環境貢献を目指すアサヒグループHDの新会社「アサヒユウアス」の共創力 企業のSDGs取り組み事例vol.39

2023年02月22日

アサヒビールなどを掲げるアサヒグループホールディングスが、2022年1月に設立した新会社、アサヒユウアス。共創で地域課題や社会課題の解決を目指す同社のSDGsの取り組みをお聞きしました。

アサヒユウアス代表取締役社長 高森志文さん

新会社設立の目的は、SDGsへの貢献

──御社のはじまりは、アサヒビールでSDGsを推進する一事業部だったそうですね。なぜ新会社として独立することになったのですか? 設立の経緯を教えてください。

高森 「自然の恵み」を享受して数々の「おいしさ」を生み出してきたアサヒグループは、これまでも次世代に豊かな自然をつないでいくためにSDGsを重視してきました。

具体的な取り組みとしてあげられるのが、2019年にパナソニックさんと共同開発したバイオマス素材を原料に使ったエコカップ「森のタンブラー」です。

スポーツや音楽の大規模イベント時には、大量のペットボトルやプラスチックカップのゴミがでます。ビールや飲料を扱うメーカーとして、地球環境の負荷を減らす取り組みができないかと考え、未活用だった間伐材や焙煎麦芽などを原料に使用し、森の香りがするエコカップを開発。タンブラーを使うことで、使い捨てしない消費行動への意識変容を狙ったのです。

サステナビリティはもちろん、ビールの飲み心地にもこだわった「森のタンブラー」

ただ、ほかの既存事業と比べて規模が小さいことや、コロナ禍でイベント需要が激減したことなどから、開発して2年で継続的に製品をつくっていくことが難しくなりました。しかしそれでは、せっかく進めてきた「使い捨て消費の行動変容」が止まってしまいます。そこでこのエコカップをつくっている事業を新会社として独立させて、継続的に事業を展開していくことを目指しました。

──「森のタンブラー」から派生し、現在はどのような事業を展開されているのでしょうか?

高森 当社はアサヒグループホールディングスで唯一の、サステナブルに特化した事業を行う会社です。サステナブルプロダクツの開発・販売と、サステナブルドリンクの製造・販売を主軸に、「たのしさ・おいしさ・ここちよさ」を社会にお届けすることを目指しています。

ちなみに社名の「ユウアス」は、「ユウ(YOU・あなた)」「アス(US・私たち)」を意味し、「共創で循環型社会の実現を目指したい」という我々の思いが込められています。

共創によって生まれた、サステナブルな製品

──具体的に「共創」で生まれた商品やサービスを教えてください。その効果や反響についても教えてください。

高森 まず、当社のルーツとも言える「森のタンブラー」は、パナソニックさんとの共創で生まれた製品です。パナソニックさんの技術に、長年ビールをつくり続けてきた当社の技術と経験を加え、まるでサーバーで注いだようなきめ細かい泡が楽しめる、冷たさが長持ちする「ビールに最適なエコカップ」を生み出しました。

ビールに最適なエコカップ「森のタンブラー」を手にする高森さん

──御社が手がける「サステナブルプロダクツ」のほかの製品も、すべて共創で生まれたのですか?

高森 はい。そうです。いくつか事例をご紹介します。

事例1 食べられる容器「もぐカップ」

食べられる容器「もぐカップ」は、アサヒビールと丸繁製菓との共創で生まれた製品です。国産のジャガイモでん粉が原料の"食べられるカップ"は、耐久性もしっかりあって、アウトドアやバーベキューなどでも活躍します。

おいしく食べてごみがでない。サステナブルな容器は、お子さまの食育にもいいと大変好評です。

カップまで食べられる、エコな「もぐカップ」

事例2 国産間伐材を活用した「森のマイボトル」

国産間伐材を活用した「森のマイボトル」は、環境にやさしいプラスチックボトルを製造している平和化学工業所さんなどとの共創で生まれた製品です。

東急ホテルさんや、大手ITメーカーなど、使い捨て容器とプラスチックの削減を目指す企業や施設でご採用いただいています。ボトルを持って自分でフロアに設置しているウォーターサーバーに水を入れにいくことで、SDGsを「自分ゴト」化してもらえる、と喜ばれました。

おしゃれなデザインでも人気の「森のマイボトル」

──御社のもうひとつの主軸事業「サステナブルドリンク」についても教えてください。こちらの事業も「共創」で製品を生み出しているのでしょうか。

高森 はい、そうです。サステナブルドリンクの原点は、廃棄されるはずだった食材をオリジナルクラフトビールにアップサイクルしたことです。

最初に製品化したのは、「蔵前BLACK」。アサヒビール本社近くのカフェや焙煎所でやむなく廃棄されていたコーヒー豆と、ビールのマリアージュです。コーヒーの持つ独特の風味をビールと組み合わせることで、オリジナルのクラフトビールが誕生しました。

テスト焙煎の余りなど、売り物にできずにやむなく廃棄されていたコーヒー豆をクラフトビールにアップサイクルしたことで、おいしさはもちろん、フードロス削減、カフェや焙煎所の売上向上にも寄与できる製品となりました。

「地域の素材を取り入れた商品を開発することで、フードロス削減に貢献したい」と語る高森さん

サステナブルドリンクで目指す、地域創生への貢献

──サステナブルドリンクを開発することで、地元の商店の活性化にも寄与されているのですね。この取り組みは、地域創生にも活用できるのではないでしょうか。

高森 そうですね。まさに今後、地域創生に発展させていけるのではないかと期待している事例があります。
それは、規格外のどら焼きと余ってしまったヤギのミルクを原料に使用した、サステナブルなクラフトビールです。

鳥取県米子市の和菓子店「丸京製菓」さんでは、これまで製造工程で発生していた規格外のどら焼きは店頭での試食などに利用されていました。しかし、コロナ禍で試食ができない状況となり、大量に廃棄されていました。また、島根県松江市のジェラート・ハンバーガー店「Lago SENTO宍道湖北」さんでは、観光客の減少によってヤギのミルクが余って困っていました。

そこでこれらをクラフトビールの原料に活用して、サステナブルクラフトビール「山陰どらやきHazy」を開発しました。どらやきは全原料の約10%、ヤギミルクは5%使用しています。ホップの潤沢な香りとヤギミルク由来の濃厚な味わいが特長です。

アサヒユウアスと大根島醸造所が共同でレシピを開発したサステナブルクラフトビール『山陰どらやきHazy』

このクラフトビールは、当社がレシピを開発。製造に関しては「フードロス削減」と、コロナ禍で収入が減り経営課題を抱える地域の小さなお店を応援したいという当社の思いにご共感いただいた、島根県松江市のクラフトビールメーカー・大根島醸造所さんにお願いしました。

この取り組みは注目を集め、いろいろなところから共創のお問い合わせをいただいています。製造を地元メーカーにお願いすることで、地域経済や雇用にも寄与できると考えています。今後は、さまざまなエリアの課題解決に広げていけたらとも思っています。

「ユウ(あなた)」を増やし、共創を広げていきたい

──他企業や地域との共創が進む中、課題もあるのでしょうか。

高森 冒頭でもお伝えした「利益を生み出し続ける」部分はまだまだ課題と考えています。地域との共創で地域の課題解決に寄与できるのは大変光栄なことですが、地域限定だけにこだわっていると、なかなか生産性の向上は実現できません。

事業として継続できなければ、皆さまのお役に立つこともできないので、ここからは生み出してきた「サステナブルプロダクツ」「サステナブルドリンク」のスケールを拡大し、継続的に利益を生み出せる企業になっていかなければならないと考えています。

──売上向上のために、どのような工夫を考えていますか? 今後の目標についても教えてください。

高森 自治体との共創でペットボトルのキャップ回収を行い、集めたキャップをベンチにして自治体の施設に置くなど、ある程度のスケールが見込めるような取り組みも少しずつ進めています。

アサヒグループという信頼と、「ユウ(あなた)」と「アス(私たち)」という社名のおかげもあって、幅広い分野の企業や団体から「何か一緒にやりましょう」と声をかけていただく機会が日に日に増えています。

創業2年目は、お声かけいただいた「ユウ(パートナーさま)」と「ユウ(パートナーさま)」をつなぐ、プラットフォーマーのような役割も果たし、共創をさらに広げていけたらと思っています。

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