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SXとデジタルマーケティング|【最終回】SX実現に向けたサステナブル・マーケティングとマーケターの実像

2022年11月15日

サステナブルな企業経営を目指す概念として、近年よく言及されるようになった「SX(サステナブル・トランスフォーメーション)」。不安定で将来が読みづらい時代、企業はSDGs達成に向けて歩む中で、SXに向き合う必要性が高まりつつあります。
最終回となる本記事では、改めてSXの定義を振り返ると共に、マーケティングにおけるサステナビリティとマーケターの役割について総括します。

予測不可能な時代に、企業が向き合うべきSXの取り組み

SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)とは、「持続可能性を軸とした企業変革や経営転換」を指した言葉です。この言葉が注目されるようになった背景には、現代における企業成長の困難さがあります。

新型コロナウイルスの蔓延、戦争、拍車がかかる気候変動と災害......2020年代の世界は、これまでと比べものにならないほど不確実性が高く、リスクにあふれています。これらは各国の政治や経済状況、サプライチェーンなどに大きな影響を及ぼし、当然ながら企業もその余波を免れません。加えて日本企業は、以前から問題視されてきた高齢化社会突入に伴う人材不足問題や、IT後進国という弱点も抱えており、ますます厳しい戦いを迫られています。

こうした社会情勢の中で、企業がその存続を再重視して取り組む変革の総称がSXです。定義の段階では漠然としているかもしれませんが、取り組みの方向性は大まかに下記のようなものが挙げられます。

  1. 社会課題から逆算して、ビジネスを再定義する
  2. デジタル化によって、企業のケイパビリティを最大化する
  3. 多様なリスク要因に収益を左右されない経営基盤と組織体制を作る

いずれも企業自体を大きく変えることとなる命題ですが、これらの実現のためには、現場で業務を遂行するメンバー自身の働きや意識改革が必要不可欠です。もちろん、トップダウンでSXの意義を全社に伝えること、実行に資する中長期経営計画を立てることは前提となりますが、それらが"絵に描いた餅"にならないためには、現場でプロジェクトをリードする存在が求められます。そして、マーケターをはじめとしたマーケティングに関するロールを担うメンバーは、実はこの適任者でもあります

SX実現に向けたマーケティングとマーケターの在りかた

では、マーケターはSX実現に向けてどのような役割を果たすべきなのでしょうか。企業に与えるインパクトが大きい活動に焦点をあてつつ、SXに直結するマーケティングについて解説していきます。

SDGsの視点を取り入れた企業メッセージの発信

まずマーケターが取り組めることは、SDGsの視点を取り入れた企業メッセージを発信することです。

ここで一度SDGsについておさらいします。SDGsとは2015年9月に国連サミットで採択された"持続可能な開発目標"です。社会の持続可能性を高める17の目標が掲げられ、国連加盟193カ国が2030年までにその目標を達成することがゴールとして設定されています。

社会課題に対する自社の取り組みや姿勢を示す手段として、SDGsにばかりこだわる必要はありませんが、グローバルで共通した認識があり浸透度も高いSDGsは強いメッセージ性を持っています。したがって、現在自社においてSDGsの目標達成に資するアクションを起こせているならば、そこからメッセージを編み出していくことで訴求力の高いマーケティング施策が生まれるでしょう。

ただしそれが表面的なメッセージ訴求となってしまったり、アクションとの不一致があったりすると、逆に企業ブランドを損なうきっかけになってしまいます。「SDGsウォッシュ」という言葉が注目されていることからもわかるように、SDGsを形骸化させてしまうような企業発信は逆効果です。マーケターは自社の経営方針や事業をしっかり理解し、社会問題や時流とかけ合わせた適切なメッセージングを模索するべきでしょう。

サステナブルな顧客接点をもたらすための「データ活用基盤」を作る

次にマーケターが大きく貢献できる領域として、データ活用による顧客接点の最適化が挙げられます。これはDX的な側面からもアプローチできる内容ですが、企業のケイパビリティ向上につなげるためには、SXの視点で捉えたほうがより高い視座で臨めるでしょう。

従来のデジタルマーケティング手法は、個の特定を軸に進化してきたとも言えます。そのため、広告目的での個人情報の乱用、具体的にはユーザーライクとは言い難いWeb広告掲載や過度なレコメンドなどがたびたび問題になってきました。

これは顧客との接点よりも売上を重視する傾向が生み出した結果ですが、心地よい体験を伴わない広告施策は、結局顧客離れへとつながっていきます。DXというよりSXの観点からデジタルマーケティングの戦略立案に臨めば、常にユーザーの視点に立った情報発信が基本となるでしょう。

マーケティングの手段として、データを起点とした施策の構築は必要不可欠です。マーケターは自社が取得し得るデータを棚卸しすると共に、顧客理解を深めるためのKPIを見直し、各データをどのように分析すべきか考えると良いでしょう。

組織変革の潤滑油となるマーケティングを考えよう

最後に「SXやDXには企業内部の組織変革が伴う」という点からマーケティングの役割を考えてみましょう。前提として、マーケティングとは顧客に対する価値提供の仕組みづくりや営みを指す言葉ですから、社内に対してのインパクトはそこまで言及されないのが一般的です。しかし、昨今の企業が求められている組織変革の文脈から考えると、マーケティングは社内に対しても一定の役割を果たすものだと考えられます。

マーケティング部門やマーケターが社内に対して持つ特徴は、他部署との連携が比較的多いことです。連携の在りかたは、業界や事業内容によってさまざまです。たとえば、商品企画・生産とその商品の広告を橋渡しする役割を担うマーケティング部門もあれば、セールス部門と深く結びついてBtoBのサービスを提供するマーケティング部門もあるでしょう。デジタルマーケティングに注力している企業であれば、データ取得と活用のために他部署に発言力を持つマーケティング部門も少なくないはずです。

こうしたシームレスな他部署との繋がりを活かしつつ、マーケティング部門が組織変革を促進する役割を果たすことは、SXにおいて大きな価値をもたらします。多くの企業が組織変革において取り組むのは、部署を横断したデータ活用や、分断された各部署のシステムの再統合です。そういった取り組みに対して、マーケティング部門が現場で実行できることは数々あることを念頭に置いておくと、社内に対してマーケターが取れるアクションが見えてくるはずです。

SXの観点から考えるサステナブル・マーケティング

ここまで、SXに取り組む企業の中でマーケターがどのような役割を果たすべきか、いくつかの観点で解説しました。

では、マーケティングにおけるサステナビリティとは何なのか改めてまとめてみましょう。サステナブル・マーケティングとは、企業、顧客、そして社会それぞれに対し、マーケティングがサステナビリティを持つ形でインパクトを与えていく基盤が整えられている状態を指します。この定義に対する理解を深めるためには、逆の状態、つまり「それぞれの対象においてサステナブルではないマーケティング」を考えてみると良いかもしれません。

まず、企業におけるサステナブルではないマーケティングとは、「短期的な売上向上には成果が見られるものの、長期的な企業成長にはそれほど効果を発揮しないマーケティング」ということになるでしょう。自社のサービス・商品の訴求力を高めるためには、さまざまな要素や手法を使うことができますが、その中で自社のブランド力を高め、真に適した顧客へのメッセージングを実現する手法を厳選することは、そう簡単ではありません。短期的な売上向上だけをKPIに設定すると、こうした適切な施策を選び取ることは難しくなります。

次に、顧客に対してサステナブルではないマーケティングとは、「売るための訴求を一方的に押し付けるマーケティング」でしょう。中でもサードパーティデータを主軸とする広告施策は、個人情報保護の観点からサステナブルではない選択肢として今後淘汰されていくことが予想されます。今後の企業は顧客との間に信頼を構築し、その信頼に基づいたデータ取得と分析を行い、顧客起点での施策を考えていかなければなりません。

最後に、社会に対してサステナブルではないマーケティングについて考えてみましょう。このテーマについては、広告・広報だけでなく、商品の生産プロセスまでさかのぼらなければなりません。SDGsに掲げられている目標を見ればわかるように、現代の企業はその市場活動すべてにおいて、環境や社会に対して配慮があるかどうかが問われています。サステナブルではないマーケティング例には、生産段階で環境破壊の著しい企業が広告で「環境にやさしく」と謳うようなケースがあります。このような場合には、マーケティング活動は矛盾による不信感を生み出すだけで終わってしまうでしょう。

他にも、インパクトを重視するあまり不適切なメッセージ、たとえば社会的な性差をもたらす内容を訴求するようなケースも考えられます。さまざまな目標を目指す社会の中で、それに逆行するメッセージは、大きな不和を呼び起こし兼ねません。
これらのような、社会に対するサステナビリティを考慮していないマーケティング活動は、企業やブランドを著しく損なう要因となります。

こうした逆の事例を具体的にイメージすると、改めてサステナブル・マーケティングの重要性が見えてくると思います。企業、顧客、社会、それぞれに対するサステナビリティを考え、マーケティングの構想や施策に落とし込んでいくことが、マーケターのひとつの大きなテーマとなるでしょう。

多面的な視点によるサステナブル・マーケティングの基盤が根付き、企業としての訴求軸が定着すると、SXはスムーズに進むはずです。マーケティング施策が齟齬なく運用できる環境を整備することは、DX推進にもつながるだけでなく、組織改革やカルチャーの刷新、企業のリブランディングにも密接に結びついていくからです。

SXの立役者として、マーケターは企業のキーパーソンに

本連載では、SXとDX、そしてSDGsの関連性に焦点をあて、企業がサステナブルな経営基盤を作るためのヒントをさまざまなテーマから解説してきました。そしてその中でマーケティングがどのような役割を果たすのか、どんな効果をもたらすのかを示唆してきました。

目まぐるしく変化していく時代の中で、社会や人々のニーズを捉え、企業が適切な形でトランスフォームしていくためには、マーケティングの力が必要不可欠です。

マーケティングは単なる「売る」「知ってもらう」ための手段ではなく、企業と社会との接点そのものと言えます。近年マーケティングでは顧客理解、顧客起点といった言葉が注目されていますが、今後企業が成長していくためには、そこからさらに一歩踏み込み、社会課題の解決へと結びつくようなマーケティングを展開していくことが成功の鍵となるでしょう。

マーケターはSX実現に向けた自社の歩みの中での自身の立ち位置を考えつつ、企業変革の重要な役割を果たす意識を持ち、マーケティングに臨みましょう。高い視座とデジタルマーケティング力を持つマーケターは、今後の企業の持続可能性を支える重要なキーパーソンとして活躍できるはずです。

筆者プロフィール
宿木雪樹(やどりぎ ゆき)

広告代理店で企画・マーケティングについての視座を学んだ後、ライターとして独立、現在は企業の魅力を伝える記事執筆を中心に活動。大学にて文化研究を専攻したバックボーンを生かし、メディアのトレンドについてフレッシュな事例をもとに紹介する。2018年より東京と札幌の2拠点生活を開始。リモートワークの可能性を模索中。
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SDGsと担当者