「地域公共交通」は持続可能な地域づくりのための重要な資源|SDGsと地域活性化【第3回】

2021年06月09日

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SDGsを達成するには、全国展開する企業や、住民が多く存在する大都市圏だけでなく、すべての地域で積極的に取り組むことが必要です。特に地域におけるSDGsへの取り組みは、その地域の活性化につながるものであることが重要になるでしょう。
山陽学園大学・地域マネジメント学部で環境政策を専門とする白井信雄教授が、SDGsを活かしてどのように地域の活性化を図っていくべきかを解説します。


地域を担う公共交通は、経営面からみると危機的な状況にあるものが多い。このことは皆さんご存じの通りです。しかし「誰も取り残さない」という観点からいうと、それは地域に無くてはならない移動手段であり、とても重要な存在です。
第2回目にとりあげた地域商店街と同様に、地域公共交通は存在自体がSDGsに貢献する事業です。その存在意義を活かし、SDGsを上手く使って、地域内の関係主体との連携を強めることが地域公共交通の維持・発展の道を拓きます。

最初に手を差し伸ばすべき「地域公共交通」

交通手段別の分担率を見てみると、三大都市圏では鉄道が25%を占めており、バスと合わせて全体の30%が公共交通になります。これに対して、地方都市圏での公共交通の分担率は鉄道とバスをあわせて7%にすぎません。
地方圏の交通手段は圧倒的に自動車です。これは地方都市圏全体のデータですので、中山間地域※だけみれば自動車依存率はさらに強まるはずです。鉄道やバスといっても、地域によって置かれている状況が大きく異なります。

※農業地域類型区分のうち、中間農業地域と山間農業地域を合わせた地域

本稿では、地域公共交通として、特に地方圏における地域公共交通(地方圏における地域内交通としての乗合バス、路面電車・LRT、地方鉄道など、以下、地域公共交通と表記)をとりあげます。
またこのあと、地域公共交通はSDGsに貢献する存在であることを強調していきますが、その前に地域公共交通自体がSDGsの理念である「最初に手をさし伸ばすべき、もっとも弱いところ」であることを知っておく必要があります。
人口密度が小さく、自動車依存型の地域構造になっている地方圏にあって、地域公共交通は極めて採算がとりにくい状況にあります。今後の人口減少も避けられません。このため、鉄道については2000年度以降、全国で45路線・1157.9㎞が廃止されました。乗合バスについては2007年度以降、全国で約10,206㎞の路線が廃止になっています(国土交通省資料)。つまり、地域公共交通こそが、最初に手をさし伸ばすべき最も弱いところなのです。
もともと、地域公共交通は収益がほぼないに等しい厳しい状況にありましたが、新型コロナ禍により利用客の減少が著しくなっています。人口減少を予測すれば、将来的に収益の確保が難しくなるとわかっていたのですが、その厳しい状況を早回しで迎えてしまっているわけです。

図1 交通機関の分担率(三大都市圏と地方都市圏)

三大都市圏グラフ地方都市圏グラフ

出典)国土交通省「全国都市交通特性調査集計結果」より作成

持続可能な地域づくりの基盤・資源である地域公共交通

地域公共交通はローカルSDGsの実現(持続可能な地域づくり)において重要な役割を持ち、大きく分けて3つの役割があります。

第1に、地域公共交通は自動車を持たない高齢者や学生等の弱者にとって、暮らしを支える、大切な移動手段です。
高齢化が進むなかで免許返納をせざるを得ない高齢者が増加、さらに若者が離村し、高齢者ばかりの集落が増えています。今後も、移動手段を地域公共交通に頼らざるを得ない高齢者がますます増えていきます。

第2に、地域公共交通は地域活性化を支える基盤・資源です。
ロードサイドへの大型店の立地が進んだとはいえ、鉄道駅やバスターミナルは地域の中心地であり、歴史的な集積がある地域の顔ともいえる場所です。この中心地を活性化するうえで、地域公共交通の役割は重要です。
また、周遊性を持つ地域公共交通は、地域資源をつなげ、観光の魅力を高める基盤としても重要です。鉄道やバスの愛好家にとっては、地域公共交通はそれ自体が旅行目的となる観光資源です。
そして、地域公共交通の結節点には人が集まり、人と人の交流やコミュニティを育む場となります。「ロードサイドに大型店が立地する地域」と「鉄道駅前に商店街が集約される地域」を比較すれば、後者の方が人と人の出会いがあり、コミュニティ醸成の場となることは明らかです。

第3に、地方圏での移動における自動車依存率の高さが、自動車からの二酸化炭素や大気汚染物質の排出削減という課題となるなかで、地域公共交通は環境効率(1トリップあたりの二酸化炭素排出量等)のよい交通手段として重要な意味を持ちます。もちろん自動車においても燃費改善や電気自動車の普及等が期待できますが、1トリップでの輸送人員が小さいことに問題があります。利用者数さえ確保できれば、輸送人員が大きい地域公共交通は、本質的に環境効率に優れた交通手段であるわけです。

地域公共交通の本質的な意義を活かし、SDGsに貢献する

SDGsに取り組むうえで重要なことは、"SDGsメガネ"を通して、そのビジネスや活動の本質的な意義を問い直すことです。地域公共交通の3つの役割は、まさに地域公共交通が活かすべき本質的な意義ということができます。
その本質的な意義は、弱者にとって必要な交通手段、つまり「誰も取り残さない」交通手段であることです。また、地域活性化を支える基盤・資源という点では交通ゆえに「地域・人をつなぐ」という意義を持ち、1トリップでの輸送人員が多いという点では「環境効率がよい」ことが本質的に重要です。地域公用交通の本質的な意義をふまえて、地域公共交通におけるSDGsへの貢献例を表1にまとめます。

表1 地域公共交通におけるSDGsへの貢献(例)

表1 地域公共交通におけるSDGsへの貢献(例)

地域公共交通を支えるパートナーシップ

地域公共交通の活性化は、交通事業者だけの努力では限界があります。土地利用、産業、福祉、教育等の様々な分野の行政施策との連携が不可欠となります。
2007年10月に施行された「地域公共交通の活性化及び再生に関する法律」では、「主体的に創意工夫して頑張る地域を総合的に支援」することを目的として、地域の協議会による「地域公共交通総合連携計画」の作成・実施を支援することとしています。
国土交通省「地域公共交通の活性化・再生への取り組みのあり方報告書」(2018年)では、この計画を策定するにあたって、市町村は地域交通事業者の側面支援ではなく、「地域公共交通のプロデューサー」として主体的中心的に関与すべきであるとしています。また、市町村のみならず関係する地域の主体の連携が不可欠だとして、「とくに住民、NPO、企業等の地域関係者については『新たな公』として地域公共交通の計画や運営へ参画していくことが求められている」としています。
このように、地域公共交通の活性化においては、SDGsのゴール11、パートナーシップこそが必要だといえます。そしてパートナーシップで重要なことは、決して人任せにしないことです。主体間が目的を共有し、対等の関係をもって、自主的かつ自由に活動を行なうこと、さらにこの際に各主体が学習し、自己変革と自立化を図っていくことが重要です。

ハブ&スポーク方式による交通地域づくり

パートナーシップによる地域公共交通の活性化とSDGsへの貢献の事例として、地域の土地利用再編(これを交通地域づくりと呼びます)に関する取り組みをとりあげます。
中山間地域における交通地域づくりの例として、ハブ&スポーク方式による地域拠点づくりがあります。ハブ&スポーク方式とは、中心拠点(ハブ)に路線を集約させる方式です。
ハブを経由して、どの地点にも行くことができ、かつ路線数を減らす(運行を効率化する)ことができます。また、ハブを設けることで長距離路線を減らし、バスの運航頻度を増やすことができます。
この方式は、貨物輸送や空港・空路の整備に導入されていますが、バス路線の整備にも応用可能です。このハブに病院や商店、学校等を集約すれば、そこが便利で賑わいのある場所となります。
ハブ&スポーク方式を採用している例として、埼玉県東秩父村のハブバスセンターがあります。ここでの取り組み(表2)は、事業者統合と路線集約、ハブの複合拠点化を図るもので、イーグルバスという意欲的な民間事業者と村役場のパートナーシップで実現できた取り組みです。

表2 埼玉県東秩父村のハブバスセンターの取組み

表2 埼玉県東秩父村のハブバスセンターの取り組み

出典)埼玉県東秩父村資料より作成

地域を超えた連携による地域公共交通の再生

地域の潜在的な利用人口が縮小する中で、交通機関(バス・鉄道等)と交通施設(バス停・鉄道駅等)の持つ観光資源としての魅力を高め、交流人口・関係人口を増やしている事例として、和歌山電鉄貴志川線の取り組みをあげます。

貴志川線は南海電鉄時代に赤字で営業廃止となりましたが、岡山の両備グループが提唱する「公設民営」の手法をベースに再生を進めてきました。同グループの運行効率化等のノウハウ導入はもとより、デザイン車両やネコの「たま駅長」人気で成功をおさめてきました(表3)。

表3 和歌山電鉄貴志川線の再生の取り組み

表3 和歌山電鉄貴志川線の再生の取り組み

出典)両備グループ資料より作成

ネコを形取った貴志川線の駅舎

ネコの「たま駅長」と貴志川線

ネコの「たま駅長」と貴志川線の車両

この再生には、アイデアの面白さだけではなく、2つの重要なポイントがありました。
第1に、貴志川線を支えようという地域住民や行政の熱意があってこそ、この取り組みが実現できたということです。南海電鉄時代に赤字で営業廃止となった貴志川線の廃線を防ごうと、貴志川線を利用してきた沿線住民や自治会の人々が電車利用への呼びかけや署名運動などに取り組み、「貴志川線の未来を"つくる"会」(代表・濱口晃夫氏)が結成されました。地域行政とこの会によって大きなパワーが結集され、貴志川線の和歌山電鐵への移管が実現されました。この地域の力が移管後の取り組みに活かされています。

第2に、両備グループという岡山の交通事業者が地域を超えて、和歌山の貴志川線の経営に乗り出したことです。同グループは地域の交通事業のあり方を全国に提案してきた企業として、地理的には離れた貴志川線の支援に乗り出しました。ノウハウのある交通事業者の地域を越えた活動が、今後の地域交通事業者の存続やSDGsの達成において、重要な鍵となるでしょう。

今回は、地域公共交通がSDGsにおける本質的な意義を持つことを確認し、パートナーシップこそが地域公共交通の再生、さらには地域公共交通によるSDGsへの貢献の鍵であることを示しました。とりあげた事例はSDGsを名乗っているものではありませんが、地域公共交通らしいSDGs実践の好事例です。
次回は、再生可能エネルギーを活かす地域づくりを、SDGsの観点から整理し、解説します。

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SDGsの基礎知識