2024年03月29日
「SDGsの領域は伝え方が全て」と語るのは、セブン&アイ・ホールディングス、サステナビリティ推進部の小野真義さん。
ここ数年の間にも、世界には数々の変化が起きています。社会のために何をすれば良いのか? お客様とのコミュニケーションは? そして、社内にこの考えを浸透させていくにはどうしたら良いのか?小野さんと『FRaU』編集長 兼 プロデューサー・関龍彦の対談から、悩みの尽きないSDGs担当者のためのヒントを探ります。
前編では、セブン&アイのサステナビリティ推進部による社内外のコミュニケーションを振り返りましたが、後編でも引き続き「伝え方」にフォーカスしてお話を掘り下げます。
※前編:「何をしたらいいのか」手探りからのスタート。伝え方を模索してきたセブン&アイ サステナビリティ推進部の現在地 はこちら
関 僕は2018年12月に『FRaU』のSDGs特集を出した時、5年後はもっと世界は変わっているだろうと思ってたんですよ。実際、今、消費に関する意識調査をすると、Z世代は他世代に比べて、たとえ値段が高くても環境に配慮した商品を選ぶ傾向があるということがわかっています。
関 龍彦(講談社 『FRaU』編集長 兼 プロデューサー)
若者の価値観が確実に変わってきているのは素晴らしいことですが、全体的にまだまだ歩みが遅いという感覚があります。若者任せでいいのかというと、当然そんなことはありません。
なぜ全世代的にSDGsに配慮した購買意識が高まっていかないのかと考えてみると、経済的な余裕の無さはやっぱり大きいと思います。給料も上がらず、誰もが自分の生活に精一杯な中で、1.5倍値段の高い商品を「環境にいいんですよ」と紹介されても「選べない」という気持ちもやっぱりわかる。
難しいジレンマですが、そんな中でも消費者の意識を醸成していくのは、媒体の使命だと思っています。
小野 真義さん(株式会社 セブン&アイ・ホールディングス ESG推進本部 サステナビリティ推進部)
小野 最近、それには企業側の責任もあるのでは、と思っていて......。
私たちはトレーサビリティを開示して、認証マークを取得するために大変な労力をかけるのですが、例えばスーパーでお刺身買うときに「MSC漁業認証」を気にされる方って、正直あまりいないと思うんです。
この前、とある識者の方が「もっと企業努力を伝えた方がいいですよ」とおっしゃったんです。でも私はずっと「『うちの会社こんなにいいことやってるんだよ』とお客様に発信するのは伝え方としてそぐわない」と思ってきましたし、自社の自画自賛をする広告はやっぱりなんか違う気がするし......この伝え方には今、どの企業さんも悩まれているんじゃないでしょうか。
関 「伝え方」の点で言うと、僕は、セブン&アイさんは本当にお上手だと思っているんです。2024年1月号の『FRaU』で、「セブンあんしんお届け便」を取り上げてご出稿いただきましたよね。
『FRaU』2024年1月号。テーマは「さがす、つくる、私が住みたい、まち。」
これは、少子高齢化で過疎化が進んでいる限界集落エリアをセブンイレブンの移動販売車が巡り、住民のために買い物支援をしているという内容でした。ここにご登場されたセブンイレブンのオーナーさんが、会社のコマーシャルに出るという感じは全くなく、普段通りの自然体なのが印象的でした。
小野 取材にご協力いただいたオーナーさんは、移動販売エリアを拡大することで地元の商店の仕事を奪うのはやめたい、と言っていましたが、経済合理性を考えたら本来はあり得ないことです。でも、その地域で目指しているものは拡大型の経済モデルとは違います。
この移動販売のケースは、お客様との関係性でも、新しい可能性を提示していると思うんです。そもそも「消費者」という言葉ですが、今の時代、無責任に利便性だけを追求して消費するような時代ではないので、私は最近違和感があります。「生活者」のほうがしっくりきます。私も生活者で、お客様も生活者なんです。
移動販売をする、オーナーの細山力生さん ※『FRaU』2024年1月号より(Photo:Tomoyo Yamazaki)
細山さんは、記事の中では「行ってあげる、という感覚がないし、むしろ、待って、買ってくださるから、こちらとしては感謝しかないんです」とおっしゃっていました。つまり、そこにはサービスを提供する「企業」とそのサービスを消費するだけの「消費者」としての関係性ではなく、「生活者」×「生活者」としての関係性があると思っています。
これは企業間にも言えることで、サステナビリティの領域では目指すものが共通しているので、経済合理性を抜きにして同業他社でも協業できるという事例があります。
例えば、イトーヨーカドーの曳舟店で、花王様とLION様が協働事業として「使用済みつめかえパックの店頭回収」の実証実験をされたことは印象的です。
関 なるほど、生活者×生活者の関係性ですか。確かに「消費者」と言うと、人格がないみたいですし、生活の気配も感じられません。そうすると、僕のようなおじさん世代の中で「家のことは全部妻がやっています」という人にはピンとこないかもしれない(笑)。主体的に家事育児を担う男性も、だんだんと増えてきましたが......
生活の手触りがあると、見えてくるものが全く変わりますからね。それが、SDGsを浸透させていく上でのヒントになるのかもしれません。「誰かがやってくれる」ではなくちゃんと「自分ごと」の生活になる。
小野 みんなで「生活者」になっていこう、ということなんじゃないかな、と思います。これからの時代、それを前提としたコミュニケーションが必要なのかもしれない、と考えていたところでした。
サステナビリティ推進部ができて、ちょうどそろそろ5年が経ちますが、これまでやってきたことを振り返るにはいいタイミングだと思っています。やっぱり課題はコミュニケーションです。部内で話すと、みんな「ちゃんと伝わってない」「もっと伝えないとダメだ」って言います。
でも、伝える努力を本当に"目一杯"してるのか? と、今一度内省する必要があると思います。広報部や販売促進部任せにしてしまってないか? と。最終的なアウトプットは広報と販促のプロがやることになるとしても、サステナビリティの推進を担う部門は、伝える内容について、自己満足に陥らず、何をどう伝えて欲しいのか、世間からどんな反応が予想されるか、というところまで描いて責任を持つべきだと思います。
企業が世の中における何らかの「不」を解決するために存在するのであれば、そこで働く従業員全員がSDGsやサステナブルに繋がる業務に携わっています。そういう意味では全員がPRパーソンになれると思います。私たちは暮らしの中でもどんどん発信者になって伝えていくことができます。お客様との会話、家族との会話等、機会はたくさんあると思います。
私も家族と機会があれば話すよう心掛けていますが、小学生の息子が、学校で勉強してくるのか結構詳しくて、「サステナビリティってなに?」「リサイクルのために何をしてるの?」って、色々聞いてきます。本当に小さなコミュニケーションですが、「どきっ」とすることもあって、大事なことだと思っています。
関 面白いですね。
そういえば、僕は本を買う時、新聞などで広告を見ると「最近こんな本が出たんだ」で終わりがちですが、よく知っている友人が「この本面白かったよ、関に絶対合ってるよ」と直接おすすめしてくれたら「買ってみよう」という気持ちになります。「この人の話だから頭に入ってくる」ということもあるので、領域を超えて会話が起こることの重要性は実感しますね。
でも、僕の購買行動は広告がなければ成立しなかったと思うので、結局たくさんのコミュニケーションが同時並行で存在することが大事なんだと思います。
小野さんは、サステナビリティ推進の担当者として今後もいろんなチャレンジを重ねていかれると思いますが、発信の悩みを抱えている担当者の方に、何かアドバイスはありますか?
小野 アドバイスができるような立場では全くないのですが......(笑)。最近私が思っているのは、「自分」を主語にしていくことが大切なんだろうな、ということです。
2019年に正しかったことが今も正しいとは言えない、ということは往々にしてありますし、これからもどんどん新しいルールや、イニシアチブや、条例が出来ていくと思います。そんな中にあっては、自分、そして自分の企業が「私は、当社は、こういう思いでやっていきます」という軸がないとブレると思います。
「最近こういう決まりができたので、うちもそれに准じます」とただ追随するだけではなく、自社としての問題意識と判断軸をちゃんと持って動いていけるか。そんな強い意識が、ますます必要になってくるんじゃないでしょうか。
※前編:「何をしたらいいのか」手探りからのスタート。伝え方を模索してきたセブン&アイ サステナビリティ推進部の現在地 はこちら
撮影/坂功樹 取材・文/清藤千秋 編集・コーディネート/丸田健介(講談社SDGs)
C-stationグループで、BtoB向けSDGs情報サイト「講談社SDGs」担当。