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企業・自治体、そしてZ世代を巻き込むことで、SDGsの輪はより広がる──Z世代のSDGsリーダーが語る環境問題①

2021年06月03日

現在、海に流出するプラスチックごみの量は、世界中で年間800万トンといわれています。この海洋プラスチック問題に取り組んでいるのが、「共創・Z世代・日本性」を3本柱に掲げるNPO法人「UMINARI」です。第1回は、「UMINARI」の活動概要と持続可能な経営戦略について、Z世代のSDGsリーダーであり、同団体の代表を務める伊達敬信さんが解説します。【全3回】

語り/伊達敬信 構成/講談社SDGs

ひとりで海のごみを拾うところから始まった活動が拡大

UMINARIは、海洋プラスチックごみ問題の解決を目指すZ世代(1990年後半から2000年代はじめに生まれた世代)主体のNPO法人です。幅広いセクターと幅広い世代への働きかけを通じて環境課題の解決に取り組んでいます。

発足のきっかけは、僕が大学生の時にインターンをしていたアディダス ジャパンで『adidas X Parley』(遠方の海岸や海沿いの地域で回収したプラスチック廃棄物をアップサイクルしたコレクション)に出会ったことです。プロダクトのかっこよさに一目惚れし、そこから環境問題に興味を持つようになりました。

調べていくうちに、海のごみ問題が深刻な状態にあることを知り、「何かしなければ」という使命感からひとりで海のごみ拾いをはじめたのがスタートです。そこから徐々に賛同するメンバーが増えていき、今はZ世代を中心とする若者29人(2020年11月時点)で活動を行っています。

UMINARIのインスタグラムの投稿から

消費トレンドを握るZ世代がSDGsのカギ

NPO法人の活動の一貫としてごみ拾いをしているだけでは、根本的な問題を解決することはできません。UMINARIでは自分たちの世代である「Z世代」からムーブメントを起こしていこうと呼びかけています。

最近注目されているのが、コレクティブインパクト(複数の異なるセクターがある社会課題を解決するために協働し、インパクトを創出すること)という考え方です。

海洋プラスチックのような地球規模の社会課題を解決するためには、企業や団体、行政(自治体)を含めた多くのセクターの連携が欠かせません。そして、大きな変化を生み出すためには、今後の消費トレンドを左右するZ世代の若者たちの声が高まり、彼らが参画することはそのトリガーとなり得ます。

UMINARIが株式会社ではなくNPO法人という形態を選んだのは、多くの関係者を中立的な立場でつなぎ、事業規模の拡大や利益の追求に捉われることなく、社会問題の解決に向き合っていくためです。海洋プラスチック問題などを解決するためには、複数の異なるセクター(企業、自治体、Z世代の若者たち)を繋ぐプラットフォームが必要です。自分たちがその役割を担えたらと考えています。

課題解決のためには、より多くの人に海洋ごみの現状を知ってもらうことも大事です。そこでUMINARIでは、学校や企業などで勉強会や講演を行う「エデュケーション事業」に特に力を入れています。

短絡的な答えを押しつけるのではない、学びの機会を提供している

地球には今も、毎分トラック1台分のごみが海に流れ出ている現状があります。だからといって、海洋ごみ問題の解決に向けて、「何もしなくていい」ということにはなりません。まずは、ひとりでも多くの人に海洋ごみ問題を知ってもらい、資源が大量消費されることでごみが増えている現状を変える意識を持ってもらうことが大切だと考えています。

なお、最初は小学校での授業から始めたこの事業は、次第に中学校、高校、大学への講義へと広がり、現在は、企業でのセミナーなども行っています。学生から企業、自治体やその他のセクターまで、幅広い世代で海の問題の解決者を生み出すことを目指しています。

価値観の共有でインパクトを創出

もちろん、活動の原点である、海のごみを拾う「ビーチクリーン事業」も行っていますが、この事業では「"拾う以上の"クリーンアップ活動」を掲げ、「ごみを拾うこと」以上に「すぐ側にある環境問題の存在や、ごみ拾いを通じて感じる自然の豊かさ、そして人や社会などとの、つながりを体感してもらうこと」を重視しています。

UMINARIのインスタグラムにはおしゃれな「ごみ拾い」写真がたくさん並ぶ

海のごみを拾うと、頭で考えるよりも海のごみ問題を肌で実感し、新たな価値観が生まれてきます。そこで生まれた価値観を仲間と共有することは、さらなる行動につながり、それがやがて根本的な変化につながっていくと考えているからです。

これまで、神奈川、千葉、大分、沖縄の4県で行ってきました。今後、活動範囲をさらに広げていけたらと考えています。特に「ソーシャルネイティブ」といわれるZ世代の関心が高く、彼らを巻き込んだ活動ができていることはUMINARIの強みでもあります。

Z世代の若者たちがひとつになるための活動として、日本の生活・文化・習慣に合う海洋ごみ問題の解決策をみんなで議論し、共有できる場として「生活塾」も運営しています。

ひと昔前の「サスティナブルな生活」は、ある種の不便さや我慢を必要とする側面もありました。UMINARIがYouTubeで配信している「生活塾」では、「昔から日本で大事にされてきた"もったいない"精神で今あるものを使う方が、新しくエコなアイテムを買うより、よほどサスティナブルだよね」というような価値観を発信しています。

『生活塾』#3 もったいない精神とエシカルファッション

今年からいよいよ本格的に動きだそうとしているのが、「ブルーインパクト」事業です。これは、「コレクティブインパクト」をもじって「海」のブルーを入れた、海洋ごみ問題解決のためのインパクト創出・協働事業です。

これまでは準備期間として、さまざまな企業のサスティナブルを具体的に推し進めるためコンサルティングのようなことをしてきました。しかし、海のごみ拾い活動と同じで、ある1社の企業だけが変化しても根本的な課題解決にはなりません。UMINARIが歯車となることで、業界全体、あるいは業界の垣根も超えてインパクトを生み出す糸口をつかんでいきたいと思っています。

具体的には、UMINARIとデザイナー、企業(あるいは行政)の三者協働で、既存の商品やサービス、システムをアップデートし、海洋プラスチックごみ問題の解決に向けたインパクトをデザインしていく予定です。

今後ますますサスティナビリティへの関心が高まっていくなかで、社会や消費者から求められるのはサスティナブルやエコという"機能"ではなく、行動を通して生まれる"価値"です。企業や自治体の取り組みが、未来とどう繋がっているのか。消費者はより厳しい目で見ていく時代になるのではないでしょうか。

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