2023年10月30日
「不安」や「不満」、「不便」といった、世の中にあふれる「不」のつく言葉たち。ファンケルは、そんな「不」を解消することで事業を成長させてきた企業です。「不」をなくし、お客さまや地域に「笑顔」を届けたいという思いで推進する同社のSDGsへの取り組みについてお聞きしました。
(右から)株式会社ファンケル 執行役員 サステナビリティ推進室 室長 山本真帆さん、サステナビリティ推進室 副室長 新村彩さん
──御社は一貫して「正義感を持って世の中の『不』を解消しよう」という創業理念に基づき、事業を通じて社会課題の解決に取り組んできました。そんな御社がSDGsへの取り組みをさらに強化することになった理由について教えてください。
山本 弊社は創業以来、世の中から不安や不満、不便という「不」のつく言葉をなくしたいという思いで事業を成長させてきました。まず、私たちの歩みをご紹介します。
1970年代後半に化粧品公害が大きな社会問題となっていた頃、創業者の池森賢二は、肌トラブルの原因が防腐剤などの添加物にあることを突き止め、防腐剤や香料などの添加物を一切入れない無添加化粧品を開発しました。1981年に前身となるジャパンファインケミカル販売株式会社を設立し、それ以来、化粧品トラブルに悩む女性たちのお困りゴト解決に力を尽くしてきました。
さらに、1990年代に生活習慣病や医療費の増大が問題視されるようになると、当時日本ではまだなじみのなかった「サプリメント」という言葉を初めて使用し、健康食品市場に参入。「高品質・低価格」という画期的なコンセプトで、健康をサポートするサプリメントを日本に広めました。
このように弊社は、常に「正義感を持って世の中の不を解消しよう」という創業理念、そして「もっと何かできるはず」という経営理念に基づいた社会課題解決型企業として成長してきました。
コミュニケーションの方向を大きく転換したのは、2018年6月。2015年に国連によって採択されたSDGsが日本でも浸透しつつあることを感じ、「私たちにも、もっと何かできることがあるのではないか」という思いを強めたからです。
そこで、あらためて「ファンケルグループ サステナブル宣言〜未来を希望に~」を策定。「SDGs」という共通言語を活用して、ステークホルダーのみなさまとともに、持続可能な社会の実現を目指すようになりました。
「社会課題の解決に向き合い続けてきたのがファンケル」と山本さん
──「未来への不安」という「不」を解消するために、持続可能な社会を目指しているのですね。そのなかで御社は、重点取り組みテーマとして、「環境」「健やかな暮らし」「地域社会と従業員」の3つを設定し、アクションにつなげています。いくつか具体事例とその効果・反響を教えてください。
新村 まずは「環境」。弊社が最優先している「プラスチック使用量の削減」事例についてご紹介します。
新村 固形ファンデーションのレフィル(詰め替え用の商品)には、プラスチック(PET)素材のブリスター包装(※1)を使用していましたが、現在は植物由来のヘミセルロース(※2)製を採用しています。
※1 ブリスター包装:加熱して柔らかくしたシートを金型に合わせ、変形させる製造方法で生産された包装のこと
※2 ヘミセルロース:植物細胞壁に含まれるセルロースを除く、水に対して不溶性の多糖類の総称
ビールの製造工程で発生するビール仕込粕から製造されたブリスターケース
2019年、ファンケルはキリンホールディングスと資本業務提携を結びました。"食と医のキリン"と、"美と健康のファンケル"、両社のコラボレーションはSDGsへの取り組みにおいても展開されています。このヘミセルロース製の包装の原料も、キリンのパッケージイノベーション研究所と共同し、「キリン一番搾り生ビール」の製造工程で発生する副産物であるビール仕込粕から抽出したものを使用しています。
なお、以前はプラスチックを使用していたブリスターケースを2022年にヘミセルロースに切り替えたことで、年間のプラスチック使用量を1.6t削減できると見込んでいます(在庫がなくなり次第、現行品は終売予定)。
お客さまからは、「ファンデーションを使い終わったら、『もえるごみ』という文字が出てきて驚いた」「プラスチックに見えるのに、燃やせるゴミとして捨てられるのがうれしい」など、非常に高い評価をいただきました。
──環境に優しい素材に切り替えることは、コストにつながるケースも多いように思います。決断に迷われることはなかったのでしょうか。
新村 以前は、「環境配慮製品の開発や製造はコストがかかるからできない」と諦めてしまうケースもありました。実際、このブリスターケースも、従前のプラスチック製品より多少コストアップになっていることは否めません。ですが、プラスチック量の削減およびリサイクルの推進は、経営の持続可能性を担保する上でも非常に重要と考え、取り組みを推進しました。
結果的に、お客さまから非常に高く評価されるだけでなく、非プラスチックのブリスターケースが国内の化粧品業界初の試みとして大きな注目を集めるなど、事業への明らかなプラス効果を生み出しています。
短期的なコストアップというネガティブ面に目を向けるのではなく、ブランドの信頼や好感度といった長期的な視点に立ち、使命感を持って取り組みを進めることが大事だと思っています。
──SDGsへの取り組みが、お客さまニーズに応えることにもつながっているからこそ、結果的にコストアップ以上の効果を生み出しているのですね。
新村 そうですね。弊社のお客さまには、もともと環境意識の高い方が大勢いらっしゃいます。実はまだSDGsという言葉が存在しなかった20年以上前から、容器リサイクルについてのお問い合わせやご要望を数多くいただいていました。
ですから、かなり早い段階から、使用済みの容器回収については、社内でも何度もプロジェクトチームを立ち上げて検討していました。しかし、先ほど申し上げたコスト面の問題や、回収スキームの確立方法を考えると、なかなか実現には至りませんでした。
ところが、世の中の環境意識の向上を背景に、「何としても実現しよう」という社内の機運が高まり、2021年に「FANCL リサイクルプログラム」を立ち上げることができました。
これは、お客さまの使用済み化粧品容器を全国の直営店舗で回収し、弊社のグループ会社と協力会社とともに、植木鉢にリサイクルする取り組みです。
2021年に6店舗で実験的にスタートし、2023年9月時点で全国160の直営店舗に拡大。2023年8月時点で累計14万本以上の容器を回収しました。
創業当時から弊社製品をご愛用くださっているお客さまからは、「実現してくれてありがとう」とうれしいお言葉をたくさんいただきました。ずっと叶えたかった夢を実現できたこと、そしてそれをお客さまにも喜んでいただけたことは、担当者としても感無量で、大きなやりがいを感じました。
容器回収リサイクル「FANCL リサイクルプログラム」のイメージ
──容器回収については、サステナブルな旅をテーマにした「FRaU S-TRIP」の神奈川号でも紹介されていますよね。
山本 はい。サステナビリティ推進室の室長として就任が決まった際、「『FRaU』に載る」ことは私の目標のひとつでした。「FRaU」は世界初となる一冊まるごとSDGs特集号を発刊したSDGsのリーディングメディアですよね。弊社の取り組みがそこで紹介されることは、私たちのお客さまの共感にもつながる取り組みになると考えていました。そのなかで今回、「FRaU S-TRIP」の神奈川号が出ると聞き、神奈川県に本社を構えている弊社にぴったりだと感じ、タイアップ出稿を決めました。
新村 今回「FRaU S-TRIP」(神奈川号)で、わかりやすく、かつ魅力的に取り組みを紹介いただいたことで、自社への誇りを感じる機会になり、従業員のモチベーション向上にもつながりました。また、全国の直営店スタッフから、接客に活用したいという要望もあり、各店舗に置いて、お客さまとのコミュニケーションにも活用しています。
──SDGsへの取り組みによって、お客さま満足度(CS)も従業員満足度(ES)も向上したのですね。
新村 そうですね。SDGsへの取り組みを進めることは、社会課題・環境課題の解決に向けて挑戦を続ける、創業理念の実践に他なりません。SDGsへの取り組みがファンケルのブランド価値をさらに高めるとともに、従業員とのエンゲージメント向上にもつながっていると感じています。
山本 さらなるエンゲージメント強化のために、2021年からは社長と従業員が膝をつき合わせて気軽にディスカッションをする「みんなで未来を語る会」もスタートさせています。
これは、「地球、ファンケル、自分の未来」をテーマに、社長と10〜20人の従業員という小グループで2〜3時間のディスカッションを行う会です。2023年9月現在で70回実施され、延べ630人が参加しました。
SDGsへの取り組みに対する活発な意見も多数飛び交い、新事業へのアイデアのヒントにもなっています。
──社長自らが率先してすべての社員と深いディスカッションを行うというのは、すべての人が働きやすいダイバーシティ&インクルージョンを積極的に推進してきた御社らしいお取り組みですね。
山本 ありがとうございます。お客さまに美と健康を提供してきた弊社には、もともと女性従業員が中心となって活躍する風土が根付いています。近年は女性に限らず、すべての人にとって働きやすい職場づくりを推進しています。
誰もが働きやすい職場を促進することで、ひとりひとりが能力を存分に発揮できるようになれば、それがさらに会社の成長に結びつくと考えています。
新村 LGBTQの課題にも積極的に取り組んでいます。2022年4月には、従業員の事実婚・同性婚について原則として法律婚によるものと同等に扱う「パートナーシップ規定」を定めました。
従業員のLGBTQアライ(※)も設立しました。有志の会ですが、現在約400人以上のメンバーが集まって、当事者の方々を理解し、寄り添いたいという思いで、さまざまな取り組みを行っています。
※LGBTQアライ(Ally): LGBTQ当事者に共感し、支援したり活動をサポートしたりする人々や団体を指す。
「SDGsへの取り組みがお客様と従業員双方の満足度向上につながりました」と新村さん
──LGBTQアライの活動も含め、3つの重点テーマの1つ「地域社会と従業員」に対する本気度がうかがえますね。ほかにも、障がいのある方の活躍推進や、地域の子どもたちと一緒にSDGsを「自分ゴト」として考える「ファンケル 神奈川SDGs講座」なども、御社ならではのSDGsへの取り組みです。
山本 弊社は神奈川県で始まり、成長してきた会社です。障がいのある方が自立して働ける未来をサポートすることや、地域の子どもたちとともにSDGsへの取り組みを行うことは、地域への恩返しでもあると考えています。SDGsへの取り組みを通して、常に「自分に何ができるか」を考えるきっかけを生み出せる会社でありたいと思っています。
新村 店舗やECサイトを構える私たちは、直接お客さまのお声を聞くことができます。これからも、"人間大好き企業"のファンケルグループだからこそできる独自性のある取り組みを実施していきたいと思います。
これからも創業理念に基づき、対話の輪を広げることで、お客さまや地域社会と一緒にSDGsへの取り組みを盛り上げ、事業成長につなげていければと考えています。
筆者プロフィール
講談社SDGs編集部
SDGsをより深く理解し、その実現のために少しでも役立てていただけるよう、関連する知識や事例などの情報をお届けします。