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「産業が破壊した環境は、産業が復活させなければならない」SDGs達成を"本業"で目指すサラヤの挑戦|FRaU関編集長のSDGs Talk vol.6

2025年04月24日

環境に良いと信じて作っていた製品が、なんと環境破壊に加担していた──そんな「不都合な真実」と向き合い続けてきた企業があります。

サラヤ株式会社が手がける「ヤシノミ洗剤」のステンドグラス風のパッケージを、見たことがあるという人も多いはず。ヤシの実由来の植物性で、肌にも優しく、環境負荷の低い製品です。

しかし、その原料であるアブラヤシ(パーム油)のプランテーションの急激な拡大は、ボルネオの環境を破壊し、オランウータンやゾウなどの野生動物が住む場所を失っているという現実も。2004年にそれを知ったサラヤは、以来、持続可能なビジネスの形を模索してきました。2025年の現在地とは?

「パーム油産業が破壊した環境は、パーム油産業が復活させなければなりません」

と力強く語るのは、取締役でコミュニケーション本部長の代島裕世さん。これまで何十回とボルネオに赴き、現場で起きている出来事をつぶさに見つめ、必要なアクションを主導してきました。「FRaU関編集長のSDGs Talk」vol.6では、持続可能なビジネスのあり方と、SDGsを推進する企業のコミュニケーションについて語り合います。

販売当初はなかなか売れず、迷走していた時期も......

資料室に保存されている歴代のヤシノミ洗剤。植物由来なので、長い時間を経て色が変わっている。

 ヤシノミ洗剤が発売されたのは1971年なんですね。今でも愛され続けているロングセラー商品だと思います。

代島 実は、サラヤとヤシという植物の出会いを遡ると、創業の1952年なんです。戦後すぐの日本は衛生状態が極めて悪く、赤痢などの伝染病を予防するために石鹸液を作ったのですが、ヤシとはそれ以来の付き合いということになります。

 当初からアブラヤシだったんですか。

代島 いえ、ココナッツですね。ヤシノミ洗剤が誕生したのは、給食センターの職員の方たちの「手が荒れる」という声がきっかけで、肌に優しい植物由来の洗剤として誕生しました。排水が素早く微生物に分解されるので、環境負荷も少ないんです。でも当時は全く売れなかったそうですよ。市場に出回る他社の洗剤に比べると高いのですが、「環境にやさしい」なんて打ち出しても生活者には響かなかったんですね。

でも創業者の初代社長はこの商品の意義をとても大事にしていて、売上がどんどん下がって苦労しても、細々と続けられていたんです。僕は1995年に入社したのですが、他のすぐ売上に繋がる新商品企画をいろいろと仕掛けたり、カロリーゼロの植物由来甘味料ラカントの販路拡大に奔走したりしていました。

左から代島裕世さん(サラヤ株式会社 取締役 コミュニケーション本部本部長 兼 コンシューマー事業本部 副本部長) 、関龍彦(講談社 『FRaU』編集長 兼 プロデューサー)

1998年に二代目(更家悠介氏)に代替わりしてからは、僕が企画担当になっていろいろとテコ入れを試みました。「自然といったら『アルプスの少女ハイジ』だろう」とタイアップしたこともありましたね。打ち出し方がだいぶ迷走していた時期です。

そんな時、2004年、「素敵な宇宙船地球号」(テレビ朝日)から取材依頼が来ました。ディレクターから電話がかかってきて、「パーム油のプランテーションがボルネオで深刻な環境破壊を引き起こしていることを知っていますか」と言われました。寝耳に水です。

他にもパーム油を使っている企業に取材依頼をされたそうですが、全て拒否されたそうです。「サラヤさんは自然にやさしいと謳っていますよね。悪いように描きたいという意図ではないから、どうかインタビューを受けてほしい」と説得を受けました。

自社製品が環境破壊に加担している...突きつけられた社会課題

 広告、PRなどコミュニケーションを主導する立場として、判断に迷うところだったのでは?

代島 「断るほうがよくない」と思ったんです。それで社長に意図的にスーツではなく作業着を着せて、大阪工場の部屋で出演してもらいました。現地で起きていることを収録したモニターを見て、社長は、現地で起きていることについては知らなかったこと、そして、知ったからには何かしなければならない、といった内容のコメントを出しました。それしかできなかったんですよね。

ご案内いただいた大阪市東住吉区のサラヤ本社は、閑静な住宅街の一画にある。

サラヤは洗剤に必要な「ラウリン酸」を商社から購入していたので、その原料がココヤシからアブラヤシに切り替わっていた、ということに気づけませんでした。企画担当の僕も知りませんでした。

当然お客様からは批判的な意見が殺到しました。僕はアブラヤシのことをとにかく勉強しようと思って、国内でパーム油を扱っている商社などに行って情報収集を試みましたが、誰も知らないんですよ。クアラルンプールやジャカルタの支社に任せていて、本社は把握していないと。

結局、現地を取材していた番組のディレクターがいちばん頼りになりました。「どうすればいいと思いますか」と聞きましたよ。

 すごいですね。そんな素直に自社のネガティブな部分と向き合う企業さんは少ないと思います。

代島 とにかく会社の一大事ですから、必死です。そしたらその番組の方が、「今、RSPO(持続可能なパーム油に関する円卓会議)という国際会議が始まっていて、日本企業は取り組みが遅れているからまだどこも入っていない。とにかくまずそこに入ったほうがいい」と。

さらに、マレーシアのサバ州野生生物局(SWD)を紹介してもらって、レンジャー向けの中古車を寄付し、現地に調査員を派遣して、棲家を失ったゾウの救出活動を始めました。野生動物が安全に移動できるようにするための「緑の回廊」プロジェクト(※)もスタートさせました。

すると、そういう我々の取り組みをディレクターが追いかけて、番組の続編を作ってくれたんです。視聴者の反応は今度は真逆で、好意的な声をたくさんいただきました。

(※)熱帯雨林だった土地を買い戻し、分断された緑(保護区)をつなぐプロジェクト。野生動物が安全に移動できるようになる。

生物学者の福岡伸一さんと6人の中高生が巡った「ボルネオ学習ツアー」で撮影したボルネオゾウ(写真:関龍彦)

チャリティの限界を超え、ビジネスだから継続できることがある

 ボルネオで起きている現実を知った時、サラヤさんには「パーム油を使うことをやめる」という選択肢もあり得たのでしょうか。

代島 確かに、アンチパームオイルの道を取った企業さんもいます。しかし、我々が選んだのは、サステナブルなパーム油を使う、という道でした。仮にサラヤが撤退してもパーム油の産業は残り続けるわけで、産業は急激なシフトはできません。80億人の人類が今使っている植物油の第一位がパーム油なんですから。何より、パーム油産業が破壊した環境は、パーム油産業が復活させなければなりません。

 なるほど。サラヤさんの教育支援プロジェクト「いのちをつなぐ学校 by SARAYA」で、中高生6名を招いて実施した「ボルネオ学習ツアー」に僕も声をかけていただいて、同行させていただきましたが、そこで現地の子どもたちが「将来はプランテーションの経営者になりたい」と言っていたことを思い出します。それがあの地域で一番お金持ちになれる方法なんだ、と。あれは考えさせられました。

正直、僕もボルネオに行くまでは、熱帯雨林が驚異的なスピードで破壊され、動物たちが棲家を失う産業は単純に「悪いもの」だと思っていました。しかし、一元的に見るものではないんだ、と実感しました。

「ボルネオ学習ツアー」に参加した子どもたちも、ことあるごとに「もやもやする」と言葉にしていたのが印象的でした。現地でサラヤさんがご支援しているゾウの保護施設では、罠にかけられて足が傷ついたゾウがケアされていますが、罠をかけているのも人間、助けているのも人間だと。

ボルネオに広がるアブラヤシのプランテーション(提供:サラヤ)

代島 ビジネスの枠組みがあるからこそ、できることがあると思っています。サバ州に最初働きかけた時、更家社長は「サバ州からパーム油を買い続けたい」「環境改善のためのアクションを起こしてもらわないと、うちはボイコットしなければならなくなる」と言いました。そしたら「口を出すなら金を出してほしい」と言われました。

確かに、より良い社会のためのアクションは、何事もお金がなければできないわけですよ。それは、チャリティでは続かないんです。だからこそ、ビジネスで継続していく必要があると思っています。

 実際のところ、サラヤさんは口も出しているしお金も出しているし、手も動かしてらっしゃいますからね。現地に根付いて活動されているのは本当にすごいことだと思います。

「ゾウを助ける金があったら給料をあげてほしい」という社員もいた!?

 ヤシノミ洗剤は売上が伸びず迷走していた時期もあったとおっしゃっていましたが、現在の状況も気になります。

今、サラヤの「ヤシノミシリーズ」の売上の一部は「ボルネオ保全トラスト」(※)に寄付されています。こうした活動は、お客様には今、どのように捉えられていると思いますか?

(※)サラヤがサバ州野生生物局と協力して立ち上げたマレーシア政府公認の環境保全団体。

代島 2011年の東日本大震災以降、社会のためにいいことをしたい、という方が増えたように感じています。以降、特別な打ち出しをしているわけではないのですが、売上は伸び続けていますね。真面目に活動をしていたら、それがSNS上で取り上げられて、自然と注目を集めるようになったと感じます。

 広告を出さないまでも、反応する人が増えてきたんですね。社内はどうでしょうか? 環境への取り組みについて、多くの社員はどのように受け止めていますか?

代島 正直、2010年ぐらいまでは、「ゾウを助ける金があったら給料を上げてほしい」という社員もいました(笑)。

 なんと(笑) そんな声が上がるのは、なんとなく想像がつきますが......

緑のパッケージがおしゃれな『ハッピーエレファント』シリーズ(左側)は、天然洗浄成分ソホロと植物性洗浄成分を使用することでカーボンニュートラル処方を実現。

代島 だから、単純な話ですが、僕は社長から「ボルネオの活動が成功したかどうかのKPIは売上しかない」と言われていました。数字を見て判断して、下がったら修正、もしくは止めるしかないと。でも、寄付の仕組みが始まった2007年の5月1日以降、売上は一度も前年を割っていません。収益は今や当時の3倍になっています。

 社会的な活動のKPIを「売上」だけで見る、というのは、ある面では辛くはないですか? 多くの企業のSDGs担当の方にお話を伺っていると、まさにそこで悩まれていると感じます。

代島 でも僕は、社長の話は的を得ていると思いましたね。売上が上がるということは、それだけ共感してくれているお客様が増えている、つまり、仲間が増えているということですから。

サラヤ流、インターナルコミュニケーションの極意とは

 まさに「本業で社会課題を解決する」というSDGs経営を実践されているんですね。「ゾウを助ける金があったら給料を上げてほしい」という社内の空気のほうは、どのように変わっていったんでしょうか?

代島 インターナルコミュニケーションに関しては、本当にたくさん質問を受けます。僕の答えは「とにかく賞を取る」ということです。他薦じゃなくて自薦です。サラヤが2017年に第1回 ジャパンSDGsアワードの外務大臣表彰を受賞した時には大きく注目されましたが、あれも自薦ですから。誰かが推薦してくれるわけじゃないんです。とにかく自分で出す。そして、取れないときは何度も出す(笑)。

 そうか、賞ですか!

代島 賞を取ると、やっぱり盛り上がりますよ。外から誉められるというのが大事なんです。

 確かに、これまで『FRaU』に出稿してくださった企業さんも、社外への発信と同時に、インターナルコミュニケーションに効果を感じてくださっている方々が多い印象があります。自社の特集の部分を抜き刷りにして、数万といるグループ社員全員に配ってくださった企業さんもありました。

代島 そうでしょう。『FRaU』だから社員がみんな信用するんですよ。

最新の『FRaU』2025年1月号(2024年12月27日発売) テーマは「もっと話そう、気候危機のこと」

 社内報とかって、あんまりちゃんと読まないですもんね。本当はダメなんですけど、僕自身も残念ながらそうなので......(笑)。御社の社内外への「伝え方」は本当に勉強になりますね。

とにかく現地に行かなければ始まらない

代島 先ほど関さんもおっしゃっていましたが、「本業」でこうした取り組みができているのは、やはり僕らの特徴だと思います。ボルネオ以外でも、ウガンダで手洗いの普及活動も実践していますが、それも同じです。

ヤシノミシリーズは「人と地球にやさしい」を掲げていますが、僕が入社した時期、「人と地球にやさしい」「地球と人にやさしい」が入れ替わっていることがありました。でも、僕は間違いなく「人と地球にやさしい」の順番だと思っています。「人に良いこと」が先に来ないと、お客様は商品を買いません。そして、商品を継続していくために必要なのが「環境に良いこと」になるはずです。

 SDGsの関連施策や、その発信という点で参考になる企業さんは多いはずです。悩まれている企業の担当者さんも多いので、そんな方々に向けてぜひメッセージをいただけませんか?

代島 そもそもうちの会社は大きくないですから、その分いろんな挑戦がしやすいというのはあると思うんです。年商700億程度で、僕が入った時なんて80億でしたよ。大企業さんだとどうしても動きにくさはあると思いますから、まずは全社ではなく、小さな部門でも成功事例を作るところから始めてみるのはどうでしょうか。

商品の保管室を案内いただくと、サラヤの歴史や挑戦の軌跡が見えてくる。代島さんは「これはイマイチだった」というプロジェクトを振り返るときも楽しそう。

それから、今思うのは、とにかく、現場に行くのが大事だということ。何か事件が起きているとすれば、それはサプライチェーンの上流、つまり途上国です。

僕も、このプロジェクトが始まってからは、やはり定期的にボルネオに行きます。そこで、ガリガリに痩せて、飢えて死んでしまうんじゃないかと心配になるような野生のオランウータンに遭遇したりするわけです。自分たちが作っている製品にも一因があると自覚して、「なんとかしなければ」「まだまだ」というエネルギーがチャージされる。現場に行かずにどんなに日本国内で頑張っても、問題は「自分ごと」になりません。

 課題に直面し続けることは、辛くはないですか。

代島 辛くはならないです。でも年をとっていきますから、「もう時間がない」と思うことが増えてきました。これは社長も最近よく言ってます。「俺には時間がないんだ」って(笑)。

社長の更家悠介は、廃棄物ゼロを掲げて2001年にZERI JAPANというNPO法人を立ち上げて理事長を務めていますが、近年は国内外で海洋汚染防止の取り組みに力を入れています。浜に漂着する海洋ごみ問題が深刻な長崎県対馬市とも研究開発連携協定を結んでいます。現地に行くと、そのごみの量に驚きますよ。

また、ちょうど一ヶ月くらい前には西アフリカのガボンに行ってきましたが、ここも海のプラスチックゴミ問題が深刻でした。本当に、やらなければならないことがまだまだたくさんありますね。

大阪万博内のパビリオン「BLUE OCEAN DOME」を手がけたZERI JAPAN(サラヤ株式会社もパビリオンパートナーとして参画)。持続可能な海洋環境への課題を投げかける。

撮影/西田香織 編集・コーディネート/丸田健介(講談社SDGs)

丸田 健介 エディター・コーディネーター

C-stationグループで、BtoB向けSDGs情報サイト「講談社SDGs」担当。

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