2025年01月16日
昨今、ビジネスの場でも「ダイバーシティ」、「D&I」、「DEI」などの言葉をよく目にするようになり、企業活動においても欠かせない重要な要素となりつつあります。講談社SDGsでは、なかでも「DEI」という考え方に着目し、DEIに関する記事を継続的に発信しています。
さらに講談社SDGsでは、昨年メルマガ会員の方に向けて「企業のダイバーシティ推進に関するアンケート」を実施しました。いま、日本の企業はDEIについてどの程度推進しているのか、今回はアンケート結果をもとに企業の取り組み状況の実態について考えます。
改めておさらいすると、「DEI(Diversity, Equity & Inclusion:ディー・イー・アイ)」は、「Diversity(ダイバーシティ)」「Equity(エクイティ)」「Inclusion(インクルージョン)」の頭文字をとったものです。日本語では、ダイバーシティは「多様性」、エクイティは「公平性」、インクルージョンは「包括性」を意味します。「互いを尊重し個々の能力を活かすだけなく、それぞれの状況に合わせた機会を提供し、誰もが公平に活躍できる仕組みを作ることで、個人と企業が共に成長していく」という意味合いで、企業経営において重要視されるようになってきました。
SDGsの視点でも、「5. ジェンダー平等を実現しよう」、「8. 働きがいも経済成長も」、「10. 人や国の不平等をなくそう」といった目標に大きく関わる要素であり、よりよい社会の実現と、持続的な企業の成長を両立させるために重要な要素となっています。
そんなDEIですが、いま、日本の企業がどこまで意識して、企業活動に反映できているのでしょうか。講談社SDGsでは、2024年6月に企業の取り組み状況についてのアンケートを実施し、メルマガ会員の方に自社の取り組み状況について聞いてみました。アンケートの概要については下記のとおりです。
【アンケート概要】
・調査期間 : 2024年5月29日(木)~2024年6月11日(水)
・調査方法 : インターネット調査(講談社SDGsメルマガにて募集)
・有効回答数: 71件
今回、回答数が71件と調査としてはサンプル数が少なかったため、この結果だけで日本の企業の実態を表すことは難しいかと思います。あくまでもこういった傾向がある、という参考値としてご紹介できればと思います。
まずは企業のダイバーシティ推進状況について聞いてみました。下の円グラフが結果です。今回の調査では、「積極的に取り組んでいる」「取り組んでいる」と回答した方が合計で57%と半数以上になりました。いわゆる「働き方改革」が叫ばれるようになって数年、多くの企業がDEIに関する取り組みをスタートしているようです。
一方で、その浸透度合いはどのようなものなのでしょうか。社内浸透度について聞いてみたところ、「ほぼ社内に浸透している」と答えた方は10%、「半数以上の社員に浸透している」は24%でした。いちばん多かったのは「あまり浸透していない」の41%で、企業として取り組みは行っているものの、社員のみなさんへの浸透が課題となっている企業が多いことが伺えます。
では具体的にどのような施策を行っているのでしょうか。各社、様々な施策を実施していますが、最も多かったのが「多様性を受け入れる社内文化・風土づくり」で、次いで「柔軟な働き方ができる人事・労務制度の整備」となりました。企業が取るべき施策としては、男性育休や、女性管理職の登用など、制度面での整備、つまりハード面での施策に注目が集まりますが、それだけでなく、多くの企業が社内文化・風土の醸成といったソフト面での意識改革に力を入れていることが伺えました。
しっかりとDEIを企業に根付かせて、社員一人ひとりの働き方や意識を変えていくためには、ただ制度を用意するだけでなく、制度を気持ちよく利用するための「空気づくり」は重要です。ハード面・ソフト面両方でのアプローチがDEI推進においては重要だと言えます。
さらに詳しくDEI推進の取り組み内容について聞いてみました。DEI推進をするうえで、様々な施策は考えられますが、今回は「女性活躍」と「男性育休」の2つのポイントについての質問をピックアップして紹介します。
まずは女性の役員比率についてです。現在、政府はプライム市場上場企業を対象として、2025年を目途に女性役員を1名以上選任、2030年には30%以上とすることを目標に掲げています。自社の女性役員の状況について聞いたところ、「すでに複数名いる」と答えた方が22%、「1名いる」と答えた方が26%と、約半数近くが女性役員は1名以上いると回答しました。
この点においては、ステークホルダーへの対応等も考慮し、積極的に推進している企業が多いことが伺えます。今後更なる比率の拡大が期待できますが、ただ形式上比率を上げるために選任するのではなく、女性役員の拡大は経営判断における多様性を担保することで誤った意思決定を回避する、といった取り組みの意義をしっかりと理解したうえで進めることが重要と言えます。
つづいて女性の管理職比率について聞いてみました。政府は2030年を目途に女性管理職比率を30%以上にすることを目標に掲げています。現在の状況をアンケートで聞いたところ、「達成している・目途が立っている」と回答した方は全体の21%で、約半数が「まだ動き出していない」という回答でした。
もちろん管理職に起用するためには幹部候補の育成が必要なため、一朝一夕で比率を高められるものではありません。ただ、時間がかかるからこそ、今のタイミングから動き出さねば目標を達成することは難しくなってきます。また、育休支援の拡充や、復帰後の働きやすい環境づくり、多様な働き方に対応できる柔軟な勤務制度設計など、個々のキャリアプランを考慮した組織運営も必要になってきます。
つづいて男性育休の取得状況についても聞いてみました。男性育休についての「制度・支援は整備されており、多くの社員が取得している」と回答したのが35%。反対にまだ取得を推進できていないのが半数以上、という結果になりました。
2022年に「改正育児・介護休業法」が施行され、企業から社員への育休取得推進が義務化されましたが、取得すること自体を義務化はされていません。多くの企業が取得推進に向けて動き出している状況ですが、男性育休については制度以上に、その方の職場の環境や、上司・同僚の理解が重要かと思われます。経営層からのトップメッセージと、現場社員の取得事例の共有など、様々な情報発信を行うことで、取得が当たり前になる空気を作ることが大切です。
そして、実際にどの程度の期間取得しているか、についても聞いてみました。最も多かったのは「1か月以内」が43%で、多くの方が1か月程度の取得を行っているようです。
個々の環境によって適切な期間は異なるかとは思いますが、1か月以上取得しても組織として問題ないようにしていくことが肝要と言えるかもしれません。
そして、ダイバーシティ推進において感じている課題についても聞きました。経営層・マネジメント層の意識の低さや、推進する人材の不足など、様々な課題を感じている方が多くいました。
複数選択で回答していただいたのですが、3つ以上の項目を選択した方が多かったので、どれか1つが課題というよりも、複合的に要因が組み合わさって課題に感じている方が多かったようです。
そこで、この課題に感じている項目について、従業員規模別に分けてみました。すると、従業員規模によって感じている課題が分かれていることが見えてきました。
まず1001名以上の比較的大企業と言える企業の場合、経営層の意識や人材・制度の整備を課題に感じている方は少ないものの、「管理職・マネジメント層の意識」に課題を感じている方が多かったようです。規模が大きくなるほど、会社としての指針や施策を浸透させることが難しくなっていきます。個々が働きやすい環境を整えるためには、マネジメント層への研修強化や評価制度への反映などが有効かもしれません。
次に101名~1000名という中規模企業に関しては、「経営層の意識の低さ」「社内での説明機会の不足」について課題に感じている方が多くなりました。様々な経営課題がある中で、DEIの領域よりも優先すべきことがある、と感じている経営層が多いのかもしれません。行政による積極的な働きかけだけでなく、ボトムアップから働きかけを行うなど、地道に理解を促すことが必要になっています。
そして、100名以下の中小企業にあたる企業については、何より「ダイバーシティ推進の人材不足」が浮き彫りになりました。現状、総務・人事系の部署の方がマルチタスクで対応するケースが多いことが伺えます。まだDEI推進における企業の対応はバラつきが多い中で、やるべきことが明確ではないため大変なのではと思います。今後、モデルケースが世の中に多く共有されて、DEI推進に関する取り組みがある程度標準化されることで、専門人材の増加と、担当者の負荷が軽減されることを期待します。
そして最後にDEIを推進することで、考えられる効果について聞きました。「企業イメージの向上」を筆頭に、それにより得られる効果として、「従業員満足度の向上」、「採用時の人材確保」、「ステークホルダーからの評価」など、様々な側面での効果が期待されていることがわかります。
DEIと一言で言っても様々な要素があるため、それに伴う効果も明確に絞られるわけではありません。一人ひとりが互いに尊重されて、公平な機会を設けられることで、働きやすく充実した仕事環境を作り出す、ということがDEIなので、それにより得られる効果はここに書かれている要素だけでなく、「個々のモチベーションが上がり事業成長につながる」など、さらに多くの効果を生むことが期待されます。
以上、調査結果の概要をお届けしました。
前述の通り回答数が多くないため、あくまでも参考としての情報になりますが、皆さんのお役に立てれば幸いです。今後、講談社SDGsでは引き続きDEIについての情報を継続的に発信していく予定です。何か知りたいことなどがあれば、お気軽にお問い合わせください。また、「FRaU」や「クーリエ・ジャポン」などのメディアでのタイアップ広告など、DEI取り組みに関する対外的な情報発信の支援もしております。是非お気軽にご相談ください。
C-stationグループで、BtoB向けSDGs情報サイト「講談社SDGs」担当。