コンパクトシティ:持続可能な都市の構造とは|SDGsと地域活性化【第2部 第1回】

2021年11月12日

SDGsを達成するには、全国展開する企業や、住民が多く存在する大都市圏だけでなく、すべての地域で積極的に取り組むことが必要です。特に地域におけるSDGsへの取り組みは、その地域の活性化につながるものであることが重要になるでしょう。
山陽学園大学・地域マネジメント学部で環境政策を専門とする白井信雄教授が、SDGsを活かしてどのように地域の活性化を図っていくべきかを解説します。


SDGsの実現のためには、産業構造、土地利用構造、国土構造、流通構造、エネルギー構造、ライフスタイル・ワークスタイル、意思決定システム、政治や行政の組織・制度等を見直すことが必要となります。SDGsへの取り組みは短期的な成果を求め、実行容易な要素の改善という漸進的なものにとどまりがちですが、構造の転換という大きな目標を持ち、SDGsのアジェンダに示された「大胆な変革」の一翼を担うことも必要ではないでしょうか。
今回からは副題にも示したように、「構造を転換することがSDGsの実現と地域活性化にとって重要である」という"めがね"をかけて、構造の転換の具体的な姿を解説していきます。
まず最初に取り上げるのが、都市構造を変える方向としての「コンパクトシティ」です。対象は、地方圏における県庁所在都市やそれに相当する中心性のある都市とします。東京のようなメガロポリスのあり方については、国土構造の問題として、次回以降に取り上げます。

人口の増加時代と減少時代のコンパクトシティ

コンパクトシティは、都市の「スプロール化」と「スポンジ化」の2つの側面で必要となってきました。両者の違いを表1に示します。

スプロール化は1970年代から問題となってきました。都市への人口集中(都心部の過密化)と交通網の整備(モータリゼーションの進行)等より、都市の膨張、すなわち周辺部の開発が進行し、中心部のスラム化、中心商店街の衰退、都心にアクセスする道路の渋滞等の問題が深刻化してきました。

スポンジ化は2000年代以降の人口減少時代の問題です。中山間地域からの人口流入による社会増が頭打ちとなり、都市も拡大から縮小に段階に移行します。市街地や郊外で空き地や空き店舗、空き家が目立つようになってきました。伸びきってしまった市街地の密度低下により、インフラの維持管理や更新が課題となります。公共交通の縮小やサービス低下を余儀なくなくされ、自動車を運転できない高齢者や子どもが移動弱者となり、医療や福祉、教育等の公共サービスへのアクセスが困難になります。

表1 都市のスプール化とスポンジ化の問題

スプロール化あるいはスポンジ化への対応として、政策課題となってきたのがコンパクトシティです。スプロール化時代に求められたコンパクトシティは、都市の無秩序な膨張を抑制し、集中による弊害や乱開発を防止しようというものでした。これに対して、スポンジ化時代のコンパクトシティは、無秩序な縮小を抑制し、縮小に伴う再構築によって、よりよい都市を築こうというものです。

気候変動の緩和と適応を実現するコンパクトシティ

コンパクトシティの実現が政策課題となってきた都市問題以外の背景として、1990年代以降の気候変動の問題のクローズアップ、それへの対策の遅れによる問題の深刻化、より強い抜本的な対策の必要性の高まりがあります。気候変動対策には、緩和策(温室効果ガスの排出削減)と緩和策では避けられない影響に対する適応策(防災や高温対策の改善・追加)の2つがありますが、その両面からコンパクトシティが政策課題となっています。

緩和策としては、都市内の人口配置を集約することで、自動車からの二酸化炭素排出量を減らすという効果が期待されています。市街化区域の人口密度が高いほど、自動車からの二酸化炭素排出量が少ないことがわかっています。これは、人口密度が高いほど公共交通機関の利用率が高いこと、また施設が近接して移動距離が短いことなどによります。
また縮小時代のコンパクトシティが、都市構造の再構築や建造物の再生・再配置を行うものであれば、その整備に合わせて、建築物の屋根上や都市内の空きスペースに太陽光発電を設置し、蓄電池の配備として面的なスマートグリッドを整備することも考えられます。コンパクト化と合わせたスマートシティを整備し、二酸化炭素の排出削減を図っていくことができます。

適応策としては、気候変動によって猛暑や豪雨のかさ上げが進行する中で、都市の構造や立地を改善することが考えられます。たとえば風の通り道や緑地の整備により、高温化を抑制することができます。水土砂災害からの安全・安心を確保するために、従来の堤防強化や避難への備えの徹底だけでなく、ハザードマップ上の安全な地域への立地誘導や移転を促すことも必要になってきます。

コンパクト空間とコンパクトライフ

今日のコンパクトシティは、どのような都市構造を目指すのでしょうか。都市計画の研究者の海道清信氏は、「都市の形態がコンパクトなだけではなく、ハードウエアを基盤として、人々の活動の賑わいや多様性、公平性、自律性等が確保されている」という目標像を示しました。

人口配置の集約を実現すべく、特定のエリアでの住宅整備や高層ビルを増やすというコンパクト空間を整備したとしても、その空間の質が魅力的でなければ、人が住まないゴーストタウンが出現してしまいます。空間の質とともに、その空間での暮らし(コンパクトライフ)が魅力的なものでなければいけないでしょう。
人口配置が集約され、町並みが魅力的なものとして整備され、商業や文化施設等が近接し、かつ都市ならではの多様な人や文化との出会いがあり、支えあうコミュニティがある。都市内は徒歩や自転車で快適に歩くことができ、都市内や郊外をつなぐ路面電車やバス網が整備され、利用されている。人々は心身とともに健康で、住んでいる街へのシビックプライドを高めている。そんなコンパクトライフを実現することで、今日の都市問題を解決し、かつ気候変動への緩和と適応にも貢献していくことができるでしょう。

表2 コンパクトシティの具体像
出典)海道清信「コンパクトシティ 持続可能な社会の都市像を求めて」学芸出版社(2001)より作成

ウイズコロナとアフターコロナにおけるコンパクトシティ

新型コロナによる感染拡大が続くなかで、ソーシャルディスタンスの必要性が叫ばれ、賑わいや密集が敬遠される傾向にあります。都市の密度をあげるコンパクトシティと新型コロナ(あるいは今後の新たな感染症)の対策は、トレードオフの関係になる可能性があります。

たとえば、岡山県内の新規感染者数は、岡山市や倉敷市において、他の市町村よりも多いのは確かです。しかし、これをもって、岡山市や倉敷市の密集度の高さは問題だといえるでしょうか。大都市では支店も多く、観光や出張による交流人口が多い傾向にあります。この交流人口の多さが新規感染者の多さと関係するとも考えられます。地方圏からみれば、大都市圏との人的往来は抑制する必要がありますが、地域内での往来の抑制や地域内の拠点都市の人口密度を抑制する必要はないと考えられます。
飛沫感染のために人と人の物理的距離を数メートルあけることと、都市空間の高密度化は両立できるはずです。空き地や空き店舗が増えるなか、土地利用に余裕を持たせながら、都市構造の再編を行うことは可能です。

また、ウイズコロナではテレワークやオンライン講義での対応を求められ、その定着を大きく加速させました。オンラインを前提に、職住近接を求めない分散型オフィス、ワケーション等の形態も確立されました。テレワークの定着はコンパクトシティのあり方を変えるかもしれません。たとえば、郊外の鉄道駅周辺に住んでテレワークを行い、たまにコンパクトに整備された中心市街地のオフィスに出向くというような二拠点型のコンパクトライフも定着するかもしれません。

海外の都市では、自宅から徒歩15~20分以内で必要なあらゆるものが得られる「ネイバーフッドシティ」づくりも進められています。コンパクトシティの中にさらに小さなコンパクト地区を作っていくというように、都市計画を見直すことも考えらえます。

コンパクトシティの理想像

ここまで示したことをもとに、コンパクトシティの全体像を図1に示します。

コンパクトな中心市街地と複数の拠点地区が形成され、公共交通のネットワークで結ばれています。郊外の自宅でテレワークを中心に行い、中心市街地のオフィスと公共交通で往来する人も増えています。
中心市街地は教育、医療、福祉、文化等の施設が集積し、都市内に暮らす高齢者は自由度の高い仕事をしながら、社会活動や趣味を楽しみ、健康で快適に暮らしています。都市内の大学では、大学生がリーダーとなって、高校生や小中学生徒と一緒に、まち歩きによる探求学習を行っています。
市街地の中には、地域住民による賑わいがあり、町並みや歴史に惹かれる都市内の観光客が適度に訪れています。商店街は買い物だけでなく、文化や芸術を楽しめる場となっており、女性が中心となったイベントも頻繁に行われています。
市街地には生態系ネットワークがくさびのように入りこみ、都市の中で野鳥や小動物のふれあいがあります。

図1 コンパクトシティの全体像

コンパクトシティによるSDGsへの貢献

コンパクトシティによるSDGsへの貢献を表3に整理しました。コンパクトシティの狙いはスプール化とスポンジ化による都市課題の解決にありますが、とりわけ少子高齢化・人口減少時代においては、自動車社会における移動弱者の暮らしやすさを確保すること、あるいは高齢者や弱者の集住により支援を効果的なものとすることといった、弱者の支援に関わる社会的側面が重要です。コンパクトシティはまさに「誰一人取り残さない」都市づくり、都市構造の側面からアプローチするSDGs都市づくりだといえます。

表3 コンパクトシティによるSDGsへの貢献例

また、アフターコロナのコンパクトシティづくりは、景気低迷や財政悪化の改善を地域ぐるみで行う取り組みとなります。地域の公共交通、中心商店街、地域住民が一体となった有形無形の試みにより、街中の賑わいを取り戻すことが期待されます。中心市街内での公共施設の整備、路面電車の環状化、バスサービスの向上、街中でのイベントの開催等を契機に、コロナ後の地域再生とコンパクト化を統合的に進めることが考えられます。

さらに、都市構造の再構築や建造物の再生・再配置とSDGsにむけた取り組みを統合的に進めることができます。建造物の屋根上や空きスペースに太陽光パネルを積極的に導入し、公共施設に蓄電池をもうけて、CEMS(Community Energy Management System)を導入していけば、カーボンゼロに向けたアクションとなります。それによって、防災時の非常用電源を確保することもできます。

富山市のコンパクトシティから学ぶこと

コンパクトシティの実現に、目に見える成果をあげているのが富山市です。同市のコンパクトシティは、「お団子と串」の都市構造を目指してきました。富山駅周辺の中心市街地と公共交通の拠点をお団子として集積させ、それを公共交通という串で結ぶ、多極分散型の構造です。
この実現に向けた取り組みにより、富山市は公共交通の利用者、中心市街地や公共交通沿線への転入人口、まちなかの歩行者数、まちなかの小学校児童数の増加が見られています。自動車から公共交通へ、郊外戸建てから集合住宅へと構造シフトがなされ、運輸・家庭部門の二酸化炭素排出量も削減されました。

コンパクトシティを目指した都市の多くがいまだ十分な成果をあげていないなか、富山市はなぜ成功を収めたのでしょうか。

適度な都市規模、都市圏の独立性、地域交通事業者の状況等の地域条件を成功要因とする向きもありますが、やはり政策が優れていたといえるでしょう。特に、2012年に就任した市長のリーダーシップによるところが大きいとされます。
市長は、手始めに国土交通省からの2人の助役を招聘し、若手・中堅職員10数名のプロジェクトチームによる勉強会・意識改革を図りました。次いで、数多くのタウンミーテングで市長自らが、コンパクトなまちづくりの必要性、ライトレールトレイン(LRT)とまちなか賑わい広場の必要性を市民に説明しました。中心地区への集中的投資に不満を持つ住民もいたものの、市長とそれに共鳴する職員等の確信と熱意があって、コンパクトシティが実現しました。
ビジョンを実現しようという強い意志と政策を積み重ねる粘り強さこそ、各地域が参考にすべきことです。

富山市のライトレールトレイン(LRT)

富山市がコンパクトシティに取り組んできた時代と比べると、現在では、SDGsに取り組む企業が増え、その力を結集していくことができそうです。地域ぐるみでSDGsを達成する政策課題として「コンパクトシティの実現」を位置づけ、それに向けて、SDGsに取り組む行政、企業、NPO、一般市民のパートナーシップを進めることが期待されます。
次回は、地方回帰・分散型国土を取り上げます。

記事カテゴリー
SDGsの基礎知識