• TOP
  • 記事一覧
  • SDGsトピックス
  • 「コスメロス」の現場から見えたこと〜社会課題を企業課題へ〜(パネルディスカッション) ── 「FRaU共創カンファレンス2023→2024」レポート②

「コスメロス」の現場から見えたこと〜社会課題を企業課題へ〜(パネルディスカッション) ── 「FRaU共創カンファレンス2023→2024」レポート②

2024年01月29日

2023年12月7日(木)、講談社で開催された「FRaU共創カンファレンス2023→2024」。セミナーの次に開催された、パネルディスカッション「コスメロス」の現場から見えたこと〜社会課題を企業課題へ〜の様子をレポートします。

パネルディスカッションの登壇者。
(左から)
篠田慶子さん/株式会社アイスタイル @cosme BEAUTYHOOD推進室 室長
田中寿典さん/株式会社モーンガータ代表取締役、[SminkArt(スミンクアート)]プロジェクト担当
イガリシノブさん/ヘアメイクアップアーティスト、コスメロス協会代表
モデレーター:北原かおる/FRaU S.BEAUTY 編集長

パネルディスカッションのテーマは「コスメロス」

2023年9月28日、「FRaU」は新シリーズ「S.BEAUTY」号を発刊。そこには、そもそも美容とは、他者のフィルターを通したものではなく、自分自身がありたい美しさを素直に目指すものでありたい、そんな思いが込められています。

「FRaU」 2023年11月号 S.BEAUTYの表紙

同号に登場したのが、人気のヘアメイクアップアーティストであり、コスメロス協会代表のイガリシノブさんでした。

今回のパネルディスカッションでは、イガリさんがなぜこのコスメロス協会を立ち上げたのか。そのなかでどのような活動を行い、共創関係を築いているのか、「コスメロス」をテーマに、さまざまな角度から意見が交わされました。

コスメブランド立ち上げを機に、コスメロス問題に着目

北原かおる(以下、北原) 「FRaU S.BEAUTY」編集長の北原かおると申します。本日のパネルディスカッションの司会を務めさせていただきます。

本セッションでは、それぞれ美容業界で活躍されている3名の皆さまが、コスメロスという問題を通して出会い、共創関係を通して見えてきたことについてお話をうかがってまいります。みなさま、どうぞよろしくお願いいたします。

イガリシノブさん(以下、イガリ) ヘアメイクアップアーティストで、コスメロス協会代表のイガリシノブです。よろしくお願いいたします。

私はヘアメイクアップアーティストとして18年以上活動をしています。そのなかで、コスメブランドを立ち上げたこともありました。ですが、世の中でつくられているコスメに対して、顔が足りているのか、つまりコスメ過剰になっていないかということを考えるようになりました。

たとえば、化粧品を生み出している側の責任として、ただ使い方を教えるのではなく、「メイク用品を使い切れば、お化粧が上達する」というプロデュースをすれば、化粧品を最後まで使う人が増えるかもしれません。

そこで、使われていない色はなぜ使われていないのかを探り、もっと使われるような方法を伝えられないかなという思いで、「フードロス」になぞって「コスメロス」という言葉で、コスメの無駄をなくす協会「コスメロス協会」を立ち上げました。

ヘアメイクアップアーティスト、コスメロス協会代表 イガリシノブさん

北原 イガリさんがコスメロス協会の活動を通して、目指しているのは、どのようなことですか?

イガリ 「まちの灯り」である女の子たちが、コスメロスのことを知り、地球環境にも意識を向けることで、環境も自分自身も、もっとキラキラ輝く人生を楽しんでくれることです。

北原 すてきですね。ありがとうございます。続いて田中さん、お願いします。

約86.3%のユーザーは、コスメを使い切れずに捨てている

田中寿典さん(以下、田中) 株式会社モーンガータ代表取締役の田中です。私は以前、アルビオンという化粧品会社で製品の研究開発を行っていました。

自分がつくったコスメが捨てられてしまう悲しさや、製品開発途中で自分が手がけた製品が市場に出回らないもったいなさから、化粧品として使えなくても何かに使えるのではないかと、起業。化粧品会社さまにご協力いただきながら、ロスになった化粧品を原材料として印刷用品や建材などを製造しています。

北原 田中さんの会社では、余った化粧品に対する意識調査もされていましたよね。

田中 はい。4割程度の人が罪悪感を抱きつつも、およそ86.3%の方がコスメを使い切れずに捨ててしまうという回答が得られました。

およそ86.3%のユーザーは、コスメを使い切れずに捨てている

こうした使いかけのコスメに対し、これまでは化粧品メーカーや店舗が回収してコスメクーポンと引き換えるサービスなどがありました。しかし、回収されたコスメが結局は廃棄されることも多く、空容器に近いものは洗浄してリサイクルに使われる場合があっても、分別作業に手間とコストがかかるという課題がありました。

そこで、当社では、使い切れずに捨てられる化粧品の中身を資源(原材料)として捉え、さまざまな技術を構築し、自社独自のプロダクトとしての絵の具、TOPPAN(旧 凸版印刷)さんとの共同開発である印刷インキ、サクラクレパスさんの技術協力による水性ボールペンをつくったりしています。

本日、会場に展示させていただいた絵も、弊社が開発したアイシャドーの廃材でつくった絵の具で描いたものです。ぜひご覧ください。

会場内に展示された、アイシャドーの廃材でつくった絵の具で描かれた絵。アイシャドーの色彩の美しさが、そのまま絵の具に活かされている

コロナ禍を経て変化した、美容への意識

北原 ありがとうございました。それでは篠田さん、よろしくお願いいたします。

篠田慶子さん(以下、篠田) 株式会社アイスタイルの篠田です。@cosme BEAUTYHOOD推進室 室長をしています。
@cosmeは、美容のことならなんでも載っているプラットフォームを目指しています。私は2018年にアイスタイルに入社しました。@cosmeの編集長をしていたときに、コロナ禍になり、みなさまの価値観が大きく変化したのを肌で感じました。

そのなかで、美容で社会をよりよくできるのではないかと「@cosme BEAUTYHOOD」を立ち上げました。BEAUTYHOODでは、動物実験をしていない、環境のために取り組んでいるなど、6つの掲載基準のうち2つ以上にあてはまる活動をしている企業さまの製品のみを紹介しています。「美容」の価値観を、これまでの「きれいになる」「かわいくなる」だけでなく、人や環境に配慮しているなど、セルフケアに役立つことを発信していきたいと考えています。

株式会社アイスタイル@cosme BEAUTYHOOD推進室 室長 篠田慶子さん

北原 イガリさんとは以前からご一緒されているのですよね?

篠田 はい。以前イガリさんに取材させていただいたときにコスメロス協会のお話をうかがい、美容で社会をよくしたいという理念を持つBEAUTYHOODとの親和性を感じ、そこからご一緒させていただいています。

具体的には、お互いにInstagramのアカウントがあり、イガリさんはYouTubeチャンネルも持っておられますので、毎月8日を「コスメポーチの日」と決め、それぞれに自分のマストコスメ(マスコス)を使い切るコンテンツを掲載するなど、情報発信を行っています。

絵の具にしたのは、コスメロスを自分ゴト化してほしいという思いから

北原 イガリさんと田中さんは、どのようなきっかけでお知り合いになったのですか?

イガリ 私が田中さんの会社にお電話しました。まだ当時、コスメロスという言葉は当時ネットで検索しても出てこなかったのですが、「破棄されるコスメ」というキーワードで田中さんの会社がヒットしたので、お電話しました。

田中 まさかイガリさんからお電話が来るなんて思ってもみなかったので、「あのヘアメイクアップアーティストのイガリさんですか?」と確認してしまいました。その後、イガリさんから非常に熱い思いが伝わってきたので、何度かお打ち合わせを重ねるなかで、徐々にご一緒できることが増えていきました。

イガリ 私は、余ったコスメがどんな原料で何に使えるのかはまったくわかりません。ですから、科学的技術的知見があり、何かを形にできる人がヘアメイク仲間以外で見つけられたことに、大変感謝しています。

田中 僕らは、使わないコスメを絵の具に変える溶液の開発などを行っています。しかしこれは、家庭内で自分が使わなかったコスメを自分の手で使えるものにアップサイクルするという行動を通して、コスメロスを「自分ゴト」化してもらいたいという思いがあったからです。

目指したのは、本来捨てられるものを、楽しみながら別の形で使っていくこと。ただ、これを我々だけでやっていても、この楽しさも認知も広がりません。こうした部分においては、「自分が楽しみながら、まわりにも楽しさを広げる」イガリさんの大きな影響力をお借りしているところです。タッグを組むことで、より大きなインパクトが創出できていると感じています。

株式会社モーンガータ代表取締役、[SminkArt]プロジェクト担当 田中寿典さん

イガリ 破棄されているコスメを使って絵を描いてもらうサステナブルイベントをご一緒したのですが、大人も夢中になって楽しんでいたのが印象的でした。

田中 そうですね。参加者からは、「自分が捨てるコスメを使えて罪悪感が減った」「自分が使っていたコスメを紙の上に描いてみたら、こんなにきれいな色だったと気がついてもう一度使ってみようと思った」というお声をいただきました。

イガリ また親子でご参加くださった方からは、「最初はコスメを絵の具代わりに使うなんてもったいないと思っていたけれど、子どもが楽しそうに絵を描いている姿にこちらまで楽しくなった」という感想もいただきましたよね。

「環境負荷を考えて最後まで使おう」では、ユーザーには刺さらない

北原 先ほど、イガリさんと篠田さんのSNS発信のお話もうかがいましたが、こちらの発信においてはどのようなことを意識されているのですか?

「FRaU S.BEAUTY」編集長 北原かおる

篠田 美容に関するユーザーさんのちょっとしたストレスを解消してあげられるよう、心がけています。

たとえば「コスメの環境負荷を考えて最後まで使おう」という言い方では、ユーザーさんには刺さりません。それよりも、ユーザーさんは「自分がお金を出して買ったコスメを、使い切っていないことへのストレス」を抱えています。だから「せっかくお金を出して買ったのだから、最後まで使おう」と言うようにしています。

さらに、使い切れなかったコスメを捨てる時に、捨て方の区分がわからず、適当に捨ててしまっているという罪悪感も、多くのユーザーさんが持っていました。
そこで、使い方や捨て方をどうするかというコンテンツをつくり、ご紹介したところ、手元にあるものを最後まで使い切ろうという意識が広がりました。

イガリ 実際、コスメを使い切ってみて覚えることもありますよね。使いきらずにちょっとしか使わないから、次に買った時もよくわからないので、たとえば使い切れなかったリップはチークとして使ってみるなど、使い方提案もさせてもらっています。

「ピンク」とひとことで言っても、メイク用品のピンクにはそれこそ何十も何百も色があります。まずは一色極めてみるといろいろあるピンクが少しつかめるようになるよというご提案もしています。

篠田 それも、ユーザー側のストレスをいかに減らせるかという視点ですよね。

イガリ 最近は「いつもYouTube観ています」「使い方が参考になります」というお声もいただくようになりました。継続は力なりだなと、ありがたく感じています。

篠田 BEAUTYHOODのユーザーさんからは、「意外と使い切っていなかった」という感想も多く、使い切ろうとか、捨て方とかに関して「こういう情報が知りたかった」「気づけてうれしい」という声をいただきます。

今後も、楽しさを共有できる場所、人をさらに広げていきたい

北原 いま、課題と感じているのはどのようなことですか?

篠田 コスメロスも社会課題のひとつととらえていますが、世の中にある社会課題はひとりががんばっても解決できません。立場の違う3者が集まっていろいろな取り組みができていることは本当にありがたいですし、こういう輪が広がって仲間がさらに増えるといいなと思っています。

田中 僕は化粧品会社さんとご一緒することがかなり多いので、生産する側だけではなく、消費側の意識のアップデートもしていくために、それぞれの強みを活かし、実際のユーザーさんと生産者側をつなぐ場も創出していきたいと思っています。

イガリ ヘアメイクはひとりでもできますが、コスメロス問題はいろいろな人と関わらなければ解決できません。最初にお2人に会えたのは本当にラッキーだと思っています。東京だけ、日本だけでなく、もっと広げていけたらいいなと思っています。

現在、シングルマザーへのメイク用品支援や、親と一緒に暮らせない子どもたちへの化粧品寄付、ボランティアメイクレッスなども行っています。そういった活動にも、今後はもっと力を入れていきたいです。

篠田 BEAUTYHOODでも寄付活動に力を入れています。社会課題を解決したいと、ユーザーやブランドに提唱している以上、BEAUTYHOODもアクションをすべきだと考え、児童養護施設への寄付やシングルマザー支援などを定期的に行っています。

イガリ 男性のメイク需要も増えていて、最近は、10人いたら2人は男性です。男性でも自分をきれいにしたいと思う方の応援はどんどんしていきたいですよね。

田中 先日、ヘアメイクアップアーティストにご協力いただき、高校生に、自分の好きなメイクができる体験授業を行ったのですが、参加者の半数は男性でした。コスメ提案も女性だけでなく、ジェンダーレスを意識していかないといけないと思いました。

北原 最後に、コスメロスで今後チャレンジしたいことを教えてください。

篠田 今年は発信がメインでしたが、来年はイベントなど立体的な施策も行い、ユーザーさんのリアルをさらに深掘りできればと思っています。

田中 我々はすでに生産されて、役目として全うできなかったものを100%有効活用できる取り組みを行っていますが、弊社のホームページなどでも「サステナブル」という言葉は一切使っていません。楽しみながら、捨てられる予定だったものを別の形にできること。その取り組みをどんどん広げていけたらと思います。

イガリ ヘアメイクを教えるのは楽しいですが、「コスメロス」を広げてきたことで、一緒に楽しめる仲間が増えたことが、いちばんうれしいです。楽しさを共有できる場所、人をどんどん広げていきたいです。

北原 みなさま、本日はありがとうございました。

・・・・

●「FRaU共創カンファレンス」について

2018年末に発売された、まるごと一冊SDGsを特集した、FRaU SDGs号「世界を変える、はじめかた。」は、社会現象といえるほど大きな反響を呼びました。以来、「FRaU」はSDGsのリーディングメディアとして、広く知られるようになりました。「FRaU共創カンファレンス」は、「FRaU」のパートナー企業・団体の方を対象とした、SDGsの学びを深めるセッションと情報交換(交流)を目的とした招待制のイベントです。


●開催概要

「FRaU共創カンファレンス2023→2024」 
第一部:パネルディスカッション「コスメロス」の現場から見えたこと〜社会課題を企業課題へ〜

<開催日>
2023年12月7日(木)

<登壇者>
イガリシノブ/ヘアメイクアップアーティスト、コスメロス協会代表
篠田慶子/株式会社アイスタイル@cosme BEAUTYHOOD推進室 室長
田中寿典/株式会社モーンガータ代表取締役、[SminkArt(スミンクアート)]プロジェクト担当

モデレーター:北原かおる/FRaU S.BEAUTY 編集長
総合司会:新町真弓/FRaU事業部長、FRaUweb編集長

記事カテゴリー
SDGsトピックス