生産者からお客さままで ── フードロスの輪を広げる「オイシックス・ラ・大地」の挑戦 企業のSDGs取り組み事例vol.37

2022年11月17日

安心・安全な食品をサブスクリプション(定額購入モデル)で届ける「Oisix(オイシックス)」をはじめ、食を通じて持続可能な社会の実現に貢献している「オイシックス・ラ・大地」。同社のフードロス削減の取り組みから、SDGsの伝え方・拡げ方のヒントをお聞きしました。

オイシックス・ラ・大地株式会社 経営企画本部 新規事業開発準備室 Upcycle by Oisix ブランドマネージャー 三輪千晴さん

サブスクモデルの活用でフードロス撲滅を目指す

──まずは御社の事業概要を教えてください。

三輪 弊社は、国内主要宅配事業である「Oisix」「らでぃっしゅぼーや」「大地を守る会」の3つのブランドを中心に、安心・安全な食品のサブスクリプションサービスを提供しています。いずれのブランドも、事業を通じ、食の社会課題を解決することを成長の糧としています。

私たちのビジネスモデルは、生産者とお客さまを直接つなぐ役割を担っています。

そのため、サプライチェーン全体を持続可能にする「サステナブルリテール(持続可能型小売業)」の関係を築くことで、フードロス削減にも貢献しています。具体的には生産者を「川上」、流通を「川中」、各ご家庭を「川下」と位置づけ、サプライチェーン全体で廃棄を防ぐ体制を構築することでフードロス撲滅を目指しています。

サプライチェーン全体でフードロス撲滅を目指す、オイシックス・ラ・大地の事業モデル

──なぜ、フードロス削減に力を入れているのですか? フードロス削減の具体的な取り組みについても教えてください。

三輪 弊社はもともと市場を介さず、生産者と直接契約する方法をとっており、作付けの前に買い付け量や値段を決めて契約を結びます。定期宅配という仕組み上、需要量の予測がたてられるため、結果的にフードロスも削減できています。

農林水産省の発表によると、フードロスは、日本で年間522万トンもあるといわれています。これは日本国民ひとりあたり、毎日お茶碗約1杯分の食品を無駄に捨てている換算になります。

フードロス問題の解決には、生産者だけでなく、流通・食卓においても取り組みが必要です。当社では、流通過程での過剰発注の抑制や、加工品への利用による廃棄削減も行っています。また食材や調味料が必要な量だけセットになったミールキット「Kit Oisix(キット オイシックス)」を販売することで、各ご家庭の食材廃棄削減にも寄与しています。

必要な食材と調味料がセット。主菜と副菜2品が20分で完成できるミールキット「Kit Oisix

アップサイクル商品の開発・販売でファンを増やす

──2021年7月には、フードロス解決型ブランド「Upcycle by Oisix(アップサイクル・バイ・オイシックス)」を立ち上げました。これまでのフードロス削減の取り組みとの違いも教えてください。

「ここも食べられるチップス ブロッコリーの茎」を手に、アップサイクル商品を説明する三輪さん

三輪 「Upcycle by Oisix」は、これまで見栄えや食感の悪さなどから未活用だった食材を、より環境負荷が低く、新たな価値を加えた「自社オリジナルのアップサイクル商品(※)」として開発・販売する事業です。
※これまで捨てられていたものに付加価値をつけ、アップグレードした商品

これまでに取り組んできた受発注モデルやミールキットの販売でかなりのフードロス削減ができているものの、畑や加工現場では、まだ多くの食材が見栄えや食感の悪さなどから「未活用のまま」という課題がありました。

たとえば、冷凍のブロッコリー工場では、産地から加工メーカーに運ばれたあと、加工の段階で茎が最大で月に4トン廃棄されていました。また、だいこんの漬け物をつくっている工場では、だいこんのヒゲ根が「異物混入に間違えられてしまう」といった理由から、ご家庭よりも厚く皮が剥かれる傾向があり、月に1.5トンもの廃棄量となっていました。

加えて、これまでに取り組んできたフードロス削減は、サービスを利用する会員さまにしか伝えられていないという課題もありました。 そこで、当社のサービスをまだご利用いただいたことのない方にも広く弊社の取り組みを伝えるべく、新規事業として「Upcycle by Oisix」を開始しました。

「付加価値」と「ストーリー」を大切にする

──食品のアップサイクルに取り組む際の課題と注意点を教えてください。

三輪 SDGsの取り組み全般に言えることですが、「いいことだからガマンしてやろう」「がんばってやろう」では続かないですし、広がりません。ですから、「フードロスを解決するので買ってください」というような切り口ではなく、「ブロッコリーの茎ってどんな味?」「リンゴの芯って食べられるの?」と、興味関心を持っていだけるようなプロモーションを心がけました。

また、これまで食べられていなかったものをアップサイクル商品としてお客さまにお届けするために、どのような付加価値をつけるかということも意識しました。 たとえば、手に取った時に「地球環境によさそう」とイメージできれば、購入意欲が高まる可能性もあります。ほかにも、パッケージにこだわり、自分用だけでなく、ギフト需要も狙いました。

さらに、商品開発のストーリーを積極的に打ち出すことで、「おいしくて体にもよく、食べると実はフードロス削減になっている」という価値をプラス。価格競争にならないサイクルを生み出しました。

──アップサイクル商品を販売したことで、どのような効果がありましたか?

三輪 最近は学校の授業でもSDGsを扱っているので、小さなお子さまがいるご家庭からは、置いておいたら『これSDGsだね』と子どもに言われ、会話が広がりました」という声や、「気軽に自分も地球にいいことをしたと思えてうれしいので、今後も取り組みを続けてください」という応援メッセージもいただいています。

また、「オイシックスってサステナブルなことをやっている」や、「フードロス削減につながる商品がいっぱいある」という声をいただくことが増え、お客さまのイメージが徐々に変わってきているのを感じています。

──生産者やサプライヤーからの反響はいかがですか?

三輪 ブロッコリーの生産者からは、「茎もまるごと使っていただいて、こんなにおいしい商品にしてくれてうれしい」と喜ばれています。最近は生産者や加工メーカーから、「こんな廃棄が出ているけど何かに使えないか」という相談をいただくことも増えました。サプライチェーン全体を通じて廃棄を減らしていこうという、ムーブメントがつくれていると感じています。

アップサイクル食品としてチップスに加工することで、最大で月1.5トンもの未活用状態だったブロッコリーの茎がまるごと味わえるように

──Upcycle by Oisixを広げるために、どのような取り組みをされたのか教えてください。

三輪 Upcycle by Oisixでは、「その商品によってきっかけが波及するか」ということを大事にしています。食べて「おいしかった」で終わるのではなく、食べた後、「自宅でもブロッコリーの芯を食べてみよう」「なすのヘタぎりぎりまで調理に使おう」など、行動変容まで促せる商品づくりを心がけています。

もちろん、当社1社だけでは限界があるので、生産者や加工品メーカーなど、取り組み先全体で進めていくことも重視しています。お客様とサプライチェーンへの認知拡大のため、2022年5月には、東京・有楽町マルイで期間限定のポップアップストアを展開しました。これがメディアでも取り上げられたことで、多くのお客さまにご来店いただき、そこから自治体や自社のノベルティで使いたいという企業さまからの問い合わせやご相談も増え始めました。

野菜の皮やヘタ、おから、梅酒づくりに使用した後の梅を利用した商品など、
どれも「捨てるにはもったいない」という発想で誕生した商品が並び、話題になったポップアップストアの展示風景

他社や他団体の課題解決にもつながるコラボレーション

──企業や自治体とはどのようなコラボレーションをしているのですか? その効果についても教えてください。

三輪 企業のSDGs・環境意識が高まるなか、環境に配慮したノベルティ商品として、自社ブランディングに使いたいというご相談が増えています。たとえば、住宅展示場や自動車ディーラーなどからは「お客さまへの来場記念品に使いたい」というご相談をいただきました。

社員の健康と福利厚生で自社の社員に配りたいという企業からのご相談もあります。地方の自治体からは「こんな特産品があまっているので何か一緒にできないか」というコラボレーションのご相談もいただいています。

2021年7月の開始以来、現在までで約62トン(※)のフードロス削減を達成しました。農林水産省が発表している年間推定フードロス量が570万トンなので、もっと知っていただき、取り組みを広げていきたいと考えています。
※2021/7/8〜2022/10/27までのUpcycle by Oisixオリジナル商品の流通総量より算出

──これまでになかった新しい事業提携も生まれているとお聞きしました。

三輪 はい。初の企業コラボ商品として、チョーヤ梅酒さんとの共同開発で「梅酒から生まれた しっとりドライフルーツ(仮)」を2023年1月(予定)より販売開始します。この協業により、フードロス削減への取り組みの対象を当社サプライチェーンだけでなく、他社や他団体の原料廃棄の課題解決にも乗り出します。

チョーヤ梅酒さんでは、これまでも梅酒に漬けた後の梅は製品に入れたり、そのまま販売したりしていましたが、製品化できなかった余剰の梅は、家畜の飼料や畑の肥料となっていたといいます。そこで、梅酒に使用した後の「梅」を、産地で再び買い戻し、生産者が自らドライフルーツに加工することを提案。産地での雇用を確保しながら事業化することで、生産者の収入やモチベーションの向上と、フードロス削減を同時に目指しました。

──自社だけでなく、他社や他団体と協業することでどのような効果を期待していますか?

三輪 たとえば、「Upcycle by Oisixというブランドには興味を持っていなかったけれど、チョーヤ梅酒さんとのコラボで興味を持った」というご相談や「自治体とのコラボで知った」というお問い合わせなど、フードロス取り組みの輪が広がりやすくなると考えています。「おいしくて安全な商品を開発する」というところはベースに持ちながら、これからもさらに輪が広がるような取り組みをしていきたいです。

3年後には、年間1000トンのフードロス削減を目指す

──今後のSDGsの展望についてお聞かせください。

三輪 2022年6月からスタートした「フードレスキューセンター」では、フードロス削減を目的に、使われなかった食材などの活用や、新たな付加価値を与えた商品の販売に取り組んでいます。今後は稼働をより本格化させ、3年後に年間1000トンのフードロス削減を目指していきます。

また、感情に訴えるコンテンツも増やしていきたいと考えています。たとえば、いまはUpcycle by Oisixの商品パッケージにブランドサイトにつながるQRコードを入れていますが、今後は生産者の方の顔や生産背景が見えるような動画に誘導するなど、"現場の見える化"につなげていきたいと考えています。裏でどのように食品がつくられているのか、畑だけでなく、水産業や畜産業でのフードロスの実状などを紹介することで、フードロスをより「自分ゴト化」できるコミュニケーションがつくれると思っています。 

──最後に、御社にとってSDGsとは?

三輪 テクノロジーの力で地球にも人にもよい商品を提供するのが、私たちができるSDGsだと考えています。商品をつくるだけにとどまらず、お客さまや作り手、他企業や自治体と一緒に取り組みを進めることで、業界全体を巻き込んでフードロス撲滅に貢献していきたいと思っています。

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