2025年01月15日
総合デベロッパーの三菱地所。さまざまな企業や団体とともに、街ぐるみでSDGs達成を目指すプロジェクト「大丸有SDGs ACT5」を推進しています。同社のまちづくり×SDGsへの取り組みをお聞きしました。
三菱地所株式会社 サステナビリティ推進部プロモーションユニット 主事 天野友貴さん(左)、同 主事 大林悟郎さん
──まずは御社の事業概要と、SDGsへの取り組みに力を入れる理由を教えてください。
大林 弊社は、丸の内をはじめ、国内外でまちづくりを行う総合デベロッパーです。
弊社が開発を手がけてきた丸の内エリアは、約130年前は荒涼とした荒れ野原でした。しかし、「この地を日本のビジネスセンターに」という決意と覚悟で、世界有数のビジネスセンターを目指し発展させてきたのです。
弊社の経営の根幹には、三菱グループの根本理念である「三菱三綱領(さんこうりょう)」があります。これは、「所期奉公」「処事光明」「立業貿易」という3つを示した綱領(基本方針)で、「グローバルな視野で、フェアな事業を通じて社会に貢献する」という意味です。
自社だけが儲かればいいという考えではなく、街を発展させ、働く人々や住む人々の生活に豊かさをもたらすことを責務と考え、持続可能なまちづくりに取り組んでいます。
「まちづくりを通じて新たな価値を創造し、豊かな生活に貢献したい」と話す大林さん
──「持続可能なまちづくり」という大きな目標を実現するためには、社員ひとりひとりの意識や心がけも重要です。その点、御社のサステナビリティの重要テーマはメッセージ的でわかりやすいですね。
天野 ありがとうございます。
実は弊社は、長期経営計画2030におけるマテリアリティ(重要課題)とサステナビリティ重要テーマを改定し、2024年5月に発表しました。
なぜなら、従来のサステナビリティの4つの重要テーマが、目の前の事業との関連性や財務価値への寄与が見えづらいという課題があったからです。
◆従来の三菱地所グループのサステナビリティ重要テーマ
1 「Environment」
2 「Diversity & Inclusion」
3 「Innovation」
4 「Resilience」
そこで、当社グループ事業との相関性をより明確化し、社員ひとりひとりがサステナビリティの取り組みを「自分ゴト」としてとらえ、グループ全体で取り組みを進めていけるよう整理しました。自分たちが何を意識してまちづくりを行っていくのかがわかりやすくなり、具体的なアクションを起こしやすくなったかと思います。
◆改定された三菱地所グループのサステナビリティ重要テーマ
1 「次世代に誇るまちのハードとソフトの追求」
2 「環境負荷低減に尽力し続ける」
3 「人を想い、人に寄り添い、人を守る」
4 「新たな価値の創造と循環」
──具体的にどのようなSDGsアクションをしているのか、教えてください。
大林 では「大丸有(だいまるゆう)SDGs ACT5」をご紹介します。
これは、重要テーマを改定する以前から取り組みを進めてきたプロジェクトです。大手町・丸の内・有楽町エリア(大丸有エリア)を起点に、まちぐるみでSDGs活動を推進しています。
SDGsの「行動の10年」(2030年に向け、取り組みを加速させるために国連がした呼びかけ)に合わせて、2020年にスタート。大丸有エリア内外のさまざまな企業・団体と連携し、パートナーシップで多くのアクションを実施、大丸有エリア就業者など多くの方に参加いただいています。
天野 2023年度は、5月から約7ヵ月間のコア期間中に62件のアクションを展開。大丸有エリア内外の企業・団体約90社と連携し、延べ参加者数は35,500名以上となりました。2024年までに累計300社と連携し、214個のアクションを創出。累計約7万人が参加する盛り上がりとなっています。
──多くの企業が御社の取り組みに賛同し、人の流れを生み出しているのですね。なぜこれほど多くの企業に参加してもらえるのでしょうか。
大林 自社だけでは実現できないSDGsへの取り組みを、ほかの企業や団体と連携して実施できるからだと思います。実際、自社のサステナビリティレポートなどへの実績掲載を見据え、ACT5を活用される企業も年々増えています。
天野 どの企業も、SDGsへの取り組みを推進しなくてはいけないという共通認識は持っています。しかし一方で、自社単体でSDGsアクションを行うことに難しさを感じている企業も多くいます。
そこで私たちは、「大丸有SDGs ACT5」というプラットフォームを、テナントを含めた様々な企業に活用していただくことで、大丸有エリアを起点とした企業のSDGsへの取り組み推進につながるよう、仕組みを構築しています。
「大丸有SDGs ACT5は社会課題を解決していくパートナーシップのプラットフォーム」と話す天野さん
──2024年度に行った「大丸有SDGs ACT5」の取り組みのなかで、とくに反響の高かったアクションを教えてください。
天野 ACT4「ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)」の取り組みをご紹介します。
ジェンダー平等の実現や、多様な働き方の促進を考えた時に、D&Iは企業が取り組むべき課題です。そのため、これまでもACT5では、D&Iについてまずは知る機会を設けるために、勉強会やセミナーなどを行ってきました。その中で、「やらなくてはいけないと思っていても、何から取り組めばよいかわからない」「兼務等で腰を据えて取り組む体制がつくれない」といった企業担当者のお悩みの声もたくさん聞いてきました。
そこで2022年度、「D&Iを一歩進める」という意味で、アルファベットのDとIの次のEとJの文字を使った「E&Jラボ」という街のアライコミュニティを立ち上げ、交流型の勉強会を開催。昨年度には大規模な啓発イベントとして「E&Jフェス」を初開催しました。
「E&J」には、「Enjoy & Join」の意味も込めています。LGBTQ+、障がい者などのセグメントなしに誰でも楽しく参加し、ダイバーシティについての理解を深めてもらうことにフォーカスしたイベントを行ったところ、多くの方に参加いただき、大変好評でした。
──SDGsへの取り組みは、無理をしたり我慢をしたりすると続かないという声はよく聞きます。「誰もが楽しめる」は、まさにD&Iの本質を体現した取り組みですね。具体的にどのようなイベントを開催したのですか?
天野 2024年度はJ-WAVEさんとのコラボレーションでJ-WAVEの人気番組を公開生放送。また、ファッションドールのバービーを実写化し、ジェンダーや多様性についてのメッセージが表現された映画『バービー』の上映会やその他さまざまなコンテンツも開催し、2日間で5,800名以上が来場・参加する大盛況となりました。
さらにそこからさらに一歩進み、多数のゲストによる「ドラァグクイーンショー」を、マルキューブ(丸ビル1F)のイベントスペースで行ったところ、吹き抜けの1階から5階まで立ち見客で埋まる予想以上の大きな反響がありました。
──大丸有エリアの就業者や来街者にD&Iについて知ってもらい、D&Iを一歩進めるきっかけがつくれたのですね。ほかのアクション事例も教えてください。
大林 では、ACT3「ひとと社会のWELL」の事例をご紹介します。
2024年は、ヨーロッパを中心に流行中のSDGsスポーツであり、ジョギングとまちなかのごみ拾いをミックスした「プロギング」のイベントを、計3回実施しました。
これは一般社団法人プロギングジャパンとのコラボレーションイベントです。2021年からはじめて2024年で4年目。徐々に認知度が高まり、1回あたりの参加人数も、職場の仲間によるグループ参加も増えました。
「職場周辺のゴミ拾い」自体は目新しい活動ではありませんが、参加者同士の交流が生まれた他、職場のチームビルディングや健康促進という点でも注目くださった企業が多かったようです。
また、参加した従業員の様子を自社のSNSに投稿し、サステナビリティレポートに掲載されるなど、「SDGsアクションの発信の材料」という新たな目的で参加する企業や団体も増えています。「SDGsへの取り組み場の提供」という新たな価値が生み出せていることを感じています。
まちを綺麗にする効果はもちろん、ゲーム感覚で体を動かしながら自己肯定感が高められ、参加者同士仲良くなれるという「プロギング」
──新たな価値提供によってまちの魅力度をさらにあげ、それが結果として御社のビジネス拡張にもつながっているのですね。大丸有エリアの誘客にはポイントアプリも活用しているとお聞きしました。
大林 はい。ポイントアプリは、まさに「楽しみながらSDGs活動に参加する」ために適したツールとして活用しています。
「ACT5メンバーポイントアプリ」を2021年から導入していたのですが、2024年には「丸の内ポイントアプリ」に機能統合したこともあり、登録者数が急増しました。
2023年までのアプリユーザー数は約4000人でしたが、統合によって約11,000人がACT5のチャンネルにエントリーしています。日常ご利用いただくエリア内の店舗で手軽にポイントがたまることもあり、「店舗利用者の満足度向上につながる」とエリア内のACT5活動参加店舗がどんどん増えています。
天野 ACT5で毎日セミナーやイベントを開催することが難しいですが、マイボトルやマイバッグを持参したお客さまにポイントを付与する、衣類回収ボックスを設置するなど、日常のなかでちょっとしたSDGsアクションができる場所を用意してくれる企業や店舗が増えることで、大丸有エリアのSDGsアクションはもっと広がっていくのではないかと思います。
大丸有エリアのポイント付与MAP(イメージ)。集客にもつながるポイントアプリを導入する企業が増えたことで街全体のSDGsアクションが加速した
──御社の取り組みに共感する企業が増えることで、まちも御社のビジネスもさらに発展していくのですね。今後の展望や目指す未来も教えてください。
大林 ACT5は行動変容のきっかけにすぎないと思っています。最終的には、ACT5に参加しなくても、企業や個人が日常的な行動として自発的に社会課題解決に取り組み、自発的な活動として継続されることを目指しています。
その実現に向けたきっかけづくりとして、さまざまな情報提供や体験の場を、今後も提供していけたらと思っています。
天野 サステナビリティやダイバーシティと言わなくても、それが自然に行動や取り組みとして行われるのが一番の理想形。そこに近づくためのきっかけ作りや場作りを、これからも取り組んでいきたいと思います。
撮影/村田克己 取材・文/相澤洋美 編集/赤坂匡介(講談社SDGs)
筆者プロフィール
講談社SDGs編集部
SDGsをより深く理解し、その実現のために少しでも役立てていただけるよう、関連する知識や事例などの情報をお届けします。