ダイバーシティ(ダイバーシティ経営)とは?|SDGsにまつわる重要キーワード解説

2021年08月30日

近年、ダイバーシティへの取り組みを経営戦略として掲げる企業が増えています。その背景には、グローバル化や労働人口の減少、価値観の多様化などがあり、ダイバーシティへの取り組みはこれからの個人の生き方や働き方に対応する動きとして注目されています。
本記事では、主に企業との接点を中心にダイバーシティやダイバーシティ経営の基本的な知識や具体例を解説し、SDGsとの関連性についても紹介していきます。

ダイバーシティとは

ダイバーシティの定義

ダイバーシティ(diversity)は、「多様性」という言葉に訳されます。ビジネスで用いられる場合は、ダイバーシティ経営(ダイバーシティ・マネジメント)という言葉で使われることが多く、多様な人材や働き方を受け入れて活かすことで、企業の力を高めようとする取り組みを意味します。

ダイバーシティには「属性」の要素が大きく関わりますが、ここで意味を持つ属性には2つの種類があります。まず人種や国籍、年齢や性別、肉体的特徴など、外見の特徴から判断できる「表層的な属性」、そしてもう1つは外見からは判断しにくい「深層的な属性」です。深層的な属性には、宗教、言語、学歴、職歴、収入、生活様式、さらには、価値観やキャリア志向、コミュニケーションの取り方なども含まれます。
ダイバーシティは、表層的にも深層的にも異なる個の違いを受け入れ、多様な人材が持つ可能性によってよりよい未来を構築しようとする考え方です。

ダイバーシティとインクルージョン

ダイバーシティに近い言葉として「インクルージョン(Inclusion)」があります。英語では「包括、包摂」と訳され、一般的には「包み込む」という意味ですが、社会福祉においては、障がいや病気を持つ人や社会生活に困難を伴う人を含め、すべての人を社会の一員として「受け入れる」という意味で使われています。

ダイバーシティは「多様な人材を受け入れることで集まっている」という状態ですが、インクルージョンは「多様な人材が相互に機能して働いている」状態です。つまり、人材の多様性を認めるダイバーシティをさらに発展させ、個々の能力を最大限に活かし、組織と個人それぞれが共に成長していくのがインクルージョンです。このようなマネジメントの概念を「ダイバーシティ・インクルージョン」といいます。

ダイバーシティが企業の重要な取り組みテーマとなった理由

時代背景

ダイバーシティという言葉が生まれたのはアメリカです。公民権運動や女性運動が活発化していた1964年、アメリカで公民権法が成立し、米国雇用機会均等委員会(EEOC)が設置されました。ダイバーシティによる雇用差別を受けたと感じれば、誰でも訴えを起こせるようになったのです。そのため、当時のダイバーシティは、訴訟に対するリスクマネジメントという位置づけに過ぎませんでした。
それが次第に時を経て、企業の社会的責任(CSR)として捉えられるようになりました。多様性を受け入れることが組織にとってもプラスに作用し、企業にベネフィットをもたらすという認識へと変わっていったのです。
ダイバーシティの考え方をさらに発展させた「ダイバーシティ&インクルージョン」という言葉が登場するのは、1990年代後半になってからです。

日本では、1985年に「男女雇用機会均等法」、1999年に「男女共同参画社会基本法」が制定され、企業における男女の雇用の差をなくし、ともに人権を尊重することが義務化されました。しかし、それをさらに進めたダイバーシティの考え方までは、同質性を重視する日本独特の企業文化もあってなかなか認識されてきませんでした。

ようやく変化が表れはじめたのが、少子高齢化が大きな社会問題として取り上げられるようになった2000年代に入ってからです。労働人口の構造変化と減少により、人材が十分に確保できなくなる可能性が高まってきたのです。

さらに、市場ではグローバル化が急激に進行していきました。企業の海外進出の増加やインバウンド需要の高まりによって、世界の多様なニーズに対応できるサービスの提供が求められるようになりました。量と質の両面から、人材に対する考え方は大きく変わらざるを得なくなりました。

個人の側から見ると、価値観は消費以外の分野でも多様化へと進み、ライフワークバランスや個性の尊重、帰属意識の希薄化などの流れが働き方にも影響を及ぼすようになりました。
このような背景から、ダイバーシティを経営戦略の一つとして取り組む企業が増えているのです。

国の政策としてのダイバーシティ

「ダイバーシティ2.0」

2017年、経済産業省は「競争戦略としてのダイバーシティ経営(ダイバーシティ2.0)の在り方に関する検討会」を立ち上げ、企業がとるべきアクションをまとめた「ダイバーシティ2.0行動ガイドライン」を策定しました。(2019年に改訂版がリリース)
ダイバーシティの概念は浸透してきたものの形式的なものにとどまり、企業課題の解決に結びつかないという課題を抱えていましたが、それを受けて生まれたのがこの「ダイバーシティ2.0」でした。ここではダイバーシティは「多様な属性の違いを活かし、個々の人材の能力を最大限引き出すことにより、付加価値を生み出し続ける企業を目指して、全社的かつ継続的に進めていく経営上の取組み」と定義されています。

「ダイバーシティ2.0」では、行動ガイドラインとして、実践のための7つのアクションが提示されています。

  1. 経営戦略への組み込み
  2. 推進体制の構築
  3. ガバナンスの改革
  4. 全社的な環境・ルールの整備
  5. 管理職の行動・意識改革
  6. 従業員の行動・意識改革
  7. 労働市場・資本市場への情報開示と対話

「女性活躍推進法」

「女性活躍推進法」は2016年4月に厚生労働省が策定しました。正式名称は「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」です。これは、積極的に働きたいと考える女性たちが、いきいきと活躍できるような社会づくりを目指す法律です。
女性活躍推進法において、企業は主に3つの対応を求められています。

  1. 自社の女性活躍に関する状況把握・課題分析
  2. 課題を解決するための数値目標と取り組みを盛り込んだ、行動計画の策定および届出
  3. 自社の女性活躍に関する情報の公表

また厚生労働省では、女性活躍推進法に基づいた基準を一定数満たし、女性の活躍推進に取り組んでいる企業に与えられる認定制度「えるぼし認定」の制度を設けています。

ダイバーシティとSDGs

SDGsの前身といわれる考え方として、MDGs(ミレニアム開発目標)がありました。SDGsは、MDGsの期限だった2015年に達成できなかった目標や課題を元に、新たに定められました。MDGsが主に途上国の問題を解決するためのものだったのに対し、SDGsでは、先進国が途上国を助けるという単純な図式ではなく、国、企業、団体、個人の垣根を超えてパートナーシップを組み課題を解決していくことを求めています。

SDGsの17ゴールに直接「多様性」の言葉は入っていませんが、SDGsは「No one left behind(誰一人取り残さない)」という理念を最初に掲げています。そして169のターゲットの中には、「遺伝的多様性」「文化多様性」「産業の多様化」「生物多様性」などの文言が入れ込まれています。
何よりSDGs自体が17のゴールと169のターゲットという多様な構成となっており、しかもそれぞれ独立したものではなく、相互に関わり合うものとして表現されています。たとえば、ゴール5の「ジェンダー平等を実現しよう」では、男女間の不平等について書かれていますが、ターゲットごとでは

  • 1.2「2030年までに、各国定義によるあらゆる次元の貧困状態にある、すべての年齢の男性、女性、子どもの割合を減少させる。」
  • 2.1「2030年までに、飢餓を撲滅し、すべての人々、特に貧困層及び幼児を含む、脆弱な立場にある人々が一年中安全かつ栄養のある食料を十分得られるようにする。」

と、途上国、先進国であることに関わらず、弱い立場にある人への支援の必要性が書かれています。

  • 6.2「2030年までに、すべての人々の、適切かつ平等な下水施設・衛生施設へのアクセスを達成し、野外での排泄をなくす。女性及び女子、ならびに脆弱な立場にある人々のニーズに特に注意を向ける。」

では、どんな立場の人にとっても安全なトイレの設置を求めています。

  • 8.5「2030年までに、若者や障害者を含むすべての男性及び女性の、完全かつ生産的な雇用及び働きがいのある人間らしい仕事、ならびに同一労働同一賃金を達成する。」

では、障害者も含むすべての人の雇用について組み込まれています。

前述の通りSDGsの17のゴールには「多様性」という言葉はなく、LGBTQにもはっきりとは触れられていませんが、多様性はSDGsを達成していくための具体的な取り組みにおいて、極めて重要なキーワードであることがわかります。
また17のターゲットには「包摂的」ということばが何度も登場します。多様性(ダイバーシティ)と包摂(インクルージング)という考え方が、持続可能な発展への指針となることは間違いないでしょう。

ダイバーシティと企業経営

ビジネスにとってのダイバーシティとは

当初人権や労働人口の確保といった観点で進められてきたダイバーシティですが、現在では多様な人材を登用し活用することで、組織の生産性や競争力を高める経営戦略として認知されています。
さらに新型コロナウイルスの拡大によって、これまで集中・集約化を第一としていた日本の多くの企業でもテレワークが導入されるようになりました。今後は人の多様性の問題だけでなく、働く場所や時間なども含むダイバーシティへと変わっていくことでしょう。

ダイバーシティ経営によるメリット1

育児中の女性や家族などを介護中の人、外国人、高年齢層など多様な人たちの採用を推進することで、これまで不採用となっていた優秀な人材の確保が可能になります。また働き方にも多様性を持たせることができれば、モチベーションアップや離職率の低下が期待できるでしょう。

ダイバーシティ経営によるメリット2

多様な人材からは、同質的な組織では得られないアイデアや発想が生まれ、イノベーションが生まれやすくなります。多様化する消費者ニーズにも柔軟に対応できるようになります。
また多様性を受け入れ新たな価値を創出する企業としてコーポレートイメージがよくなることは、従業員満足度や顧客満足度のアップにも繋がります。

ダイバーシティ経営に対する課題・問題点

国籍や人種、第一言語、価値観などを異にする多様な人たちが集まれば、当然意見の対立や誤解も生まれやすく、チームとしてまとまりづらくなるといった側面があります。同質性が重視され意思伝達が容易だったこれまでの組織とは異なり、言語化やはっきりとした意思表示など、コミュニケーションの変革が重要です。

ダイバーシティのために推進すべきこと

基本的な心得

頭では理解していても、自分とは異なる価値観を受け入れるのは容易なことではありません。まずは、管理職を含め研修を行ったり、社内へ向けメッセージを発信するなど、従業員を巻き込みダイバーシティのリテラシーを高めることが第一です。また推進する段階において、さまざまな意見を柔軟に取り入れていくことも必要です。

働き方の改革

育児休業や介護休業の制度など、労働環境を整備するとともに、制度を利用しやすい環境づくりが必要です。また働き方や働く場所に柔軟性をもたせることも大切です。
「フレックスタイム制」や「裁量労働制」などの制度があれば、時間に制約のある育児や介護中の人、障がいのある人が働きやすくなりますし、「リモートワーク」や「サテライトオフィス」の導入によってワークライフバランスを充実されることもできます。個々が自分に合った働き方を選べることがポイントです。

職場とコミュニケーションの改革

それぞれの多様な能力を発揮してもらうためには、偏見や先入観を排除して、一人一人に対する理解を深める必要があります。個人面談を行ったり、教育や研修プログラムを実施することも有効です。また、自分の意見を発信しやすい雰囲気作りも欠かせません。

評価制度の改革

業務内容や時間に制限のある人もない人も公正に評価でき、かつすべての人が納得できる透明性を持った評価制度に変えて行く必要があります。

ダイバーシティ採用

ダイバーシティ採用の一環として、履歴書や応募フォームへの性別の記載を不要としたり、数値目標を定めて女性や障がい者の採用数を増やすなどの施策があり、取り組んでいる企業も多くみられます。また採用者の意識改革を行ったり採用基準を見直したりすることで、採用する側が偏った意識や活動を起こさないようにする施策も重要です。

ダイバーシティへの企業の取り組み事例

資生堂

グループの83%が女性社員である資生堂は、日本における女性活躍を積極的に推進している代表的企業です。女性支援の一環として行われている、女性リーダー育成塾の開設やキャリアに対するメンタルプログラムのほか、「コアタイムのないフレックスタイム制度」や「テレワーク制度の国内グループ全社展開」など、女性に限らずさまざまな属性の社員が働きやすい職場環境の整備を進めています。
2020年には、内閣府による「女性が輝く先進企業表彰」において、「内閣総理大臣表彰」を受賞し、経済産業省と東京証券取引所が共同で実施する令和2年度「なでしこ銘柄」に選定されています。

ユニリーバ

ダイバーシティ&インクルージョンを重要なビジネス戦略の一つとしているユニリーバ。ジェンダーバランスの改善、障がいのある人々およびLGBT+のインクルージョン推進、有害なステレオタイプや社会規範をなくすことの3つを重点分野として取り組んでいます。
2019年には全世界での女性管理職比率50%を達成。広告からあらゆるステレオタイプをなくしていくプロジェクト「#UNSTREOTYPE」では、ブランドを通じて世界にメッセージを発信しています。
たとえばパーソナルケアブランドの「ダヴ」では、広告で一切画像加工をせず、ありのままの女性の美しさを伝えています。またユニリーバ・ジャパンは2020年度の採用活動より、履歴書から顔写真の提出と性別の記入が不要になり、個人の適性や能力のみに焦点を当てて採用すると発表しています。

ダイバーシティを知るための本

ここまで、ダイバーシティの基本的な考え方や背景、SDGsとの関わりなどを紹介してきました。最後に、ダイバーシティをより深く理解するために役立つ本を二冊、ご紹介します。

「ダイバーシティ&インクルージョン経営: これからの経営戦略と働き方」  
荒金 雅子(著)/日本規格協会

多様性への取り組みが進む一方で、課題も見えてきています。その解決のヒントを提示しながら、「ダイバーシティ&インクルージョン経営」の基本的な情報や方策について紹介しています。

詳しくはこちら>>
「成果・イノベーションを創出する ダイバーシティ・マネジメント大全」  
西村 直哉 (著)/クロスメディア・パブリッシング

性別、世代、外国人、障がい者、育児・介護、傷病治療、テレワークなど、現在考えうる多様性のポイントをカテゴリー化し、成果を創出するためのマネジメント方法を紹介しています。

詳しくはこちら>>

近年、ダイバーシティは企業にとっても利益になることが認知され、経営戦略の一環として多くの企業で取り入れられています。課題も多くありますが、個人や社会の多様性が一層深まっていくこれからに向けて、ダイバーシティは未来の経営戦略の指針となってくれるはずです。

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SDGsの基礎知識