ブルーカーボンとは? グリーンカーボンとの違いや企業の取り組みをわかりやすく解説!

2024年03月27日

これまで二酸化炭素(CO2)の主な吸収源として考えられていた「森林」に加え、新たなCO2の吸収源として「ブルーカーボン生態系(海洋生態系)」に注目が集まっています。本記事では、ブルーカーボンの基礎知識やグリーンカーボンとの違い、企業事例を紹介します。

ブルーカーボンとは〜CO2吸収源の新たな選択肢〜

ブルーカーボンとは、海草や海藻などの海洋生態系によって吸収・貯留される「炭素」のことを言います。

陸上の植物と同様、海洋の植物も、光合成によって二酸化炭素(CO2)を吸収します。つまり、海洋の植物は「CO2吸収源」でもあるのです。ご存知の通り、二酸化炭素は、地球温暖化の原因のひとつになっています。そこでこの特徴を活かし、海洋生態系を保全・再生することで地球温暖化に歯止めをかけようと、昨今「ブルーカーボン」に注目が集まっているわけです。

大きなポテンシャルを持つ、ブルーカーボン生態系

ブルーカーボンが世界の注目を集めるようになったのは、2009年に国連環境計画(UNEP)によって公表された報告書「Blue Carbon」によって定義され、CO2吸収源の新たな選択肢として提示されたことがきっかけです。

この報告書には、「ブルーカーボン生態系の炭素貯留量は、陸上のすべての植物が貯留する炭素量に匹敵する」と記されています。しかし同時に、「この貴重な生態系は、年間2~7%ずつ消失している(消失率は熱帯雨林の4倍)」という事実にも言及しています(出典:海の森のブルーカーボン)。

消失=CO2の吸収源の減少であり、その影響力の大きさを考えれば、放置できるものではありません。また、海に囲まれた日本において、ブルーカーボン生態系は非常に身近な存在であり、その恩恵を持続するために、保全・再生の取り組みを推進していくことは、国だけでなく自治体、企業や市民などとの協働にも、大きな期待が寄せられています。

また、2023年にニューヨークで開催された「持続可能な海洋経済の構築に向けたハイレベル・パネル」で報告された「気候変動の解決策としての海洋(アップデート版)」では、ブルーカーボン生態系の保護・復元を含む海洋に関する解決策によって、「2050年までに気温上昇を1.5℃以内に抑えるために必要な温室効果ガス削減量の最大35%を達成できる」可能性も示されています。このことから、ブルーカーボンの持つポテンシャルがいかに高いかが、おわかりいただけるのではないでしょうか。

海を守ることは、SDGsの目標達成にも寄与

ブルーカーボン生態系の保全・再生は、SDGsの目標達成にも大きな意味を持ちます。

たとえば、温室効果ガスの削減や低炭素社会の実現を目指すSDGsの目標13「気候変動に具体的な対策を」においては、ブルーカーボンを活用したCO2の吸収はそのまま、気候温暖化を抑えるための具体的な解決策と言えるでしょう。また、海では大量の廃プラスチックなどの海洋汚染が問題となっていますが、海の生態系を保護することで、目標14「海の豊かさを守ろう」の達成にもつながります。

ブルーカーボン生態系は生物多様性に富み、海洋生物の産卵場所や住処としても機能しています。たとえば、アマモという海草は「海のゆりかご」とも呼ばれていますが、近年、ブルーカーボン生態系は急速に失われており、これらを保全および拡大していくことは、急務と言える状況にあります。

ブルーカーボンのCO2貯留メカニズム

では、ブルーカーボン生態系は、どのようにしてCO2を貯留するのか、そのメカニズムを見ていきましょう。

地球上の炭素は、大気中や海水・河川に溶けている二酸化炭素、生物体内や土壌の有機物、石灰質の岩石や堆積物、化石燃料など、さまざまな形に変化しながら存在、循環しています。そのため、ブルーカーボン生態系によって「海中の二酸化炭素が減少」すると、その分、「大気中の二酸化炭素が海中へ吸収(減少)」されます。

海洋生物は光合成により、海に溶け込んだ大気中のCO2を吸収します。日光が届く浅い海域では、海中でも光合成によってCO2を吸収。その後、海洋生物が死骸となって沈殿することで、CO2は排出されることなく、海底に有機炭素として固定されます。また、海底の泥内は無酸素状態であるため、微生物による分解が抑制されるため、海底に蓄積した炭素は数百年~数千年の単位で貯留されることになるのです。

この貯留のメカニズムは、どの生態系に属するかによって異なります。続いて、4つのブルーカーボン生態系とそれぞれの特徴について紹介します。

国土交通省が提示する、4つのブルーカーボン生態系の特徴

2009年に公表された国連環境計画(UNEP)の報告書「Blue Carbon」では、ブルーカーボン生態系(ブルーカーボンを隔離・貯留する海洋生態系)として、
1.海草藻場
2.海藻藻場
3.湿地・干潟
4.マングローブ林
が挙げられています(出典:国土交通省)。以下が4つのブルーカーボン生態系の特徴です。

1.海草(うみくさ)藻場

海草とは、比較的浅いところで根と地下茎をのばし、花を咲かせて種子で繁殖する、海中で一生を過ごすアマモなどの海産種子植物のことを指します。海草や海藻がしげる海の森を「藻場(もば)」と呼びますが、そのうち日本の海草の主流であるアマモの藻場を「アマモ場(あまもば)」と呼びます。アマモ場は北海道から九州まで日本に広く分布しています。アマモなどの海草の海底には、有機物が堆積し、巨大な炭素貯留庫となります。

2.海藻(うみも)藻場

海で生育する藻類のことを海藻(うみも)と呼び、日本では、コンブ場、ガラモ場、アラメ場が主流です。海藻は胞子によって繁殖します。根は栄養を吸収するためではなく、岩盤に定着するためのものです。根がちぎれると、流れ藻となって外洋へ流されます。寿命を終えた流れ藻は枯れ、深い海底へと沈み、ブルーカーボンとともに貯留されます。

3.湿地・干潟

淡水や海水によって冠水する、あるいは定期的に覆われる低地を「湿地」と呼びます。「干潟」とは、海や湖、川などの水辺にある、干潮時に水が引いて出現する砂浜や泥地のことです。ヨシやハママツナ、アツケシソウなどがしげり、光合成によって、CO2を吸収します。湿地・干潟は海と陸の生態系が交わる場所であり、食物連鎖でつながる多様な生物が生息しています。多様な生物の遺骸は海底に溜まり、炭素を貯留します。

4.マングローブ林

熱帯や亜熱帯の河口などの潮間帯に見られる森林で、日本では鹿児島と沖縄の沿岸に分布しています。マングローブは大気中の二酸化炭素を直接吸収するとともに、海底の泥の中で炭素を貯留します。マングローブ林は多くの炭素貯留を担っているほか、水面上昇の防波堤としても機能しています。

グリーンカーボンとの違い〜減少傾向にある、森林のCO2吸収量〜

海洋の生態系が吸収する炭素のことを「ブルーカーボン」、陸上の生態系が吸収する炭素のことを「グリーンカーボン」と呼びます。

もともとは両方を合わせて「グリーンカーボン」と呼んでいましたが、2009年のUNEPの報告において「ブルーカーボン」が定義されたことで、それぞれ分けて呼ぶようになりました。ブルーカーボン生態系は前述の通り、海草藻場、海藻藻場、湿地・干潟、マングローブ林の4種類ですが、グリーンカーボン生態系は、森林や山林、熱帯雨林、草原など広範囲にわたります。

両者の違いを炭素の貯留期間で比較すると、数百~数千年単位で貯留されるとされるブルーカーボンに対し、グリーンカーボンは数十年程度とされています。これは、空気中の酸素に触れるため、微生物による分解速度が早いためで、酸化しづらい環境にある、ブルーカーボンに比べると短期間で大気中に放出されるからです。

次に日本におけるCO2の吸収量で比較してみます。

国土交通省港湾局が発行する「海の森ブルーカーボン CO2の新たな吸収源(2023更新)」によると、海域での炭素吸収量は29億トン、陸域での炭素吸収量は19億トン(森林伐採など開発による「排出」を差し引いた数値)とあります。

四方を海に囲まれた日本は、領海と排他的経済水域を合わせた「領海」の面積が約447万平方キロあり、これは世界第6位の広さ、日本の国土の約12倍にもなります。つまり日本は、ブルーカーボン生態系に大変恵まれた環境にあるのです。ブルーカーボンを増やせば効率的にCO2吸収量を増加できることを考えれば、日本が今後、CO2吸収源対策の新たな手段としてブルーカーボンに注目、活用するのは当然の流れと言えるでしょう。

なお、環境省の調査によれば、森林からのCO2吸収量は、2014年は5750万トン、2021年は4年ぶりに増加したものの、4760万トンとのこと。森林の吸収量が減少傾向であることも、ブルーカーボンへの注目度を高める一因となっている理由のひとつです。

ブルーカーボンの現状と課題〜世界的に減少している湿地帯〜

大きな期待が寄せられるブルーカーボンですが、UNEPの報告によると、ブルーカーボン生態系は、平均して年間2~7%が失われており、この重要な生態系を維持するためにさらなる措置が講じられなければ、今後20年以内にほとんど失われてしまう可能性があると、警告しています。

中でも特に世界で減少が懸念されているのが、マングローブ林です。マングローブ林の減少は、CO2の吸収量の減少だけにとどまらず、伐採によってこれまで貯蓄されていたCO2が放出されてしまうというリスクもはらんでいるからです。

マングローブ林は湿地帯などに形成されますが、日本の湿地帯も大きく減少しています。

国土交通省の調査によれば、1999年の時点で、明治・大正時代に存在した湿地面積の61.1%に当たる1289.62キロ平方メートル(琵琶湖の約2倍の広さに相当)が消失していたという報告があります。また、水産省の調査によれば、埋立、透明度の低下、化学物質の流入、磯焼け(海藻が著しく減少・消失し、海藻が繁茂しなくなる現象)などによって、沿岸域の藻場は大幅に減少。特に瀬戸内海では、30年間で7割ものアマモ場が減少したという報告もあります。

もはや、ブルーカーボン生態系の保全は、待ったなしの状態にあります。しかし日本では、地域や企業が個別に取り組みを進めている例が多く、諸外国と比較すると、まだまだ規模が小さく、国家的な取組の枠組みは確立していない状況です。今後さらに、日本でも取り組みが加速していくことが期待されます。

ブルーカーボンへの取り組みを進める日本企業

日本の企業は、ブルーカーボンへの取り組みをどのように進めているのでしょうか。その一部を紹介します。

セブン&アイ・ホールディングス〜「セブンの森づくり」「セブンの海の森づくり」〜

環境をテーマに社会貢献活動に取り組むことを目的に設立された「セブン-イレブン記念財団」では、加盟店と本部が一体となりさまざまな活動に取り組んでいます。そのひとつとして、水質浄化やCO2削減に役立つアマモを海に移植し、東京湾を豊かな海に再生する活動を展開しています。また海洋プラスチックごみを減少させるため、海岸の清掃活動も実施。セブン‐イレブン記念財団では、2006年から進めていた産官学民連携の「セブンの森づくり」に加え、地域の自然環境やニーズに合わせ「セブンの海の森づくり」も開始しており、森・里・川・海のつながりを大切にした保護・保全活動を全国で推進しています。
(出典:https://www.7midori.org/katsudo/sizen/711forest/

ENEOSグループ〜増えすぎたウニを除去し、藻場を再生〜

ENEOSグループは、CO2の排出量を2030年度までに2013年度対比46%削減。2040年までにカーボンニュートラルを実現するという目標を設定しています。
2021年より、ウニノミクス社とともに、大分県国東市と山口県長門市で、地場漁業水産関係者と協力のもと、異常繁殖して増えすぎたウニの除去を実施。これにより、減少傾向にあった藻場を回復させCO2の吸収量をアップさせています。また除去したウニを畜養し、新たな地元の特産品として地域振興に役立てています。人工物の海中投下や人為的地形改変を伴わず、自然の復元力を十分に発揮できるよう天然藻場が回復する条件を整えることでCO2の吸収を促進した例です。
(出典:https://www.hd.eneos.co.jp/newsrelease/20210330_01_01_1090046.pdf

東洋製罐グループホールディングス〜藻類増殖材の開発

「イオンカルチャー」という、海藻の成長を促す成分を海洋に浸透させる藻類増殖材の開発により、ブルーカーボン生態系の増殖を目指しています。イオンカルチャーは、港や岸壁の消波ブロックの表面に貼り付けると、海洋植物の成長を促進する二価鉄やケイ酸、リン酸イオンといった成分が、ゆっくりと水に溶け出すよう成分調整を行ったガラス製品です。現在、全国の漁港などへ展開されており、イオンカルチャーの普及に努めることで、海の脱炭素に寄与しています。
(出典:https://www.tskg-hd.com/businesstopics/detail/bt_ion_culture.html

日本製鉄〜自社技術を活用し、藻場再生に寄与〜

日本製鉄では、製鉄プロセスの副産物である鉄鋼スラグを利用し、全国44カ所で海藻藻場の再生「海の森づくり」を実施しています。
「ビバリー®ユニット」は、鉄鋼スラグと廃材由来の腐植物質を利用し、鉄分供給資材として開発されたものです。磯焼け現象の一因とされる鉄分の供給不足を解消し、減少した藻場再生に役立ちます。北海道増毛町「増毛組合」との取り組みでは、鉄分補給ユニット45トンを海岸線270メートルに埋設。2018年から2022年までの5年間でのCO2吸収量は49.5t-CO2にものぼると試算されています。ほかにも、CO2を吸収する人口石や、光が届くように水深を嵩上げする水中盛土材などの技術により、藻場におけるCO2吸収の促進に取り組んでいます。
(出典:https://www.nipponsteel.com/csr/env/circulation/sea.html

国としてのブルーカーボンに関する取り組み

企業だけでなく、国もブルーカーボンに関する取り組みを進めています。

国土交通省の取り組み〜Jブルークレジット®〜

国土交通省港湾局では、ブルーカーボン生態系の活用等によるCO2吸収源対策に取り組むことで、脱炭素化に配慮した港湾機能の高度化や次世代エネルギーの活用を目標とする「カーボンフリーポート」の実現を目指しています。そのための具体的な検討を行う「地球温暖化防止に貢献するブルーカーボンの役割に関する検討会」を、2019年度に設置しています。

具体的な取り組みに、「Jブルークレジット®」があります。

これは、JBE(ジャパンエコノミー技術研究組合)が、国土交通省港湾局との連携で管理しているクレジット制度で、あらたな「カーボンクレジット」として2020年から認証をスタートしています。カーボンクレジットとは、主に企業間で温室効果ガスの排出削減量を売買できる仕組みのことです。これにより、企業努力では、どうしても削減できない温室効果ガスの排出量を、カーボンクレジットを購入することで埋め合わせ可能です。

排出量を相殺することを「カーボン・オフセット」と言います。カーボン・オフセットは、主体的に温室効果ガスの排出量を削減する努力を行うとともに、やむを得ない排出量については、排出量に見合った温室効果ガスの削減活動に投資することなどにより、その排出量を埋め合わせるという考え方です。「Jブルークレジット®」のようなカーボンクレジットがあることで、自治体や企業間が連携し、カーボン・オフセットが可能となり、国全体として、温室効果ガスの排出削減への取り組みを加速させ、地球温暖化を抑制することができるわけです。

<関連リンク>
https://www.mlit.go.jp/kowan/content/001589204.pdf

国際社会の一員として、温室効果ガス削減・抑制に取り組む日本

なお、国全体として、温室効果ガスの排出削減に取り組む背景には、日本が国際社会の一員として「パリ協定」を締結、「気候変動枠組条約」に加盟していることも関係しています。

パリ協定ではすべての国が自国の向上に合わせ、温室効果ガス削減・抑制目標(NDC)を策定し、5年ごとに条約事務局に提出・更新します。気候変動枠組条約では、温室効果ガス排出・吸収目録を毎年作成し、条約事務局に提出することが義務づけられています。

<関連リンク>
https://www.mlit.go.jp/kowan/kowan_tk6_000069.html

環境省の取り組み〜ネイチャーポジティブの実現を推進〜

・地球温暖化対策:
IPCC湿地ガイドラインを踏まえ、ブルーカーボン生態系の排出・吸収量の算定・計上に向けた検討を進行しています。

・生物多様性:
「2030年ネイチャーポジティブ」を達成するための5つの基本戦略を掲げ、2030年までに陸と海の30%以上を保全する「30by30目標」の達成等を推進中。自然を回復軌道に乗せるため、生物多様性の損失を止め、反転させることを意味する「ネイチャーポジティブ(自然再興)」。環境省は2030年までに「ネイチャーポジティブ」実現を目指しています。

・水環境保全:
瀬戸内海をはじめとした閉鎖性海域を中心とした日本の沿岸域において、水質規制等の取り組みだけでなく、生物多様性や豊かな漁業資源の確保に資する藻場・干潟等の保全・再生・創出に向けた取り組み「里海づくり」を推進しています。
(出典:https://www.env.go.jp/earth/ondanka/blue-carbon-jp.html

水産庁の取り組み〜磯焼け対策ガイドライン」を策定〜

藻場や干潟の保全・再生のため、ブルーカーボンに取り組む公共団体や地域の活動を支援。磯焼けの対策にどのように取り組めばいいかをまとめた「磯焼け対策ガイドライン」を策定。2018年度からは毎年「磯焼け対策全国協議会」を実施することで取り組みの強化を図っています。
(出典:https://www.env.go.jp/earth/ondanka/blue-carbon-jp.html

2050年、カーボンニュートラル実現に向けて、取り組みは加速

日本では2050年までに、温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させ、実質ゼロに抑える「カーボンニュートラル」の実現を宣言しています。ブルーカーボンの保全・再生への取り組みは、そのためには欠かせません。また、企業にとってもブルーカーボンへの取り組みは、日本の未来を守るだけでなく、企業価値を高めることにもつながります。

四方に囲まれた日本に暮らす私たちは、海の恩恵を享受して生きています。私たちの"当たり前"、そして"未来"を守っていくためにも、ブルーカーボン生態系の保全・再生への取り組みは、企業・自治体がひとつとなり、今後さらに加速していく必要があると言えるでしょう。

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