2023年03月30日
「製造物流IT小売業」という独自のビジネスモデルを確立し、住まいの豊かさと世の中の課題解決を目指しているニトリ。同社がどのようにSDGsに取り組み、その価値を創出しているのかを聞きました。
株式会社ニトリホールディングス SDGs推進室リーダー 太宰ありかさん
──御社は日本ではじめて「製造物流IT小売業」というビジネスモデルを構築されました。まずはこのビジネスモデルについて、教えてください。
太宰 まず、当社では「住まいの豊かさを世界の人々に提供する。」という企業理念を掲げ、それを"ロマン"と呼んでいます。
このロマン実現のために何ができるかを考えたときにたどり着いたのが、「商品企画や原材料の調達から、製造・物流・販売するまでの流れをすべて自社で行う」というビジネススタイルでした。それが「製造物流IT小売業」です。
グループ全体で、商品をつくり、品質を管理し、貿易・運搬し、販売することは、徹底的なコスト削減や効率化につながります。加えて、中間マージンを排することで、品質は維持されながらも「お、ねだん以上。」の商品がお届けできると考えています。
──御社がSDGsの取り組むようになった経緯を教えてください。
太宰 ニトリはリアル店舗を持つ企業のため、日々お客さまの声を直接お伺いすることができます。そのなかでのお困りごとや価値観の変化に、真摯に向き合い取り組んだ結果、「環境にやさしい取り組み」につながった事例が多くあります。
ロマン実現のために生まれた「製造物流IT小売業」は、一気通貫のビジネスモデルです。これにより、当社は製造から物流、販売におけるすべてのフェーズで全体最適を考えることができます。だからこそ、「つくる・はこぶ・つかう」のそれぞれのフェーズにおいて、環境への配慮=SDGsへの取り組みを進めることができるのです。
「ニトリのSDGsの取り組みは、お客さまの困りごと解決が起点」と話す太宰さん
──具体的なSDGsの取り組みと、その反響・効果について教えてください。
太宰 ニトリでは、先ほどお伝えした「つくる・はこぶ・つかう」それぞれのフェーズで、環境に配慮したものづくりを「Nitori's ecology」と位置付け、取り組みを進めています。順番にご紹介します。
タイにある自社工場「サイアムニトリ」では、ペットボトルなどのリサイクル原材料を繊維化し、カーペット・ラグを製造しています。その工程では、原材料に直接顔料を練り混んで着色しています。着色工程において水を使用していないため、着色後の汚水処理が発生しません(※)。
サイアムニトリは、この環境負荷の少ない製造方法が評価され、タイの環境協会から、環境保全に寄与している企業に与えられる認定「グリーンラベル」第1号企業に選ばれました。
(※)表生地にリサイクル原材料を使用している場合の工程
リサイクル原材料(再生樹脂) を使用した「収納用品」は、お客さまの声から生まれた商品です。
これまでニトリの収納用品は、ホワイトが中心でした。しかし、インテリアやお好みに合わせて収納用品の色を選びたいというお客さまのお声が年々高まっていたことから、リサイクル原材料(再生樹脂)を約20%以上使用し、ブラックの収納用品を新しく製造しました。
これは、「リサイクル原材料を使用すると真っ白な商品をつくることができない」という特性をポジティブに捉え、逆に活かしたものです。カラーバリエーションが増え、かつ環境に配慮した製品であると、お客さまから大変ご好評いただいています。
リサイクル原材料の使用ありきではなく、顧客の声からこの新製品が生まれた
──物流部門でもSDGsに取り組んでいます。こちらの取り組み内容と効果についても教えてください。
太宰 サイズが大きく、輸送コストがかかっていたベッドマットレスを、独自の圧縮技術で商品パッケージを4分の1に圧縮しました。結果、輸送効率が大幅に向上し、CO2排出量の削減にもつながりました。
持ち帰り可能なサイズになったことで、「商品を購入したその日から使いたい」というお客さまの要望にもお応えできる商品となりました。
──「Nウォーム (吸湿発熱)」「Nクール(接触冷感)」シリーズは、使うことで、エネルギーの抑制にもつながるそうですね。
太宰 はい。この製品は、ご使用いただくことで、ご家庭での冷暖房使用を抑えることができる寝具のシリーズです。しかしこれは、SDGsを意識して製品開発したわけではありません。あくまでも起点は「夏は冷房、冬は暖房を使用しなくても、快適に眠れる寝具があったらいいのに」という声です。
原材料の糸の素材配分調整から自社管理することで、十分な機能を備えながらもお手頃価格での販売を可能にしたことで、Nクールはシリーズ 累計販売数6,100万個、Nウォームはシリーズ 累計販売数4,200万個の大ヒット商品となりました。(2021年度までの実績)
「暮らしの豊かさ」の追求が、環境への貢献にもつながった「Nクー ル(接触冷感)」シリーズ
──分別・廃棄が困難で、不法投棄も問題になっているポケットコイルマットレスでも画期的な商品を開発されていますね。
太宰 当社でも、以前からポケットコイルマットレスの廃棄問題は課題と考えていました。しかし処理業者から「廃棄量に対して処理スピードが追い付かない」という声も多く、寝具の販売シェアが高いニトリの「つくる責任」として、何かしなければいけないとずっと考えていました。
そこで、簡単に分解・分別しやすいポケットコイルマットレスを開発。当社従来品と比較し、分解作業時間が約55分から約6分へと大幅に短縮することができました。(ニトリ社調べ/2名作業時)
限りある資源を有効活用し、循環させるためには、廃棄時の分別が重要な役割を果たします。このように、開発段階から資源の有効活用をまでを考えて設計した商品の拡充を、今後も目指していきたいです。
誰でも簡単に分解・分別できる商品(ポケットコイルマットレス)は、資源の有効活用を促進する
──御社は、「回収キャンペーン」などのユーザー参加型のSDGsアクションも行っていますよね。
太宰 お客さまが「処分に困っている」という声が多い製品を中心に、販売元や状態に関わらず店頭で無料回収し、資源につなげる取り組みを進めています。これまで全国・全店舗規模では「カーテン」「羽毛布団」を回収しました。
2022年5月から6月、そして8月から9月にかけて実施した「カーテン回収キャンペーン」では、累計10万5600人が参加し、約380トンもの回収量を実現しました。回収したカーテンは、海外で、製品や生地素材としてリユースするほか、国内で自動車の断熱材としてリサイクルしています。
「羽毛布団リサイクルキャンペーン」で回収した羽毛布団は、解体・洗浄加工の上、ニトリの店頭に並ぶ羽毛布団に再製品化。これは、ニトリで初めて、回収から販売にいたるまで「循環」させる仕組みを構築することができた取り組みでもあります。
限りある資源を未来へつなぐ、回収キャンペーン
──こういった御社のSDGsの取り組みは、どのような効果を生み出しているとお考えですか?
太宰 お客さまにとって、ニトリがただ買い物をする場所ではなく、「環境について考えたり、何かアクションをできたりする場所」になりつつあると思います。また、そのような場所であることを常に目指していきたいです。
実際、回収キャンペーンでは「捨てるにももったいなくて、罪悪感があったので助かる」「ごみにするのではなく環境に貢献できてよかった」「リサイクルや環境について子どもに教える機会になった」などの声をいただいており、大変励みになっています。
──今後のSDGsの取り組み予定や展望をお聞かせください。
太宰 川上から川下までの全⼯程を担う企業の責任として、商品を「つくるとき」と「つかいおわったあと」を中心に、「資源を守る」取り組みを拡大していきたいです。
「つくるとき」は、再資源化がしやすい原材料などを採用していくとともに、開発段階から分解・分別のしやすさを考えた商品構造にする取り組みを推進する。また「つかいおわったあと」は、回収して資源にまわせる製品を拡大し、お客さまの「捨てる」ということに対する罪悪感をニトリが引き受けることで、安⼼して次のお買い物を楽しんでいただきたいと考えています。
今後も、ニトリでのお買い物が環境負荷軽減につながることを⽬指し、ニトリのビジネスモデルを最大限活かしながら、ニトリだからこそできるSDGsを実現していきたいです。