市民に開かれたごみ処理施設の可能性とは?今治市の事例からごみ問題へのアプローチを探る

2024年12月03日

環境問題について考えるとき、ごみの廃棄量をいかに減らすか、という視点は欠かせない。

一人ひとりが生活の中でごみの消費を抑えるアクションを取ることももちろん大切だが、パブリックセクターやビジネスセクターもごみ廃棄を抑制するための大きな社会的責任を担っている。また、積極的に生活者に啓蒙することで、ごみに対しての意識改革を行うことも可能であるはずだ。

今回、ごみ問題に向き合うためのヒントを得るべく赴いたのは、愛媛県今治市の「今治市クリーンセンター」通称「バリクリーン」だ。自治体によるごみ処理のスキームを通じて、改めてごみについて考える。

市民に開かれ、地域に溶け込むごみ処理施設

愛媛県今治市といえば、「今治タオル」や造船業で日本全国に名が知れる街だ。瀬戸内海の穏やかな海を望む景観が魅力で、近年は、広島県尾道市とを結ぶしまなみ海道の開通で、サイクリングロードとしても注目されるようになった。

瀬戸内海に浮かぶ大小さまざまな島が市域に含まれていることも特徴だ。今回訪れた「今治市クリーンセンター」は、今治市唯一のごみ処理施設として、このような島嶼部も含めた市全域(※関前地区を除く)からごみを回収している。

2005年の今治市と越智郡11町村の合併時には、陸地部に1か所と、大島、伯方島、大三島のそれぞれにごみ処理施設があった。これらの施設の老朽化や、コスト面での見直しも鑑み、新たに一つの施設を建設して、ごみ処理の機能を全て集約させることになったのだという。

施設に実際に伺ってみると、バリクリーンには、これまでの「ごみ処理施設」のイメージを大きく塗り替えるような特徴がいくつもあることに気が付く。建築デザインで目を引くのは大きな曲線を描く屋根で、これは今治市内をつなぐ「架け橋」をイメージしたそうだ。

2018年より稼働開始した今治市クリーンセンター(通称「バリクリーン」)

まず施設内に入ると明るく開放的な空間が広がっており、市民が利用できる大研修室、研修室、多目的室、環境学習コーナーなどが並ぶ。大研修室はいわゆる学校の体育館のような空間で、取材時にはちょうど卓球を楽しむ市民の姿が見られた。

災害を常に想定しているフェーズフリーの考え方とは?

このバリクリーンが建設されるにあたり策定された「21世紀のごみ処理施設のモデル(今治モデル)」には、次の3つの柱が挙げられている。

① 廃棄物を安全かつ安定的に処理する施設
② 地域を守り市民に親しまれる施設
③ 環境啓発・体験型学習及び情報発信ができる施設

施設でまず感じた、市民との距離の近さ、地域に溶け込んでいるような空気は、まさに②と③が実現されているがゆえのものだったと分かる。

施設には見学用のルートが整備されており、回収されたごみがどのようなプロセスを経て分別され、焼却されるのかをつぶさに学ぶことができる。その工程の緻密さに驚きを覚えるとともに、至る所に施されている防災視点での「備え」も印象的だ。

バリクリーンは、災害時の際に市民が避難できる施設として、320人が7日間生活できる食料などの備蓄や、炊き出しが可能なIH調理設備、避難者の負担を軽減するための空調設備などが備えられているのだ。平常時にも多くの市民が出入りする施設であると同時に、災害時には防災拠点となる。このように、平時と災害時の時間の垣根を取り払うことで、「もしも」の時だけでなく、「いつも」の時も役立ち、価値のあるものにするといった新しい概念を「フェーズフリー」というそうだ。

今治市・環境施設課の浅海文明さんと宮脇順一さんに詳しくお話を伺った。

「全国でも、ごみ処理施設でフェーズフリーを掲げているのはここが初めてなんです」と宮脇さん。

バリクリーンの施設について説明する環境施設課 施設係長の宮脇順一さん

「バリクリーンが稼働して7年目となりますが、毎年全国からさまざまな行政の視察がいらしています。これからも、同じような基本指針を取り入れていく自治体さんは増えていくと思いますよ」

避難所の運営のために市民セクターも連携

竣工してから未だ大規模な災害には見舞われていないが、今年夏に台風10号が発生した際は、1階の多目的室を避難所として開放した。他にも、2018年9月と2021年9月、台風の夜に自主避難をしてきた家族がおり、3階の大会議室(和室)で一晩過ごしてもらったという。バリクリーンは24時間運転で、必ず運転管理の担当者がいる。自主避難の市民は、いつ来たとしても入り口のインターフォンを押せば必ず施設内に受け入れてもらうことが可能なのだ。

環境施設課の課長の浅海文明さんが施設の災害対応について説明を付け加えた。

「防災危機管理課が、毎月1日、必ず防災に関するテストメールを送ってくるので、災害時の挙動を確認しています。この前の台風の時にも防災メールが入り、私はその夜、資源リサイクル課の課長と交代でこちらに詰めていました」

災害時の施設対応について語ってくれた環境施設課 課長の浅海文明さん(写真右)

印象的だったのは、有事の際にこのバリクリーンで避難所を運営する場合、市とともに地元のNPOや防災士にも協力してもらうというお話だ。浅海さんは、台風10号の時にあったやりとりについて語る。

「台風が直撃することがわかった時、その地元のNPOの方が実際に来て、何かすることはないですか?と仰ってくれて、頼もしかったですね。自治会長さんからも『これから行こうか?』とご連絡をいただきました。『連携』という考え方は理想として掲げられても形骸化してしまうことが多いと思うのですが、常に意識してもらっているのがバリクリーンならではですね」

このような行政や市民セクターの協業も、多くの地域で実践可能な参考事例となりそうだ。

ごみではなく「資源」という考え方で

巨大なごみピットに次々とごみが投棄されていく様子や、不燃ごみに混入した危険物や不適物を手作業で選別する作業の行程など、日頃、何気なく捨てるごみの「その後」を知ることには大きな意義があると感じた。

ごみピット内では巨大なクレーンが常に動いている

浅海さんは、「ごみを出す人の意識を変えたい」と語る。

「物理的に火を加えれば燃えるのは当たり前のことなんですよね。その結果として発電というエネルギー創出にもつながるわけですが、地球規模での資源の枯渇やプラスチックごみ問題などを考えないわけにはいきません」

「プラスチック製品をリサイクルして商品化するためには、やはりきれいな状態で出してもらわないとダメなんです。そもそも、うちではごみではなく『資源』と位置付けしてるんですよ。空き缶も、ペットボトルも、プラスチックも、白色トレーも、ビンも、みんな資源です」

宮脇さんは、ごみ処理の仕事に携わるようになってから暮らしの中での意識が大きく変わったそうだ。

「ここにきて初めて知ったことが多いんです。最近、廃棄処理の過程で火災事故の原因にあると知られるようになったリチウムイオン電池もそうですが、危険につながることもあります。だからこそ、自分自身の生活の中でも『しっかり分別して出さないと』と、分別に対する意識が高まりました」

だからこそバリクリーンでは、工場の中を「見て・体感して・楽しみ」ながら学べる見学の重要性を強調している。今年10月に開催された「いまばり環境フェスティバル2024」では、リサイクルフェアや、会場内各エリア(環境エリア、フリーマーケットエリア、フードエリア)へのブース出展、バリクリーン見学会の実施があり、一日で1300人以上の市民が来場したそうだ。

多くの市民が参加した「いまばり環境フェスティバル2024」

バリクリーンのさまざまな取り組みから、人々の「捨てて終わり」という意識が大きく変わっていく可能性を感じた。

撮影/大坪尚人 編集・コーディネート/丸田健介(講談社SDGs)

丸田 健介 エディター・コーディネーター

C-stationグループで、BtoB向けSDGs情報サイト「講談社SDGs」担当。

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