2021年03月11日
音楽家・坂本龍一氏を代表とする「more trees(モア・トゥリーズ)」が進める森づくり。近年では、企業とのコラボ例も増えていて、その取り組みは非常にユニークなものになっています。企業、消費者、地球、それぞれにメリットがある森林保全活動とは、どのようなものなのでしょうか?
語り:水谷伸吉 構成:講談社SDGs編集部
日本は「世界有数の森林大国」と言われています。にも関わらず、国内で消費される木材の多くを輸入に頼っている現実があります。戦後、木材資源が圧倒的に足りないということから植林が奨励され、国土の7割近くが森林に覆われるようになりました。
しかし、植えた木が「木材」として使えるようになるまでには数十年かかります。そこで日本は1964年に木材の輸入を自由化。その後、徐々に徐々に輸入量が増えたことで、2000年には木材自給率が18.2%にまで減少。その後、木材自給率は上昇傾向にありますが、2019年段階でも37.8%に留まっています。
日本の木材自給率は、昭和30年には9割を超えていたが、現在はおよそ3割強まで減少している グラフ出典:林野庁
木材価格の下落も関係して、林業に従事する人も減り、手入れがされていない森林が増えていきました。森林は、面積が広ければいいわけではなく、木が増えすぎているところは間伐(間引き)して、将来を展望しながら育林していく必要があります。
前回、書いたように森は、CO2を吸収する「地球環境保全」をはじめとして「土砂災害防止」、「水源の涵養」、「生物多様性の保全」といった多面的機能を有しています。そのため、more treesの考える「森づくり」にしても、ただ木を増やすことだけを目的にしたものではなく、森に本来の機能を取り戻させることを目的とした保全活動になっています。現在は国内15ヶ所、海外2ヶ所に「more treesの森」を展開して、賛同いただいている企業との「森づくり」を進めています。
「more treesの森」は私たちが土地と木を購入して所有するのではなく、ネーミングライツを得ているのに近いと言えます。町や村が所有する森に名前を付けさせてもらい、私たちが保全します。企業にはそこに加わっていただき、コラボレーションすることでともに「環境問題への取り組み」を進めています。
しかし、私たち一般消費者や自治体もCO2を排出していることを考えれば、これは企業だけの問題ではありません。また、カーボンオフセットそのものは、森林だけでなく、再生可能エネルギーへの転換や工場の省エネなどによる削減も相殺の手段となりますので、「森林保全」はそのなかの選択肢のひとつと言えます。
そのなかで、森林がどれくらいのCO2を吸収しているかを数値化し、企業が排出してしまっているCO2と比較し、オフセット(相殺)する手法に取り組んでいます。これは、企業努力をしても排出を削減できない分のC02を、森林に吸収してもらうことで相殺することを目的に、保全活動を行う考え方です。
その数値はクレジット化されており、購入することも可能です。それが2008年11月からスタートした「J-VER制度」(現「J-クレジット制度」)です。しかし、私たちが活動を開始した2007年当時はまだそのような制度がありませんでした。そこで、森が吸収するCO2を客観的に定量化できる地域を探しているうちに高知県・梼原町(ゆすはらちょう)にたどり着きました。
当時の高知県知事、橋本大二郎さんが山を守るためにさまざまな取り組みを進めていたこともあり、こうして、最初の「more treesの森」が誕生しました。そこから徐々にmore treesの森を増やしていきました。なお、海外の2ヶ所(フィリピンのキリノ州とインドネシアの東カリマンタン州)については、現地のNGOと協力しながら森林保全を進めています。
森林保全において、企業と協力することは、取り組みを拡大するうえでも、非常に重要なファクターです。
more treesの設立当初は、こちらから企業に提案を持ちかけることが多かったのですが、最近は企業の側からアプローチしてきてもらうケースも増えてきました。そこには「SDGs」の存在も大きく関係しているように感じます。森林保全活動が地球を守ることにつながり、SDGs達成に寄与するという理解のもと、活動に賛同していただいています。
最近、スタートしたコラボ例としては、三井住友カードさんとの「ペーパーレス促進」の取り組みが挙げられます。
三井住友カードさんでは、紙の使用量を減らすためにもカードの利用代金明細書のペーパーレス化を促進。利用代金明細書1通をWeb明細にすることでペットボトル500本分の体積と同等のCO2を削減できるといいます。それだけでも有意義なことですが、郵送料も含めてそこで削減できたコストを森に還元するようにされています。現在、岩手県、長野県、宮崎県で「三井住友カードの森」をつくって保全活動を始めています。
あいおいニッセイ同和損保さんもやり方は似ています。
保険の約款をオンラインに切り替えて、削減できたコストの一部を森に還元しています。この取り組みは2010年から始めていたもので、すでに10年以上の活動歴があります。more treesにおいては、最初はフィリピンにおける植林活動をご支援いただき、2019年からは北海道美幌町での植林活動をご一緒しています。資金面のサポートだけでなく、従業員や家族を対象とした植樹ツアーを行ったり、北海道の木を使ったスプーン作りのワークショップを開催したりすることで、「森づくり」「環境問題」を通じて、社員への意識啓発やコミュニケーション活性化にも寄与しているようです。
昨今、ペーパーレス化とともに取り組む企業が増えているのが、ショッピングバックや包装物の提供を減らしていくことです。
ユナイテッドアローズさんでは、お買い物の際にお客さんがショッピングバッグの利用を辞退されると、1回につき10円、more treesの森へ寄付する形を採用。そのお金は、東日本大震災の被災地である岩手県住田町で、地元の木を使った仮設住宅を建設するための支援金に当てていました。仮設住宅が役割を終えた今では、住田町の植林活動をサポートいただいています。
日本ロレアルさんからもショッピングバックの辞退数に応じた寄付をいただき、鳥取県智頭町に化粧品ブランドから名前をとった「キールズの森」をつくり、森林保全活動を始めています。スタッフ自らが現地を訪問しているほか、記念のエコバッグも販売することで、活動を社内外に発信しています。特にキールズのユーザーには、化粧品の原料などにこだわる意識が高い方が多いようなので、環境問題への取り組みは共感を得やすく、顧客との関係性においてもプラスに作用しているようです。
玉川高島屋ショッピングセンターさんでは、特設していたサイト(現在は終了)で「バーチャル植樹」をされた方にスクリーンショットをSNS投稿してもらうというユニークな試みを実施。その投稿数に応じて、more treesに寄付していただくこと、「森林保全活動」につながるという仕組みです。
ほかにも、売上の一部を寄付いただくケースもありますが、エコ活動で削減できたコストをmore treesを通じて森林保護活動に回していただくパターンも増えてきました。そのためには、「何を削減するか」の視点、アイデアも必要ですが、ユニークなものであれば、企業としても活動をPRしやすくなります。今後は、社内外に「届ける」という観点から、ますますバラエティにあふれる展開が生まれてくるのではないかと期待しています。