玩具の力で、楽しく遊びながら持続可能な未来に貢献するマテル社のSDGs 企業のSDGs取り組み事例vol.48

2023年07月13日

世界大手の玩具企業、米国マテル社の日本法人マテル・インターナショナル株式会社。世界で初めて(2022年4月時点)カーボンニュートラル認証を取得した製品を発売するなど、革新的な同社のSDGsへの取り組みについてお聞きしました。

マテル・インターナショナル株式会社 アソシエイトマーケティングマネージャー 久保田恭弘さん

玩具で子どもたちの持続可能な未来に貢献

──まずは玩具企業である御社がSDGsへの取り組みを強化する背景について教えてください。

久保田 マテル社は、次代を担う子どもたちが安心して成長できる世界を受け継いでいくことを目指しています。そのため、遊びを通じて子どもたちにインスピレーションを与え、楽しみながら成長をはぐくむ、イノベイティブな製品と経験を創出しています。

SDGsへの取り組みについては、あくまでも自社の目標実現のためのひとつの手段と考えています。SDGsにつながる取り組みだから強化しているわけではありません。

──御社の目標実現のために、どのようなSDGsの目標を掲げているのでしょうか。御社の目標とあわせて、具体的に教えてください。

久保田 私たちは、子どもたちに素晴らしい未知の発見や気づきを与え、可能性を最大限に引き出すお手伝いをすることを目標に掲げています。ですから、製品作りにおいても「よりよい世界の実現」を目標に、常に研究と努力を積み重ねてきました。

とはいえ、私たちの製品をこの先もずっと使い続けてもらうためには、子どもたちが安心して暮らせる持続可能な社会の実現が欠かせません。そこで、これまでずっと積み重ねてきたステップをこの先もずっと重ねていくために、私たちは3つのゴールを掲げました。

  1. 2030年までに、製品およびパッケージにおいて、リサイクル素材や再生可能素材、またはバイオベースプラスチック材料を100%使用すること
  2. 紙および木製繊維にはFSC認証素材の含有率95%を維持すること
  3. 2030年までに、製品ごとにプラスチック包装を25%削減すること

上記の3つで、持続可能な社会の実現を目指しています。

「SDGsに取り組む企業」というイメージをグローバルで構築

──3つのゴールを達成することで、御社のビジネスにどのようなメリットがあるとお考えですか?

久保田 「SDGsに配慮した製品を発売したから、急に業績が上がる」ということはありません。しかし、SDGsへの取り組みをずっと続けてきたことで、お客さまの間に「環境に配慮した玩具を取り扱うメーカー」という認識が少しずつ広がってきているのを感じています。

近年は日本でもSDGsの認知度が上がり、「SDGsに取り組んでいる企業を応援したい」という消費者が60%以上であるという調査結果があります。

とくに、小さなお子様が使う玩具については、環境に配慮した素材やパッケージを選ぶケースが増えています。これはつまり、環境に配慮しない製品を作り続けているメーカーは、消費者から選ばれなくなるということを意味します。

マテル社の製品は、世界の主要な小売企業やeコマース企業との協業で、世界150ヵ国以上で販売されています。子どもの頃からSDGsに配慮したおもちゃに触れて育つことで、楽しみながら環境貢献やジェンダー平等などの意識を持つ人が増え、そうした子どもたちが大人になって、また、自分の子どもたちと当社の玩具で遊んでくれる。そういうよい循環を期待しています。

マテルジャパンのSDGsへの取り組み事例

──では、具体的な取り組みとその効果を教えてください。

久保田 はい。いくつか事例をご紹介します。

海洋プラスチック再生素材を使用した地球にやさしいバービードール

久保田 はじめに、当社を代表する製品のひとつでもあるバービーの取り組みをご紹介します。

2021年に、海洋プラスチックのリサイクル素材を使用した「バービー うみとともだち」シリーズを発売しました。

これは、環境への影響を軽減した製品を発売することで、子どもたちのよりよい未来に貢献したいという思いを実現したもので、玩具メーカーとしては先進的ともいえる取り組みでした。

お客さまからは「子どもが接するおもちゃがこういう取り組みをすることで、自然とSDGs教育になった」「親子で楽しく遊びながら、きれいな海について考えるきっかけになった」など、多くの反響をいただきました。

また、製品発売と同時に公開したYouTube動画の配信にもご興味をお持ちいただき、親子で一緒に見ることによって環境への意識が高まった、というお声もいただきました。

海洋プラスチック再生素材を使用した地球にやさしいバービーが登場する「きれいな海をまもるために」日本語版の動画

──「みんなが知っている」バービーというメジャーIPを活用したことで、SDGsへの高い信頼と共感が生まれたのですね。ほかの取り組みについても教えてください。

久保田 バービー同様に「みんなが知っている」製品である、カードゲームの「UNO(ウノ)」の取り組みをご紹介します。

すべてリサイクルできる素材で作られた「地球にやさしいUNO(ウノ)」

久保田 2021年に、マテル社の3つのゴール目標に合わせ、パッケージからカード、取扱説明書に至るまで紙のみを使用し、カードを大豆由来のインクで印刷した、すべてリサイクルできる「地球にやさしいUNO(ウノ)」を発売しました。さらに、持続可能な森林管理のもと生産された原料でつくられたことを示すFSC認証も取得しました。

日本の文化に溶け込んでいる「ウノ」で、ここまでサステナブルな製品を発売したのは初めてで、当社が本気でSDGsへの取り組みを進める企業であるという認知拡大につながりました。

世界初のカーボンニュートラル玩具「メガブロック グリーンタウン」

──2023年4月には、量販店流通玩具において世界で初めてカーボンニュートラル認証を取得した新製品、「メガブロック グリーンタウン」を発売されました。これは、これまでの製品とはどう違うのですか?

久保田 これまでの製品は、サステナブルな素材を使った製品であることが特徴でしたが、2023年の4月に発売した「メガブロック グリーンタウン」は、素材だけでなく、製品を使うことでSDGsをより「自分ゴト」にできる玩具です。

「カーボンニュートラル・脱炭素社会」「SDGs」という言葉の認知度は上がりましたが、一方でお客さまからは、「日頃の行動で『自分ゴト』として習慣化できない」「子どもにどう伝えたらいいのかわからない」というお声も聞いていました。

そこで、「メガブロック グリーンタウン」は、ブロックという遊びを通して、お子さまが自然に環境や未来について考えることを狙いました。

責任を持って調達された素材を使用しているだけでなく、楽しく遊びながら地球や環境にやさしいくらしについて学び、考えるきっかけを提供できたらと考えています。

──どうやって「遊びながら学べる」のでしょうか。

久保田 「メガブロック グリーンタウン」は、「ごみの分別とリサイクル ごみ収集車のセット」「でんき自動車でおでかけ 充電スタンドのセット」「ミツバチとたのしい農場 トラクターのセット」「自然エネルギーとエコハウス 乗りものとおうちのセット」の4シリーズを発売。それぞれに、ゴミの分別やリサイクル、エコな野菜作り、電気自動車、グリーンエネルギーというテーマについて自然に学ぶことができます。

日本で一番人気の「ごみの分別とリサイクル ごみ収集車のセット」は、ごみの分別やリサイクルについて学ぶことができるブロックセットです。

ごみ箱にはそれぞれマークが描かれ、色分けされています。その色と絵に合わせてごみを分別することで、牛乳パックなどの紙類はリサイクル、生ごみはコンポストと自然に覚えることができるようになっています。

ごみを分別して収集車に積む遊びを通して、色の識別や手先の器用さを育むだけでなく、環境にやさしいくらしについて考えるきっかけにもなると考えています。

「ブロックという遊びを通して、SDGsが"やらなければならないこと"ではなく、"意識しなくても自然にできること"になれば」と話す久保田さん

遊びながら自然にSDGsへ取り組めるのが玩具の力

──マーケット戦略において、「SDGsが学べる」というのは、高付加価値になるのではないでしょうか。

久保田 実はそこが難しいところです。

コンセプトが出たばかりの頃は、日本語版の商品名として「学ぼう! リサイクル」などの案も考えていたのですが、それでは学びの押しつけになってしまいかねません。

そこで、「遊びを通じて、楽しみ、成長をはぐくむ」ことをミッションに掲げる当社だからこそ、「学び」を前面に打ち出すのではなく、あくまでも「楽しく」「手に取りたくなる」ように再考。「面白くて楽しいおもちゃ」ということを一番に考え、「でんき自動車でおでかけ」「たのしい農場」など、子どもたちが楽しそうだと思えるネーミングに決めました。

──実際に購入者、あるいは購入を検討されている方からは、どのような反響がありましたか?

久保田 店頭売り場などで新製品のPRイベントを開催したのですが、体験した方からは、「子どもと一緒に遊びながら、より深くSDGsについて知ることができた」「ゴミのリサイクルや分別という難しいテーマでも、子どもが日々使うおもちゃだから、自然に話ができる」「子どもがうれしそうにゴミの分別について教えてくれて、成長を感じた」といったお声をいただきました。

また、購入者特典として、オリジナル紙芝居を制作しました。クイズ形式でお子さまに語りかけながらSDGsの知識も身につくこの紙芝居は、とくに保護者に好評で、紙芝居をきっかけに商品に興味を持ってくださる方もいました。

「SDGsについて子どもに説明しやすい」と大人にも好評だった紙芝居

──子どもも大人も、楽しく自然にSDGsに取り組める「玩具」。コラボレーションや協業などで注目する企業も多いのではないでしょうか。

久保田 はい。SDGsへの取り組みに力を入れている大企業との共同プロジェクトがこの夏、発足予定です。当社だけではできないことも、パートナーシップによって大きく広げていけたらと思っています。

私たちは、玩具だからこそ難しい問題もわかりやすく、話しやすく、接しやすくできるという強みを活かし、さまざまな取り組みを進めています。

今後も玩具を通じて、子どもたちが自ら切り開く明るい未来作りをサポートしていきたいと思っています。

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