2023年04月13日
「情報革命で人々を幸せに」を経営理念に掲げ、自社の成長によって持続的な社会の実現を目指しているソフトバンク株式会社。社員全員が主役となって推進しているというSDGsの取り組みについて、ESG推進室の日下部 奈々さんにお聞きしました。
ソフトバンク株式会社 ESG推進室 日下部 奈々さん
──まずは通信インフラ企業である御社がSDGsへの取り組みを強化するきっかけとなった背景から教えてください。
日下部 当社は創業以来、「情報革命で人々を幸せに」を経営理念に、テクノロジーを通じて社会課題の解決に貢献してきました。特に近年は、地球全体でさまざまな環境・社会問題が深刻化し、その課題解決にテクノロジーを活用していくことがますます期待されるようになっています。
こうした背景から、テクノロジーを軸に成長してきた企業の使命感として、2020年5月の決算説明会で、SDGsが目指す持続可能な社会の実現に一層貢献することを宣言し 、「すべてのモノ・情報・心がつながる世の中を」というコンセプトと、それを実現させるために制定した6つのマテリアリティ(ビジネス上の重要な社会・環境課題)を掲げました。
ソフトバンクは、6つのマテリアリティでSDGsのゴール達成と事業成長を目指している
──御社のSDGsへの取り組みは宣言からわずか2年で、国内外から高く評価されるなど着実な成果を生み出しています。SDGsをどう進めてきたのか、推進の手順を教えてください。
日下部 SDGsの推進にあたっては、「旗を掲げる」「グローバルスタンダードのキャッチアップ」「事業と連動したSDGsの加速」という3つのステップで進めました。順番に説明します。
1年目は「旗を掲げる」として、なぜソフトバンクがやるのか、どうやって取り組みを進めるのかという、「発信」に注力しました。テクノロジーを通じて社会課題の解決を目指す当社にとって、SDGsが掲げるゴールは会社の経営戦略そのものです。つまり、経営理念を達成するための具体的なテーマがマテリアリティであり、全社一丸となって取り組むべきものであるということを折に触れてトップが発信することで、社員への浸透と共感の醸成を目指しました。また、同時にお取引さまやお客さまを含むステークホルダーにもコミットメントを示すため、対外的な発信も積極的に行いました。
2年目はESGに関するグローバル基準での評価を得るために、組織・経営体系をサステナビリティを意識したものに変えていきました。たとえば、さまざまな部門と連携し、「人権や環境に配慮した事業活動をしているか」などを社内で点検する組織やしくみをつくり、事業がサステナブルかどうかを客観的に点検・確認するプロセスを導入しました。
3年が経った現在は、事業を通じてSDGsへの貢献を加速するフェーズに入っています。自治体やパートナー企業とも協業しながら、グループ全社で具体的なアクションが展開され始めています。
「3つのステップによって、スピード感をもってSDGsを推進してきた」と話す日下部さん
──御社の具体的なSDGsアクションについて教えてください。
日下部 マテリアリティ5に掲げている「質の高い社会ネットワークの構築」に対して将来大きく貢献が期待できる取り組みをご紹介します。
「地球上から圏外をなくす」を目標に、山間部や諸島部などの電波が届きにくいエリアや、海外で通信インフラが整っていない国や地域へ電波を届けるために、「HAPS(ハップス)」と呼ばれる空飛ぶ基地局を開発中です。世界中の通信業界や航空宇宙業界のパートナーとともに、商用化実現に向けて取り組みを進めています。
いまや通信は単なるコミュニケーション手段ではなく、社会インフラです。気候変動が影響とみられる自然災害で通信が遮断されると、たちまち日常に不便が生じます。また、世界には電波が届かず、インターネットを利用できない地域に暮らしている人が約32億人もいるといわれています。こうした社会課題を解決すべく、成層圏に基地局を浮かべるHAPSで災害などに左右されずに通信が不安定なエリアにも持続的に質の高い通信を届ける未来を目指しています。
「HAPS」は、ジェット旅客機が飛ぶ高度よりさらに上、 高度約20kmの成層圏での、定点滞空を目指す空飛ぶ基地局
──御社は国内でも100以上の自治体と連携協定を結び、日本各地の地域課題解決にも貢献しています。自治体との連携ポイントについても教えてください。
日下部 それぞれの地域や自治体で抱えている課題に対し、個別に最適なDXソリューションを提供しているのが当社の強みです。
たとえば、「SDGsに取り組みたくても人材がいない」「SDGsのノウハウがない」とお困りの自治体に、当社の社員がDX担当アドバイザーのような形で職員として自治体に入り、自治体の中からDXを通じたSDGs推進のお手伝いをしているケースもあります。
そうした密な連携によって、PayPayで税金が払えるデジタル決済の促進や、高齢者の生活の見守り、交通が不便な地域への自動運転バス導入など、それぞれの地域課題に対して、テクノロジーでのソリューションを提案しています。また、紙やハンコが多い職場ではデジタル化をサポートし、働き方改革の促進にもつなげています。
ほかにも、今年3月22日からは、福島県の会津若松市と協業して、災害発生時にスマートフォンを使って住民の避難誘導や安否確認ができるサービス「デジタル防災」を会津若松市のアプリ「会津若松+」向けに提供開始しました。会津若松で地震などの災害が発生した際、位置情報に基づいて迅速な避難や被災者の救助ができる機能の実証実験を重ね、将来的にはほかの地域にも展開を広げていきたいと考えています。
──御社はグループ全体で約5万人の社員が働いています。社内で共通の理解を得るために、どのような工夫をされているのですか?
日下部 大切にしているのは、「社員ひとりひとりがSDGsの主役」であるという視点です。そのため、トップからの宣言で社員に意識を持たせる社内イベントやワークショップ研修などの実施はもちろん、各事業部や子会社に推進担当を設置し、定例会で進捗状況や目標設定の確認とディスカッションを行っています。また、それぞれの部門で日々の業務を推進している時に「この業務がどう社会に役に立っているのか」と迷わないよう、それぞれのマテリアリティやKPIを道しるべに自発的にアクションできる状態を目指しています。
加えて、Zoomの背景や名刺、営業用資料などに当社のSDGsアクションを取り入れ、親しみを持ってもらうような工夫も取り入れています。名刺のようなツールとして使うことで取引先やお客さまから「ソフトバンクさんもSDGsに取り組んでいるんですね」とコミュニケーションが生まれることも多く、自らの業務がSDGsにつながっているんだと認識する社員が増えました。
6つのマテリアリティに合わせて、6色展開している名刺(環境保護と文化保護の一環で「葛」素材を活用)
──ほかに、グループ全体でSDGsアクションを加速されるために実施している取り組みがあれば、教えてください。
日下部 2021年12月より、グループ内の特筆すべき取り組みを行った社員や事業部門を対象に「SDGs Action Award」というグループ内表彰を行っています。2022年には2回目のアワードが開催され、顧客、小売電力事業者、そして環境の三方良しの取り組みをゲーム感覚で実現できる節電アプリを開発したSBパワー株式会社が大賞を受賞しました。
グループ全体でよい事例を共有することで、モチベーションの向上や、SDGsの大きな流れを生み出す結果となっています。
ちなみに、先ほど事例としてご紹介した「HAPS」は、第1回のアワードの大賞受賞プロジェクトです。
──SDGsの推進を強化した結果、社員の意識や行動にどのような影響が見られましたか?
日下部 現在、当社のSDGsへの取り組みは、社員のほぼ全員が認知しています。しかし、そのことよりもうれしいのは、8割以上の社員が「会社の事業が社会課題の解決に寄与している」という認識をしていることです。取り組み開始前と比較しても顕著に伸びており、会社に対するロイヤリティや帰属意識の向上につながっていると感じています。
また、社会課題に対しての貢献度合いを見える化して発信することで、「社会課題の解決につながる仕事がしたい」という学生に対しても企業の魅力を訴求できるようになりました。 財務的な成長だけでなく、「働きたい」と思ってもらえる企業としてSDGsの取り組みは欠かせないとあらためて実感しています。
──最後に、展望と今後のビジョンをお聞かせください。
日下部 SDGsはボランティア活動ではありません。事業に直結させるようにして社会課題を解決していかなければ、持続しません。そして、SDGsの取り組みは当社1社だけでできるものでもありません。社外に積極的に情報を開示することで、同じ目標を持ったパートナーと手を結び、ともに持続可能な社会の実現を目指していけたらと考えています。