未来の子どもたちの笑顔を守り続ける、ミキハウスのSDGs 企業のSDGs取り組み事例vol.29

2022年03月10日

創業以来、子どもと家族の笑顔のために長く使えるいい「モノづくり」を続けてきたミキハウス。同社はまた、アスリートへの支援を通して、子どもたちに夢を持つことの楽しさや喜びも届けています。昨今のSDGs取り組みに対して「やるのが当たり前」という環境のなかで、どのように進めてきたのでしょうか。そして、その取り組みの効果についてもお聞きしました。

三起商行株式会社 企画本部 執行役員 統括部長 サステナビリティ推進リーダー 平野芳紀さん(中央)
同 品質管理部 部長 サステナビリティ推進リーダー 上田泰三さん(右)
同 経営企画本部 藤原啓太さん(左)

すべては子どもと家族の笑顔のために

──御社は2021年3月、SDGsに特化したサイトをオープンされました。ポップなイラストがカラフルに描かれ、見ているだけで楽しくなります。このようなデザインにされた意図を教えてください。

平野 「ミキハウスのSDGs」サイトは、弊社の創業50周年を機にオープンいたしました。カラフルなデザインにしたのは、お子さまが見て楽しめるサイトにしたいという思いがあったからです。弊社の企業理念である「子どもと家族の毎日を笑顔でいっぱいに」をテーマとして、ご家族みんなで楽しんでいただけるよう意識しました。

子どもたちが大好きなおもちゃ箱のように、明るくて楽しいミキハウスのSDGsサイトトップページ

藤原 具体的には、日本語でひらがなとイラストを多めに使い、「小学生でも理解できる」ことを重視しました。

さらにゲーム的な要素も加え、楽しみながら毎日アクセスしてもらえるような工夫も盛り込んでいます。1日1回のクリックで、カウンターの数字が増えていく「笑顔ボタン」では、笑顔カウンターの数字が増えるごとに、隠れていた生き物があらわれます。表示される背景の景色や言語が変化しながら世界旅行ができるなど、「親子で一緒に楽しめて勉強にもなる」要素も取り入れました。

「笑顔カウンターで世界旅行ができる」というストーリーには、「自分の行動ひとつひとつが世界につながっている」ということを実感してもらいたいという思いを込めました。SDGsは「自分ゴト」化できることが大事なので、「自分が"笑顔"になることや、まわりを"笑顔"にすることが誰かのサポートにつながる」ことが実感できるよう意識しました。

「笑顔」ボタンをクリックすると笑顔カウンターが貯まり、4000笑顔ごとに次の地域へ行ける「世界一周旅行」

上田 笑顔カウンターは一定の数量が集まるごとに、お母さんに安全な母乳を提供する「母乳バンク」への支援や、妊娠中の罹患で胎児への影響の大きい風疹を予防接種する「風疹ゼロプロジェクト」、「国境なき医師団」への活動支援などにもつなげています。

「当たり前」を可視化したSDGsサイト

──SDGsサイトは若手社員が中心となって作られたと伺いました。サイト立ち上げまでの経緯を教えてください。

平野 これまでにも企業の責任として、環境を壊さない資源調達や、人権に配慮したモノづくりは当たり前に行ってきました。しかし、それを声高に「ミキハウスの社会貢献活動」として発信することはありませんでした。

しかし、SDGsの概念が広まってESG(環境・社会・ガバナンス)が重視されるなか、「当たり前だから言わない」は「何もしていない」と見られてしまうと考えるようになりました。そこで、2021年10月に「SDGs推進委員会」を立ち上げ、世界共通言語となった「SDGs」を使い、すべてのステークホルダーに届く情報発信をしていく方向に舵を切ったのです。

SDGs推進委員会は若手を中心に各部署から男女・国籍の異なる多様なメンバーを集め、現在20名で活動しています。この中のマーケティング担当のメンバーが中心となってくれて、SDGsサイトを立ち上げることができました。

──SDGsサイトをオープンさせたことで、社内外にどのような反響や効果がありましたか?

藤原 母乳バンクへの支援なども始めていますが、特に積極的に発信していたわけではなかったので、ごく限られた範囲にしか伝わっていなかったように思います。

サイト上であらためて明記したことで、店頭などでも「ミキハウスってこんなこともしているんですね」などと、声をかけていただく機会が増えました。

また、ミキハウス本社のある大阪府八尾市とのコラボも実現しました。弊社がSDGsにずっと取り組んできた企業だということを知っていただいたことで、八尾市より市内の小学校でSDGsの授業をしてもらえないかというご相談をいただき、小学校5年生を対象に「SDGs出前授業」を行いました。

平野 「SDGs出前授業」では、命の大切さを感じ、自分たちもこうやって大切に育てられてきたということを実感してもらえたらと、小学生たちに新生児サイズの赤ちゃん人形を使った肌着の着せ方やおむつ替え体験をしてもらいました。

また、原料の綿花も実際に触ってもらい、どんな原料がどういう過程を経て製品になるのかも体感していただきました。

藤原 出前授業には、弊社の社員が講師として参加しました。ミキハウスがSDGsに取り組んでいることは、弊社の社員なら全員知っていることです。しかし、実際に参加した社員からは「子どもたちがSDGsの学びを深める様子を目の当たりにしたことで、自分自身のSDGsに対する意識がさらにあがった」という声も聞いています。

平野 しかし、これから八尾市内の小学校に広げていこう、というところで新型コロナウイルスの感染再拡大が起こってしまったので、現在はまだ1校でしか取り組みがない状態です。自治体・学校とも相談の上、状況が落ち着いてきたら、今後もぜひ継続的に取り組んでいきたいと考えています。

子どもたちの夢を応援することで企業理念を実現

「子どもと家族の毎日を笑顔でいっぱいに」を実現するために、ミキハウスが掲げるSDGs5つの取り組み

──御社は創業時から子どもたちの夢や未来に寄り添い、アスリートの支援にも力を入れてきました。SDGsの取り組みの中にも「子どもたちの夢を応援する」とスポーツ支援があげられています。スポーツ活動とSDGsはどのようにつながっているとお考えですか?

上田 弊社は創業時からずっと、「世界中の子どもたちに、感動する豊かな心と大きな夢を持ち続けてほしい」と願い、スポーツ選手を応援しています。

世界の大舞台で活躍する選手たちへの応援を通して、スポーツに限らず自分の「夢」を追いかける喜びを見つけてもらうことは、ひとりひとりが個性豊かに輝ける「誰も取り残さない社会」の実現に寄与できると信じています。

当たり前にやってきたことなので、あらためて「SDGs」として発信することに違和感のある社員もいたと思います。しかし、大きな舞台をめざす選手たちの姿は子どもたちの心にたくさんのメッセージを届けてくれるので、今後も支援と発信、どちらも続けていきたいと考えています。

世界トップレベルのスポーツ選手の姿を示すことで、子どもたちに夢を持つことの素晴らしさも伝え続けている

藤原 スポーツ選手は発信力が強いので、子どもたちに向けてSDGsのイベントも何かできるのではないかと、いま模索しているところです。選手の活動拠点で行うことで地域活性化にも貢献できますし、イベントを通じて選手のファンになってもらえたら、選手もさらに頑張れます。そういうよい循環を生み出していけたらと考えています。また選手を対象にSDGsの研修も行ったことで、選手自身が起点となって自分ができることを提案してくれるケースもあります。

──SDGsの取り組みを進める上での課題はどこにあるとお考えですか?

平野 弊社はSDGsという概念が広がるずっと前から、子どものことを第一に考えたモノづくりと、サービスを通じて、子どもとその家族を笑顔にするお手伝いをしてまいりました。こうした「いいモノを長く大切に使っていただきたい」という理念に共感して、2代、3代にわたって大切に着てくださるお客様が大勢いらっしゃいます。

しかし一方で、ファンコミュニティの活用が十分にできているとは、まだ言えない状況です。

SDGsサイト内には、お客様のお声を掲載する場所をつくりたいと、「みんなの投稿」「Instagram」のコーナーを設けました。今後はオンライン・対面含め、こうした展開も広げていけたらと思っています。

「みんなの投稿」サイトには、2代、3代にわたりミキハウスファンという顧客からの投稿がたくさん寄せられている

藤原 イベント報告なども、社内報に掲載するだけで対外的な発信はしていないケースが多々あるので、せっかく作ったSDGsサイトを今後はさらに活用して、グローバルに向けても発信を強化していきたいと思っています。

上田 弊社は全国に直営店があります。各店舗のスタッフにもっとSDGsへの理解を深めてもらい、全国ネットワークを活用してお客様へアプローチしてもらうということも検討していきたいと思います。

平野 アパレル業界では、かつてはシーズンごとに常に新しいラインナップが求められる時代がありました。「いいものを長く使ってもらう」という弊社に対し、「なぜずっと同じラインをつくり続けるのか」「安い価格帯のラインをなぜつくらないのか」と言われたこともあります。

しかし低価格戦略だけでは、いいものを長く提供していくことはできません。弊社の製品は贈り物としてご用命いただくこともたくさんあります。贈る人・贈られる人に、地球環境に対する気持ちも上乗せして、そこに価値を感じていただけるようなモノづくりをしていくことが、ステークホルダーのみなさまからの信頼への答えになると思っています。

藤原 弊社はいま、16の国と地域で89店舗を展開し、日本国内にある120店舗同様、海外のお客様からもご愛用いただいています。グローバルでは国内以上に環境や人権に配慮したモノづくりが厳しくチェックされる時代なので、これまで当たり前にやってきたことを、サプライチェーンのみなさまと一緒に、これからもしっかりやっていきたいです。

平野 「手間暇をかけていいものをつくる」というのは、コストにみえてしまう一面もあると思いますが、世代を超えて愛され続けるためには、そうしていくのが当然だと弊社では考えています。

ここからは次の50年に向けて、ビジネスとしての利益構造を上げながら、これまでやってきたことをていねいに着実に、世界中に広げていけたらと考えています。

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