2024年04月22日
アニメやゲームといったエンターテインメントを通じて世界中に笑顔を届けているバンダイナムコホールディングス。グループのSDGsへの取り組みについて、サステナビリティ推進室の平秀之さんにお聞きしました。
株式会社バンダイナムコホールディングス 経営企画本部 サステナビリティ推進室 サステナビリティ推進チーム マネージャー 平秀之さん
──まずは御社がSDGsを推進する背景から教えてください。
平 近年では、企業が社会の一員として社会問題に取り組む、「サステナブル経営」の実践が必要不可欠となっています。そのなかで、私たちバンダイナムコグループは、2005年のバンダイとナムコの経営統合当時から、事業の延長線上でCSR活動に取り組んできました。
バンダイナムコグループはエンターテインメントのチカラで世界中のファンを笑顔にすることを目指しています。でもその笑顔の前提にサステナビリティがあります。
「日々の事業活動と『サステナビリティ』を一体として取り組んでいく」。事業が成長しなければサステナブル活動にも取り組めない。事業とサステナビリティは切り離せるものではない。つまり、事業とサステナビリティは両輪であり、そのどちらが欠けても持続的な成長は実現できないと考えています。
そして2022年、弊グループは、「Fun for All into the Future」をパーパスに制定。サステナビリティを重点戦略のひとつに掲げ、「笑顔を未来へつなぐ」というスローガンのもと、さまざまな取り組みを進めています。
エンターテインメントのチカラでファンを笑顔にすることを目指すバンダイナムコ。「その笑顔の前提として、サステナビリティが必要」と語る平さん
──サステナビリティを重点戦略のひとつに掲げた2022年、社内の反応はどのようなものだったのでしょうか?
平 2022年4月にサステナビリティ推進室を設立。まず取り組んだのが現状把握です。
国内外グループ全社を対象にアンケートを実施したところ、8割以上の従業員が、グループのマテリアリティ、そしてグループや自社のサステナビリティに関する目標KPIを知らないといった状況が見えてきました。「どこに書いてあるか知らない」「自分とは関係ない」、そういう意見も多数ありました。
私たちのパーパスのステートメントにもあるように、「ともに創る」「つながる」は大切なキーワードです。世界中の人々ととともにサステナブルな未来へ進む、この考えの前提条件として、バンダイナムコグループの従業員一人ひとりにサステナビリティを自分ゴト化してもらう必要があります。
そこで着手したのが情報発信です。
ひとつめは社外向け情報発信、つまりバンダイナムコホールディングス公式サイトのリニューアルです。
従来企業のESGサイト、サステナビリティサイトは、株主のみなさまをはじめとしたステークホルダーへの開示情報が主になっています。しかしながら、私たちが考えるサステナビリティは、ファン、従業員を始めとした"すべてのステークホルダー"とともに取り組むサステナブル活動です。そこで、専門的になりがちなESGサイトを誰もがわかりやすいよう、さまざまなIPを用いて"バンダイナムコらしい"サイトにリニューアルしました。
「機動戦士ガンダム」「アイドルマスター」「パックマン」など、IP別にサステナブル活動を検索できる、こんなサイトは私たちバンダイナムコグループだけだと思います(笑)。
バンダイナムコホールディングス公式サイトサステナビリティページ
もうひとつは、サステナビリティに特化した「グループWEB社内報」の開設です。
2022年11月、グループのサステナビリティのさまざまな情報を入手できるサイトとして、「サステナビリティBANANA」を開設しました。経営層が何を考えているのか、グループ各社がどのような活動をしているのか、今のグループ全体のCO2排出量など、国内外のグループ社員なら誰もが本サイトにアクセスでき、バンダイナムコグループの「いま」を見ることができます。
掲載されたグループ会社の取り組み事例を見て「自分たちにもできるのでは?」と取り組みが広がった事例もあり、いまではグループ各社から「こんな取り組みをしたから載せて欲しい」といった声も寄せられるようになりました。
グループWEB社内報「サステナビリティBANANA」
また「サステナビリティWEEK」と題した、著名人を招いてのオンラインセミナー、古着回収、障がいをVRで体験できるブース等を展開する、社内向け啓発イベントも開催しています。昨年のオンラインセミナーでは、リアルタイムで約500名、アーカイブ視聴を含めると約1000名が参加しました。
他にも、日常で実際にSDGsへ取り組む社員を登場させた、サステナビリティの啓発ポスターも制作しましたが、これはグループ各社の評判よく、反響も大きかったですね。
社内で高い反響があったという啓発ポスター
このような取り組みの成果もあってか、翌年実施したアンケートにおいては、国内外グループ各社、社員の理解度、認知度が大幅に上昇。まだまだ道半ばではありますが、グループに少しずつサステナビリティの意識が根付き始めたと感じています。
また、意識が向上したことで、さまざまなサステナブル活動の企画が各社各部署から自発的にあがってくるようになったこともうれしく思っています。
──社内外を巻き込んで、SDGsを推進しているバンダイナムコ。具体的にはどのような取り組みをしているのでしょうか。その効果と反響についても教えてください。
ガンプラリサイクルプロジェクト
平 まずはプラスチック環境配慮に関する取り組みからご紹介します。
現在、世の中ではマイクロプラスチック問題に起因して「プラスチック=悪」のように言われています。しかしながらプラスチックは安価で加工しやすい、リサイクルも容易な素材であり、限りある資源でもあります。私たちはそんなプラスチックと"正しく"向き合おうと思っています。そのために、「無駄をなくし、リサイクルを進める」ことを大切にしています。
2021年4月から始まった「ガンプラリサイクルプロジェクト」では、ガンダムシリーズのプラモデル「ガンプラ」のランナー(プラモデルの枠の部分)を、全国のバンダイナムコアミューズメントの店舗をはじめとした拠点で回収。集まったランナーは、BANDAI SPIRITSのプラモデル生産工場である静岡の「バンダイホビーセンター」に輸送。同工場の製造工程で排出されるプラスチックと合わせて、一部をケミカルリサイクルの実現に向けた実証実験用の材料とし、残りをマテリアルリサイクルとサーマルリサイクルにより再活用しています。
ガンプラのランナー
平 実はこのプロジェクトを始めるにあたり、「わざわざ店舗までランナーをもってきてくれるはずがない」という社内の意見もありました。しかし、「『ガンダム』ファンのみなさまにとっては、ランナーもゴミではなくガンプラの大切な部品のひとつ。必ず協力してくれるはずだ」というガンプラ担当者の熱い想いもあり、プロジェクトがスタート。2021年度は約11トン、2022年度は約21トン、23年度は約40トンのランナーを回収。初年度から目標を大きく超える量を回収することができました。
さらに2023年度は、全国47都道府県で「ガンダムR(リサイクル)作戦」というイベントを開催しました。
全国各地のショッピングセンターや音楽フェス会場などで、回収したランナーをリサイクルして生産した「エコプラ」の体験キットと特別冊子、限定ステッカーを配布。その場でエコプラを組み立てていただき、回収ボックスでランナーを回収することで、プラスチックの循環を身近なものとして体験してもらうという取り組みを行いました。
「ガンダムR作戦2023」の会場(イメージ)
平 プラスチックの無駄をなくすため、製造過程におけるリサイクルはもちろん、卵殻や茶殻を用いた代替プラスチックの取り組みも進めています。
竹を使ったガンダムも展開しており、こちらは販売と同時に完売する位の人気商品となりました。「次の発売はいつか」と多くのお問い合わせをいただくほどです。また全国で展開するアミューズメント店舗においては景品用袋を配布していますが、バイオマスや石灰といった代替素材への変更にも取り組んでいます。
このような取り組みを通じて2019年度比で約70tの石油由来プラスチックの削減を実現しました。
(後列)竹を使った「Bamboo Art wa-gu-mi RX-78-2 ガンダム」、(前列左から)回収したランナーから作られた「エコプラ」、
卵殻プラスチックを素材の一部として活用した「GUNDAM NEXT FUTURE限定 ENTRY GRADE 1/144 RX-78-2 ガンダム [クラシックカラー]」ガンプラ、
茶殻をアップサイクルして配合した素材を使った「1/1ザクプラくん」
平 「アイドルマスター」シリーズのIPを活用した取り組みも行っています。
2023年3月に開催した「THE IDOLM@STER SHINY COLORS 5thLIVE If I wings.」の会場では、来場者から不要衣類を回収する取り組みを実施。会場に来場するファンの皆様に呼びかけ、会場に設置されたボックスにて古着を回収しました。
ライブ会場に設置された古着回収ボックス
2日間のライブで、回収した古着約202キログラムは、再利用可能な新素材へと再生され、「アイドルマスター」の立体パネルや、社内で使用するレターケースなど、価値あるものへと生まれ変わっています。
バンダイナムコ未来研究所内に飾られている、古着をアップサイクルしてつくった「アイドルマスター」の立体パネル
──IP活用以外でも進めているSDGsへの取り組みがあれば教えてください。
平 目が見えない方や耳が聞こえない方、誰もが楽しめるエンターテインメントを提供していくため、「ユニバーサルデザイン」「アクセシビリティ」への取り組みも進めています。
具体的には、6面の色ごとに凹凸の形状が異なる「ルービックキューブ ユニバーサルデザイン」や、黒石の面に凸、白石の面に凹があり、触ると石の選別ができる「一体オセロ」などがあります。なお、「一体オセロ」は、盤面のマスに石が内蔵されているため、小さなお子さまの誤飲防止や、紛失削減にも寄与しています。
SDGsの精神は商品にも。(写真左)6面の色ごとに凹凸の形状が異なる「ルービックキューブ ユニバーサルデザイン」と、本体のみならずパッケージまでリサイクル素材で作られた「ルービックキューブエコ」。((写真右)黒石の面に凸、白石の面に凹がある「一体オセロ」
また、テレビゲームにおいても色覚特性への配慮を実施。映像コンテンツでは、視覚や聴覚に障がいのある方にも映像作品を楽しんでいただけるよう、作品内の背景や人の動き、表情などを音声で解説する「バリアフリー音声ガイド」を導入しています。
──SDGsへの取り組みの拡大には、発信も重要です。SDGsの情報発信における、こだわりなどがあれば、聞かせてください。
平 私たちバンダイナムコグループはファンのみなさまとともに、世界中の人々を巻き込んでサステナブル活動に取り組むことを目標にしています。
しかしながら、サステナビリティに限った話ではありませんが、どんな情報であっても興味がない人には届きにくいものです。私たち企業が伝えたいことと、ファンが知りたいことは異なります。当たり前かもしれませんが、ファン目線、ユーザー目線での情報発信を大切にしています。
そこで私たちが活用するものがIPです。
バンダイナムコグループには「パックマン」や「機動戦士ガンダム」をはじめ、「太鼓の達人」「たまごっち!」「くまのがっこう」など豊富なIPがあります。こうしたIPが伝えるチカラは、どんな言葉を並べるよりも影響力、メッセージ性が高いのが特徴です。
たとえば、「海をキレイにしよう!」と言葉で訴えるのではなく、「パックマンがゴミを食べることで海がキレイになる」という動画で訴求したらどうでしょうか? どちらがファンの心に残るのか、堅苦しくなく、カジュアルにメッセージを届けることができます。海洋汚染に対する興味喚起や、意識の変化のきっかけにもなりやすくなるのではないでしょうか。
Movie:PAC-MAN Beach Cleanup(リンク先の動画は音が出ます)
──最後に、今後の目標や展望についても聞かせてください。
平 SDGsで掲げられている目標は、過去から積み重ねてきた問題を解決するためのものであり、仮に2030年に目標を達成できたとしても、その後、また新しい問題が生まれてくる可能性があります。その取り組みにゴールはありません。
私たちバンダイナムコグループのサステナブル活動は、ガンプラリサイクルプロジェクトや、アイマスのライブ活動における古着回収等のように、私たちが持つ、さまざまなIPを活用し、ファンのみなさまと一緒に取り組む活動、サステナブル活動です。
ファンのみなさんとつながり、ともに創るサステナブルな未来。
「IPのチカラを使って世界中に笑顔が溢れるサステナブルな未来を描く」
「IPのチカラを信じて世界中のファンのみなさんにサステナブルなメッセージを届ける」
これが私たちの使命だと思っています。これからもファンのみなさま、ステークホルダーのみなさまとともに、SDGsへの取り組みを進めていきたいです。
©創通・サンライズ
THE IDOLM@STER™& ©Bandai Namco Entertainment Inc.
PAC-MAN™& ©Bandai Namco Entertainment Inc.
RUBIK'S TM & © 2024 Spin Master Toys UK Limited, used under license. All rights reserved.
TM&(C) Othello,Co. and MegaHouse
筆者プロフィール
講談社SDGs編集部
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