしている」状態です。

関 何か手立てはあるのでしょうか。どういうところから取り組めばよいのか、ご意見を伺えますか?

根本 多くの企業が、中期経営計画や経営戦略のなかでSDGsを中核的にとらえていますが、それがどれだけ、皆さんの普段の事業や皆さんご自身に腹落ちしているのかということをまずは考えなければいけません。

そして、従業員のコンプライアンスといった対外的な施策も含めてSDGs経営と考えたときに、本業と経営の両面でSDGsを「自分ゴト」化していただきたいと思います。

毎年SDGsの認知度調査を行っている電通が2023年の5月に発表した最新の調査では、SDGsの認知度が9割を超えたという結果が出ていました。しかし一方で、具体的に行動に起こしている人は3割しかいないという報告もありました。企業から従業員ひとりひとりへ、従業員からその家族へと「アクション」を広げてほしいと思います。

関 会社としてがんばる部分と、個人としてがんばる部分と両方進めることが重要なのですね。ジェンダー平等についても配慮が必要ですよね。

根本 そうですね。たとえば私たち国連広報センターでも、さまざまなコンテンツをつくって発信したり、イベントを企画したりするときに、ジェンダーバランスを考えた登壇者の人選、偏りのないコンテンツづくりなどを心がけています。

企業はSDGsにどう取り組むべきか

関 SDGsは「やらなければいけない」とわかってはいても、SDGsやサステナブルを意識した商品はコストアップになりやすく、売上に直結しないのでなかなか取り組めないという企業の声も耳にします。企業はどう対応すべきでしょうか。

FRaU編集長 兼 プロデューサーの関龍彦は、SDGs特集号の生みの親

根本 ストーリーを通じて、なぜ若干高くなるのかを説明して納得していただく。そして「応援しよう」という人たちの輪を広げていくことだと思います。
多かれ少なかれどの企業さんも同じようなことでお悩みだと思いますので、発信することで、苦労を含めた体験談の共有する場を増やすことも重要ですね。

 企業側からストーリーを発信することが、ものをつくること以上に大事だということですね。

根本 昔は、いいことは黙ってやるという考え方が主流でしたが、いまは「黙っていては伝わらない時代」ですからね。

SDGsの取り組みを進めるメディアの役割

 おっしゃる通りです。ではここからは、メディアの役割についてお聞きしていきます。メディアはSDGsに対してどう向き合えばよいのでしょうか。

根本 「メディア」という言葉は、いろいろな関係者をつなぐ媒体、媒介という意味があります。コネクターとしていろいろな人たちをつなぎ、1+1を10にも100にも万にもしていける、そういう存在だと思っています。

冒頭で、いまSDGsへの取り組み状況は窮地にあるという話をしましたが、SDGsの現状を見ると、暗澹たる気持ちになることも多いですよね。
でもそれをどう乗り越えていくのか、という解決を含めてメディアには伝えていただきたいです。それがSDGsや、地球規模課題を発信していくメディアにとって非常に重要なのではないかと思います。

関 何か大変なことが起こって怖いね、困ったね、ではなく、ならば「どうすればよいか」という解決策を提示してあげることが大事だということですね。

根本 そうです。海外では「ソリューションズ・ジャーナリズム」と言いますが、そういう提案型のメディアが重要だと思います。「FRaU」さんは早くからそれを実践されていますよね。パートナーの方々との共創のなかで、さまざまなよいものを見つけ出して、課題も含めて記載くださっていると思いますがいかがですか?

 ありがとうございます。そこは本当に大事にしているところです。パートナーの方々と一緒に知恵を絞りながら、どう伝えたらおもしろくなるかを考えながら読者に伝えるように心がけています。

根本 SDGメディア・コンパクトに加盟しているメディア・団体400のうち、半数以上の211社が日本のメディア・団体です。義務は生じませんが、社会的にコミットしたことになりますので、SDGsを常に意識した経営や、日頃の行動・発信が必要になってくるのではないかと思います。

関 SDGメディア・コンパクトには入りたい企業が自由に入れますから、参加したメディア同士がつながって情報発信していくことも大事ですよね。

根本 そうですね。SDGsの認知度が9割を超えられたのも、多くのメディアが関わって、積極的に発信してくださった。その結果、成果が数字に表れているのではないかと思っています。

関 ただ、まだ実践では30%にとどまっているという課題もありましたよね。

根本 そうです。ですから、次のステージはアクション、ソリューション中心でいく必要があります。

「SDGメディア・コンパクトにつながっているメディアが増えた」「SDGsの認知度も上がった」で済ませてしまうのではなく、私たちの暮らしや世界に長期にわたって影響してくる気候変動についても、正しく理解していただき、それが自分たちの暮らしや日々の便利、仕事にどう関わってくるのかという「自分ゴト」化、そしてそのうえで何ができるのかを考えなくてはいけない段階に来ています。

こうしたことから、国連では2022年の6月にメディアの皆さまにお声がけをして「認知・自分ゴト化・アクション」の3段論法を意識したメディア連携型の気候キャンペーン「1.5℃の約束」を立ち上げました。キャンペーン初年度は、146社が関わってくださり、2年目の2023年は156のメディアが参加。2024年も行うことが決まっています。

関 我々も雑誌として何ができるだろうと考え、2022年の秋に、まるごと一冊気候変動をテーマにした「FRaU」をつくりました。メディア連携という部分では、NHKさんとの共創も果たしました。

1冊まるごと気候変動を特集した「FRaU SDGs MOOK 話そう、気候危機のこと。」

根本 あの号は本当にわかりやすい解説記事が多くて、隅から隅まで読みました。これ、バイブルのように読んでいる気候変動関係者は多いと思います。

関 ありがたいことです。うれしいです。

現状は、地球温暖化ではなく、地球沸騰化

根本 サステナビリティとか気候アクションはもう世界の共通言語ですよね。グローバルに展開したい、あるいはグローバルに繋がりたい企業にとっては、キーワードになると思います。

気候変動に関しては、私たちはいま、これからの10年でどういう判断や選択をしていくのかによって、これから先数千年の地球の状態を決めてしまう歴史的な分岐点にきていると言えます。

2023年は「地球温暖化」ではなく、「地球沸騰化」だと、アントニオ・グテーレス国連事務総長が記者会見で使った言葉が、日本の新語流行語大賞のトップテンに入りました。それだけ誰もが「地球がちょっと変だ」と感じている表れだと思います。

2023年は世界の平均気温が、12万年ぶりの最高気温更新となりました。さらに、2011年から2022年の10年間は、最も暑い10年と発表され、とにかく記録更新、記録更新が続き、私たちも追い切れないくらいでした。それだけ地球はいま、深刻な状況にあるのです。

関 産業革命前より平均気温は1.1度上昇していますが、このままの状況が続けば、2030年までに1.5度上がると言われています。これは温暖化が減速ではなく、加速しているとみていいのでしょうか。

根本 はい。世界の温室効果ガスの排出量は思うように減っていません。2030年までに42%減らさなければいけない計算ですが、各国の排出削減目標を足し合わせても数%しか減りません。

先ほど、今後10年間の私たちの選択がこれからの数千年を決めるという重大局面にあると申し上げましたが、私たちはもっと強く危機感を持つと同時に、これからの地球やこれからの人類、もっと身近なところで言えば、若者やもうすぐ生まれてくる子供たちへの責任感を持ってほしいと思います。

グリーンウォッシュにならないために、言い過ぎには注意が必要

関 企業も我々メディアもそうですが、そういうことをいろいろ発信したいけれど、グリーンウォッシュやこれを言い過ぎてはいけないと悩まれている方も多くいます。どう気をつけたらよいでしょうか。

根本 自分たちの企業活動をよく言いたい気持ちはわかりますが、根拠なく言い過ぎてしまうとしっぺ返しが来てしまいます。

日本でも最近例がありました。ある会社が自社のカーボンニュートラルに関する広告を出したのですが、その表現が実状よりも過剰だったために、環境団体がJAROに報告し訴えられたというケースがありました。このように、周囲は厳しく見ていますので、安直に発信すると自分たちのブランディングを損ないかねません。

そのリスクヘッジのためには、日頃から環境団体と話し合いができる、意見を聞けるような、そんなルートを開拓しておくことも選択肢のひとつですし、さまざまな形のリスクヘッジの仕方があると思います。

・・・・・

その後の質疑応答のパートでも、「情報発信」に関する質問がありました。どんなメディアでどのようなコンテンツがあると、SDGsを世の中により伝えやすくなるか、という問いに、根本さんは以下のように回答しました。

「人は、物より、人に共感するんじゃないかと思います。それから表面的にちょっと触れただけのものはウォッシュになりやすいので、たとえば放送できる時間枠に制約のあるテレビなどのメディアであれば、放送で伝えきれなかった情報についてウェブサイトへ誘導するなど、深掘りも必要です。いい面も、課題になってまだ解決できていない部分も両方を俎上に乗せる。それがいいストーリーにつながるのではないでしょうか」


開催概要
2023年12月7日(木)
「FRaU共創カンファレンス2023→2024」 
第一部:セミナー「SDGsの現在地〜2024年、企業とメディアに求められること」
登壇者:国連広報センター 所長 根本かおるさん
モデレーター: FRaU編集長兼プロデューサー 関龍彦
総合司会:FRaU事業部長、FRaUweb編集長 新町真弓

記事カテゴリー
SDGsトピックス