SDGs(Sustainable Development Goals:エスディージーズ)は、日本語で「持続可能な開発目標」と訳されます。ここで重要なのは「持続可能」というキーワードです。自然の恵みを最大限に享受し、生きる私たち。地球も経済も、持続可能でこそ、豊かな未来が実現します。ビジネスとの親和性も高いSDGs、その取り組み方やメリットをご紹介します。
SDGsは、国連に加盟するすべての国が、2016年から2030年までの15年間にわたって、達成に向け取り組むべき共通目標です。持続可能な世界を実現するため、17の目標と169のターゲット(具体的な目標)が設定されており、同じ年に採択された地球温暖化対策「パリ協定」と両輪になって、世界を変え始めています。今後、すべての国際機関や政府の政策は基本理念としてSDGsを取り入れていくと言われており、まさにSDGsは世界の"道しるべ"と言えるでしょう。
SDGsの前身、2015年までの「MDGs(Millennium Development Goals:エムディージーズ)」では、途上国の開発問題がメインでしたが、SDGsでは、経済・環境・社会にも対応し、先進国も含めた世界共通の目標となっています。加えて、MDGsでは政府や国際機関などが主体となっていましたが、SDGsでは、企業の役割を重視し、"企業主体"の目標達成が期待されています。その点こそが、前身のMDGsとの最大の違いといえます。
日本においても、日本経済団体連合会や各業界団体、地方銀行、さらに、個別の企業もSDGsへの取り組みを進めており、すでにビジネスの世界では"共通言語"になりつつあります。加えて、新型コロナウイルスのパンデミックによって、環境課題や社会課題への意識は個人単位でも高まりを見せています。今後、環境課題や社会課題に配慮していない企業は、消費者にネガティブに映ることが予想され、利益を生み出すことは難しくなると考えられています。
また、現在の子どもたちは学校教育でSDGsを学んでいるため、SDGsに取り組んでいない企業は、優秀な人材を確保することができなくなる可能性もあります。一方で、SDGsに取り組むメリットは多く存在しています。だからこそ、SDGsは「新時代の生存戦略」と呼ばれるのです。リスクを回避し、正しく企業を成長させる"道しるべ"。SDGsもまた、DX(デジタルトランスフォーメーション)とならぶ、ニューノーマル時代の重要なファクターと言えるでしょう。
企業がSDGsに取り組むことでステークホルダーに与える影響
SDGsには17の目標(ゴール)が設定されています。これらの目標は、スケールが大きく、一見分かりにくいという声もあります。取り組むための第一歩は「理解」すること、そして「自社とSDGsの相関関係」を見つけること。SDGsの目標ひとつひとつを読み解いていけば、自社のビジネスと関連のあるキーワードが自ずと浮かび上がってくるはずです。
新型コロナウイルスによって、世界中のビジネスや市場を取り巻く環境は激変しました。加えて日本では、少子高齢化による人材不足や消費者ニーズの多様化など、売上拡大や事業承継において課題を抱える企業は増える一方です。
おそらく、多くの企業はコスト削減を意識するでしょう。事実、2008年に「リーマンショック」が起きた際も、日本では真っ先にCSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)予算が削られました。しかし欧米のグローバル企業は、むしろCSRに注力、サステナビリティ(持続可能性)経営を強化しました。その理由は、自社を維持し、社会的信頼を回復するためです。
この、一見矛盾した行動を理解するためには、SDGsに取り組まない場合に発生する"リスク"を知ることが大切です。以下は、その例の一覧です。
特に優秀な人材の確保は、企業にとって最重要経営課題のひとつです。つまりSDGsに取り組むことは、地球と社会、そして企業にとって「持続」を実現する重要なキーワードなのです。
1990年代以降、地球温暖化をはじめとした環境問題への取り組みが企業に求められるようになりました。CSRという言葉が⼀般的になったのも、この頃です。環境の悪化は、気候変動による、将来の経済リスクを招くおそれがあります。穀物生産量の減少や、漁業資源の減少、さらには森林火災の危険性も増加すると言われています。
その解決策として、「SDGs」の策定、「パリ協定」の採択となったわけです。現在、持続可能な社会に向けた企業の役割はますます大きくなっています。
■企業と環境の歴史
1990年代 | 企業の環境意識 | 環境憲章、環境マネジメントシステム、環境報告書、 温室効果ガスの排出量削減目標を初めて決めた国際条約「京都議定書」が採択 |
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2000年代 | 企業CSRの浸透 | CSR 憲章、CSR マネジメント、CSR 報告書(+環境報告書) |
2010年代前半 | ESGの浸透 | ESG 投資、コーポレート・ガバナンス(企業統治)、 CSV(Creating Shared Value:共有価値の創造)、サステナビリティ報告書 |
2015年〜 | パラダイムシフト | SDGsの策定、気候変動枠組条約・パリ協定の採択 |
2020年~ | 新型コロナウイルスの パンデミック | 働き方・都市・ライフスタイルなどへもたらした大きな変化。 企業の持続可能性やSDGsへさらなる注目が集まる |
最近では、企業経営を環境・社会・ガバナンス(企業統治)の3つの視点から考えることが企業の持続可能性において重要であるとの認識から、投資の意思決定において、それらを重視する「ESG(Environment /環境・Social /社会・Governance /ガバナンス)投資」が広がりつつあります。そのきっかけは、2006年に国連が「PRI(Principles for Responsible Investment:責任投資原則)」を発信したことにさかのぼります。以来、機関投資家の間では、投資分析と意思決定のプロセスにESGの課題を組み込むことが投資の原則とされ、広がっています。
3つの要素への貢献度は、経営成績を表す「財務情報」に対比して、「非財務情報」と言われます。実利とは一見、無関係に思える情報に投資家が注目するのは、企業価値は財務情報だけでは測れないからです。言い換えると、「業績」といった目に見える価値だけではなく、環境や社会に対する取り組み、地域社会への貢献度に対する取り組みに優れている企業は、「長期的に企業価値の最大化を実現する可能性が高い」と判断されるということです。
なお、2018年の世界のESG投資残高(投資された額)は、国際団体のGSIA(Global Sustainable Investment Alliance)が発表したESG投資の統計報告書「Global Sustainable Investment Review(GSIR)」の2018年版統計によると、2016年の22兆8900億ドルから約34%増加して、30兆6830億ドルに到達。ESGに配慮する企業は、"持続可能な企業"として認知され、投資家から支持されやすい傾向にあるのです。
世界のESG投資残高の推移
出典:GSIA 「 Global Sustainable Investment Review 」2016年版および2018年版
また同団体の調査によれば、日本でもESG投資は数年で急激に伸び、投資残高は2016年の4740億ドル(約47兆円 ※1ドル100円で換算)から、2018年には2兆1800億ドル(約218兆円)へと急成長しています。
SDGsに掲げられた17の目標と169のターゲットには、社会が抱える課題が包括的に網羅されています。世界が直面する社会課題をカバーしていることから、その解決の模索は、ビジネスにおけるイノベーションの促進につながると考えられています。
課題の大きさは、市場規模と密接に関係しています。ならば、社会課題の大きさはそのまま市場規模と捉えることもできるはずです。だからこそ、SDGsを知り、学ぶことは、新しいビジネスを考えるうえでのヒントになり得るのです。加えて、SDGsに取り組むことは、企業イメージの向上に寄与するほか、製品や商品に付加価値を生み出し、他社との差異化によって、価格競争の回避にもつながります。
また、企業がSDGsを達成することは、大きな経済効果と雇用を生みだすと期待されています。日本の環境省によると、SDGsが創出する市場機会価値は年間12兆ドル、日本円にするとおよそ1200兆円にもなり、2030年までに創出される雇用は世界で約3億8000万⼈だと推計されています(※)。これはSDGsに取り組むことが大きなビジネスチャンスにつながることを意味しています。
※出典:環境省 「すべての企業が持続的に発展するために 持続可能な開発目標(SDGs)活用ガイド[第2版]」
すでにグローバル企業を中心に、環境負荷の低さを取引先の選定や購入の基準とする「グリーン調達」や、CSRの実施状況を選定基準とする「CSR調達」も広がりを見せています。つまり今後、SDGsに取り組んでいない企業は、取引先の選定から外されてしまう可能性もあるのです。さらに、消費者にも同様の流れがあり、企業のバリューチェーン(価値連鎖)をチェックし、社会や環境に対して十分配慮した製品やサービスが提供されているかを見極めて選択する「エシカル(倫理的)消費」も広がりつつあります。
消費者のSDGsへの関心の高まりは、データでも明らかになっています。電通が行った第3回「SDGsに関する生活者調査」によると、日本での2020年の認知率は、2019年と比較して、ほとんどの世代で大きく向上。特に環境や社会問題への意識が強いミレニアル世代(20歳前後〜40歳)、その後に続くZ世代(10代〜20歳前後)は「SDGsネイティブ」と呼ばれ、SDGsへの認知率が高い傾向にあります。SDGsを消費活動のものさしにする人も多いと言われています。
年代別のSDGs認知率の経年変化
出典:電通 第3回「SDGsに関する生活者調査」より
今や、小学校や中学校でSDGsを学ぶ時代です。その目的は、2020年度からの新学習指導要領に「持続可能な社会の創り手の育成」と明記されています。現在の子どもたちが大人になる頃には、誰もが知っている当たり前の指針となるSDGs。それを無視することは、消費者だけでなく、社員、そしてパートナー企業からの信頼を失う可能性があるのです。
■SDGsへの取り組みを進めることで期待できる4つのポイント
(1)企業イメージの向上 | SDGsへの取り組みをアピールすることで、 多くの⼈に「この会社は信⽤できる」、「この会社で働いてみたい」という印象を与え、 より、多様性に富んだ⼈材確保にもつながるなど、企業にとってプラスの効果をもたらします。 |
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(2)社会の課題への対応 | SDGsには社会が抱えている様々な課題が網羅されていて、 今の社会が必要としていることが詰まっています。 これらの課題への対応は、経営リスクの回避とともに 社会への貢献や地域での信頼獲得にもつながります。 |
(3)⽣存戦略になる | 取引先のニーズの変化や新興国の台頭など、 企業の⽣存競争はますます激しくなっています。 今後は、SDGsへの対応がビジネスにおける取引条件になる可能性もあり、 持続可能な経営を⾏う戦略として活⽤できます。 |
(4)新たな事業機会の創出 | 取り組みをきっかけに、 地域との連携、新しい取引先や事業パートナーの獲得、新たな事業の創出など、 今までになかったイノベーションやパートナーシップを⽣むことにつながります。 |
出典:環境省 「すべての企業が持続的に発展するために 持続可能な開発目標(SDGs)活用ガイド[第2版]」
企業がSDGs経営を進めるにあたり、どのようにSDGsの目標を見つけ、経営に取り入れ、そして管理していくかを指し示す「SDGコンパス」という行動指針があります。これは国際グローバル・コンパクトなどの3団体によって、その名の通り、企業の"道しるべ(羅針盤)"になるように作成されたものです。SDGsの理解から外部へパフォーマンスを報告するまでが5つのステップで構成され、企業がSDGsに取り組むための一連の流れを解説しています。
SDGsの取り組みを進める5つのステップ
出典:「SDGsの企業行動指針」より抜粋
ステップ 1 SDGsを理解する | 企業内でSDGsの17の目標と169のターゲットを読み解き、理解することが第一歩。 他の企業や世界の動向なども調べて把握しておきましょう。 |
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ステップ 2 優先課題を決定する | バリューチェーン全体を通して、ビジネスがSDGsに及ぼしている、 または今後及ぼす可能のあるプラスとマイナスの影響を把握し、 SDGsへの優先課題を絞り込みます。 |
ステップ 3 目標を設定する | 絞り込んだ優先課題に対する影響が分かりやすい KPI(Key Performance Indicator、重要業績評価指標)などを選択し、目標を設定。 具体的なアクションを考えます。 ここで目標の一部または全部を公表することも効果的です。 |
ステップ 4 経営へ統合する | SDGsの目標達成に向けた取り組みをビジネスに組み込むことがカギとなります。 SDGsに取り組む根拠と価値を社内に明確に伝え、共通価値を醸成します。 |
ステップ 5 報告とコミュニケーションを行う | 目標や経営方針を決め、外部にSDGsに関する活動を報告して、コミュニケーションします。 SDGsへの取り組みを各ステークホルダーと共有することで、 信頼感の醸成にもつながるでしょう。 |
この2〜5までのステップを繰り返しながら、SDGsへの取り組みをブラッシュアップしていきます。
「SDGコンパス」のステップ5にもあるように、SDGsに企業が取り組んでいくためには、社内外のステークホルダーとのコミュニケーションも重要です。そのためには、自社のSDGs活動を広く発信し、社内外での認知・理解を促進することが大切です。SDGsへの取り組みを伝える方法には、以下が挙げられます。
経営戦略/中長期戦略など | SDGsを織り交ぜたビジョンを伝える |
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商品/サービス | 具体的な商品やサービスに紐づけて伝える |
プロモーション/キャンペーンなど | SDGsへの取り組みへの参加を促すような企画を実施する |
認証ラベル | サステナブルな認証ラベルを活用する |
なお、発信する内容は、事業ごとよりも、企業全体のストーリーとして伝えるほうがブランディングに寄与しやすいと言われています。講談社が取材したSDGs先進企業「ユニリーバ・ジャパン」や「日清食品グループ」では、創業理念とSDGsを重ね合わせることで、SDGsへの取り組みを進め、企業のイメージの向上を実現しています。
最近では、自社のSDGs活動を積極的に発信する動きも見られています。また、マーケティング文脈での活用にも徐々に関心が高まっています。そのなかで、講談社では、企業のSDGs活動に関する発信サポートを、さまざまな形で行っています。広く、そして深く届けたいとお考えの際には、「おもしろくて、ためになる」講談社のサービスメニューも、ぜひご検討ください。
SDGsへの取り組みは、自社の事業内容・個性に合わせ、"自社らしさ"を意識することが重要です。日本の企業では、昔から「社会をよりよくすること」を目的にビジネスに取り組んでいるケースは多く、今あるビジネスがそのままSDGsへの取り組みに当てはまる場合もあるはずです。"日本資本主義の父"と称される渋沢栄一も、「道徳経済合一」(倫理と利益の両立)を掲げていました。つまりSDGsは、新時代の生存戦略でありながら、本来の"日本的資本主義"への回帰とも言えるものなのです。
まずは、SDGsの17の目標と169のターゲットに、今取り組んでいるビジネスが当てはまるかを確認してみましょう。当てはまる目標は1つとは限りません。あるビジネスが、複数の目標への取り組みに当てはまることもあるので、大きな視点で捉えることが大事です。