暮らしに身近な社会課題をビジネスで解決するセブン&アイ・ホールディングスの挑戦 企業のSDGs取り組み事例vol.43

2023年04月26日

価値ある商品やサービスの提供を通じて、豊かで便利な暮らしを支援するセブン&アイ・ホールディングス。同社のSDGsへの取り組みについて、執行役員でESG推進本部 サステナビリティ推進部 シニアオフィサーを務める釣流まゆみさんにお聞きしました。

株式会社セブン&アイ・ホールディングス 執行役員 ESG推進本部 サステナビリティ推進部 シニアオフィサー 釣流まゆみさん

未来を見据えて掲げた「GREEN CHALLENGE 2050」

──御社は環境宣⾔「GREEN CHALLENGE 2050」を掲げ、グループ全社でSDGsへの取り組みを進めています。まずはこのGREEN CHALLENGE 2050について教えてください。

釣流 セブン&アイ・グループには、コンビニエンスストア、スーパー、専⾨店など、世界中にネットワークを持つ小売グループです。私たちは創業以来、店舗を通じて地域やお客さまの困りごとを解決する商品やサービスを提供し、事業を成長させてきました。

一方で、私たちの事業活動が地球環境に少なからぬ影響を及ぼしていたことも事実です。未来を見据えれば、私たちのグループがお客さまとともに成長し、社会と共に発展していくためには、環境負荷低減を積極的に推進し、豊かな地球環境を未来世代につないでいくことは使命であると考え、GREEN CHALLENGE 2050を掲げることにしました。

セブン&アイ・グループの概況。2023年2月期の連結決算は、売上高が11兆8113億円となり、国内の小売業で初めて10兆円を突破。世界中で小売事業を展開する同グループがSDGsに取り組むことは、持続可能な未来の実現のためには不可欠とも言える

──GREEN CHALLENGE 2050では「CO2排出量削減」「プラスチック対策」「食品ロス・食品リサイクル対策」「持続可能な調達」を掲げ、グループ横断での取り組みを推進しています。なぜこの4つに注力したのですか? それぞれの目標も教えてください。

釣流 まずは、弊社グループの事業活動によって生じる環境負荷の観点で、特に社会的な影響の大きい分野を特定することから始めました。そこから環境負荷等の削減に向けた取り組みをより具体的に書き出し、4つの分野が定まりました。

それぞれの分野の目標ついて、ご紹介します。

1.CO2排出量削減

私たちは、国内で2万2700店(2022年2月末)を超える店舗網を展開し、毎日約2220万人のお客さまにお買い物いただいています。安全で安心なお買い物をいただくために使用する、照明や冷凍・冷蔵などの店舗運営に必要な電力使用などで排出しているCO2の削減は避けて通れない課題です。

2030年にはグループの店舗運営に伴うCO2排出量を、2013年度比で50%削減することを目指して取り組みを進めています。

2.プラスチック対策

安全で安心な食品を提供するためには、バリア性が高いプラスチック容器は大切な素材です。一方で、海洋プラスチック問題なども深刻化し、プラスチック容器やプラスチック製レジ袋の削減は喫緊の課題となっています。

そこで私たちは2030年までの目標として、オリジナル商品で使用するプラスチック容器の50%を環境配慮型素材とすること、そしてプラスチック製レジ袋の使用量ゼロを目指しています。

3.食品ロス・食品リサイクル対策

取扱商品の6割が食品である私たちの使命として、商品の廃棄などで生じている「食品ロス」も見逃せない課題です。廃棄をゼロにすることはできなくても、2030年までには廃棄率の50%削減(2013年度比)と食品廃棄物のリサイクル率70%(同)を目指していきます。

4.持続可能な調達

サプライチェーンがグローバル化するなかで、原材料調達をめぐり、気候変動などの環境問題はもちろん、児童労働、強制労働をはじめとする人権問題・社会問題も顕在化しています。今後、食品を安定的に供給・販売していくためには、すべての過程で環境や社会に配慮した「持続可能な調達」を推進していくことが不可欠です。

弊社グループでは、2030年までにオリジナル商品で使用する食品原材料の50%を、持続可能性が担保された材料に切り替える予定です。

努力目標ではなく、必達目標として、SDGsに取り組む

──GREEN CHALLENGE 2050では「2030年の目標」と「2050年の目指す姿」を掲げています。それぞれの違いと、具体的にどのような取り組みをされているのかを教えてください。

釣流 「2030年の目標」は、努力目標ではなく必達目標です。これをベースに「2050年の目指す姿」を掲げている以上、そこには弊社グループの強い意志が込められています。

では、目標必達のために、4つの注力分野において、現在どのような取り組みを進めているのかについて、ご紹介します。

電気代を低減させることでCO2排出量を削減

多くの店舗を擁するなかで電気代の財務インパクトは相当なものになります。電気代の削減は、CO2排出量の削減=環境への取り組みであるとともに、コストの削減にもつながります。

そこで私たちは「省エネ、創エネ、調達」という3つの工夫で使用電力をおさえ、CO2排出量を削減しています。

省エネ」は電気を使わない工夫です。たとえば、空調はホコリがたまると電力効率が悪化するので、こまめに掃除をして空調効率が下がらないようにしています。

創エネ」は電気をつくる太陽光パネルの採用です。2万店舗のうち約半数の店舗には太陽光パネルを設置しています。また、大学との協業で窓ガラスに貼付する太陽光パネルの開発や、NTTとの協業で再生可能エネルギーの電源を新たに設置するなどの取り組みも進めています。

千葉県市原市のショッピングモール「アリオ市原」。屋上部分に太陽光パネルを敷設し、電力使用量の約25%を太陽光パネルによる発電で賄う。これにより、CO2排出量も約25%削減した

生活者と二人三脚で進めるプラスチック対策

──御社は「プラスチック対策」として、積極的にペットボトルの回収を進めている印象があります。

釣流 先ほどもお伝えしたとおり、私たちの事業にプラスチック容器はなくてはならないものです。そこで私たちはペットボトル回収機を約3000店舗に設置し、お客さまとともにリサイクル率を高めることで、資源を再利用するための取り組みを推進しています。

また、一部のサラダの上ぶたをトップシール(一般に中身が見えるような透明なシールで包装する形態)に変更してプラスチック量を25%削減するなどの取り組みも行なっています。

コンビニ用小型ペットボトル回収機

年々増加しているペットボトル回収機の設置台数と回収量

「てまえどり」を店舗から啓発し、食品ロス削減につなげる

──2022年の流行語大賞では、賞味期限が迫った商品から買ってもらう「てまえどり」がトップ10に入選しました。このことからも世間では食品ロスへの意識が高まっていると思われます。御社では食品ロスにどのような対策で臨んでいますか?

釣流 たとえば、グループ会社のヨークベニマルやセブン-イレブンでは、全店で商品を購入する際に消費期限や賞味期限が近くなった商品から手に取っていただけるよう、「てまえどり」を啓発するステッカーやPOPを貼り付け、商品購入の際にお客さまに意識して共感いただけるよう工夫しています。

SDGsについて学校で学んでいる若者世代からの支持も高く、ご家族でお買い物をする時にお子さまから指摘を受け、「てまえどり」を実施したというお声も聞いています。今後も取り組みを広げ、食品廃棄を減らしていきたいと思っています。

「てまえどり」を啓発するPOP

持続可能な原材料の調達

──世界各国で店舗を展開している御社は、世界中から多くの原材料なども調達しています。持続可能な調達のために注力されていることを教えてください。

釣流 いちばん注力しているのは、いかに私たちの取り組みに共感していただける人を増やすかということです。

たとえば、サステナブル・ラベル認証の原材料のみですべての商品を調達しようとしても、生産者が活動を持続できなければ商品を提供し続けることができません。そこで私たちは、持続可能性が担保された商品の価値や生産者の想いを店頭・ウェブサイトなどを通じてお客さまにお伝えすることに力を入れています。

こうした取り組みによって、消費者の皆さまに理解を深めてもらい、グループ全体のオリジナル商品で使用する食品原材料の50%を2030年までに達成し、2050年には100%を持続可能性が担保された原材料にすることを定めています。

豊かな地球と社会を次世代につなげていきたい

──最後に、展望と今後のビジョンについてお聞かせください。

釣流 SDGsの目標は私たちだけの力では決して成し遂げられません。私たちの取り組みを日々発信することで、共感していただける仲間を増やし、あらゆるステークホルダーの皆さまとともに豊かな地球と社会を次世代につなげていきたいと考えています。

今後も、お客さまの暮らしにもっとも身近な小売店として、お客さまやお取引先さま、地域社会から選んでいただける商品やサービスをこれからも提供し続けていきたいと思っています。

「私たちがしていることを発信することで、共感する仲間を増やしていきたい」と話す釣流さん

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