2024年09月11日
「日常の中で、誰もが必ず使うものだからこそ伝えられるSDGsのメッセージがあるはず」と、日本製紙クレシア・取締役 マーケティング総合企画本部長の高津尚子さんは語ります。
日本製紙クレシアは日本で初めてティシューを紹介した歴史を持ち、1964年に発売したクリネックスとスコッティは、今年でちょうど発売60周年。木から生まれる紙の製品を取り扱う企業として、環境に配慮した商品開発に力を入れてきました。
そして今年6月、『FRaU』SDGs特集号「木と森がつくる、未来。」の刊行と時を同じくして、日本製紙クレシア株式会社とのコラボレーションした特別デザインの「スコッティ ティシュー フラワーボックス」が誕生しました。
多くの人々の日常に寄り添う日本製紙クレシアのSDGsのビジョンと、今回のようなコラボで生まれる相乗効果について、高津さんと、『FRaU』編集長 兼 プロデューサー・関龍彦が語り合います。
高津 『FRaU』の2019年1月号(2018年12月20日発売)のことはよく覚えてるんですよ。女性誌として、日本で初めて1冊丸ごと「SDGs」を扱ったということで、あの号は本当に話題になりましたよね。
弊社は2016年から「3倍長持ちロール」という商品を打ち出していたのですが、当時は、SDGsの枠組みの中で改めて商品を語るためにはどうしたら良いか、という課題意識が社内で持ち上がっていた時期でした。本屋さんを4、5件回り、やっと手に入れた記憶があります。すごくチャレンジングな企画だと思いましたし、編集長の関さんは一体どんな方なんだろうと、ずっと気になってたんです。
3倍長持ちロール(写真右)は、コンパクトなことから、生活者にとっては買い物が楽で取り替えの手間が減り、販売店は品出しが楽になり、配送効率もあがる。加えて配送の際のCO₂削減につながり環境にとっても良いということで、「四方良し」の商品として話題に。
関 ありがとうございます。昨年、「スコッティ ティシュー フラワーボックス」が160組から250組にリニューアルされ、長持ちで環境に優しくなったと打ち出された時は、新商品発表会に呼んでいただき、SDGsのお話をしました。
2020年の「FRaU×SDGs共創カンファレンス~2020 summer」には、パートナー企業として参加もいただきましたね。
高津 その後、関さんが「木の特集をやりたいんですよ」とおっしゃった時には、ぜひ何か一緒にやりたいと思いました。日本製紙グループが掲げるのは「木とともに未来を拓く総合バイオマス企業」ですから、木というテーマにはグループ全体で向き合いたいと。
FRaU2024年8月号 (発売日6月24日)。国土の7割が森林という世界有数の森林大国の日本だが、林業従事者の高齢化や、輸入木材への依存など、実は多くの課題が。そうした現状を紹介しつつ、生活者がくらしの中で消費を通じて関われるアクション、新しいライフスタイルを提案する。
高津 グループの中には木や森林の事情にとても詳しい「博士」(※) がいるので、社内でも勉強会をしていたのですが、関さんたちにも来ていただくことができました。
関 結局、講談社のメンバーだけでなく、今号に関わっている外部のエディターさん、ライターさんなどの関係者にも広く声をかけて、大勢で参加させていただきましたね。そこで学んだことも、「木と森がつくる、未来。」の号に生きています。
これだけの森林大国なのに、今、多くの人にとって森は遠い存在になってしまっています。おしゃれな木のプロダクトや、森林浴など、きっかけはなんでもいいので、林業が衰退している現状や、森を取り巻く環境問題などに、少しでも思いをはせる人が増えてくれたら嬉しいです。
高津 この号は、我々としてもグループ内で教材として活用したいくらい重厚な情報が詰まっていると思います。林業の「業界」の外になかなか広がっていかない課題を、親しみやすい文脈で伝えられたのは、『FRaU』さんならではだと感じました。
※「博士」:日本製紙株式会社 原材料本部長付部長 兼 バイオマスマテリアル事業推進本部 事業転換推進室 主席調査役 太刀川 寛氏のこと。
国内外の森林および森林資源の活用とバイオマス製品の拡大を図る日本製紙グループの「グリーン戦略」を推進中。
関 そして、同じタイミングで、scottieと『FRaU』のコラボレーションデザインのボックスも打ち出すことができました。僕は女性誌一筋30周年という中で、まさかティシューを作ることになるとは夢にも思わず(笑)
高津 我々も、コラボしましょう!とは言ったものの、まさか編集長にデザインのディレクションからご一緒いただけると思っていませんでした(笑)
6月1日から数量限定で販売されている「森」と「海」をイメージしたコラボレーションデザイン。「スコッティ ティシュー フラワーボックス」は、2023年より一箱あたりの組数を160組から250組に増量。交換回数が減ることで、ボックスのフィルムやカートンの使用量を削減。物配送の際に排出されるCO₂削減にも貢献。
関 雑誌が重なっているこのデザインは非常に好評でしたね。ランディングページも同じ世界観の中で味わっていただけるよう、工夫を凝らしました。『FRaU』編集部の人間がこれを喜び勇んで社内で配ったら、想像以上にみんな喜んでくれたんですよ。社長も役員もこぞって「すごいな、こんなことができるのか」と驚いていて。普段、雑誌を作ってもあんまり喜んでもらえないのに(笑)
高津 うちも社内の評価が非常に高かったです。そして、手にされたお客様の中にはInstagramに投稿されている方もいて、部屋の中でおしゃれに飾られている様子が素敵でしたね。
ティシューは店頭にたくさん並んで販売されるものですし、しかも、買って帰るとそのまま部屋の中に置きますよね。家でも職場でもどこでも、一日に何度も目にするし、一日の中で使わない人はいないはずです。それがミソだと思っていて、日常の中で、誰もが必ず使うものだからこそ伝えられるSDGsのメッセージがあるはずなんです。
とはいえ、「うちの企業はこんなことをしているんです」と広告色が強くなってしまうと家の中に置きたくなくなってしまいますから、今回のコラボは丁度良いアウトプットになったのでは、と手応えを感じています。自社だけでSDGsの課題に取り組むのは限界がありますし、手を取り合って、お互いに相乗効果を生んでいくことが大事なのかな、と。
関 我々がこんなに褒めてもらったということは、お互いにブランド力が上がったということ。そして、今回の取り組みは、長きにわたるパートナーシップがあったからこそ実現できたものだと思っています。
高津 この一年ほどで、すっかり『FRaU』ファミリーの一員になれたと自認しております(笑)
関 高津さんが挙げてくださった、『FRaU』の一番最初のSDGs号を打ち出した2018年、SDGsの認知度はわずか14.8%だったんです。それが2023年には91.6%にまで上がり、「聞いたことがない」という人はほぼいないという状況になっています。
ただ、SDGsについて知ってはいるけど、具体的なアクションに結びつけて考えられている人はまだまだ少ないという肌感です。気候危機の専門家はすごく悲観的ですし、本当はもっと社会の中で危機感を抱く人を増やさないといけない。
今年も命の危険を感じる暑さが続いているのに、天気予報で気候危機について触れる機会をほとんど見ません。去年、「#暑さの原因報道して」という署名が話題になり、先日も「気候危機に関する気象キャスター共同声明」も出され期待していたので、もどかしい思いもあります。
とはいえ「地球が危ないんだよ!」とストレートに打ち出してもなかなか生活者に響かない難しさがあるのは事実。女性誌の本分である「楽しい」「心地よい」「わくわくする」といったメッセージと共に、日常の中で実感できるテーマでアピールを続けてきました。
高津 とても発見のあるお話です。日本製紙クレシアは、日本製紙グループで唯一生活者に直接商品をお届けする役割を担っているので、前述したように、「日常の中で、誰もが必ず使うものだからこそ伝えられるSDGs」を考え続けていかなければならないと思いました。
まさに試行錯誤の連続です。今回のコラボレーションも含めて、とにかくまずは実行し、その中でどんどん精度を上げていくしかないのかな、と。
関 クレシアさんは、トイレットロールの3倍長持ちも、250組への変化も、技術の力で解決して来られました。生活者からすると、「そういえば最近あまり取り替えてないな?」と、あとから気付くくらいの小さな変化かもしれませんが、それくらい日常の中に溶け込んでいるからこそ、高頻度で、身近に感じられる情報発信ができそうです。
関 生活者のSDGsへの意識の高まりは感じますか?
高津 3倍長持ちロールがここまで文化として定着してきたことを考えると、感度の高い方々は増えているのかなと感じます。
印象に残っているのが、2023年10月〜2024年2月にかけて実施した「スコッティ Action for Smile キャンペーン」です。弊社商品のティシューの箱とトイレットロールの芯を回収するため、お客様に弊社に送ってもらえるよう呼びかけ、抽選で産地直送の食材が当たる設計にしました。
トイレットロールの芯を16本、ティシューの箱を10個、芯8本+箱5個のいずれかを「一口」という設定だったので、使い終わった箱や芯をわざわざ集めて、荷物として送るために梱包して......とけっこう手間がかかるはずなんですよ。社内では、「そんなに集まらないのでは?」と不安そうな声も一部聞かれましたが、最終的に、トイレットロールの芯で約5万8000本、ティシューの箱が約3万個集まったんです。重さでいうと1.4万トンほどになりました。
関 それはすごい! 今の時代、手間がかかったとしても協力したいという人が増えているのではないでしょうか? 最近、大手ファッションビルさんが洋服の回収で資源を循環させるサービスを始めたそうで、ポイントが貯まる仕組みのようなのですが、関係者に話を聞いてみると、意外と「ポイントは結構です」と言うお客様が多いのだと。
回収してくれることがありがたいし、それに携わることで心地よさを得られる、という心理があるように思います。
高津 そうかもしれないですね。リサイクルの啓蒙は、もっとできることがあるはず、と考えているところです。紙という素材のメリットは、なんと言ってもリサイクルできることですから。
でも、ティシューのボックスやトイレットロールの芯が「古紙」として回収できる、ということを、多くの方が知らないということがわかっていて、皆さん、けっこう燃えるゴミで捨てちゃってるんですよね。これは、自治体さんと一緒に取り組んで、アピールの方法を模索したいな、と。
関 一社が頑張れば世の中が変わるということはないですから、みんなでやることで大きなパワーになると思います。
高津 皆さんで、手を携えてやっていきたいですよね。弊社では引き続き、これまでの積み重ねを改めてSDGsのメガネでちゃんと見て、取り組んでいきたいと思っています。
撮影/坂功樹 取材・文/清藤千秋 編集・コーディネート/丸田健介(講談社SDGs)
C-stationグループで、BtoB向けSDGs情報サイト「講談社SDGs」担当。