国際的なデザインアワードを受賞! 限界集落の未来を切り拓く、"世界一美しい"「未来コンビニ」

2021年10月21日

2020年4月、人口約1000人の徳島県・木頭地区に誕生した、"世界一美しいコンビニ"「未来コンビニ」。一躍、様々な地域から人が訪れる観光スポットとなり、さらに国際的なデザインアワード2冠に輝くなど、その美しさやコンセプトは海外からも高く評価されています。
店名の「未来」に込めた思い、地方活性化のために必要な視点、これからの経営とSDGsとの関係について、株式会社メディアドゥの代表取締役社長 CEOで、KITO DESIGN HOLDINGS株式会社の代表取締役も務める藤田恭嗣さんにお聞きしました。

自身が生まれ育った地元・木頭に"世界一美しいコンビニ"「未来コンビニ」を誕生させた、藤田恭嗣さん

故郷への思いが「未来コンビニ」誕生のきっかけ

──「未来コンビニ」誕生の背景には、藤田さんの地元・木頭への愛が大きく関係しているとお聞きしました。なぜ自身の生まれ故郷に「コンビニをつくろう」と考えたのか、その経緯を教えてください。

藤田 私が生まれ育った旧木頭村(現 徳島県那賀郡那賀町木頭地区)は、徳島市と高知市の市街地から車で2時間程度の小さな村で、人口およそ1000人、65歳以上が過半数を占める限界集落です。高齢化が進む実情に反して、最寄りのスーパーまで車で1時間もかかるという問題を抱えていました。

その中で私は、愛する地元のこういった課題解決のためにアクションを起こしたい、といつしか考えるようになりました。

デザインテーマは"子どもの未来"。イエローのY字柱は、地元の名産「木頭ゆず」にちなみ、柚子畑をイメージしている 

一方で、利便性向上以上に大切にしたことがあります。それは、子どもたちがさまざまな「学び」と「経験」に出会い、デザインの力を感じられるような体験から文化的な刺激を受け、成長できる場にすることです。

地方創生には、さまざまな課題が存在します。

買い物が便利になるのは勿論いいことですが、それだけでは真の課題解決にはなりません。子どもたちが夢を持ち、地元を愛し、笑顔で日々を過ごしている。そんな日常がなければ、子どもたちはいつしか地元にいることに不安を覚え出て行ってしまい、過疎化に歯止めはかかりません。ですから便利であること以上に、子どもたちが"未来"への可能性を感じられるような場所にしたいと考えました。そんな思いを込めて、「子どもは未来から来た未来人」という軸となるキーワードを生み出し、「未来コンビニ」と名づけました。

「未来コンビニ」の店内。店頭の陳列棚は高齢者や子どもたちが商品を手に取りやすいよう、一般のコンビニよりも低めに設計されている

──買い物難民をなくすことは、目の前の課題解決にはなりますが、根本的な課題である「過疎化」の解決にはならない。だから同時に、その2つを解決できる方法を模索したのですね。

藤田 はい。さらに、「未来コンビニ」をはじめ木頭の創生を目指す「木頭プロジェクト」を始めた根底には、私の母への思いも関係しています。母は父の定年後に、一緒に旅行に行ったりしてのんびり暮らすのを楽しみにしていたのですが、退職前に父が急逝してしまい、一時は抜け殻のようになってしまいました。

私は当時、すでに「メディアドゥ」という著作物のデジタル流通の会社を立ち上げていたため、木頭で母のそばにずっと寄り添うということは物理的にできませんでした。しかし、月に2〜3回は実家に帰り、さらにそれとは別に毎月母を2泊3日で東京に招くようにしていました。

私は母に、定期的に自分が頑張っている姿を間近で見ていてほしいという思いとともに、木頭以外の時間を届けることで沢山の刺激を感じ、自身の人生を楽しんでほしい、という思いがあったのです。

これは毎月20年弱続けていましたが、コロナ禍の最近は母を東京に頻繁に招くことが出来なくなっているにもかかわらず、母は83歳にして非常に健康で活き活きとした日々を送っています。現在は木頭で子どもたちのための様々な活動を行ったり、何十名もの地域の方と一緒に村の活性化のための活動をリードしたりして、充実した毎日を過ごすことができています。

私はこの経験から、高齢の方が元気で健やかに暮らし続けるためには、間近で自分の子どもや孫が成長している姿を見ていられることと、自分自身の人生を楽しめる環境があることが何よりも大切なのだ、と考えるようになりました。

──だから「未来コンビニ」では、「子ども」と「未来」が重要なキーワードになっているのですね。

藤田 そうです。木頭の子どもたちは、大人になると出ていってしまう。だから人口が減少してしまう。ですが、自分の生まれ育った村や町が嫌いで、もう一生住みたくないと思っている人は実は少ないと思います。それでも地元を離れてしまうのは、学校がない、仕事がない、地域に魅力がないなど、「ない」ものが多いからです。

それならば、地元を離れた人が帰ってきたくなるようなビジネスを興して雇用を生み出せば、「帰りたいけれど、帰れない」と思っている人に「地元に帰る」という選択肢を提示できる。地元が帰れる場所になれば、自分や孫の成長していく姿を、家族にすぐそばで見てもらうこともできます。こうした想いから誕生したのが「未来コンビニ」なのです。

目指したのは、「便利な店」ではなく「地域のシンボル」

──"世界一美しい"「移動スーパー」ではなく、「コンビニ」というカタチを選んだ理由も「帰りたい場所づくり」と関係しているのでしょうか?

藤田 はい。「未来コンビニ=木頭のシンボル」であることが重要だと考えました。高齢の方にとっては「同じ場所にある」ということはわかりやすく安心感があります。通りすがりの旅行者も、「木頭に行ったら、すごいコンビニがあった」というのは再訪や話題化のきっかけになります。

ドライバーやバイカーなど、国内外から訪れる人が建物をバックに記念撮影する光景が多く見られる

もし、ただ買い物に便利なスーパーをつくっても「地元に帰りたい」と思える理由にはなりませんよね。話題を呼び、地元の子どもたちにとって「楽しめる」「自慢できる」場所でなければ意味がないと考え、「このコンビニで儲けよう」ではなく、「このコンビニが子どもたちにどれだけの感動を与えられるか」ということを最重要視してデザインなどを決めました。

店頭の巨大なデジタルクロックは、デザインをディレクションしてくれたクリエティブディレクターからの案でした。話題性とインパクトがあると感じ、すぐに採用させてもらいました。時刻のほかに、木頭をイメージした川の流れ・雨・星空やYUZU、HOPEなどのメッセージ、イベントを楽しむ光のプログラムも施し、国内外から訪れた方々が建物をバックに記念撮影する時に、木頭の「思い出とともに時間を刻んでもらえるように」という願いが込められています。

「未来コンビニ」の入口には、時間やメッセージを届ける巨大なデジタルクロックが設置されている

──素晴らしいデザインは世界にも認められ、国際デザインアワードで現在2冠に輝いています。世界三大デザイン賞「レッド・ドット・デザイン・アワード」の部門最優秀賞「ベスト・オブ・ザ・ベスト」に続き、国際的に権威あるドイツの建築デザインアワード「ICONIC AWARDS 2021: Innovative Architecture」の建築部門にて「Winner」も受賞。こうしたアワードも当初から見据えていたのでしょうか?

藤田 私にとっては、完全なるサプライズでした。本来、こういった賞は数十億円以上の予算をかけて世界中からプロフェッショナルチームを集めて作ったものしか取れないもので、私たちのような小さな企業がとれるはずはない、と考えていました。ですが今回賞をいただいたことで、世界建築やデザインの潮流が、私たちが目指している「持続可能な地域との共生」という方向に向いているのだということを改めて認識しました。

地方創生は、その地域の「自立」「自走」が重要

──藤田さんは「未来コンビニ」のほかにも、木頭ゆずの栽培・販売や、木頭ゆずを使ったスイーツショップの運営や、キャンプ場の運営など、地元で雇用した従業員が主体となって働く場をいくつも展開していますよね。

藤田 事業を軌道に乗せるには、まずは社会から共感を得るためのストーリーが必要です。それと同じくらい重要なのが、地元の人たちに積極的に関わってもらうことです。やはり「やらされている」感覚では、事業は成長していかないのです。

たとえば、柚子の栽培・販売という事業に私が取り組んだのは、高齢化と後継者不在という農業の課題解決に少しでも貢献したかったからです。

木頭ゆずの市場価値を高めることが出来たら、将来的には、収穫量や質にかわらず「柚の木1本当たりいくら」というような契約を農家の方とできるようになれば、と考えています。農家の方は天候や収穫量に左右されず安定した収入を得ることができるようになりますし、そうなれば「農家の跡を継いでもいい」と子どもたちが思え、帰ってくる可能性も広がり、木頭の農業に主体性が生まれていくのではないかと考えました。

柚子生産者の所得向上が、子どもや孫が地元に戻るきっかけや、外部からの移住機会形成に繋がる

また、「安定した収入」があるだけでは、この小さな村が豊かになるために十分ではありません。そこで、交流人口自体を増やすために、赤字で閉鎖してしまった町営のキャンプ場を、木頭地区の大自然を体感してもらえるアクティビティや設備が充実した、全く新しいハイエンドのキャンプを楽しめるキャンプ場としてフルリノベーションしました。
ロケーションや設備は勿論のこと、地元スタッフのおもてなしが好評で、県内外から多くのお客様がこのキャンプ場を目指して木頭に訪れてくれています。オープンから3年目を迎える今では町営時の年間売上の8倍もの売上を記録し、リピート率が6割を超えるなど、スタッフの試行錯誤のおかげで非常に順調に成長しています。

木頭を五感で体感できる豊富なアクティビティは、地元のスタッフらによるアイデア

──「未来コンビニ」をはじめ、KITO DESIGN HOLDINGSが手がける事業は、木頭全体の価値向上にも繋がると思います。たとえば観光地として注目され、黒字化や収益化までの計画もそこには含まれていたのでしょうか?

藤田 よく聞かれるのですが、ビジネスとしての収益性の優先順位は、プロジェクトスタート時点では低かったです。勿論、収益性そのものは事業継続において必須ですが、立ち上げ段階では先に優先しなければならないことがある、まずゼロから1を生み出すことが大事だと考えていました。

とにかく「子どもの未来を育む」ということと、「地元の人が、自分たちで自活できる仕組みをつくる」という2点だけを目指しました。この場所で人と人、人と地域とを結び、笑顔を紡ぎ出していくことができれば、ここでの体験が子どもたちの中に残るでしょうし、一度木頭を出ていった人もこの地の可能性を思い出して戻ってくるかもしれない。それだけを考え抜いて設計した「未来コンビニ」ですが、世界的なデザインアワードの賞をいただいたり、このコンビニを体験するために観光客が訪れてくれたりという、嬉しい効果を生み出しています。

集客が増えれば従業員には自信が生まれますし、さらに自分たちのアイデアを出しやすくなるなど、いいサイクルを生み出します。実際、各事業の社員たちは、自分たちで事業計画を作れるまでの「経営力」も身につけ始めています。

地方創生というのは、地域の人々と一体となって進めるのは勿論のことながら、地域の人々が自立・自走できるようにすることが何より大事で、その先に「未来」があるのだと考えています。

今後求められるのは、ビジネスに落とし込んだSDGsの視点

──最後に。藤田さんの考える、「これからのビジネス」において大切な視点について、教えてください。

藤田 経営に社会のサステナビリティを取り込まない会社は、これからは生きていけない時代になると思っています。きちんと社会や地域のことを考える会社で働く社員は、安心感や誇りを持って働けます。そこに働きがいが生まれ業績が伸び、さらに社会的な信頼が生まれて資金が集まりやすくなります。これからの経営は明らかにこうしたサイクルに変わっていくと思います。

経営者のリーダーシップとリスクを負う覚悟も必要です。リスクと権限はセットでついてきます。リスクに対してきちんと覚悟をもち、ビジネスに落とし込んだ現実的なSDGsを語り実行する経営者には、社員も地域もついてきてくれるはずです。

地方創生、持続可能な故郷づくりという観点で大事なのは、その「経営者感覚」を地元でひとりでも多くの方が持っていること。それからやはり、その地域への揺るがない愛でしょうか。私の母は、83歳の今でも「もっと健康になって、もっと生きなきゃ」と木頭での毎日を謳歌しています。そんな母をはじめ、木頭に暮らす方々、子どもたち、そして今後木頭に住んでくださる方々のためにも、木頭が「誇りを持てる場所」となれるように、私にできる挑戦をこれからも続けていきたいと思っています。

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企業のSDGs取り組み事例