2021年01月21日
Allbirds Marketing Director 蓑輪光浩さん
環境に配慮したサステナブルなものづくりで注目されているシューズブランド「Allbirds(オールバーズ)」。同社が支持される理由はどこにあるのでしょうか。マーケティングディレクターの蓑輪光浩さんに、お話を聞きました。
──創業地のアメリカで大人気のAllbirds 。2020年1月の日本初上陸以来、多くのメディアで取り上げられるなど、日本でも高い人気を誇っています。支持される理由は、「サステナブル」を根幹に据えたものづくりにあると思われますか。
蓑輪 メディアからこれほど注目していただいている理由のひとつには、「先進的にSDGsに取り組む米シューズブランドの日本初進出」という側面が大きいと思います。ですが、「サスティナブルだから人気」ということではないと思います。Allbirdsではまず、「よい商品」であることを大前提に、サスティナブルなものづくりを心がけています。
──確かに、御社のスニーカーは、米『Times』誌で「世界一快適な靴」と紹介されたこともあるほど、「よい商品」ですよね。主力商品の「Wool Runners(ウールランナー)」は、シューズ内側に最高級ウールである極細のメリノウールを使用しているとお聞きしましたが、こうした素材開発も自社で行っているのですか。
蓑輪 はい、そうです。共同創業者のジョーイ・ズウィリンジャーは、自社を「マテリアル・イノベーション・カンパニー」だと言っています。サステナブルな素材と「環境にやさしい」製法にこだわりながら、多くの人に履いてもらえる製品を生み出しています。
中心的な素材は、ウールとSweetFoam™(スイートフォーム)、ユーカリです。
スニーカーの靴底に使われているSweetFoam™は、サトウキビを原料にしています。スニーカーで一般的に使われている石油由来のEVAと違って自然由来の素材で、しかも自生するサトウキビは栽培にあまり手がかかりません。カーボンネガティブな樹脂素材だといえます。
同社のスニーカーに使われているウールは
すべて「ZQメリノ(持続可能なメリノウールの認証)」取得済の素材
成長が早く、科学肥料を必要としないユーカリの木も、自然界を代表する素材です。ユーカリを原料とした再生繊維であるテンセル®を使い、スニーカーや靴下、衣料品などに展開しています。
10月に販売開始したTシャツでは、テンセル®とウールに加え、防臭効果のあるキトサンが含まれたズワイガニの甲羅を混合した素材を使用しています。
SweetFoam™に関しては、オープンソースとして公開しています。弊社のソースを参考に商品化されたものもあると聞いています。
──資源活用の技術を公開するというのは珍しいですね。なぜそのようなことを行っているのですか。
蓑輪 SDGsへの取り組みはいま、待ったなしです。もうブランド間で戦う時代ではなく、ブランド同士・業界全体が手を取り合って地球環境をよくするためにどうするかを考える時代が来ています。
技術をオープンソース化すれば、世の中により多くの環境配慮製品が生まれ、より多くの方に履いてもらえます。需要が増えれば研究開発への投資も増え、さらにコストを下げることができ、最終的にさらなる需要拡大が期待できるでしょう。地球環境を変えていくために一企業ができることは限られていますが、ほかのブランドさんや消費者みなさまの力をお借りすることで、環境負荷の低いシューズが広がればという願いもあります。
「デザインではなく技術を真似てほしい」と語る蓑輪さん。
Allbirdsのスニーカーは、素材技術をすべて公開している
──日本でもようやくSDGsの認知度が向上してきましたが、まだ一般的に浸透しているとは言い難い状況です。日本進出は世界で15店舗目とお聞きしましたが、日本での反響はいかがですか。
蓑輪 よい意味で想定外です。原宿の駅前という好立地なのに、観光客やウインドウショッピングでふらっと入ってくるお客様よりも、「事前に調べて来た」という方や、弊社の取り組みに共感してご来店くださる方が多くいらっしゃいます。
開店前は、都心に住んでいる20~40代のハイキャリア層の方が多くご来店されるのではと想定していたのですが、学校でSDGsのことを学んだという10~20代の若い世代が多くいらっしゃるのも意外でした。
10代の若者が1万2千円のスニーカーを買うのはハードルが高いと思うので、今後は、なるべく彼らが買いやすいような値段やアプローチもしていかなければいけないと思っています。
──SDGsへの取り組みをどうエンドユーザーに伝えるかが分からないという担当者のお悩みもよく耳にします。御社ではどのような工夫をされているのか教えてください。
蓑輪 弊社ではたとえば、業界に先駆けてすべての製品にカーボンフットプリント(CO2e・温室効果ガス)排出量を表示しています。
カーボンフットプリント排出量の測定はかなり労力のかかる作業なのですが、食品のカロリー表示と同じで、継続することで「当たり前」になってくると考えています。
弊社が取り組むことで、シューズ業界はもとより、ファッション業界全体のカーボンフットプリントへの意識が高まり、お客様の行動変容につながることを期待しています。
カーボンフットプリント排出量は、
店舗でもECサイトでもすべての製品に表示されている
また、誰にも見やすいアイコン表示や、親しみやすくやさしい店舗内装なども意識しています。
シューケースに靴紐を結び、そのまま持ち帰れる「エコ包装」や、デジタルレシートなども、Allbirdsの購入者がSDGsにさらに関心をもつきっかけになると考えています。
一人ひとりが危機意識をもって、小さなアクションから変えていかなければ、2030年のゴール達成はできません。メーカーの責任として、若い世代のアクションを変えていけるような発信も、インスタグラムなどのSNSを通じて行っています。
──SDGsの取り組みにいちばん必要なのは何だと思われますか。
蓑輪 トップの強い意志だと思います。トップが強い意志でSDGsを促進している企業は、社員も一丸となって取り組んでいるように思います。幹部社員のなかには「あと10~20年後には自分たちはいなくなっているからいい」という方もいらっしゃるのではないかと思いますが、それでは持続可能な社会は実現できません。次世代にバトンを渡そうとしっかり考えているトップの意識が、持続可能な未来につながると思っています。
──最後に。御社にとっての「SDGs」とは?
蓑輪 「Look Good , Feel Good」です。見た目もシンプルでスタイリングしやすいのに、サステナブルな背景があり、履いている自分に自信が持てるスニーカー。そんな弊社のものづくりを通じて、ファッション業界の意識を変え、人々のライフスタイルを変えること。それにより、地球の美しさを孫の世代まで引き継げる社会になっていくこと。それが、弊社にとってのSDGsだと思います。
レジ袋の有料化などでようやくエコバッグが広がり始めましたが、まだ環境にいいことをしている人を、自分とは違う人のように感じる人が多いと感じています。
ブランドや業種を超えて一緒に取り組みを進められるパートナーシップをもっと広げることで、人々のアクションを変える取り組みを、今後も続けていきたいと思っています。
JR原宿駅竹下口より徒歩1分の好立地にある Allbirds原宿店内
サステナブルな製品づくりだけでなく、SDGsへの思想や技術を世界中に広めているAllbirds。SDGsの認知が広がり始めた日本でどのように成長していくのか、今後の展開も楽しみです。